バシャバシャと、水しぶきを上げながらうろつく二人の男。
一人はハンターズ用端末に向かい、しきりに応答を求めている。
一人は誰に向けるともなく、しきりに愚痴をこぼしている。
「・・・ち、無理か。予想通りとはいえ、あまり歓迎できる事じゃねぇよなぁ」
先頭を歩いていた男が端末から顔を上げ、後ろから付いてくる男のように愚痴をこぼした。
「で、相棒・・・どうするよ?」
「・・・え?」
振り向き、同行者に意見を求めたが、答えなど期待していなかった。予想通りの反応に、男は眉をひそめた。
「あのなぁ、相棒。チームから外され、ES嬢に「足手まとい」って言われたショックはわからんでもないが、ちったぁ自分に課せられた仕事くらいやる気を見せてくれよ」
その仕事も、あまり意味を成していない。下層に降りた本体・・・ZER0やES達との連絡が全く通じない状況では、「中継」という役割を果たしているとは言い難い。
だがそれでも、僅かな可能性があるのなら掴んでおきたい。それがまるで蜘蛛の糸のように細い物だとしても。その為に今、二人は上層部に残りしきりに歩き回りながら僅かな隙間、ジャミングをかいくぐり電波が届く隙間を探しているのだ。
「あ・・・うん」
覇気の全く無い声。よほど言われた事がショックだったのだろうか。普段なら根拠もなく「ちゃんとやってるだろう」と声を張り上げるアッシュだが、その空元気すら文字通り空になってしまったかのよう。
まいったな。バーニィは頭をかきながら、落ちるに落ち込んでいる相棒の姿にどうしたものかと思案し始めた。
アッシュをチームから外す。これはESがアッシュに言った事だが、提案したのはバーニィだ。
アッシュと合流する前、バーニィはアッシュと自分を外す事をESに提案していた。理由は単純。これ以上は危険だから。
チーム結成当初に比べれば、アッシュは飛躍的に成長している。とはいえ、リーダーのZER0に追いついているわけでもなく、ましてR3という、正体は謎だがかなり腕の立つ助っ人が加わり、そして四英雄の内二人までもが救世主として駆けつけてきた。もはやアッシュに居場所など無い。
そもそも、今回の「ガル・ダ・バル島調査」という依頼は、アッシュにとって荒行に近かった。荒行は成果が大きい分リスクも大きい。引き際を見極めないと、取り返しの付かない事になるだろう。そして今が、その引き際だとバーニィはZER0に代わり判断を下した。
それをESに告げた時、彼女も賛同した。そしてバーニィが被るつもりでいた「汚れ役」を彼女が買って出てくれた。私が言う方が「効く」だろう、と。
そして彼女の言う通り、アッシュにはそうとう効いた。ここまで落ち込むという、予想だにしない大きな効果を見せた。正直、ここまでへこませるとはバーニィもESも考えてはいなかったのだが。むしろ打たれ強くなってきたと期待していた分、見誤った判断だったかとバーニィの方も落ち込んでしまう。
やはり、俺に指揮や指示はできねぇな。バーニィは意外に小さい自分の器にしょげている。一度は離脱を納得したアッシュであったが、むしろあの場で納得してしまったから、後々となって彼に、そう「真綿で首を絞める」かのように、自責の念が彼の心をぎゅうぎゅうと締め上げているのだろう。その事をすぐに察せなかったのは、自分に人を気遣うゆとりがなかった、つまり器が小さかった事の表れではないかと、バーニィは恥じた。
(・・・あの後、ルピカとなんかあったのか?)
けして自分の過ちを回避したいわけではないが、バーニィはここまでアッシュが落ち込む原因はESの言葉だけではなかったと思っている。彼女の言葉が決定打だったにせよ、普段のアッシュなら落ち込みはしてもここまで覇気を無くす程落ち込みはしないと、バーニィは考えている。
事実、バーニィの推測は正しかった。
アッシュが落ち込んでいる原因。それはESの一言によって痛感させられた、合流直前の出来事にある。
「なあ、バーニィ・・・」
重い重い口を、アッシュが開いた。
「俺は・・・「盾」すら満足に出来ない、足手まといなんだよな・・・」
ルピカを守りきる。自分はそれを、まさに命がけで貫いた。アッシュはそう思っていた。
不本意だった守り役。それを意地でやり通そうとした。しかし結果として、ルピカに助けられた。盾となるべき自分が、守るべき相手によって。
気を失う直前、何が起こったのかアッシュは知らない。ルピカも語ろうとしない。だが、ルピカに助けられたという事実は間違いない。
そして言われた、足手まといという一言。
自分は、盾すら満足に果たせない足手まといなのだと、アッシュは自ら心に深い傷をざっくりと刻みつけてしまっていた。
(・・・なるほどねぇ)
何があったのか、バーニィには判らない。だがアッシュの口ぶりから、大方ルピカに助けられ「盾」としての自信を失った、そんなところだろう。そうバーニィは推測した。
バーニィが推測したその根拠は、彼の口ぶりだけではない。
合流した時に見た、ルピカの様子。
明らかに体調を崩していた彼女。あの様子には、見覚えがある。
(使ったのか・・・「あの力」を)
だとすれば、二人に迫った事態はかなり切迫したものだったはずだ。ルピカが人前で、まして「他人」の為に「あの力」をそう簡単に使うはずがない。もしアッシュが「あの力」を目の当たりにしたとしたら、盾としてこれまで耐えてきた事の全てが馬鹿らしくなったのかもしれない。
「まーなんだ・・・これまでルピカを守ってきた事は無駄じゃなかったと思うぞ?」
さて、どう説明しようか。バーニィは口を動かしながらルピカの「秘密」をどこまで暴露すべきか頭を悩ませた。
リーダーも知らない、ルピカの秘密。断片すら漏らしてはならない秘密を、彼の自尊心の為に何処まで晒すべきなのか。
「あれだ、ルピカにだって色々あってだな・・・」
戸惑いがそのまま言葉になってしまう。
本来なら、黙っておくべきだろう。「あの力」を目の当たりにしたとしても、その「意味」まで判る事はまずないはず。雄弁より沈黙がより有効なのは間違いない。
だが、アッシュの事を思うと黙ったままではいられない。
(まったく、性分かねぇ)
不利になると判っていても、人を尊重する。裏で、影で活動する身としてはかなりの汚点。裏に生きる事を徹底しきれない自分の性分をバーニィは呪った。
「なぁバーニィ・・・」
不意に、アッシュの方から語りかけてきた。
「・・・いや、いい・・・」
が、途中で止めてしまう。
アッシュは迷っていた。果たして尋ねて良いのかどうかを。
気絶する直前にルピカが仕掛けた何か。それをバーニィに尋ねるべきか? 結局アッシュは、出かけた言葉を飲み込む事にした。
ルピカは極端に、あの時の事を尋ねられるのを嫌っていた。それを無理矢理、第三者に尋ねて良いものか?
アッシュが出した答えは「否」であった。
一方、アッシュの戸惑う様子を見ていたバーニィもまた、戸惑った。
何処まで見たのだろうか? アッシュは。
彼の様子から察するに、ほとんど何も理解していないのかもしれない。もしかしたら、決定的な物は見ていないのではないか?
いずれにせよ、「何かあった」事を口に出すのを取りやめたのは間違いなく、それがアッシュの「決意」なのだろうとバーニィは察した。
落ち込みはしたが、ルピカを思いやる心はある。
(漢じゃないの、こいつも)
ドノフの弟子。それは伊達ではない。バーニィは口元が緩むのを抑えきれなかった。
「そう落ち込むなって! まだ若いんだからよ、ES嬢や我らがリーダーを見返す機会はまだあるって!」
バンバンと、肩を叩きバーニィは励ました。
今はこれで良い。落ち込むだけ落ち込んだら、後ははい上がるだけ。ドノフの弟子なら、その程度わけはない。
すれ違った思いやり。各々が誰かを思いやるその心はすれ違ったが、無駄ではない。その人の為にも己の為にも。
後は、この徹底的に落ち込んだ時の様子を「酒の肴」・・・いや「ネタ」でもなんでもいい。笑って話せるようになれば良いだけだ。
(その為にも・・・戻ってこいよ)
アッシュを励まし続けながら、冥府の奥底へと向かった五人の帰還を切に願った。
「随分大きな水槽ね・・・」
海底プラント下層部。帰路の確保もままならぬ中、五人は奥へ奥へと進んでいた。その奥で見つけた巨大な水槽を前に、五人は足を止めていた。
手すりの向こう側には、鯨でも余裕で一頭飼育できるのではないか、というほどに広く深い水槽。張られた水が多少濁っている為どれほど深いのか目測できないが、興味本位で手すりを乗り越え気軽に水浴びをしたいなどとは思えない程には深そうだ。
「皆さん、見て下さいこのプレート」
周囲を見渡していたMが、手すりに付けられていた一枚のプレートを発見した。
そこには「β772」と刻まれている。
見覚えのある、いや聞き覚えのある数字。思い出そうとしてもなかなか言葉にならないもどかしさを感じていた。
一人を除いては。
「セントラルドーム地下洞窟、水路に出現した巨大アルタード・ビースト。デ・ロル・レの認識番号です。この水槽の大きさから、ここでデ・ロル・レが生み出され飼育されていたのは間違いないかと思われます」
シノが記録していたデータと符合し、答えを導いた。
「なるほどね・・・こうして現場を見せられると・・・ホント、胸くそ悪いわ」
顔をしかめ、ESは不快感を露わにした。
多くのアルタード・ビーストを生み出す能力を秘めた化け物の母。その母を作り出したのが、パイオニア1ラボの面々。
人の手で作られし、怪物。
しかもこの怪物は、邪神を作り出す為の通過点に過ぎないと狂った博士はのたまった。
その怪物が逃走し、被害が一般市民にまで及びそうだと知りつつも、邪神さえ作られれば全ての問題は駆逐されるとまで言ってのけた。
正常な人間ならば、怒り以外のどんな感情が湧くというのだろうか?
正常ではなかったオスト博士は、歓喜と狂気で心を満たしていたのだろうか。
信じられない。が、それが事実だ。
「・・・なあ、あんなデカイ化け物を、どうやってセントラルドームの地下まで運び込もうとしたんだ?」
場の空気からすれば場違いな疑問。だが怒りに沸き立つ心を静めるにはほどよく力の抜けた疑問ではあった。
「デ・ロル・レの逃走時、地下の坑道から「排水ダスト」を通じて逃走したと、記録にはありました。そこから考えるに、おそらく運搬時および逃走時のデ・ロル・レは我々が遭遇した時ほど大きくなかったのでしょう。この水槽の大きさを考えますと、あれほど大きく成長する見込みはしていたと思われますが」
シノが己の見立てをZER0に話した。逃走時慌てなかったのは、あそこまで急成長するとは考えておらず、後回しにしても問題ないと判断した為ではないか、とも付け加えた。
だとしても、迷惑な話だ。実際には急成長をしているのだから。
「おそらく・・・急成長したのはダークファルスの影響でしょうね。そもそもデ・ロル・レが他生命体の細胞にアルタードへ変化する作用を及ぼす「自己増殖特性」を身につけたのが、「地下の振動」を感じてからだと記録にはあったわ。その振動は間違いなくダークファルスの波動によるものでしょうから・・・」
かの邪神を一番よく知る女性、R3が見解を述べる。博士号も肩書きの一つに加えている彼女の意見に、誰もが納得した。
納得はしたが、割り切れぬ思いはグルグルと頭と心に渦巻いている。
「っくしょう!」
手すりをガンと掌で叩き、ZER0は苛立ちを露わにした。
「行こうぜ。こんな馬鹿げた施設、とっとと用事を済ませてぶっつぶしてやる」
狂気を贄に進められた研究。そして研究が進むに連れ生み出されていく慢心と欲望。裏には、邪神の姿が見え隠れする。
苛立ちの根元を断ち切る為にも、五人は更に奥へと進んでいく。
ベッドの上では、一人の少女が苛立っていた。
(なんだって、あんな事したのよ・・・)
元々、無理矢理あてがわれた「盾」だった。その盾が壊れようが、知った事ではない。
そのつもりだった。
半身を起こし、額に手を当てながら、少女は溜息をつく。
(そしてこのざまよ・・・ま、おかげで早々にあいつらから離れられて清々してるけど)
ここはメディカルルーム。ルピカは、体調不良の為に個室をあてがわれ休養していた。
手配をしたのはラボチーフ。一介のハンターに対して施されるにしては、あまりにVIP待遇が過ぎるが、それをさも当然とルピカは受け入れていた。
そんな事よりも、ルピカにとっては重要な問題が幾つもあった。
その中で最も大きな問題は、「あの力」を人前で、それもアッシュの前で使ってしまった事。
壊れても捨て置けば良いはずの盾を助けるのに使うなんて。あの時、何故そんな事をしたのか。自分の事なのに当時の自分が判らない。
ムカツク。そもそも邪魔なだけだった盾なのだから、あの場で壊れれば綺麗サッパリ片づいたのではないのか?
にもかかわらず、リサイクル精神が芽を出してしまうなんて。よりによって、アイツに対して!
「ああ、もう!」
手近にあった枕を掴み、力の限り投げつけた。
力を目一杯込めた割りには、壁に当たりボフッと軽い音を立てる枕。
ムカツク! その根元がもやもやしているのも余計にムカツク!
両手を力一杯、ボフボフと何度もベッドを叩きつけ苛立ちを発散する少女。
「あームカツク!」
起こしていた半身を叩きつけるようにベッドに倒す。
ひとしきり苛立ちを発散した為か、少女は他にもあった「問題」を思い起こした。
「あの力」を使った後は、決まって全身が脱力したかのように疲れる。だが、今日のように体調を崩しメディカルセンターの世話になるような事は始めてだ。
原因は判らない。そもそも自分の「力」だが、「あの力」については自分でもほとんどを把握していないのだから。
(何だったんだろう・・・あの「声」・・・)
気になったのは体調不良だけではない。力を発動させた後からパイオニア2へ戻るまで、ずっと頭の中に鳴り響いていた声。
最初は、アッシュのうめき声かと思った。だが、それにしてはあまりにもおぞましく、聞くだけで背筋が寒くなるそんな声。体調を崩したのも、間違いなくあの声が頭中で鳴り響いた為だろう。
例えるならそう、暗闇の奥底から響く、そんな声。
声に意味はなかった。単語にすらなっていなかったうめき声。
だが、「意志」はあった。そんな気がする。
何だったのだろうか? あの声を思い出したいなどとは思わないが、しかし気になるのは確か。
確証はないが、「あの力」と「あの場所」が何か関連あるのだろうか?
(それに・・・あの場所って・・・)
制御塔の時にも感じていた、奇妙な感覚。プラントに訪れた時に、その感覚は特に強まった。
来た事がある。おぼろげな記憶しかないが、どうも見覚えがあるような気がする。
閉じている記憶が、開きかけそうだ。そう、「忘却」という扉を開けてくれそうな気がする。だが、何故か開けてはいけないというハザードランプが脳内で激しく点灯している。
そもそも制御塔は、強引に理由をこじつけラボチーフが行くよう指示した場所。開きかけた忘却の扉と関係あるのか? そしてハンターズとして調査に同行するよう指示したのもラボチーフ・・・。
あの女、何か知っているのか? そして何を考えている?
(・・・どうでもいいわ)
悩むのも面倒。顔を埋める枕を拾いに行くのも面倒。少女はそのまま、ふて寝した。
島に来て、幾つの端末を調べただろうか?
これが何個目の端末かなど、もはやZER0は覚えていない。だが、なんとなくこれが最後の端末なのではないか。そんな気がする。
根拠は特にない。あるとすれば、随分と奥へ進んだ実感から、そろそろ「ゴール」なのではないかという憶測と、そして調べる度に露わになる驚愕の事実など、これ以上あってはならないという願いか。
端末の回線を開く。だが、聞こえてくるのはノイズばかり。パイオニア2や上層部にいるバーニィ達との通信を邪魔する電波が、この一帯で更に強くなってると、シノは言う。おそらく端末もその電波の影響を受けているのだろう。
何も得られない。残念なようで、ホッとするようで、複雑な心境のまま、一行は端末を離れ先へ進もうと踏み出そうとした。
その時だった。
「・・・我ガ身ハ・・・無力ニシテ・・・全テヲ持ツ・・・存在ト成リ果ツ・・・」
ノイズ混じりながら、声が聞こえる。
ノイズの為か、あるいは他の原因か。声は途切れながらも懸命に、しかし何処か感情がこもっていないような、そんな不可思議な声色で伝えられている。
判るのは、この声に聞き覚えがあると言う事。端末を調べる度に、何度も聞いた声。
「・・・タダ今ハ・・・我ヲ滅ボス・・・赤キ捕ラワレ子ノ・・・救イ手ヲ・・・待ツ・・・」
赤き捕らわれの子?
一人に視線が集中する。注目を集めたのは、R3。
「・・・コノ深キ・・・地ノ底デ・・・待ツ・・・ワガ名ハ・・・スクリフ・・・フロウ・・・」
声の主。それは最後に自ら途切れ途切れながら語ったようにヒースクリフ・フロウウェンその人に間違いない。そのフロウウェンが語る「赤き捕らわれの子」とは、間違いなく彼女・・・赤い輪のリコの事だろう。
「我が身は無力にして、全てを持つ存在と成り果つ。ただ今は、我を滅ぼす赤き捕らわれの子の救い手を待つ。この深き地の底で待つ」
注目を集めていたR3が、メッセージを明確に輪唱するかのように繰り返した。
「・・・このメッセージは、ラボが最初に受信し、ガル・ダ・バル島の存在を知ったファーストコンタクト。一度ダイレクトに、爆発が起きた時の様子を語ったメッセージを受信したわよね?
あのメッセージの後に続いていたのが、今のメッセージ・・・」
淡々と語り始めたR3。残った物は黙って聞き入る。が、ふと疑問は沸き立つ。
ラボが最初に受信したと、何故R3が知っている? そして自分達は今初めて聞いたラスト・メッセージの内容を何故知っている?
「このメッセージを受信したのは、ラボだけじゃないのよ・・・私も、直接受け取ったわ」
あからさまにリコへ向けられたメッセージ。それは本人に届いていた。
「ただね・・・私の場合、ラボよりも早かったわ。なにせ私がダークファルスに取り込まれていた時なんだから」
平然と、とんでもない事を口走る。
「・・・なるほど、だから「捕らわれの子」なのね・・・」
冷静さを装いながら、ESがR3に確認を取る。R3は黙って一度だけ頷いた。
「ヒースの事を知った時、私ではもうどうにかしてあげられる状況ではなかった。ダークファルスはヒースの置かれた状況をむしろ喜んでいたし・・・」
助けを求められながらも、自信も助けを望む身。あの当時感じたリコの心境は計り知れないが、それを淡々と語る今のR3の心境も又、同様。
「ち、ちょっと待ってくれ」
ある程度心情は察するが、しかしここで尋ねておかなければならない事がある。ZER0は慌ててR3の話を中断させ、質問する。
「つまり、あなたは・・・「今の」フロウウェンさんがどうなっているのかも、もう知っているって事か?」
しばしの沈黙。
R3が真相を知っているのは間違いない。問題はその内容だ。
認めたくはなかった。R3・・・リコは、ZER0の指摘通り、知っていた事がある。しかしそれを認めるのが怖かった。ほぼ間違いないと判っていても、この目で見るまでは信じたくなかった。
だが、認めざるを得ない。一つの希望を失う事になっても、認めるしかない。
代わりに、一つの「望み」を叶える為にも。
生唾を飲み込む音が大きく響く。そしてR3は作られし身体から声を発する。
「オスト博士の研究によって、ヒースはAIオル・ガと共に試験体γ119号に埋め込まれ・・・「プロトファルス」へと変貌してしまったわ」
パイオニア2ラボ。今ここは、人々が慌ただしく動いている。
再び、メッセージを受信した。その確認作業の為に職員研究員、皆走り回っている。
「チームD−Hz、応答願います。チームD−Hz、応答願います・・・」
何度も何度も、繰り返し求める応答。そんなエリの声は届かず、そして届けられる声もない。
受付では、両手を組み固く握り、強く強く、最深部へと向かっているであろう五人の無事を祈るノルの姿がある。
そして一人、ただ一人、氷の仮面を外さずに中央で指示を出し続けているチーフがいた。
「受信したメッセージの解析を急げ。中身より、どこから発信されたのかを追跡しろ。そして追跡路からハンター達と連絡が取れるかどうか試してみるんだ」
メッセージの中身は大方予測が付いている。今は中身より、音信不通となったハンター達の方が心配だ。
ようやっと、ラボ全体が事の重要性に気付き始めたようだ。どこか人ごとのように構えていた者達も、深刻な事態になりつつある事を肌で感じてきたのだろう。
これはこれで、真剣みが増して良い。だがこれはこれで、パニックに陥りやすくなったとも言える。
「既に報告のあった上層部のデータだけですが・・・何もかもが、セントラルドーム地下、遺跡地区の状況に似すぎています」
微かに声を震わせながら、ダン補佐官がチーフに報告している。
「しかも、この酷似が人の手によって計画されたものだと考えると、チーフ・ナターシャ・・・私は、正直恐ろしくてたまりません」
正当な人間の感情だろう。チーフは溜息を一つは気だし、しかし表情は変えず、補佐官に向き直し口を開く。
「ダン補佐官。今ハンターズはその恐ろしいプラント下層部へ、我々の代わりに調査をしている。ならば彼らの為に我々が出来る事をすべきだとは思わないかね?」
元々ラボの人々はハンターズに対し冷たいところがある。エリート意識の高い研究員達は、ごろつき達のたまり場だと考えているハンターズを見下している。故に、依頼をする時でも「使ってやっている」という意識すらある。
自分達では一歩たりと足を踏み入れられない地獄へ送り込んでおきながら、である。
軍人にも似たような所がある。「知」のラボか「武」の軍か、という違いくらいで、エリート意識の高い連中が考える事は似たり寄ったり。しかもラボと軍は互いのエリート意識の強さからやはり反発しあっている。
バカバカしい。ナターシャは露程も役に立たないエリート意識が事態を悪化させる事を良く知っている。
よく、知らされた。
(こうして指揮する立場にいると・・・あなたが常に言っていた事を実感させられます)
ナターシャはふと、思い返していた。
昔の事を。今、懸命にハンター達が探している人物の事を。
「端末CALをが何処まで動かせるか、ギリギリのラインを検証しなさい。そしてそこからジャミングの正体について解析を試みるのです」
この程度、言われないでも判断して欲しいものだ。補佐官なら。所詮エリートの階段をただ駆け上っただけの補佐官ではこの程度かと、幻滅する。
エリート意識だけで人の上に立つ者など、出来る「能力」はたかが知れている。かつて軍部で、フロウウェンの下で彼から「上に立つ」という事の意味と責任を教え込まれてきた彼女は、「エリート意識」と「プライド」の違いをよく理解していた。
今は「エリート意識」を下手に刺激せず、巧みに無能な部下達をコントロールする為に「プライド」へ揺さぶりをかける。そして補佐官は動き出した。
(赤き捕らわれの救い手を・・・か)
メッセージを解析したわけではないが、その中身にこの一文はあっただろう。ナターシャはファーストコンタクトで得たメッセージの内容を思い返し、心中で呟いた。
赤。それは彼女にとって最も忌み嫌う色。
だが、愛しい人が最も好む色。
自分では、救い手になれない。それを痛感しているだけに、「赤き捕らわれ」とされるあの女が憎い。
憎いが、認めるしかない。
彼女しか、彼を救い出す事は出来ないのだと。
(頼むぞ、ZER0・・・)
既に死亡したと「されている」彼女。その魂を導けるのは、四英雄だけだろう。
ナターシャは周到に準備し導いたZER0に、全てを託した。
「メッセージを聞いて大方想像してたと思うけど・・・プロトファルスの誕生は、ダークファルス復活の鍵となった。それ以前にパイオニア1軍部がダークファルスの棺である「遺跡」を発見しこじ開けた事や、それ以前にD因子の付いた隕石をコーラルへ届けた時から、ダークファルスの「シナリオ」は始まっていたのだけれど・・・」
長い話になるからと、R3は先へ進みながら事の真相を語り始めていた。
リコがダークファルスに取り込まれていた時、彼女はダークファルスの「意志」を一部「記憶」として知り得る事が出来た。同時に、ダークファルスと何らかの形・・・意思の疎通とでも言うべきか、邪神のコントロール下に置かれていたプロトファルスの「意志」も「記憶」としてリコは取り込んでいた。彼女は今、その時に取り込んだ「記憶」を頼りに語っている。
ダークファルスはオスト博士を初め人々の「欲望」を刺激し、直接自分の所へ来るように誘導していた。そしてまんまとやってきた者の中から、見込みのある者・・・つまりフロウウェンを取り込み復活しようとした。しかし蓄積していた「欲望」が足りぬと判断し、D因子を埋め込むだけに止め、さらに「欲望」が膨らむのを待った。
そして邪神の願い通り、パイオニア1ラボの、オスト博士の欲望は膨張し、さらなる「欲望」・・・パイオニア2を呼び寄せる事に成功する。
「プロトファルスの実験は「失敗」と見なされたわ。オスト博士は邪神の複製をコントロールするつもりでいたようだけど、そもそもD因子について何も判っていないのにコントロール理論なんて完成するはずもないのに・・・ダークファルスのせいだとは言え、あまりにも・・・」
理性を失った博士に同情する気はないが、しかし彼だけを攻め立てるのも気がとがめる。
「実験は失敗したけれど、博士は成長を続けようとするプロトファルスに初めて恐怖を感じたのでしょうね。彼はもう殺す事も出来なくなったプロトファルスを、この先にある「実験体廃棄場」へ捨て、封印しようとした。けれどもう手遅れ・・・目覚め始めたプロトファルスは、むしろこの廃棄場に捨てられた失敗作からD因子を更に吸収し活性化したわ」
そしてパイオニア2がラグオルの衛星軌道に乗ったまさにその時、「プロトファルス」が完全に目覚めた。そして貯まりに貯まった「欲望」がこれをきっかけに爆発。これが「セントラルドーム爆発」であり「ダークファルス復活」へと繋がった。
復活を機に、ダークファルスは人々を次々に飲み込んでいく。だが「糧」として取り込む人々とは別に、「身体」として「贄」が一人必要だった。そうして選ばれたのが、リコ。
「私が選ばれたのは・・・プロトファルス、つまりヒースの記憶を頼りに、最も「優れた者」を選んだ。そういう理由らしいわ」
フロウウェンを慕い、フロウウェンが愛情を注ぎ育て、そして何時の日か師弟の間柄を超越していった・・・彼が最も愛した女性。彼の記憶から彼が最も恐れた選択が成されたこの皮肉。邪神は笑っていたに違いない。
後に、リコの激しい抵抗の為完全復活を成せなかったダークファルスは、今度はリコの記憶からESを素体に選び、呼び寄せようとし・・・逆にESやZER0達の手で滅ぼされる事となった。
「ダークファルスはまだ消え去っていないの。まだ、奴には復活する術が残っているのよ」
一行は足を止めた。
「それが・・・この先にいるプロトファルス・・・」
目の前には、大きなテレポータがあった。
ぞくりと、背筋に悪寒が走る。
説明されずとも、感覚で判る。この先に、とてつもない「邪悪」が潜んでいる事が。
「プロトファルスは、ダークファルス復活の鍵になっただけでなく、「予備」でもあるの。ダークファルスが順調に復活すれば取り込みさらなる力を得る為に、そして千年前と同様に封印されるなり復活を阻止された時に代わりの身体にする為に必要だった。そして今、あなた達に倒されたダークファルスは、プロトファルスを使って復活しようとしているはず・・・」
その証拠が、合流前に出会った邪神の使徒と成り果てたキリーク。彼がこの付近をうろついていたのは、間違いなく邪神の意志によって呼び寄せられたのだろうとR3は言う。
(証拠はもう一つあるけど・・・)
口に出せない証拠。それはR3自信がこうして立っている事が証拠なのだ。
R3はリコの良心から強引に転生した姿。しかし意志はリコの良心だが、身体はダークファルスと同じ「闇の淵」に漂うD因子。もしダークファルスの影響がこの惑星に残っていなければ、R3の身体も維持できていないはずなのである。
「私はあなた達に「助けられて」から、スゥと行動を共にしていたわ。私はヒース・・・プロトファルスの所在を再確認する為に、スゥはMOTHER計画に。それぞれ協力しながら情報を得ていく中で、パイオニア2ラボがメッセージを受信した事を知ったわ」
そしてガル・ダ・バル島の所在を確認し、ラボがZER0を中心にしたチームを送り込む計画を立てているのを知ったR3。どうにかZER0と接触し、プロトファルスを打倒する協力が得たかった。そこで考えられたのが、スゥと、そして逃亡を手伝ったモンタギュー博士の「思惑」をも両立させる作戦。
「制御塔で待ち伏せか・・・なるほど、だからスゥもウルトも一緒にいたんだな?」
R3とモンタギューは、ラボチーフであるナターシャがブラックペーパーと繋がりを持ち、組織からMOTHER計画とカル・スの「事実確認と隠蔽」を迫られているのを察知していた。
わざわざエリ・パーソンをラボに招いたナターシャなら彼女を泳がせると踏んだ二人は、第二次試験に潜り込み、エリと偶然・・・いや予想通りペアを組んだZER0の動向を監視しながら、堂々と島に降りる資格を得ようとしていた。結果として自分達は思うように試験中の「事故」を防げなかったが、無事ZER0とエリは合格。そして制御塔へ向かうところで合流をもくろんだ。
「彼が救いを求めているなら、私はどうしても、直接彼に会いたい・・・会って、私が救いたいの・・・」
それが定めだと、そう決意している。
その為にするべき事は、もう判っている。後はそれを、実行するだけ。
(ゴメンね・・・私はまた・・・)
無意識にESを見つめようとしている自分に気付き、強引にその誘惑を抑えた。もしここでESの瞳をのぞき込めば、彼女に自分のやろうとしている「決意」に気付かれてしまいそうだ。
いや、もう気付いているかもしれない。それでいて、彼女は黙ってくれているのかもしれない。
(義母親として失格よね・・・)
それでも、彼女が義娘であった事は嬉しくも誇らしくもあった。だからこそ、これまでの事を全て「精算」する必要がある。
「・・・さて、行きますか、全てに「けり」をつけに」
リーダーの一言で、五人はテレポータに足を踏み入れる。
向かう先に待つは、探していたヒースクリフ・フロウウェンと、求めていた決着。
「エレベータ構」と名付けられただけに、五人が乗っているエレベータは面積が広く、そしてとても深い。
下にある「実験体廃棄場」へ何体も、あるいはよほど大きな「失敗作」を捨てる為、丸く広く設計されているのだろう。軽く部屋一室分の広さはある。
初めからこれほど大きなエレベータと廃棄場を用意するという事は、実験で何体もの失敗作が産まれる事を前提にしていた証。生体実験はそれこそマウス実験など小動物の命を扱い行われる事がごく当然である事から、科学者にとって当然の設備だと言えるのだろうが・・・どこかやりきれぬものを感じずにはいられない。
またこの施設、D因子を持つ失敗作をおいそれと表に捨てられない為に地下深くに建設した経緯もある。おいそれと捨てられないから廃棄場を設けるのは解るが、貯まった廃棄物をどうするつもりだったのだろうか?
ただ地下深くに捨て溜めるだけでは、何時か問題が起きるのは明白だろうに。
それでも、狂気に支配された博士達は「今」しか見えていなかったのだろう。自分達が求める研究が進むのなら、未来の事など気にかけていられなかった。
本来、未来へと繋ぐ為の研究だったはずなのに。
D因子の研究は、フォトン技術を飛躍的に向上させるのに役立った。フォトン技術は枯渇したエネルギー問題の打開策として大変重宝し、どうにか母星コーラルの人々は首の皮一枚を保つ事が出来ている。だが首の皮は僅か一枚しかないと解っていながら、彼らは覇権争いの為にフォトン技術を兵器利用し始めた。
愚かだ。誰もが思うが止められなかった。
ここプラントは、コーラルでの愚かなフォトン競争の再現をしているに過ぎない。
愚かと知りながら、同じ過ちを繰り返す。
それが人間・・・なのだろうか?
その結果が、D因子のたまり場にして、プロトファルス誕生の糧。
邪神による理不尽な天災なら、理不尽ながらも怒りのぶつけようがまだあったかもしれない。
ただ邪神を復活させたのが、同じ愚かな人間だとしたら・・・理不尽に理不尽を重ねられては、振り上げた拳を何処に向けて良いのか戸惑う。
いや、向ける先は決まっている。
少なくとも今は、邪神復活の「予備」となるプロトファルスに向けるべきだ。
そもそも、邪神が全てを裏で操り今の結果を生み出しているのだから。
突き詰めれば、邪神に操られるだけの「欲望」を抑えられなかった愚かな人間にだって責任はある。だが今それを正すより、ハッキリと怒りのぶつけどころを定めこれ以上の悲劇を生み出さない事が大切だ。
そう思っていないと、やってられない。今はあまり考えない方が良いのだろう。
まだエレベータは動き始めたばかり。これからの事に溜息をつく暇もなかったのに、あれこれと考えすぎる。
まずは心中に貯まった「不安」を吐き出し、この先で待ち受ける脅威に供え心を構えなければ。
そんな余裕,そんな隙。邪神はそれすら与えてはくれなかった。
「なっ!」
不意に見上げた先。何かが急降下してくる。
大きい。黒く禍々しい人影・・・そう、形こそ人の形をした大きな物体が、逆さになり迫ってくる。
巨大な剣・・・形はまるで自分達が使っているフォトン製の大剣に酷似している右手を持ち、左手はボウガンのような形をしている。昆虫のように外へ開いたご本の脚が下半身に取り付いている。
見ただけで解る。巨大な亜生命体。
つまりこれは・・・。
「プロトファルスか!」
リーダーの声をきっかけに、五人は臨戦態勢を整え散った。
地の底で待ちかまえていると思われた邪神の落とし子は、まさに天から落ちるように現れた。
浮遊能力があるのか、急降下してきた邪神の試作品は落下速度をエレベータの速度に合わせ、逆さまのまま五人と対面する。
咆吼のような、しかし意味を持った言葉のようにも聞こえる、雄叫び。試作品は五人を威嚇すると、エレベータの周りをゆっくり沿うように動き出した。
「シノ、威嚇射撃しながら解析急いで! Mはシノのフォロー、残りはハンドガンに持ち替え待機!」
リーダーを差し置いて、ESが指示を出す。自然な流れに現リーダーが文句を言う事など無かったが、しかし彼はハンドガンへの持ち替えはしなかった。
「オロチアギトでいく。その方が効果的だろ」
腕に自信がないわけではないが、専門分野でないハンドガンではそうそう致命傷を与えられないと判断したZER0は、オロチアギトによる衝撃波の一撃を選んだ。
「・・・大丈夫だって」
一瞬チラリと心配そうな顔を見せたESに、ZER0は自信ありげに微笑んで見せた。
オロチアギトの衝撃波は大技の為、己の体力も精神力も削られる。最初の頃は撃つ度に相当な疲労を伴ったが、今は昔に比べればそう簡単にへばる事はなくなった。とはいえ、そう連発できる物ではないが。
「来る!」
右腕が大きく動いた。R3の警告に皆が反応し、試作品から距離を取る。
振り下ろされる右腕。正面に放たれる衝撃波。直撃こそ免れたが、強大な敵の、たった一振りでこの威力だ。冷や汗の一つも額に浮かぶ。
「弱点判明。頭部と胸部です」
シノがすぐさま長距離機関銃の銃口を向けながら、解析結果を伝える。
弱点は判明した。だが、敵はエレベータの外。とても近接武器が届く距離ではない。
「シノとMがキーになるわね」
銃とテクニックを主体にした攻撃。これまでも巨大な敵を前にした時はこのような事態になりやすかったが、今回は特にその色が強い。
「リコ、ハンドガンで二人の援護お願い。私はテクニック援護に回るわ。ZER0、外すんじゃ・・・」
ZAN!
「誰が外すって?」
オロチアギトの衝撃波が、綺麗に頭部と胸部を縦に貫く。
ニヤリと口元を歪めるZER0だが、気をよくしてばかりはいられない。
反撃が始まる。試作品はゆっくりと移動しながら、今度は左手を前に突き出し、緑の弾を勢いよくまき散らした。腕の形こそボウガンだが、弾は拡散されている。射出された弾の数が軽く二桁を超えている拡散弾は、五発止まりの散弾銃など生ぬるくさえ感じる。
全てを避けろ、というのは無茶な話だ。遠くにいたシノとZER0はどうにか避けきったが、近くにいた為弾と弾の間隔が狭かった残り三人は、直撃は避けられても軽く被弾してしまった。
「くっ・・・FOIE!」
それでもMは愛用の鎌から切り替えた究極の杖、サイコウォンドで身体を支え転倒を免れる。そして怯むことなく炎の弾を浴びせた。
「RESTA!無茶はしないでね、M」
「ありがとうございます・・・FOIE!」
ESが周囲の回復を手早く済ませる間、Mは軽い礼に続け二発目の炎弾をすぐに射出する。
続けとばかりに、シノの銃弾とZER0の衝撃波が遠方から巨大な試作品へと放たれた。
だが、銃弾と衝撃波は急に移動速度を上げた試作品には届かなかった。そしてぐるりと半周した試作品は、二人の後ろへと回り込む。
またも突き出される左腕。今度は自分達が被弾するか? と身構える二人には思いかげない攻撃が待っていた。
まるで剣のように、幅の広いレーザーが左腕から伸びる。直撃はしなかったが、試作品はゆっくりと動き、その幅広いレーザーを横から当てようと迫ってきた。
幸いにも、エレベータは真丸。常に中央へ身体を向けている試作品から伸びるレーザーは、根本が自分達に迫りながらも先は反対方向へと動いている。つまり、走って逃げ続ければ当たらない。
とはいえ、必至だ。レーザーの幅は広く、本体は速くはないがゆっくりと追いつめる様子もなく、着実に背後へと迫って来る。
反撃の糸口はないか? 必至に模索を初めながら走り続ける五人だったが、それは危惧に終わる。不意にレーザーが止まったのだ。
反撃するなら今。だが、逃げるのに必至だった五人はすぐに反撃など出来る体勢にない。持ち直した時には、試作品は落下速度を緩めエレベータの真上へと陣取った。
銃ですら届かない距離。さてどうする? などと考える暇はない。上空から、機雷のような物がばらまかれた為に。
「RAFOIE!」
しかしその機雷は、Mのテクニックで除去されていった。広範囲への攻撃が続き皆が慌てている中で、Mは一人冷静だった。
Mのおかげで、体制を整える事が出来た。再び隣に並んだ時が好機!
降りてきた試作品に、容赦なく浴びせられる銃弾とテクニック、そして衝撃波。
うめき声を上げる試作品。真っ黒な羽根のような物をまき散らしながら、落下速度を増し落ちていく。その姿は、まさに堕天使。
「やった・・・のか?」
ZER0の問いに、R3は頭を振った。
まだ、生きている。R3が示した答えの根拠は他の四人に解りはしないが、しかし信じられた。
まとわりつくような寒気と憎悪が、R3の答えを信じさせている。
エレベータはゆっくりと、堕ちた天使の後を追った。
そこはまさに、「地の底」という名にふさわしい場所。
プラント内同様、流れ込んでいるのか染み出ているのか、くるぶしのあたりまで海水が貯まっている。
周囲は地面をただ掘っただけというのがありありと解る程に、土がでこぼこに露出している。補強の為だろう、壁に反って鉄柱が数本張り巡らされている。
露出している土はヒカリゴケでも張り付いているかのように、鈍く青白い光を放ち、薄暗く地の底を照らしている。この光は間違いなく、露出した土がD因子に犯されている証拠。
つまりこの一帯は、D因子にまみれた冥府と化している。
かの邪神が封じられた、異文明の宇宙船もそうだった。ここはもう、真っ当な動植物の住める場所ではない。邪神の居城「闇の淵」に近い環境になってしまっている。
そして何より目を引く物が、中央に横たわっていた。
「・・・デカイな」
つい先ほどまで剣先を向けていた相手。プロトファルス。
エレベータ構より落下した邪神の試作品は、地の底に横たわり動かない。
改めてみると、その大きさに驚かされる。これまでもドラゴンを初め数多くの巨大な敵に会ってきたが、大きさだけならそれらとさして変わらない。しかし圧倒的な存在感が、より強大な敵である事を感じさせた。
まさに、邪神の風格は充分に備わっている。
「今の内に止めを・・・」
ジリジリと、間を詰める五人。
動かない。それがかえって不気味だった。
何か仕掛けてくる。その警戒心が、なかなか手を出させない。少しずつ少しずつ、間を詰めるだけに止まってしまう。
「! 反応あり、動きます!」
シノの警報と地響きは、ほぼ同一であった。
冥府魔導がうなり声を上げている。
間を詰めていた五人は、瞬時に後方へと一旦退いた。
ゆっくりと、試作品の上半身が持ち上がる。そして完全に持ち上がろうかという時、上半身が急に上方へと飛び上がった。見ると、五本脚の下半身は置き去り、代わりに人と同じ二本の脚がしっかりと備わっている。
まるで、遺跡で見た亜生命体の剣士デルセイバーを巨大化したような、そんな姿。
肩の付近には、双方一匹ずつオタマジャクシのようなものが浮遊している。それはハンターが連れているマグのよう。
「ヒース・・・」
変わり果てた姿を、呆然と見上げるR3。
「散開して遠方より攻撃!」
ESの声に、R3は我に返った。
何をするか解らないが、少なくとも踏みつぶされないようにしなくては。五人は一旦ちりぢりに離れ、様子を見ながら攻撃を加えていった。
地響き鳴らしながら、二本の脚でゆっくりと歩く試作品。踏みつぶされれば、一撃で圧死させられそうだ。
「・・・これなら、接近して行けそう?」
踏みつぶされるのは勘弁したいが、しかし動きがゆっくりな為足下に接近し近接武器で攻撃も可能だ。そう判断したESは、一気に足下へと迫った。
「行ける!」
案の定、危険だが可能だ。ESは自分の背丈と同じ所にくるぶしがあるような巨人に対し、機械忍者の真っ赤な刃で交互に斬りつけていく。相手の歩幅が大きいだけに、気を付ければ簡単には踏まれるような事はないだろう。
だが、ただノシノシと歩いているだけの相手であるはずがない。
突然、右腕の剣を大きく地面に向け振り下ろした。
「っぶね!」
振り下ろされた剣からは、衝撃波が地を這い地を削るように、前方へ放たれた。広範囲に広がりを見せるその衝撃波を、ZER0はどうにか飛び退きかわす。
巨人は振り下ろした剣を地から抜き、再び歩き出す。そして数歩歩いてはまた剣を振り下ろす。
「・・・ち、モテるなら女性だけにしてくれよ」
狙われている。そう判断したZER0は、逃げる事に専念し出来る限り仲間達から離れようと務めた。
攻撃は、他の四人に任せよう。しかしその四人も、巨人への攻撃は容易ではなかった。
「攻撃意志未確認・・・ですが・・・」
シノが危惧していたのは、二匹の巨大なオタマジャクシ。直接攻撃をしてくるわけではないが、ただ周囲を浮遊しているだけとは思えない。
浮遊しているだけに、近接武器は届かない。となれば、自分の機関銃でたたき落とすのが無難とシノは判断した。しかし何をするか不明であり、倒さなければならないのはあくまで巨人の方。巨大な相手には自分の銃が最も有効なのは明白。ここは巨人に専念すべきか・・・。
「シノさんはESをフォローしてあげて。こいつらは私が見てるから」
R3が真っ赤なハンドガンでオタマジャクシを攻撃しながら、シノに指示を出す。
「御心のままに」
シノは了承し、R3にオタマジャクシを任せ本体への攻撃に専念した。
R3も、このオタマジャクシが気になっていた。あまりにもハンターのマグに似ているから。
ハンターが連れているマグは、ハンターに様々な援護を施す。攻撃や防御などの威力を増したり、また場合によっては体力の回復や特殊フィールドを張り完全防御を施すなど様々な援護をする。
そしてマグは、D因子の研究過程で産まれた、意志を持つ防具。
D因子から産まれたのがマグならば、邪神の試作品がマグと同等の機能を持った従者を連れていてもおかしくはない。
この考えが正しいのなら、間接的だが二匹のオタマジャクシも始末した方が無難だろう。R3はそう判断した。
「早く「ヒースの意識」を呼び戻さないと・・・」
R3は「やるべき事」を成す為にハンドガンから何度も弾をオタマジャクシに向け射出する。
いつしかオタマジャクシの一匹が浮遊したまま、まるでぐったりしたように横たわり動かなくなった。まだ死んだわけではなさそうだが、とりあえずはもう一匹に専念すべきか。R3は残されたオタマジャクシに目を向ける。
「RAFOIE!」
目を向けた先では、Mが爆炎を放っていた。
残されたオタマジャクシが、機雷をまき散らしている。Mはその撤去に専念していた。
機雷は、針のような物を上下に伸ばし止まっている。
ただの機雷とは、とても思えない。そう判断したMは機雷の撤去に踏み出していた。
だが、機雷の数が多く巻かれた範囲が広い。一回の爆炎で全てを撤去は出来ず、またオタマジャクシも次々と機雷をまき散らすのできりがない。
何をしようというのか? 機雷の「効果」も不明なまま、Mは一心に撤去を続けていく。
不意に、機雷が光った。見れば、オタマジャクシも輝いている。
まるで光を、エネルギーを溜めている。そんな雰囲気。
その光は、一斉に上へと放たれ、弧を描きながら巨人へと集まっていく。
「ESさん、逃げて!」
巨人の足下にいるESへ向け、あらん限りの声で叫ぶM。
ESが瞬時に飛び退いた直後、天から光が巨人やオタマジャクシ,機雷に降り注いだ。
まるでそれは、邪神による天罰。神たる者から愚かな人間達への制裁。
「くっ!」
直撃こそ避けられたが、ESは降り注がれた光に左足をかすめた。
かすめただけなのに、強烈な痛みが左足から伝わってくる。
その痛み、左足を動かせない程に強烈。
この場から離れなければ。巨人の脚はすぐ傍。テクニックの光を左足に当て回復させるも、すぐには立てない。
このままでは、踏まれる!
「ちっ!」
間一髪。ESは大きな腕に抱かれ、場から逃れていた。
「こんなシーン、結構多いよな。お姫様」
駆けつけたZER0によって、ESは抱きかかえられていた。
「・・・王子様ってガラでもないくせに、ね」
それでも姫は、王子の頬へ祝福の口づけをするのは忘れない。
姫を下ろし、二人は巨人を見上げた。
踏みつぶせなかったのがよほど悔しかったのか、巨人は身体を震わせ咆吼している。
いや、悔しいわけではない。「何か」をしようとしている。
「ES、大丈夫?」
心配した他のメンバーが、駆け寄ってきた。
その時
「ぐっ!」
まるで巨人の咆吼に共鳴するかのように、ZER0の身体がガクガクと振るえ出す。
「ZER0!」
尋常ではない。誰もがZER0の身に危険が迫っているのが見て取れた。
四刀の呪いか? 今ZER0はオロチアギト一振りだけを握りしめているが、一振りだけなのに呪いが暴走し始めたのか?
その危惧は大きく外れたが、予測出来ない、信じられない光景がZER0を除いた四人の瞳に映し出された。
「えっ・・・ヒース・・・」
間違いなくそこにいたのはZER0だったはず。しかし今四人の目の前にいるのは、かつての三英雄ヒースクリフ・フロウウェン。
「・・・リコ・・・なのか?」
姿こそかつてのリコ・タイレルの面影はないが、ZER0から化けたフロウウェンはR3をリコだと確信している。
「ちょっ、どういう事よ!」
ESはヒースの胸ぐらを掴み揺さぶった。
リコはヒースとの対面に驚いている。そしてESはZER0が消えた事に驚いている。
「ま、待て。彼は無事だ。信じてくれ」
胸ぐらを掴む手に自分の左手を添え、ESの激怒を抑えようとした。
「今私は、彼の身体に「憑依」させてもらっている。時間がない・・・よく聞いてくれ」
見れば、フロウウェンの右手にはオロチアギトが握られている。そして見上げれば、半透明になった巨人。その中に、ZER0の姿が見えた。
「お願い、彼を信じて」
未だに胸ぐらを掴んだまま放さないESの手に、R3が手を置く。
不安はまだの頃が、今は彼の言葉を信じるしかない。ESはようやっと手を放した。
巨人はZER0を取り込んだまま咆吼を続けている。しかし一歩たりとも動こうとはしない。
「今彼が、この「オルガ・フロウ」の動きを止めてくれている。彼の精神力が切れてしまうまでに、話しておかなければならない事がある・・・」
フロウウェンは、プロトファルスをオルガ・フロウと呼んだ。それが試作品に付けられた名前なのだろう。
ZER0の精神が切れるまで。そう言われては、ESも黙ってフロウウェンの言葉に耳を傾けざるを得ない。
「私は・・・もう知っているだろう。オスト博士の手によって実験道具にされ、AIオル・ガと共にダークファルスの複製品へと埋め込まれた。そして結果が・・・」
その先は、言葉にならなかった。
セントラルドームを爆破させ、パイオニア1の人々を飲み込み、そしてリコを邪神の贄として呼び寄せた。彼の意志ではないにせよ、英雄らしからぬ愚行を働いたと己を攻めている。
「・・・ダークファルスは君達に倒された事で焦っている。そして私・・・「オルガ・フロウ」を触媒に復活しようとしている。それは絶対に阻止しなければならない」
オロチアギトを杖代わりに、フロウウェンはどうにか倒れるのを踏みとどまっている様子。それでも彼は言葉を続けた。
「阻止する為には、二つの条件が必要だ。一つは、肉体の崩壊。もう一つは・・・くっ」
倒れそうになるフロウウェンを、駆けつけたR3が支える。
「大丈夫、みんな解ってるから・・・「それ」は任せて」
優しく声をかけ、R3は恩師を気遣った。
「・・・すまない、リコ。私は君に・・・」
その先を、R3は頭を振って止めた。
「いいの。私も望んでいる事だから」
揺るがない決意が、そこにはある。
何をする気なのか、解らない。だがESには、何となく解った事がある。
もう、これが最後なんだ。義母の決意は、永遠の別れを意味していると気付いてしまった。
「ES君・・・許して欲しい。君の義母を二度も君から引き離す事になるのを・・・」
今度はESが頭を振り答えた。
「何をする気か知らないけど・・・私がリコで、あなたが・・・ZER0なら、私も同じ事をするんでしょうね。私の事より、リコの事を大切にしてあげて・・・」
悲しい事だが、悲しくはなかった。
二人にとって最善最良の選択なのだろうから。
「・・・すまない。そして、この先のラグオルを、パイオニア2の人々を頼む、次世代の英雄達よ・・・」
黙って、皆が頷いた。
そして、時間が来たのだうろ。フロウウェンが突然もがきだし、そして瞬時に、姿がZER0へと戻った。
「・・・ったく、押しつけるだけ押しつけやがって・・・三英雄は俺ばっかに難題を背負わせやがる・・・」
ゾークからは四刀とシノを。ドノフからは男気とアッシュを。
そしてフロウウェンは、未来を託された。
「全部一人で背負う必要はないでしょ・・・」
疲労したZER0を、R3に代わってESが支え、微笑んだ。
見れば、シノもMも頷いている。
「・・・次世代の英雄ね。別に「四英雄」なんて肩書き望んじゃいねぇんだが・・・」
持ち直したZER0は己の脚で身体を支え、皆の顔を見渡した。
「行くぜ。まずはこの失敗作をぶっ倒す!」
両手でオロチアギトを握りしめ、動き出したオルガ・フロウに刃を向けた。
ESもR3も、彼に続き、シノとMは少し離れ弾丸と爆炎を浴びせ続けた。
フロウウェンの意志とは無関係に、振り下ろされる右腕。機雷をまき散らすオタマジャクシ。浴びせられる天からの光。時には地響きと共に岩が落ちてくる事も。
全てをかいくぐり、幾度も幾度も、刀を,刃を,銃弾を,爆炎を、邪神の模擬へ浴びせる。
「せめて、ゾークの刀で逝かせてやるぜ!」
一度オロチアギトを鞘に収め、背中に背負った二振りの刀、サンゲとヤシャに手をかける。
引き抜いたと同時に、それを巨人に投げつける。
投げられた刀は巨人の脚に刺さる。そしてZER0はすぐさま足下に迫り、オロチアギトとカムイを居合い切りの要領で鞘から引き抜きそのまま斬りつける。そしてすぐに鞘へ収め、刺さっていたサンゲとヤシャを引き抜き、その刀で再び巨人の脚を斬りつけた。
断末魔。冥府魔導に響き渡る、咆吼。
邪神に生まれ変わろうとした試作品は、その目論見を果たせぬまま、背中から大きな地響きを立て倒れ落ちた。
その瞬間、オルガ・フロウと名付けられた試作品の身体が消え失せ、身体のあった場所から半透明な人間大の何かが飛び出した。
「ヒース!」
声を上げたのはR3。そしてR3の身体からも、半透明の何かが抜け出していく。
確証はない。だが解る。それはフロウウェンの魂であり、そしてリコの魂。
天へと登るヒースの魂を追いかけるように、リコの魂が追いすがる。
もう一つの条件。それは魂の解放。
邪神に縛られていた二人の魂が今、解放されていく。
やっと、二人は再会出来たのだ。この時に初めて。
もう随分と高く登った二人の魂。だが残された四人には見えた。笑顔を携え抱き合う二人の姿が。
ずっとずっと、二人の魂を見送る四人。いよいよ見えなくなった所で、今度は何かが振ってくるのが見える。
それは、一振りの大剣。
D因子に犯された、一振りの大剣。
禍々しいその大剣は、ざくりと地面に刺さり立っていた。
大剣は柄の先から、まるでメッキのようにD因子で犯された部分が徐々に剥がれていく。
中からは少しずつ、かつてヒースクリフ・フロウウェンが愛用していた大剣が見えてくる。
気付けば、リコの魂を失っい倒れたR3の身体も、徐々に剥がれるよう消えていく。こちらに中身はない。
四人は、ずっとその光景を見守っていた。黙ったまま。
そして、R3の身体は完全に消え失せ、綺麗になった大剣だけが残された。
次世代の英雄達に、形見を残すかのように。
「えっ?!」
制御塔、最上階。
居候であるモンタギュー博士の作業を見守っていた塔の管理人デルタは、何かが侵入した気配を感じていた。
「どうかしましたかぁ?」
博士の助手であるエルノアが、不意に声を上げたデルタに声をかけた。
「今・・・「生命の渦」に何かが飛び込んだような・・・」
見えたわけではない。だが明らかに「次なる生命の渦」は反応した。
今、渦の中ではカル・スが生まれ変わる為に眠っている。そこに、何かが侵入したとなれば一大事だ。
「心配はいらないと思います」
まるで何が起きたのかを知っているかのように、もう一人の助手ウルトが声をかけた。
「解放された二人が、未来を託しに来た・・・それだけです」
ウルトには判っていた。かつて邪神に操られた経験を持ち、ほんの一時だったがR3と行動を共にした彼女には。
「んー・・・なんか反応があったのは確かだね。何が起きたんだい?」
端末を操作していたモンタギュー博士が、「生命の渦」に動きがあったのを確認しウルトに尋ねた。
「・・・為し得なかった事・・・それはタブーであったり立場であったり・・・二人の「愛」が、未来を託しに渦へと訪れた・・・大丈夫、カル・スに影響は無いどころか、彼の助けになるはずです」
けして幸せな結末とは言えない二人。だが、二人は最後の最後で幸せになれたと、ウルトは思っている。
その結果が、生命の渦に、カル・スに、どのような影響を与えるかは・・・判らない。
だが、けして不幸な事にはならないと、根拠のない確信を持っていた。
「そう・・・なら、私は期待しているわ。未来を・・・」
管理人デルタは、静かに生命の渦を見上げた。
渦は静かに、しかし確実に、未来へ向けて動き始めていた。
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