クルースニク

彼の方から訪問があった時、俺はすぐにその用件が何であるかを悟った。「クドラクを見かけなかったか?」という彼の一声が、まさにそれである。
俺はわざわざイストリアから尋ねてきた彼をねぎらいながらも、「残念ながら」と答えた。すると彼は「そうか。邪魔をした」とすぐに立ち去ろうとする。そこを「ゆっくりしていけよ。少しは情報を待つということも覚えたらどうだ?」と強引に招き入れた。
彼はクドラクという仇敵である吸血鬼を追っている。そう、つまり彼はバンパイアハンターを生業とする男なのだ。「ゴシックホラーというのかな。今でも君のようなバンパイアハンターを題材とした話は日本でも人気があるよ」と、資料として保管していた本をいくつか見せた。「どれも皆、りりしい顔立ちの色男ばかりだな」とは、彼の感想。「そういう作品を好むのは女性が多くてね」と説明したが、彼はそれをあまりよく理解できないらしい。「まぁ・・・ようするにだ。女性の好む雰囲気とかシチュエーションとか、そういうのが一致するらしい。俺もどうして人気があるのか判らない部分多いけどな」と笑いながら話した。「実際に君達が戦っている姿は描写されることないだろうな。牛や豚に化けて戦う姿は美しくないからなぁ」と俺が言うと、彼は不服そうに見ていた本を突き返した。
「邪魔したな」と立ち去る彼に、幾ばくかの心当たりと情報屋の居場所を知らせ、先ほどの非礼を詫びた。「今度はもっとゆっくりしていけよ」と言ったものの、クドラクを追いかけることばかり頭にある彼が、休息の時を得ようとすることもないだろうことは承知していた。
彼が立ち去った後で、俺は書斎に戻り書きかけていた小説に手を付け始めた。よもや彼をモデルにした小説を書いているところに本人が現れることなど思いもしなかったが、この作品を彼はどんな顔で読むのだろうか? そんな事を思いめぐらせながら、炎に化身した二人の男が戦うクライマックスを書き進めた。

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