電光ボード、ラグオルに降りるハンターズたちが依頼を受けるギルドカウンターにいたる途中にあるそこには、様々な事柄が載せられている。
企業の広告、ハンターズの訃報、時には、文面のみのニュース速報なども。
そんな電光ボードの前で、二人のハンターズがいがみ合うように対峙していた。
「とーもーかーくー!アタシが出ないで誰が行くっての?」
胸元の大きく開いた真っ赤な色の、ドレスにも似た服装のサイカが怒鳴るように言う。そのサイカの目の前では、きらびやかに光るブライトネスサークルに身を包んだ雪が胸を反らせて真っ向から睨み返している。
「そうかな?サイカみたいなのが出たら上映禁止かもね?」
はっ、と鼻で笑ってみせる雪と対称的に、顔を真っ赤にしてサイカがいきりたった。
「こっの・・・・・っ!!ガキンチョの癖にぃぃー!!」
「なっ・・・オバサンよりマシでしょうが!この年増!!」
大声でぎゃいぎゃい叫びあう二人を尻目に、ギルドのロビーでコーヒーを啜っている影が二つ。
「・・・・・・・・・止めないのか・・・・・・・・?」
影の片方、JOKERが、怒鳴りあっている二人を指して、もう一方に話しかける。もう一方のヒューマー、睦月はゆっくりと首を振り、言った。
「熊とライオンの争いに、素手で特攻し割って入るだけの技量は持ち合わせていない・・・」
「・・・・そりゃまた・・・言い得て妙な上に、お前さんにしちゃ賢明だな・・・」
JOKERと睦月が他人の振りを決め込んで空を見上げている間、二人のハンターズは電光ボードの前で大声で怒鳴りあっていた・・・。
電光ボードは静かにイベントの掲示を告げていた。"映画出演者募集 現役ハンターズ優遇"と・・・。
「ちょっとちょっと!洒落になってないよぉっ!!!?」
サイカの言葉がポータフォンを通してガロンの元に響く。
ガロンに案内されたラグオルの洞窟区画の中、その通路上で、突然巻き起こった炎がサイカたちの後方から迫っていた・・・。
「わ、わからん!とにかく、早いところ奥のワープポイントへ飛び込むんじゃ!!」
ガロンの慌てた声に、皆が走り出す。実録系映画のはずが、サイカたちは本当のピンチに直面していた・・・。
「ギ・バータ!!」
雪がテクニックを駆使して逆巻く炎にむかって氷の嵐を吹きつける。
しかし、氷の嵐は炎の壁に打ちつけられた瞬間に、逆巻く炎によって水蒸気まで昇華させられて消える。
「あの炎には、そんな中途半端な氷なんか効かないわよ!逃げるしかないっしょ!!」
「・・・煩いなぁ!わかってるよそのくらい!!」
雪とサイカが言い争いをはじめた。JOKERが小さく舌打ちをする。
「手前ぇらな!言い争う暇があったら逃げろってぇんだよ!!」
JOKERの叱責に、サイカたちが言い争いながら走り出した。その行く手にパルシャークたちが立ちはだかる。
「邪魔ァッ!!劫火よ吹き上がれ!−ラ・フォイエ−!!」
サイカの右手から紅の光が収束し、パルシャークたちの中で炎の塊が弾ける。
「・・・・チッ・・・−ギ・バータ−!!」
炎に巻かれるパルシャークたちに向かって、雪の掌から生まれた氷の吹雪が吹きつけ、炎と相殺されて水に変わってしまった。
舌打ちをひとつ残してサイカが腰の赤く光るダガーを取り出し、パルシャークを真一文字に切り裂きながら雪へと険しい目を向ける。
「セツ!アンタねぇ・・・邪魔するのなら隅っこに行ってなよ!!」
「サイカこそ!普段使わないテクニックなんか使っちゃってさ・・・氷の魔術師の前で変にインテリぶるのやめな!!」
サイカと雪が再び睨み合う。すぐ背後まで迫ってきている炎に、JOKERがさすがに困った様子で睦月のほうを見た。
「・・・・・・・なぁ・・・何とかならねぇか・・・?」
「・・・ふむ・・・・」
睦月はしばらくの間二人の様子を見た後で、ポータフォンを起動して二人へとギリギリ聞こえるような声で呟く。
「競争でもして勝ったほうが主役でよいのではなかろうか?」
「ほぉ、競争意識を高めるということか!いい映画が取れそうじゃな!許可しよう!!」
次の瞬間、旋風と化した二匹の修羅は、後の世の伝説に残るほどとなる・・・。
サイカとセツがもつれ合いながら全く同時に炎逆巻く回廊を抜けた先は、すこし開けた場所だった。
「周囲が見えるか?ハンターたち」
ガロンの声がポータフォンを通して響く。言われたとおりに周りを見渡すと、4つ並んだワープポイントのポータルが、三箇所に点在していた。
「三つの試練を越えた先に、帰らずの扉開かれる・・・と、ある」
「つまりは三つある試練をクリアして先に進めってわけね・・・凝ったシナリオだこと」
サイカがダガーを腰に納めて代わりにアイテムパックから短い棒を取り出した。朱色に塗られた棒の両端に光る金色の柄が、ただの棒でないことを物語っている。
「如意金剛棒(にょいこんごうぼう)」
短い棒が音を立てて身長ほどに伸びる。
セツも自分の貫頭衣のような服のスリットに手を差し込み、そこからサイカと全く同じ棒を取り出した。
袖の中にあるフォトンクローを如意棒の先端に取り付け、牙折り棒杖(バスターワンド)のような武器を組み上げる。
「業魔杖(ごうまじょう)・・・・」
一連の行動を見て、睦月も改めて鞘に刀を収め、一呼吸で一閃し、構える。
「一陣太刀・・・闇烏」
「張り合うなつーの、馬鹿」
JOKERの冷徹な突っ込みも、三人相手では意味を成さないらしく、三人はすぐ目の前にあるワープポータルに向けて突進していった。
「・・・・やれやれ・・・だぜ・・・・全くよぉ・・・」
JOKERはただ、嘆息しながらそれを追いかけることしかできなかったのである・・・。
最初に入った部屋には、何も存在しなかった・・・。
「ここは漆黒の間、部屋の封印を解くにはこの部屋の奥に存在するコンピュータへとたどり着かねばならない」
ポータフォンからガロンの声が響く。だが、サイカもセツも話半分程度にしか聞いてはいない。
目的はひとつ。
『一番乗り(トップ)を狙う!』
サイカとセツの周囲に、紅と蒼のオーラが立ち上る中、睦月は困窮した顔をし、JOKERはあさっての方向を向いて呆れ、そして・・・
「皆の団結力が試されるわけで・・・」
空気を全く読めていないガロンの声が、空しいほどにポータフォンから漏れていた・・・。
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