玉兎

「待って・・・焦らないで」今か今かと待ちこがれる俺に、彼女は優しく諭す。「ここ・・・ここに、強く打ち込んで・・・」彼女は自ら、白くむっちりとしたそれを指で押し広げながら、俺を誘う。それは既にじっとりと湿り、火照り、軽く湯気を立てている。「じゃあ・・・行くよ」俺は汗ばんだ手で打ち込むそれを握りしめる。「ええ、来て・・・早くぅ」俺は意を決して、力強く腰を入れ、打ち込んだ。「せいっ!」「はいっ!」「せいっ!」「はいっ!」「せいっ!」「はいっ!」「せいっ!」「はいっ!」二人息はピッタリだ。俺の杵が臼の中にある白い餅を叩く度に、ペッタンペッタンと軽快な音が鳴る。そしてタイミング良く、彼女はその餅を濡れた手でひっくり返す。「はい、もういいわ・・・んー、よくつけてるわぁ」まだ熱いつきたての餅を両手で取り出し、手早くテーブルの上に置かれたパットの上へ移す。
「次の餅米、蒸し上がったわよ」「オッケー、持ってきてくれ」メイド長がいそいそと蒸籠を運んでくる。中身を臼に移すと、俺は杵に体重をかけ力強く餅米を潰していく。「あんこときなこはここね、じゃ、よろしくぅ」今日の主役、餅つきパーティの首謀者が参加者に細かい指示を出した後に戻ってきた。「さぁて、次行きますか」ぬるま湯に手を入れながら、嬉しそうに長い耳をピョコピョコと揺らしている。「・・・普通さ、餅をつく方が兎の役割なんじゃないか?」ふと、そんな疑問を口にしてみた。「細かいことを気にするような男は、もてないわよぉ」クスクスと可笑しそうに笑っている。ま、力のある男がやった方がよくつけるのは確かだから・・・別に不満があるわけではないんだがね。「餅米をよぉく潰すには、とぉっても重い人が最適なのよ」バニーガールは色っぽくウインクしてみせた。にゃろ、重要なのはそっちかよ。「・・・はい、いつでも良いわよぉ、来てぇ」「なんでそこ、そんなに色っぽく言うんだよお前は」そうでなくても、上から見下ろすと大きな胸元が・・・いやま、よそ見はいかんな。手元が狂うと危ないからな、餅つきは。「いくぞ・・・せいっ!」「はいっ!」「せいっ!」「はいっ!」ペッタンペッタン、リズミカルに餅つきの音が響いている。

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