HUNTER DAYS FACTER

見えないけれど確かなココロ・・・
〜鋼の心〜
前編

 惑星ラグオルに降りるハンターズたちの中には帰らぬものとなるものも決して少なくは無い。
 彼らの多くは初心者のハンターズであり、その多くは地表に無縁仏となっている。
 その傍らには一人前のハンターの証が佇み、悠久の時を過ぎてもそこに佇んでいるような風景を見せた・・・。

「・・・ったく・・・やってられねぇな・・・・」
 一人のレイマーがぶつくさと文句を言いながらラグオルの地表を歩いている。
 辺りを見渡せる少し開けた空間に出た後、そのレイマーは木陰に座り込んだ。
「あのオッサン・・・なに考えてんだか・・・」
 レイマーが愚痴をこぼして空を見上げた。雲が微かにかかって、日の光が優しく辺りを照らしている・・・。
「でも、それをしっかりやってるオレもオレだよなぁ・・・でもクライアントには逆らえないしなぁ・・・」
 一人で呟きながらうんうん唸っている。レイマーの傍らのアイテムボックスがコトリと揺れた。
 アイテムボックスの蓋が開き、薄暗闇の中で赤い瞳のようなものが光る。
「あなたたち・・・なにをなさってるんですかぁ・・・?」
 木陰から声がかかった。レイマーは考え事をしているのか、その声に気がついていない。
 アイテムボックスから次々と丸い物体が湧き出てきて、木陰の奥の人影にまとわりつくように並んだ。
「そうなんですか〜。それは大変でしたねぇ・・・」
 声の主はその物体と話しこみながら徐々に木陰を離れていく。
 その姿が明るみに出た。ピンクと白のボディ・カラーにメタルボディ。何より目を引くヘッドドレス。
 レイキャシールと呼ばれるアンドロイドである。
「しっかしなぁ・・・」
 ぶつぶつとレイマーが呟く間にも、レイキャシールとレイマーの間は開いていく。
 そして、一陣の風が吹いた。突風ともいえるそれは空になったアイテムパックを軽々と吹き飛ばし、レイマーの目の前に運んでいった。
 がらんがらんがらんがらん・・・・
「・・・・・・・・・・・う゛?」
 自分のアイテムパックを信じられないような目で見つめながら、レイマーはしばし硬直していた。
 が、突然起き上がると辺りを見回し始めた。
「どこだ!?どこだ!?どこ行った!!?」
 レイマーが辺りを見回したときには、彼方のフロアへとレイキャシールが移動するところだった。
「お・・・おい!そこのレイキャ・・・」
 男の言葉を待たずに、レイキャシールは扉の向こうに消えた。
 レイキャシールが消えて後に、レイマーはじっくりと考えた。そして、
「やめだやめ・・・馬鹿らしい。戻ってオッサンに怒鳴られた方がマシだ。クビにしたきゃしろ!!」
 首を振ってそう言うと、レイマーは踵を返してその場を後にした。
 空っぽのアイテムパックが、風に吹かれてからんと音を立てた・・・。

「ったく・・・何様のつもりだあのオヤジ!」
 悪態をひとつついて金髪のレイマー、クーゲルは今回の依頼人の顔を思い出して苦い顔をした。
「確かに、あの醜怪さは目に余る・・・」
 すぐ隣で忍者風のレイマー、シグマが同意する。
 ここはラグオル地表、通称“森林区画”と呼ばれる場所である。
 現在この場には三人のハンターズがやって来ていた。
 クーゲルとシグマ、そして・・・
「た・・・たいへんですぅ〜!!」
 急に上がった大声に、クーゲルとシグマがそれぞれの武器を手に身構えた。
「どうした!?」
 クーゲルが銃を構えながら声のした方向に走ると、その先には地面に伏したような格好のレイキャシールがいた。三人のハンターズのうちの最後の一人、アイリスである。
「何があった!?」
 シグマの言葉にアイリスは首を横に振った。
「・・・ないんです〜・・・」
 アイリスが目から冷却水をまるで涙のようにオーバーフローしながら言う。
「何かなくしたのか?アイリスちゃん」
 クーゲルが聞き返すと、アイリスは首を横に振った。
「ここには、ラコがありませぇん・・・・・」
 アイリスの言葉にクーゲルはその場に前のめりに突っ伏し、シグマは手に持ったフライトカッターを取り落としていた。

 そのレイキャシールは悩んでいた。
「どうしましょう・・・・困りました・・・」
 ピンク色を基調としたボディカラーと同色のヘッドドレスが、頭の上で軽くゆれる。
「どうしたら・・・いいんでしょう・・・」
 空を見上げてレイキャシールは嘆息した。
 ふと、視線を戻すと、そこにあったはずのものがきれいにになくなっている。
「ふぇ!?」
 情けない声を上げて、レイキャシールがその場を見回した。レーダーを使い入念に調べ続ける。
「あうぅ・・・・」
 しかし、探しているものは見付からず、途方にくれたレイキャシールは空を再び見上げた。
「博士〜・・・・このままじゃ帰れませぇん・・・・」

 ハンターズであるクーゲルに始めにこの話を持ちかけてきたのは同じハンターズであるレイマーだった。暫くまともに稼いでなく、同居中のJOKERから皮肉を言われたこともあり、クーゲルはその依頼を受けることにしたのだ。
 依頼人のガロンはごうつくばりで結果を出さない者には厳しい人間だった。言葉尻にいちいち皮肉を混ぜてくるこの男への怒りを抑えつつ、クーゲルは依頼を受けたのだ。
 依頼内容はレイキャシールに奪われてしまったマグの回収。
 丁度暇をもてあましていたシグマとアイリスを道連れに、ラグオルへ降りることにした。
 少々、話を持ちかけてきたレイマーの言葉の歯切れが悪かったのが、気になるといえば気になる依頼だった。
「ひとつ!ふた〜つ!みっつ!っと!!」
 クーゲル愛用のスナイプ・ライフル、“ウォルスMk-U”が、次々にブーマを撃ち抜いて行く。
「YOHOO!!決まったぜ!!」
 銃を片手に肩にかけ、キメのポーズをとったクーゲルがその格好のまま後ろから現れたブーマにはたき倒される。
「うげっぐ!?」
 情けない声を上げながら地面に転がったクーゲルに、ブーマが追いうちをかけようと爪牙を振り上げた。
「チィッ!」
 クーゲルが咄嗟にライフルを放り出し腰のホルスターからハンドガンを抜くが、一瞬遅い。
−ザシュゥゥゥゥッ−
 肉を切り裂く音とともに、地面に倒れたのはブーマの方だった。
「サ、サンキュー。シグマ」
 クーゲルの言葉など聞こえなかったかのようにシグマはブーマを切り裂いた刀、“オロチアギト”の血を払い、鞘に納めた。
「・・・またつまらぬ物を斬ってしまった・・・」
「石○五●門かよ・・・」

 クーゲルの突っ込みもシグマには届いてないようだった。
「らこ〜・・・らこ〜・・・」
 戦闘を終了した二人の耳に遠くからの声が聞こえた。そちらに視線を向けた二人の目に、小躍りしているアイリスの姿が映る。
「見つけたか・・・」
「そのようだ・・・」

 二人のレイマーはそろって遠い目で呟き、嘆息した。
 アイリスはレイキャシールには珍しいラコニウムから創られたレイキャシールである。
 その性質あってか、ラコニウムを至高の逸品と思っている節があり、高純度のラコニウムを採取するためにラグオルに降りることのできるハンターズになったのだった。
「ラコらこらっこ、ラコらっこ〜」
 アイリスが歓喜のダンス(?)を踊っている最中に、それは起こった。
−っドォォォォォォォォォォォォン−
 まるで隕石でも激突したかのような地響きが辺りに響き、クーゲルたちの目の前に巨大な体躯の怪物が立ちはだかったのだ。
「ちょっとまて!コイツ・・・何でこんなとこにいるんだ!?」
 クーゲルが信じられないといった声を上げた。
 <ヒルデベア>・・・ラグオル地表の生物中では大人しい部類に入る。が、最近のセントラルドームの事故の折よりその性格が急変、獰猛な怪物となる。巨大な体躯から繰り出される拳は危険な武器であり、初心者のハンターズが死す原因の主たるものはこれの仕業と言える。
 セントラルドーム近辺である森林区画エリア2に分布する。
 つまり、エリア1であるここに存在することが珍しいのだ。
「戯言を言っている暇は無さそうだぞ・・・」
 シグマが険しい顔つきでオロチアギトを構えた。クーゲルもそれにならってライフルを構えて一歩後退する。
 総勢三体のヒルデベアはクーゲルたちを敵と認識したらしい。頭目らしき青い頭のヒルデベアを筆頭に、ヒルデベアが襲い掛かってきた。
 振り下ろされる拳を避けて、クーゲルがライフルを抱えたまま地に転がる。
「ラコがっ!?」
 アイリスが声を上げた。ヒルデベアが降って来た衝撃と今の戦闘の余波で、ラコニウム製の杖が地面をころころと転がっている。
「まってくださいぃぃぃぃっ!!」
 アイリスが思わず走り出した。ヒルデベアの横をすり抜け、ラコニウムの杖に追いつき、飛びつく。
「捕まえましたぁ・・・」
 ラコニウムを見つめて優しい笑顔を見せたアイリスは、自分の置かれている立場に気がついた。
 地面が・・・なかったのである。
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
 三流ギャグアニメーションのキャラクターの様な声を上げ、アイリスが崖を転落していく。
「おいおいおいおいおい!!マジかよ!?」
 クーゲルが追いかけようと走るが、ヒルデベアに邪魔されてそれどころではなかった。
「今は目の前の敵に集中せよ!!」
 シグマの叱咤を受けて、クーゲルはヒルデベアに向き直った。
(勝手に壊れないでくれよぉ・・・)
 クーゲルは心の中で安否を気遣いながら、ヒルデベアに向けてライフルを放った。

 アイリスは生きていた。奇跡的にかどうか、ボディに大きな破損は無い。
「あうぅ〜〜〜。くらくらしますぅ〜〜・・・」
 三次元カメラの映像に微弱な乱れが起こっているのか、うまく映らない。ノイズ交じりでぐにゃぐにゃと曲がる映像の中、アイリスの身体は欠損部分を直すために、強制的にスリープモードに入った。
 映像が途切れる直前。アイリスは自分に近づくピンク色をした何かを見ていた・・・。

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