novel

No.24 縁〜掃討作戦3号〜

 報告書に一通り目を通し、深いため息をつく。
 これで何度目だろうか? 数え切れないと解っていながら、ふとラグオルにたどり着いてからのため息の数を数え考えてみる。
 そしてまた、深くため息。
「調査というものは、事の真相を探るためのもののはずだが・・・」
 調べれば調べるほど、謎が増える一方。それが彼のため息を増やす原因となっている。
「ハンター達はよくがんばっていますわ」
 彼愛用の湯飲みをディスクの上に置きながら、秘書は自分の上司に語りかける。
「わかってはいるのだがな・・・」
 軽く手の動作で礼を述べながら、差し出された緑茶をすする。
 ハンター達は彼の想像以上の働きをしている。自分たちの後ろ盾があるとはいえ、政府や軍まで相手にしながら、未知の惑星をよくぞここまで調べ上げたものだと感心している。
 しかし、それと事が進展しないことはまた別の問題。彼はパイオニア2という移民団体の総括者として、進展しない事態に頭を痛めているのだ。
「緊急事態だということを、母星の連中はどこまで把握しているのか・・・」
 事が進展しない理由はラグオルで発生した数々の謎だけではない。母星政府の非協力的な態度・・・いや、まだ非協力的な方がましだろう。邪魔をしないだけ。母星政府は独立政府となっているパイオニア2総督府にラグオルでの全権を握られるのが不服なのか、事あるごとに総督府へ横槍を入れ軍を介入してくる。それは当然ラグオルの調査、しいてはパイオニア2のラグオル降下を遅らせている。
 そこまでして政府が総督府にすら握られたくないラグオルの秘密とは何なのか?
 住民の安全を第一に考えたい彼、タイレル総督としては、余計な仕事を増やすだけの母星政府に愚痴の一つも言いたいのは当然の心理といえる。
 もっとも、一つで終わるわけもないが。
「現状を見る限り喜ばしい事態ではありませんが、しかし怪我の功名ともうしましょうか・・・母星政府の「癌」を発見しメスを入れる良い機会を得たのも事実なのではないでしょうか?」
 確かに彼の秘書アイリーンが言うように、今回の一件がなければパイオニア2はパイオニア1と合流しすぐに総督府を統合・・・タイレルは総督の任を解かれ母星政府の「悪巧み」を知らぬまま別の任務に当たったことだろう。
 パイオニア1もパイオニア2同様、一応独立政府として機能していたが、そのメンバーは母星政府の者達で構成されている。つまり結局パイオニア1は母星政府の先兵でしかないのだ。もちろんパイオニア2もタイレルを含め元々は母星政府の人間達で構成されている。しかし彼らは、母星政府の「悪巧み」に荷担するどころか存在すら知らなかった。
 後から統合され事実上パイオニア1の傘下に加わる形となるパイオニア2に関しては、民間人の輸送という目的を最優先し、タイレルという民間の支持を最も得ていた男に総督の任務を命じ、彼にパイオニア2の全権を与えた。それは母星政府にしてみれば民間人に対するパイオニア計画への宣伝効果を含めた支持率獲得の政策。ラグオルの事件がなければ、その政策はかなりの効果を得ていただろう。
 しかし、それは全くの誤算となった。セントラルドームの爆破は母星政府内部にも相当な打撃となった為だ。現場第一主義のタイレルは母星政府や同乗していた軍の対応を待たずにハンターズを送り調査を開始。それに慌てた母星政府は強引な方法で調査に横槍を加え自分たちの「悪巧み」の露見を防ごうとした。その行為自体が露見へとつながる事は承知しながら、しかし露見を必要最低限に押さえる見込みで始めた横槍。その狙いはどうも上手く定まらなかったようだが・・・。結果彼らの政策は泥沼状態へと移行し、現在に至っている事を考えると。
「その執刀医がハンターズという訳か・・・」
 Mが制作しESが提出した報告書に書かれた「リコのメッセージ」を読み返しながら、表情を変えぬまま・・・というよりは表情が変わらないように努力しながら、彼は言葉を続けた。
「ならば、医院長としてオペの指示をせねばならんな」

「さとて・・・どうしたものかね・・・」
 ダークサーティーンのメンバーと、彼女達の協力者は、リーダーの自室で会議を行っていた。
 議題は、今後の活動内容。
 今後どのように活動すべきか? そのような議題であれば、むしろ問題はなかっただろう。彼女達が今直面している問題は、他にある。
「こうも同時期に、それも重要な任務が重なると・・・暇よりはよっぽどましでも、ありすぎは困るわ」
 彼女達はラグオルで起きたセントラルドームの爆破原因究明,及びパイオニア2を降下させるための安全確認を総督直々に依頼されている。依頼そのものはシンプルなのだが、解決には様々な謎を解いていかなければならない。
 いわば巨大なパズル。
 そのパズルを解くためのピースが、今目の前に依頼という形で3ピース届けられてしまった。このピースをパズルにはめ込むには、当然依頼を解決する必要があるのだが・・・。
「まずは「いつもの」依頼だな」
 レオへの報告を終えたBAZZとDOMINOが、依頼を持ち帰ってきた。それが一つ目のピース
「掃討作戦か。作戦内容からこれをまず先にやっつけとかないとね」
 移民目的であったパイオニア2には、ハンターはたくさんいても軍は乗員設備共に不足していた。そこで戦力温存を優先するためハンターに掃討作戦を依頼して、今回で3回目となった。裏では啀み合う両者ではあるが、表では協力関係にある事になっているため、とりあえずは自然な依頼ではあるが・・・。
「作戦の開始時刻は?」
「2時間後。準備などの時間を考慮すると、さして時間に余裕があるわけではないな」

 軍から、厳密にはレオを通じて軍から依頼された掃討作戦は、時間が最も重要なファクターとなる作戦。軍を所定の位置まで安全に送り届けるためには、軍の定めた突入時間までに通り道となる場所に出現するエネミーを一掃しなければならない。しかもエネミーは何故か時間が経過するとまた同じ場所に出現し始めるために、一掃したすぐ後に軍を誘導する必要がある。つまり突入時間に合わせ作戦の開始時間も自然と決まってしまうのだ。
「そうね・・・だけど残り二つも出来るだけ早く片づけないと・・・」
 リーダーが言う残り二つのピース。こちらも非常に重要な依頼だった。ただ、こちらには掃討作戦ほど押し迫った時間という束縛はない。しかしだからといって後回しには出来ない理由があった。
「掃討作戦を決行するということは、軍がまた調査に乗り出す事になりますから・・・こちらとしても、出来うる限りの情報を手早く集める必要があるでしょうね」
 残り二つの依頼には、情報というファクターが詰まっていた。この情報をいかに早く手に入れるかで、軍とのイニシアチブが決まってしまう。それほど重要な情報・・・らしい。実際の情報を手にしていない彼女達にしてみれば重要度は計りかねるが、だからといって躊躇出来る物でもない。
「一つがモーム博士の依頼。パイオニア1に関わる依頼だと言ってたわ。そしてもう一つは「柱」に関する情報交換。こっちは私とBAZZが直々に出向かないとダメらしい上に・・・総督直々のお呼び出しなのよねぇ」
 ラグオルの秘密を握っているであろうパイオニア1と、ラグオル調査の足止め原因となっている柱。この二つの情報は、どちらも喉から手が出るほどに欲しい。故に早く手に入れたい。しかも呼び出した二人はどちらもダークサーティーンと深く関わる人物。無視するわけには行かない。
「チームを三つに分けるしかねぇんじゃねぇ?」
 唯一のチーム外メンバーが、チームの分断を提案した。これは至極当然の提案ではあるが、実はこれが一番の問題でもある。
「確かにZER0さんのおっしゃる通りですが・・・掃討作戦の事を考えるとチーム分けそのものに問題が生じそうですね」
 仮にメンバーを分けるとなると、メンバーを指定された情報交換にESとBAZZがあたり、モーム博士の依頼に最低一人が任務に当たる事になる。すると掃討作戦のメンバーはM,DOMINO,ZER0の三人の内二人だけで行わなければならない。
 確かに三人の実力ならば、二人でもエネミー殲滅に問題はない。だが坑道のエネミーは森や洞窟のエネミーと比べて攻撃,防御共に格段と厄介になっている。それはつまり、今までよりも殲滅に時間がかかることが予測されるということ。時間厳守の作戦でこれは致命的だ。
「せめて四人・・・いえ、私とBAZZがいない事を考えると、五,六人は欲しいわね」
 ESとBAZZの実力は、統率力や判断力を含めてハンターズ屈指。その二人が欠ける事は、大幅な戦力減退を意味している。時間勝負となる作戦で統率力や判断力は重要な役割を担うが、それが欠けるのであれば物理的な戦力、つまり頭数を増やす事で補わなければならない。
 しかし今その頭数が足りない事で悩んでいるのだ。つまりは頭数を増やす事自体論外。
「そうか・・・頭数そろえるだけで良いなら、ならなんとかなるぜ?」
 ニヤリと不敵な笑みを浮かべた彼の提案は、よくよく考えれば至極当然な提案。なまじチームという物に加入していない彼らしい提案でもあった。

「今回は私がリーダー代理を務めます。いたらぬ所も多々ある事と思いますが、よろしくお願いいたします」
 深々と、今回の掃討作戦のために集められた臨時メンバーに頭を垂れるM。
「こちらこそ・・・あの、実戦はほとんど経験がないですけど・・・でもがんばります!」
 幼い顔に決意の表情を刻み、マァサが姉と慕うフォマールに語りかける。
「大丈夫だよマァサちゃん。このアナお姉さんにどぉ〜んと任せなさい!」
「もぉアナったら・・・でもマァサさん。私達もいますから、そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ」

 ウェインズ姉妹が、各々の言葉で駆け出しのフォマールを励ました。
「三人とも、本当にありがとうございます」
 Mは再び、深々と頭を下げた。
 ZER0が提案したのは本当に簡単なものだった。頭数が足りないのならば、応援を頼めば良い。ただそれだけだった。
 元々ダークサーティーンは実力者揃いのチーム。その為応援を頼むという発想が欠落していた。しかしよくよく考えればZER0はメンバーではないため、常に応援を頼んでいるようなものなのだ。唯一ZER0本人が意識していたに過ぎなかったのは、メンバー入りを熱望していたZER0にとってはちょっとした皮肉だったのかもしれないが。
『俺はモーム博士の依頼に回るからさ、俺の変わりにウェインズ姉妹を掃討作戦に加えてやってくれ。あいつらいつも役に立ちたいって言ってたしさ』
 ZER0の提案は問題の打開だけでなく、ウェインズ姉妹の願いを叶える事にも一役買っていた。そこまで彼が意識していたかどうかは定かではないが、ダークサーティーンにとっても姉妹にとっても、彼の提案は双方の活路へと繋がった。
 そしてこれを聞いたMが、もう一人、ダークサーティーンに・・・いや、Mの為に協力を熱望していた少女を思いだし、戦列に加えることを提案した。その少女こそ、マァサである。
「今回私は「死神」として前線に立ちます。マァサさんは私の変わりにテクニックのサポートをお願いします」
 こくりと小さく、しかししっかりと力強くうなずくマァサ。そんな彼女の「力強さ」に、Mは優しく微笑みかける。
「アナさんとクロエさんはお二人で、歩行型ロボットの殲滅をお願いいたします。私達の事を気にかけて戦う必要はありませんが、あまり離れないようにする事だけ、ご注意お願いします」
「りょぉかぁ〜い!」

 間延びしたアナの返事は、行動作戦を理解しているのかどうかいささか不安にさせるが、クロエが付いていれば問題はないだろう。それはZER0のアドバイスでもあった。
『あの姉妹はこれまでずっと二人だけでハンターやってたからな。あまりチームプレイは得意じゃねぇ。けど二人のコンビネーションは見事だぜ。クロエがしっかりしてるから、サポートの範囲内で好き勝手にやらせた方がいいだろう』
 ZER0がアドバイスをしている時の表情。それを思い出しMはくすりと笑みをこぼしてしまった。風来坊を気取る軟派師には似合わない、父親のような顔。彼は否定するだろうが、Mは彼にリーダーとしての資質がある事を改めて感じていた。
「DOMINOさんはマァサさんと共に後方でサポートをお願いします。カナディンなどの飛来型への攻撃も含めて、エネミー全体の足止めを主に行ってください」
「Roger!」

 愛用のランチャーを片手に担ぎ、彼女らしい返事が返ってきた。
 皆、一様に自分を信頼してくれている。それはそのまま、プレッシャーとなってMへと覆い被さる。判断力ならば自身のある彼女も、統率力となると話は変わってくる。それがプレッシャーの主。
(私にリーダーが務まるのでしょうか・・・)
 不安は募る一方だが、それを取り払うだけの時間は許されていない。鎌を握りしめながら、両腕を胸に当て静かに目を閉じる。はたして、死神は誰に祈りを捧げるのだろうか?
「Mさん、そろそろ・・・」
 作戦開始時間が間近に迫った事を、DOMINOは恐る恐る告げた。あまりにも真剣で、そして神秘的に見えたMに声をかけるをためらう気持ちがそうさせたのだろう。
「ええ・・・では、この鎌と皆さんとの絆にかけて、武運を! 行きます!!」
 死神はまるで戦乙女のように、皆を戦場へと導いた。

「要するに、リコや私達の予想通り、あの「柱」は封印する為のものだったという事?」
 提督の部屋では、部屋の主を交えて会議が行われている。その席に参加しているESは、同席している総督府に所属する博士からの説明を、こう締めくくった。
「その通りです。またリコ女史も指摘していた「ムゥト ディッツ ポウム」という単語も、どうやらその封印を解くキーである事までは解析出来ました」
 解析の担当責任者らしき男が、ESの言葉に説明を加える。
「ですが・・・その「キー」が呪文のような言葉なのか、あの柱の事なのかまでは・・・」
「つまり、リコの解析と予想以上の事は、判らないまま・・・って事ね」

 悪気があるわげではないのだが、ESは結局進展しない結果報告にいらつき、その怒りの矛先を担当責任者に向けてしまう。
「・・・その通りです」
 すっかり恐縮してしまった学者は、一礼して席に座る。そしてしばし、静寂が部屋を包んでいく。
(こんな報告だけなら・・・)
 ESがいらつく原因は、中身のない報告の為だけではない。作戦を決行中のM達が心配なのだ。自分だけでなくBAZZも参加しておらず、さらにあまり馴染みのないメンバーを統率しなければならない・・・それが不安でたまらないのだ。
「あいつらなら大丈夫だ」
 小声でBAZZがそっとなだめる。彼にしても自分の愛弟子が心配なはずだが、しかし彼は愛弟子を信頼している。心配はしても不安はない・・・それを一言にまとめた、彼らしいなだめ。
「・・・そうね」
 BAZZの毅然とした言葉で、自分がすっかりMに依存してしまっているかを気付かされた。信用も信頼もしているが、側にいないと不安になる。自分からラグオルに出向く時は平気なくせに。これではまるで母親に甘える子供だ。自分の幼稚さに苦笑しながら、彼女はこの会議の重要性を改めて考え直した。
(重要なのは報告じゃないのよね・・・)
 総督府の会議に、ESとBAZZ・・・つまりハンターズが参加する。これが重要なのだという事を改めて思い直した。
(総督も大胆な事をするようになったわ)
 この程度の報告だけなら、いつものようにアイリーンを通して「プライベートな会話」として報告していただろう。しかしわざわざ会議に同席させて「目立った形で」報告する事に意味がある。なにせここにいる総督府外の人間は、ES達だけでは無いのだから。
「・・・・・・というわけで、今後この柱の解析には母星政府と軍の協力も得、進める事となった。その事はグラハート殿から報告を」
「はい。では軍と母星政府の決断をご報告します」

 軍部高官のレオ・グラハート自ら、軍と政府の代表として会議に同席しているのだ。もちろん、ただの偶然であるはずがない。
 総督の狙い。それはリコのメッセージと柱の存在を「政治的に」表沙汰へと引っ張り出す事。
 リコのメッセージは多くの「政治不信」をハンターズの間に広める事となっている。彼らの反発を恐れリコのメッセージを強制撤去しなかった政府と軍は、さらに見つかったメッセージでどんどん追い込まれていき、ついには柱の秘密・・・つまりあれがパイオニア1の入植を記念して建てられたものでは無い事まで知れ渡る事になってしまい、さらに遺跡の存在を隠していた事まで露見してしまったのだ。
 これは重大な政治問題だ。
 しかしこれをハンターズ以外の一般市民にまで知られるわけにはいかない。なぜならば、今の状況で政治スキャンダルを暴露する事は混乱しか生み出さないからだ。それは総督府としても望むべき事ではない。
 ならば、駆け引きの手札に加えるまで。それが総督の決断であり、今回の会議へと繋がったのだ。総督府としては一刻も早くパイオニア2をラグオルへ安全に降下させたい。その為にはハンターズだけでなく政府や軍の協力も必要なのだ。彼は自分の信じる政策という正義の為に、政治的駆け引きという手法を用いたのだ。
(娘のメッセージすら政治に持ち込むか・・・まぁ判るけどさ。娘はどう思っているのかねぇ)
 総督の娘、リコは父親のそんな政治的やり口が気に入らなかった。故に反発しあっていた。互いの気持ちも立場も理解しながら。それをずっと見守り続けていたESは、ふとそんな事を考えていた。
(でもまぁこれで・・・とりあえず柱と封印の事は政府の連中に出し抜かれる事はなくなったわけよね)
 柱の解析に関して言えば、政府と軍はとうの昔から研究をしていた。封印の解き方まで知り得ているかどうかは定かではないが、少なくとも今から解析をはじめる総督府とはあからさまな開きがある。それを一気に縮めたのだ。リコのメッセージと共に用いた政治的な駆け引きで。そしてさらには、政府と軍が総督府やハンターズを出し抜く事まで封じたのだ。
「・・・・・・以上が母星政府,及び軍の決定です。なお封印が解除出来た場合の先発隊には、総督府とハンターズギルドが推薦するハンター、ES女史、ならび彼女の選抜したハンターで赴く事に、こちらも賛同いたします。ESさん、異論はございますか?」
「・・・いえ」

 おそらく、政府は封印の解き方を知っているだろう。しかしすぐに開封するわけにはいかない。なぜならば、準備不足だから。つまり結局、森や洞窟と同様、次に進むのは政府と軍の準備が出来た後という事になる。それが判ってしまうから、ESは素っ気ない返事しか出来なかった。いや、単に彼女はこういう重苦しい会議という重労働になじめないだけなのかも知れないが。
「期待しております。貴女の活躍は軍も一目置いておりますし」
(そりゃそうでしょうよ・・・あんたの依頼で軍にアピールさせられてるんだからさ)

 掃討作戦など、軍の依頼はレオを通して行われている。それは軍としても重要な作戦というだけでなく、軍にダークサーティーンという実力者達をアピールする目的もある。これにはレオが軍絡みの事でハンターズを利用するための布石という意味もあるのだが・・・レオがハンターズを利用する変わりに、ES達もまたレオを通じて情報を手に入れる事が出来る為、互いに利益のある話である。ただその副作用として、注目されすぎるという欠点も存在する。
(これでまた・・・ブラックペーパーを刺激したわね)
 政府の裏政治を遂行する影、ブラックペーパー。彼らにしてみれば、ダークサーティーンは目障り以外何者でもない。にも関わらず、こうして政治的な所にまで踏み込めば余計に邪魔な存在をアピールする事になる。
 しかしそれでも、こうして政治の舞台に担ぎ出されるのは悪い事だけではない。なぜならば、総督府に深く関わっている人物をおいそれと暗殺は出来なくなるから。少なくともパイオニア2で命を狙うなどという大胆な事は出来なくなるだろう。
(どこまで計算しているのやら・・・あの二人)
 報告を終え席に座る軍部高官と、それを見届けてから話をはじめた会議議長を憎々しげに、しかし感心しながら見つめていた。
(縁ってのは面白いね)
 総督とレオ。この二人が各々の立場のままこの会議に参加している事自体、今まででは考えられない事態。おそらくは裏で密会もしていただろう事を考えると、これほど面白い縁もない。そしてその手引きを、おそらくBAZZが行っていたのだろう。そうでなければ、彼までこの会議に呼ばれた理由が見あたらない。
(まったく・・・私の知らないところであれこれやってくれて・・・)
 縁としては面白いが、自分のあずかり知らぬ所で事が動いていた事実は、彼女にしてみれば少し面白くないのも事実だろう。

RAZONDE!」
 ESが会議にうんざりしている頃、Mは敵の多さにうんざりしていた。
 稲妻が部屋全体に走る。迫り来る機械軍はその身体の構造通り、電気を効率よく体内にまで巡らせた。それは効率よくダメージを与えるだけでなく、中にはショートを起こしてしばらく動けなくなる物も現れるほど効果的だった。
「マァサさん、止まったエネミーにジェルンとザルアをお願いします!」
「はっ、はい!」

 フォースとしてまだまだ未熟なマァサに、フォースであるMが指示を出す。臨時リーダーとしてというよりは、フォースの先輩として。
 事実、Mは自分で懸念していたほど統率に気を使う事はなかった。なぜならば、Mの指示が無くとも、DOMINOもウェインズ姉妹も、己の役割を理解し的確な行動を取っていたから。結局Mは全体の作戦を考え判断するだけで事足りた。統率力は不測の事態が起きた時に必要となるだろうが、この作戦内ではまずそのような事態になる事はない。よくよく考えれば、ESもBAZZもZER0も、それを見越していたのかもしれない。
「はっ!」
「えいっ!」

 そして最もMの負担を軽くしたのは、ウェインズ姉妹の活躍だろう。
 確かにZER0の指摘通り、彼女達はチームで動く事を不得手としていた。しかし二人のコンビネーションは見事の一言につきる。スライサーを愛用するクロエがレンジャーの代行も兼ね、アナの接近戦をサポートしていた。加えて二人はニューマンである事を最大限に生かし、必要に応じたテクニックを互いに使い分けている。
 なによりすごいのは、二人は一言も声を掛け合うことなく、全てこなしているのだ。
「シノワ来ます! 三体です!」
 BAZZの役割を代行しているDOMINOが、援護射撃を休むことなくレーダーに映し出された敵影を告げる。
 DOMINOの声は姉妹にも届いているのか、二人は上を見上げシノワがぶら下がっていた天井からまさに降り立つ所を自分の目で確認した。
RABARTA!」
 Keeeeesh!
 甲高い音がMを中心に広がり、三体の機械を急速に冷やしていく。そして一体を凍らせる事に成功した。
 テクニックではBAZZのトラップのように確実に敵を凍らせる事は出来ないが、変わりに物理的な衝撃を与える事が出来る。それはたとえ凍らせる事が出来なくとも、相手を怯ませるには十分。動揺する心を持たないロボットだとしても、物理的衝撃は体勢を崩す事が出来るのだから。
 その隙を見逃す者は誰一人としていなかった。
「いやぁ!」
「せい!」

 投刃と双刃が一体の忍者に代わる代わる襲いかかる。さすがの忍者も退却する暇さえ与えられず、あっさりと身を四散してしまった。
「はぁっ!」
 そして死神は、己が氷像にし損ねた敵を己の鎌で、今度は鉄くずへと代えるべく振るった。
 Bang! Bang! Bang!
 銃声が死神の援護を物語る。こちらもまた、鎌と銃弾を畳みかけるように受け、機能を停止せざるを得なくなった。
「動き出しました!」
 氷像を監視し続けていたマァサが、警告の鐘を口頭で打ち鳴らす。
 だが、それは警告にもならなかった。すでに他の二体をうち倒した四人にとって、残った一体は警告を受けるほど苦戦する事はなかった。
 思えば、はじめてシノワと出会ったばかりの頃は対処の仕方も判らず、原理も判らない分身に苦戦していた。しかし敵はアンドロイドではないロボット。例え自己判断が卓越したプログラムを搭載していたとしても、パターン化した攻撃は対処が立てやすく、臨機応変に対応できるハンターの敵では、もはやない。
 いや、それはマァサを除いた四人が卓越した腕を持っているからに他ならない。例えパターンが判っていても、腕も経験もなければ身体も判断力も付いていかないだろう。
「皆さん・・・すごいですね・・・」
 だからこそ、マァサが作戦終了してもなお、関心した様子で目を丸くするのは無理もない事なのだろう。
「でしょでしょっ! アナってばすごいよねぇ」
 得意満面。その言葉をそのまま顔に貼り付けたように、アナはマァサに即答した。
「もぉアナったら・・・あなたの事だけじゃないでしょ?」
 そう姉を諭しながらも、妹も満更ではない様子が見て取れる。
「いえいえ、お二人とも素晴らしい戦いぶりでしたわ」
 謙遜するクロエを、代理リーダーがマァサに変わり再び褒め称えた。
「声もかけずにあそこまで連携出来るなんて・・・」
 個々の能力も秀でている二人の連携は、二人の戦力を単純に足すよりも遙かに高い戦力となっていた事は間違いない。それがチームプレイの利点である。だがしかし、連携が取れなければ、むしろ個々で戦うよりも劣ってしまう事がある。
 もし姉妹を自分の指揮下に置いていたら、彼女達の戦力は低下していただろう。MはZER0のアドバイスに従った事を正解だったと思いながらも、一方で自分の統率力のなさを痛感していた。
「そんな。私達だってMさん達がいなければ、あそこまで立ち回る事は出来ませんでしたよ」
「え?!」

 クロエのお世辞かとも思ったが、どうやらそうではないらしい。うんうんと、アナも妹の意見に首を大きく振り同意している事がその証。
「すごいよね。「ここでラバータが欲しい!」って思ってると、ちゃんとラバータ出してくれるんだもん」
「ZER0さんが言っていました。『Mは状況の見切り判断が的確だから、サポートは絶対の信頼を持っていい』って。元々チームプレイは不得手ですが、今回ほど背中を気にせず戦えたのは久しぶりですよ」

 ニコニコと微笑む姉妹の言葉に、世辞といったまやかしは感じられない。
 そんな二人の賛辞に戸惑っていたMに、残った二人もさらなる賛辞を送る。
「はじめての掃討作戦の時に、Mさん言ってたじゃないですか。訓練もしないで完璧なフォーメーションが組めるのは、経験と慣れ、そして信頼だって」
「私ついていくのがやっとだったけど・・・Mお姉さんのこと、私ずっと信頼してましたから。安心して参加出来ました」

 ああそうだったのか。Mはこの時悟った。
 統率するということは、従わせる事ではないのだと。
 信頼するということ。これ以上の統率はないのだと。
「・・・作戦も無事終わりました。皆さん、ありがとうございました」
 深々と頭を下げながら、自分をここまで信頼してくれる仲間と出会えた縁に感謝していた。
 その縁は、皆を信頼し懸命に気配りをした彼女が自らたぐり寄せたものだと悟るには、彼女はまだ若い。
 そしてまた、礼を述べることで赤く染まった頬を懸命に隠そうとする行為も、また若い彼女ならではと言えるだろう。

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