長生鼠

「ちょっと聞いて! あの人、また外で女を作ったみたいなのよ! 私という妻がありながらまたよ! ホント、どうしたらあの人の浮気癖を治せるのかしら・・・」駆け込んできたかと思ったら、突然ヒステリックに叫び始めた・・・ああ、またか。俺は大げさに判りやすく、大きな溜息をつく。「で・・・今回は、何を根拠に浮気だって?」呆れている俺の態度に気付いているのかいないのか、チューチューとまくし立て細長い尻尾をぴしゃりと床にたたきつけ、俺に向けて手に握っていたワイシャツを突き出す。「これ見て! ほら、ここにクッキリとキスマーク!」ああ、確かに口紅が付いてるな。浮気の証拠としてはまたベタな・・・だけどこれは・・・「満員電車かなんかで付いただけだろこれ。ほらこれ、ちょっと擦れてるだけじゃないか。クッキリってほどじゃないだろ」そもそも、こんなベタネタをわざとする浮気相手って、本当にいるのか?「違うの! これはあの人が必死に消そうとして残っただけなの! なのにあの人、知らなかった、気付かなかったってそんな言い訳ばっかり!」いやそれ、言い訳じゃなくてたぶん真実・・・あの気弱で恐妻家の旦那さんが、こんな大胆な浮気をするとはとても思えないしなぁ。ま、それを言っても聞きはしないだろけど。
まだチューチューと騒ぎ続ける彼女の言い分を、俺は適当に相づちを打ったり首を振ったりして聞き流した。女性はとかく、話を聞いて欲しいだけで意見を求めているわけではないし「ちょっと・・・聞いてる? さっきから適当に聞き流してるだけじゃないの?」うっ、鋭い・・・こういう時ばかり女性は勘が鋭くなるよな。「もしかして・・・あなた、あの人の浮気相手知ってるんじゃない? あっ!実はかくまってるのね!」いや、何でそうなるんだよ・・・変なところで勘が鋭い癖に、どーしてこういう事には鈍感というか、つまらない勘違いをするんだ・・・勘違いというより、火のないところで無理矢理煙を立ててるとしか・・・「その女出しなさいよ! ちょっと、変にかばい立てしないで! これは私とあの人との問題なの!」いや、持ち込んできたのは君だろ・・・二人の問題は二人で解決してくれ。よくもまあ、旦那さんもこんな奥さんと続いてるよなぁ・・・「話聞きなさいよ! ほら、あの女を出して!」いや、あのって言われてもよ・・・これ、小一時間で終わるかなぁ。ホント勘弁してください。

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