恋の行方〜牡丹灯籠の章〜

「あの家に貼られた札を剥がして欲しいのです」
 夜。学者は依頼を受け、四十前後と見られる女性に連れられ一軒の家まで「助手」と共に辿り着いた。
 住宅地より少し外れたところに建てられていたその家は、都会から見たら豪勢な、田舎から見たらごく平均的な一軒家。繁華街からもさほど遠くはない事を考えると「多少豪華」といったところか。
 話によると、この屋敷には男が独りで住んでいるらしい。
 男は昨年の受験に失敗した浪人生。他界した両親の遺産で気ままに暮らせているようだが、その蓄えも莫大なわけではなく、大学に入学し卒業する頃には尽きるだろうと本人も自覚しているらしい。
 それらの話も、学者は全てここに連れてきた女性から聞いている。
「私の姿が見えるあなたにしか頼めません。どうかあの札を剥がして下さいませ」
 女の正体は幽霊だった。
 女はこの家に住む男の母親なのだという。彼女は死後も息子が心配で成仏できず、守護霊として息子を守っていたと自ら語った。
 ところが、その息子に怪しげな女が最近近づくようになり、気付けば息子は言いくるめられ、家に札を貼り付け守護霊である自分を近づけぬようにしてしまったとのこと。
「あの女は、間違いなく吸血鬼か淫魔ではないかと。息子の命を狙うのに、私が邪魔で札を貼らせたに違いありません。どうか、どうか早くこの札を!」
 切羽詰まり懇願する幽霊。彼女の言うとおりなら、すぐに剥がし男に近づいた女を退治する必要がある。
 彼女の話が本当ならば。
「・・・なるほどね」
 学者は札を見ながら一言呟いた。
「この札は確かに、幽霊除けの札だね。あなたが近づけないのは確かなようだ」
 顎に手を当て、また呟くように語る学者。ちらりと「依頼人」の幽霊と、そして今日「助手」として付いて来て貰っている天狗の娘・・・天野楓に視線を移す。
「いや、見事な札だ。これだけ見事だと、そうそうあなたのような幽霊は近づけないでしょう」
 軽く札に手をかける学者。しかしそれを剥がす素振りは見せない。
「しかしね、これだけ見事な札を、ごく普通の女性が手に入れるのは難しいし、まして吸血鬼や淫魔が手に入れる事も自作する事も出来ないでしょうね」
 依頼人に、焦りの表情が浮かび上がる。
 言い訳をするか、逃げるか。その二択を懸命に考えている。表情から学者は幽霊の考えを読み取った。
「楓、確保!」
 学者の言葉に企みがばれた事を悟った幽霊の女性は、すぐさま逃げようと後ろを振り向いた。
 振り向いた幽霊が見たのは、疾風の如く雇い主の言葉に応じた天狗の娘。手にはしめ縄が握られている。
 瞬く間に、しめ縄が幽霊の身体を縛る。
「確保完了っと」
 パンパンと手を叩き、天野は得意げな笑みを学者に向けた。
「ちょっと軽率だったんじゃない? 幽霊が見えるだけで妖精学者に頼んじゃ、バレるに決まってると思うけど」
 うなだれる幽霊に、天野は彼女の失態を指摘する。
 一見筋が通りそうな嘘。もし相手がただ幽霊を見る事が出来る、霊感が強いだけの一般の人だったならば、あるいは騙されていたかもしれない。しかし相手は妖精学者。ただ幽霊が見えるだけではなく、「そちら側」の知識に精通した者。浅はかな嘘に騙されるほど無能ではない。
 もっとも、「絶対に騙されない」と強く言える程まで卓越した学者でもないが。
「まあ、「この人」が相手じゃ焦りたくもなるんだろうけどねぇ」
 札を見ながら、学者が幽霊の心情を察した。
 学者は札を見た時から、張った本人を特定していた。だからこそ幽霊の焦る心情も理解でき、また彼女が嘘を付いている事も確信できた。
 込み入った事情がありそうだ。幽霊の女性が自分の館に訪れた時から薄々感じていた、今回の依頼に漂うきな臭さ。学者はその臭いの「元」を知るであろう、札を貼った本人に事情を聞く為に携帯電話を取り出し、連絡を取り始めていた。

 巫女服は、一部の男性にとって憧れの服のようである。しかしそんな男達が抱く巫女のイメージは「少女」「清楚」「可憐」といったところだと思われるが、学者に呼び出された巫女は「熟女」「大柄」「雄毅」といった言葉の方が似合うだろう。
 とはいえ、美しく伸ばされた黒髪はとても女性的で、むしろ男達によって歪められた巫女よりも神聖的な雰囲気を醸し出している。ある意味、正統派の巫女といったところだろうか。
 そんな巫女が、巫女服のままバイクにまたがりさっそうと学者達の前に現れた。バイクを降り凛と立つ姿はまさしく巫女そのものなのだが、巫女とバイクというギャップは見慣れたはずの学者でも違和感を感じずにはいられない。
「天道寺殿。ああ、天野さんも一緒か。手間を取らせたな」
 ヘルメットを脱ぎ自慢の黒髪をなびかせながら、呼ばれた巫女は学者に声をかける。
「いや、とんでもない。むしろ俺の方が神田さんに余計な手間を取らせちゃったみたいで申し訳ない」
 神田礼子。彼女こそ、札を書き家に貼り付けた本人。彼女はその姿通り巫女であり、霊を専門にした「退魔師」である。
 悪霊を追い払う退魔師と、人ではない者達との共存を目指す妖精学者。一見敵対関係にありそうな二人だが、彼らは協力関係を築いている。
 そもそも神田は「悪しき霊は祓い、良き霊は助ける」という理念を持った退魔師なのである。それは妖精学者の天道寺と非常に近い理念であり、二人が手を結ぶのはごく自然な流れだろう。今は天道寺が札を見ただけで神田の札だと解る程にまで親密な関係にある。
「ふむ、侍女の「米子」を取り押さえてくれたか。となると、残るは「雫」一人か」
 縄をかけられずっとうなだれたままの女幽霊を米子と呼び、神田は呟いた。
「これで自体を進展させられそうだな。感謝するよ、天道寺殿。さて米子さん。近くに雫さんもおるのだろう? 悪いようにはせんから、私と天道寺殿を信じて、呼んでくださらんか?」
 神田の呼びかけに、しかし米子はうつむいたまま身じろぎもせず何一つ話もしないまま。
「まあ、いきなり縄をかけた相手を信用しろって言うのも無理な話か」
 事情を知らない故に、逃げられない為にと縄をかけるよう指示をしたが、それが裏目に出てしまったと学者は苦い顔をする。
「とりあえず・・・事情を説明してくれませんか? 神田さん」
 神田が言う「雫」という人物や、そもそもこの米子という女性が何故この家に執着しているのかも不明なままでは、対処のしようもない。学者は今更ながら説明を求めた。
「おお、そうであったな。いや、先走り事を進めて申し訳ない」
 言葉こそ古めかしく気むずかしそうな雰囲気だが、少々「抜けている」ところが、むしろ人間味を醸しだし親しみがわく。そう学者は神田を見ている。
「では、もう一人の当人を連れて来てから話そう。しばしまたれよ」
 神田はそう言い、札の貼られた玄関へと向かっていった。
 しばらく後、神田は一人の青年を連れてきた。彼こそこの家の住人、萩野三郎。学者と萩野が軽く挨拶を交わした後、神田は事情を話し始めた。
 雫はさる良家の令嬢で、米子は雫の乳母であった。雫はたまたま花見の席で萩野三郎と出会い、惚れ込んでしまう。二人は急速に恋を深めていくが、雫の父は二人の交際に猛反対であった。
 萩野は良家主催の花見に出席してはいたが、まだ浪人という身。しかも雫は17歳の高校生。世間から見ればごく自然なカップルに見えても、過保護であった雫の父には早熟の恋に映ったようで、それが交際に反対する理由だった。
 無理矢理二人の仲を引き裂く為に「話し合い」の席を設けた雫の父は、娘と、そして萩野と彼の両親を車で招いた。
 その車が、玉突き事故にあった。雫が乗っていた車も、萩野が乗っていた車も、その事故に巻き込まれた。萩野は奇跡的に助かったが、彼の両親、そして雫と雫を心配し付き添っていた乳母米子は他界してしまう。
 生き残った萩野に未練を残したままだった雫は幽霊となり、そしてそんな雫を心配した米子も又幽霊となって成仏せずに彷徨った。
 そして雫は愛する萩野の元へと。萩野は幽霊になっても雫を愛し、二人は再び結ばれた。
 しかし雫は幽霊。萩野に取り憑く形になってしまった事で、萩野の生命を徐々に奪ってしまっていた。やつれていく萩野を同じ予備校に通う友人が心配し、夜彼の家へと訪れた。その時に、その友人は見てしまった。
 萩野と髑髏(ドクロ)が抱き合っている姿を。
 萩野が化け物に取り憑かれている。予備校の友人は慌てて神田の元を訪れ、助けを請うた。これがこれまでの経緯。
「・・・まるで「牡丹灯籠」みたいですね」
 学者がぽつりと漏らし、それに神田が頷いた。
「うむ。違いは萩野殿に下働きの夫婦がいない事くらい。その役を天道寺殿に米子さんが願い出たおかげで「悲劇」に成らずにすんだ、というところか」
 もしかしたら、米子は金を積めば嘘がばれても札を剥がしてくれるかもと期待していたのかもしれない。学者は自分が「下働き夫婦の役」だと言われて、その可能性を感じた。
「あの・・・前にもそちらの巫女さんに同じ事を言われた気がするんですが・・・なんですか? 「牡丹灯籠」って」
 もしかしたらとんでもなく常識的な事なのかもしれないと、萩野は恐る恐る尋ねた。
「ああ・・・そうか。有名な怪談だが、若い者はこの話を知らぬ者も多いか」
 説明不足が多くなるのは、神田の「持ち味」と学者や天野は慣れているが、一人取り残された形になった萩野は困惑していた。
「幕末から明治に書けて活躍していた落語の名人、三遊亭円朝が創作した怪談ね。原作は中国に伝わる「牡丹灯記」なんだけど・・・内容は萩野さんが今体験している事に非常に似てるのよ」
 神田に代わり、天野が解りやすく解説を始めた。
 牡丹灯籠の話は天野が言うように、萩野が体験している現状に非常によく似ている。
 舞台が江戸時代であったり、さる良家が旗本であったりといった細かな違いの他、大きな違いが二つある。
 一つは、神田も口にした下働き夫婦の存在。怪談ではこの下働き夫婦が乳母に金を積まれ札を剥がすよう頼まれ、金に目が眩んだ夫婦が札を剥がしてしまう。このことで娘と乳母の幽霊二人が家の中に入れるようになってしまう。
 二つ目は、この結果により青年は娘の幽霊によって殺されてしまうという結末。
「出来れば、この怪談のような結末は迎えたくはない。そこで私は、直接雫さんと米子さんと会い、解決策を模索したかったのだが・・・二人が私を恐れ会ってくれなくてな」
 神田の話では、直接話す為に二人が訪れる夜に萩野の家で待っていたが、神田がいると二人が近づいてこなかったとのこと。会えるまで粘りたいところだが、ずっと萩野の家に止まるわけにはいかず、仕方なく自分がいない間は札を貼り、留守中に萩野が取り殺される事がないように防衛策を講じていた。そこへ札を何とか剥がそうと米子が学者の元を訪れ・・・今に至っている。
「米子さん、そういうわけで私は二人を無理矢理払おうというわけではないのですよ。どうか信じて欲しい」
 縄を解かれていた米子に、神田は深々と頭を下げた。
 巫女が幽霊に頭を下げる。これはそう見られる光景ではない。それは周囲よりも幽霊本人に一番伝わっているはず。
「俺からもお願いします。このままではなんの解決にも成りませんし、強行すれば怪談と同じ結末になってしまう。どうか神田さんを信じて雫さんを連れてきて下さい」
 神田に習い、学者も頭を下げた。そしてそれを見ていた天野も慌てて頭を下げる。
「米子さん・・・この方は信頼できますよ。この方は二人がちゃんと付き合っていける方法を考えてくれているんです。お願いします、雫を連れてきて下さい」
 最後に萩野にまで頭を下げられては、米子も承諾する他無かった。

 雫と面会すれば、万事解決。そう、誰もが感じていたのが失態の始まりだった。
「来ないで!」
 雫の動きは速かった。しおらしく皆の前に現れたと思った雫は隙をつき、萩野の元へと駆け寄り・・・もとい、飛びつき、怪談通りに萩野を取り殺そうと迫った。
 雫の動きに気付いた神田と天野は、すぐさま二人の元へと駆け寄ろうとした。しかし雫に萩野を人質に取られた格好になり動けない。雫もまた、巫女と天狗を目の前にしてすぐに萩野を取り殺せない状態。
 まさに膠着状態へ陥った。
「雫さん、聞いて。私はあなた達を無理矢理引き離そうなんて考えてはいないから。二人が良き仲良き愛を貫けるよう、助力をしたいだけ。だから萩野殿と心中しようなんて考えないで!」
「嘘よ! 幽霊の私が普通に三郎さんと愛していけるわけなんて無い! あなたもお父様のように私達を引き離そうとしているんだわ!」

 半狂乱状態の雫は、誰の話にも耳を貸そうとはしなかった。米子の話もちゃんと雫は聞いていたはずだが、その話も雫は米子が騙されていると思ったのだろう。
 元々、幽霊は精神が不安定な状態だ。一つの強い想いで現世に縛られている幽霊は、その縛り付けている想いを貫くことで精一杯になり、他への関心が薄れ、精神が崩れやすくなる。
 米子は雫を想う気持ちで幽霊になった為、雫の為にあれこれと考える。その為に精神はまだ安定しやすいが、雫は萩野への愛という想いだけで幽霊となった。第三者の力で萩野と結ばれるという、雫から見て信頼感に薄れる手助けよりも、自力で萩野を取り殺しあの世で結ばれる方が確実だと考えている。その思いこみに縛られている雫が、素直に神田達の話を聞くはずがない。
 うかつだった。神田は軽率な自分を恥じた。こうなる事は充分に予測できたはずなのに、妖精学者天道寺が現れ思いの外話がうまく進みすぎた故の油断した。しかしそれは言い訳にしかならない。
 こうなっては、もはや自分の話に耳を貸す事はないだろう。神田は懐に手を伸ばし、札と祓い棒に手をかけた。
 手をかけたまま、神田は待ちかまえた。
 自分の言葉には耳を貸さずとも、たった一人だけ、耳を傾ける相手がいる。その相手の説得に、神田は賭けた。
「雫・・・俺の話を聞いて欲しい」
 雫が愛する男、萩野三郎。彼の言葉だけが、雫を救う事が出来る。
「このままでは、雫は「悪霊」になってしまう。それでは、俺達は結ばれないんだ・・・俺も雫と一緒になれるなら、君に取り殺されたって良いと思っていた。でも、それじゃダメなんだ・・・」
 神田から聞かされていた事。萩野はゆっくりと説得するよう語り始めた。
「このまま俺を取り殺すと、君も俺も悪霊になって一緒にこの世を彷徨う事になる。これで一時的に一緒になれるけど、悪霊を神田さんや他のそういった人達が見過ごしてくれるはずがないんだ。そして無理矢理成仏させられた俺達は、別々にあの世へ送られ、別々に閻魔の裁決が下されるんだ。そうなったら、もう俺達は二度と会えない・・・」
 心中してあの世で結ばれよう。そんな事を誓い合いながら死んでいく恋人達がいる。しかしそれは不可能だ。何故ならば、自殺は地獄でとても重い罪として咎められる。無理心中なら尚更、殺人という重い罪が課せられる。こうなっては閻魔の裁決に情状酌量など望めるはずもなく、地獄での苦しい仕置きが待つばかりとなってしまう。
「なら神田さんの力を借りて、どうにか今のまま愛し合っていこうよ。そうすれば、俺が死んで君が成仏した時、また二人でいられるんだ」
 必ずそうなるとは限らないが、しかし悪霊になってから払われるよりは段違いの確率であるのは間違いない。
「・・・本当に? 三郎さん、本当に今のままでいいの?」
 届いた。神田は雫がまさに名の通り瞳から雫をはらはらとしたたり落としていく様を見て、萩野の言葉が届いた事を確信した。
「むろん、二人の努力が必要になる。しかし、それだけ愛し合う二人ならばたいした努力にもなりはせん。大丈夫、私を信じて欲しい」
 今なら伝わる。神田はもう一度説得を試みた。
 その言葉が届いた事は、泣き崩れる雫の姿を見れば誰の目にも明らかであった。

「へぇ〜・・・なんか素敵なラブロマンスですね」
 後日。天野は昨日の出来事を、豆大福に舌鼓を打ちながら大口結香に聞かせていた。大口はこの話をうっとりと聞いている。
 ここは有栖学園高等部一年、通称「妖怪クラス」の教室内。周囲には大口の他にも同級生が何人か集まっている。
「ラブロマンスって言えば聞こえは良いけどね・・・これからが大変だよあの二人」
 人間である萩野は、幽霊に取り殺されないように。幽霊である雫は、不用意に人間を取り殺さないように。それぞれ神田の元で修行をする事になった。
「だろうなぁ、「あの」神田さんの修行だろ? ハンパなものじゃないだろうからなぁ」
「そうだねぇ・・・「あの」神田さんだもんねぇ」

 菅と鬼島が、肌で知っている厳しさを切々と語っている。
 しかし神田をあまりよく知らない大口は二人の言葉にピンと来るものがないのか、それとも厳しいからこそラブロマンスに添える花としては良質だと思ったのか。まだ少しうっとりと二人の恋に思いを馳せていた。
「そういえばさ、その二人私達の先輩になるみたいね」
「そうなの?」

 メールを打ちながら話に参加していた岩波が、天野も知らなかった情報を提供した。
「うん。神田さんからメールで聞いた。雫さんは私達のいっこ上。萩野さんは有栖学園の大学の方を受験するんだって」
 さすがメールから産まれた文車妖妃。幅広く「メル友」を持つ岩波には、菅や鬼島が恐れる神田ですらメル友の範疇にいるのかと呆れる天野。
 呆れながら、天田はあれやこれやと話に花を咲かせるクラスメートをよそに、ふともう一人の幽霊、米子の事を考えていた。
 米子は、神田の手によって成仏した。彼女は雫を心配し幽霊となった女性。雫が萩野と上手く付き合っていける事を確信した彼女は、この世に残す未練を失った。つまり、幽霊でいる必要が無くなった為に成仏の道を選んだ。
 この世に残った雫は、これから幸せを掴む為に頑張っている。では、米子はどうだっただろうか? 彼女は幸せだったのだろうか?
 それは、これからの二人にかかっている。幸せな成仏だったかどうかは、この世に残った二人に。
 怪談牡丹灯籠とはかなり異なった結末。大口が言うように二人の話はラブロマンスとなり、もはや怪談とは言えない。しかし本当のラブロマンスにする為には、神田が言うように二人の努力無くしては成り立たない。
 米子が成仏する際に見せた、雫の涙と萩野の感謝。本当のラブロマンスは、恋人同士二人だけで成り立つものではないのだと、天野は痛感した。
(修行じゃ得られない事も多いな・・・)
 願わくば、折角得られた奇跡の絆を、二人が永劫に繋いでいられるように。自分にもそんな相手が見つからないかと淡い期待を未来に託しながら、天野は祈った。

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