「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
荒い息をついて、辺りを埋め尽くす機械の山の中をそのヒューマーは走っていた・・・。
突然、アラームが鳴り響く。
機械の山の中を打ち破って、作業用機械兵器ギルチックがヒューマーを取り囲む。
「・・・クッ・・・」
足を止め、背中に背負った大剣を引き抜いたとき、そのヒューマーは背中に走る悪寒に気がつき咄嗟に床を転がった。
一瞬遅れて大きな鎌が禍々しい光を残して宙を薙ぐ。すぐ傍まで集まっていたギルチックの何体かが、薙いだ風圧に圧されて後ろに吹き飛んだ。
「ドウシタ・・・モウ終ワリカ・・・?」
漆黒に塗り固められた鎌を手に、床に転がるヒューマーを見下すようにしてそのヒューキャストは言った。ヒューマーの方は、キッと強い調子で相手を睨みつけると、次の攻撃に備えて床の上を転がる。
「ドウシタ!?コンナモノカ!オ前ノ力ハ!!」
ヒューキャストの鎌が金属質の床を抉り、火花を散らせた。
「甘く・・・見るなぁっ!!」
床を転がったヒューマーは、回転の遠心力で膝立ちに立ち上がり、手に掴んだままの大剣を腰に構え居合い抜きのように抜き放った。
「奥義!神移(カムイ)!!」
「で、本当にここなの?」
胡散臭そうな目を向けるフォマール、セツに対して、うっとりとしたような目で宙を見ていたレイキャシール、ジュエルアイズは答えた。
「宝石は気まぐれな未来を映すの・・・確かにこの辺りよ・・・」
ジュエルお決まりの口癖のような台詞に、セツが嘆息する。
「はいはい。気まぐれでも何でもいいからしっかり探してね」
セツはそう言うと、貫頭衣のような服の胸の辺りにある、自分のポータブルデバイスに触れ、目の前の空間にここまで歩いてきたエリアマップを表示した。
セツとジュエルを表す三角印の二つのマーカーの他に、エリアマップの未知の部分にマーカーがある。セツたち以外にもハンターズが別行動をとっているらしい。
雪はエリアマップを隅から墨まで見つめて、嘆息してエリアマップを閉じた。
今回雪たちが引き受けた依頼は、同じハンターズからの救援要請だったのである。
ことの起こりは、その日の朝方にさかのぼる・・・
「と、言うわけなのよ」
一通りの説明を受けたあと、セツは露骨に嫌だという顔を見せた。
「何で見ず知らずのハンターに無料で助け舟なんて出さなきゃいけないのよ。死んだらそいつが弱いってだけでしょ?」
「う〜ん・・・そりゃ確かにそうなんだけどね・・・」
困ったような顔でセツと話をしているのは銀髪をなびかせたハニュエール、サイカである。
「報酬しだいなら受けるけど、無報酬なんて引き受けたくないわよ」
強い調子で拒否するセツに、サイカが困り果てたような表情でジュエルを見る。
セツとコンビを組んでいるジュエルの方はというと、パイオニア2のテレビ局から流れている漫才を見ながら湯飲みになみなみと注がれた緑茶をすすっていた。
ジュエルアイズは人とのコミュニケーションを重点的に、人間味のあるアンドロイドをと制作された機体である。お茶とハンバーガーをこよなく愛し、漫才を人の文化と呼称して生きているちょっと変わり者のレイキャシールなのだ。
「ん〜?私もできる事ならパス。っていうか、サイカが行けばいいんじゃないの?」
「それができないから困ってるんだってば〜・・・」
サイカが困った顔でジュエルに訴える。と、その表情が、何かを思いついた時のそれに変わった。
「そういえば、この間好事家の人とお友達になってね〜」
好事家、という言葉に、ジュエルもセツも興味を惹かれたか、聞く体制に入る。
「それでね、貴重品の玉露を貰ったのよぉ。もし引き受けてくれるのなら、ゴチソウしちゃう」
「いい天気よね。困ったときはお互い様って天気ね!」
「・・・簡単に買収されないでよね・・・」
明るい笑顔で立ち上がったジュエルに、セツは心底疲れたような表情を見せていた・・・。
「あ・・・あんたら・・・何者だ・・・・・?」
微かに瓦礫の中から聞こえる声に、セツとジュエルがその場の瓦礫をひっくり返す。
すると、その瓦礫の中から、血まみれになったヒューマーが顔を覗かせた。
「うわぁ・・・こっぴどくやられたみたいね・・・」
口元を押さえながらそう言って、セツがレスタを使用する。暖緑色の光がヒューマーを包み込み、傷を次々に塞いでいった・・・。
「サンキュー。助かったよ」
まるで女性のポニーテールのような髪形をしたヒューマーはそう言って頭を下げた。
セツはあらためてヒューマーを値踏みするように見た。身長は高くも低くもなく、いわゆる中肉中背というものだろう。顔は十人並み、剣の腕も、こんなところで死にかけるのであればパッとしないに違いない。
一通りヒューマーの存在分析が出来た後で、セツがヒューマーに挨拶する。
「私は雪、こっちはジュエル。短い間だろうけどよろしくね」
「ああ、よろしく、オレは・・・ガイアって呼んでくれ」
挨拶を交わすと早々に、セツはリューカーを使用してゲートを開いた。
「さ、長居は無用よ。帰りましょう」
「待ってくれ!」
セツを止めたのは、ガイアだった。
「まだ他にオレの相棒が残ってる。レイキャシールで、名前はシレルだ」
ガイアの言葉に、セツが少々疲れた顔を見せる。
「まだ他にいたのね・・・。OK、わかったからガイアくんは先に帰ってなさい」
「そう言うわけには行かない」
セツの言葉にガイアは食い下がった。
「オレはあいつのパートナーだ。あいつがオレを守ってくれた分だけ、オレはあいつを守る。それがオレの決意だ」
淡々と言うガイアに、セツがイライラしてきたらしく、言い放った。
「あなたみたいな新米が何を言うの? さっさと帰って傷の治療でもしてなさい!」
瞬間、風を引き裂く音とともに、ガイアがセツに肉薄していた。その腹部には真紅の輝きを秘めたソードの刃があてがわれている。
一瞬、ほんの一瞬の間だけ雪がガイアから目を離した。その一瞬をついてガイアはセツに肉薄していた。
「・・・失礼、どうやら新米じゃなさそうね・・・。さっきの発言は取り消すわ」
セツがそう言うとガイアが刃を収めた。不思議そうな顔をしたジュエルがつい問いかける。
「でも、そんなに強いなら、何でこんなところで救援要請なんて出したの?」
ジュエルの問いももっともである。ここは通常区域(レベルの制限のなき区域)の坑道区画。余程腕の悪いハンターズか、新人でも無い限りは死に瀕したりしないところだ。
するとガイアは、うつむいて神妙な顔をした。その右手が小刻みに震えている。
「・・・あんたらも聞いたことがあるだろう・・・?」
ガイアの次の言葉に、セツは掌が冷たく凍りつくような感じを受けていた。
「ブラックペーパーの黒い猟犬。そいつがここにいて、オレを狙ってる」
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