小豆洗い&洗濯狐

シャッシャカシャカシャカシャッシャカシャカシャカ「BeatをWash!HeartをWash!音と心を研ぎ澄ませ!」シャッシャカシャカシャカシャッシャカシャカシャカ「HeatにWash!ArtにWash!熱い芸術洗い出せ!」シャカシャカシャッシャカシャカシャカシャッシャカ「いつでもWash!どこでもWash!俺達俺達WasherBrothers!!」・・・両手を前に突き出しながら、二人の妖怪がCoolな・・・少なくとも本人達はそう思いこんでポーズを決めたまま制止している。先ほどまでシャカシャカとうるさかった室内は、今しんと静まっていた。
静まったのをきっかけに、様子を見ていた他の者達が動き出す。「ふむ・・・北海道産の大納言か。良い豆だな、使わせてもらおう」たらいにたっぷりと入った、洗われたばかりの小豆。それを品評した後にニスロクがたらいごと持ち去ってしまう。「はいご苦労様。どうせなら濯ぎも脱水もしてくれると助かるんだけどね・・・あ、そこを持ってくれるかしら?」我が館のメイド長によるかけ声の下、メイド三人がかりで洗濯物をやはりたらいごと持ち運んでしまう。それでもなお、二人は制止したままだった。「で・・・何がしたいんだお前らは」俺が声を掛け、二人はようやく手を下ろし、同時に肩を落とした。「何故俺達のSoulが伝わらないんだ!」「Passionも充分だったはずだ!」「あーはいはい、NowなYoungにはBakaukeだったよ」死語を交え、俺は適当にあしらった。そもそも、何でもかんでもラップ調にしてしまえば良いという物でも無かろうに。
静かな夜に音を立て脅かす妖怪。そんな二人なのだが、今彼らは苦境に立たされている。「都会には静かな夜が無くてなぁ・・・」懲りずに新たなたらいを用意して、小豆を洗いながら一人が言う。「住宅街ならまだ静かな方だが、音に怖がってはくれないんだ。「迷惑」には感じているようだが・・・それだけだとむしろ・・・その、罪悪感というか・・・」一方もやはりたらいで手ぬぐいを洗いながら語る。怖がらせるのも充分な迷惑行為だとは思うが、そこは彼らなりのポリシーがあるのだろう。「今の若いのは世の中に無関心すぎる」「そうそう。関心があるのはごく周囲のことばかり。その狭い範囲を世界の全てだと言わんばかりじゃないか」まあここまでは俺も同意だ。昨今、家の外で悲鳴が聞こえても窓を開けて様子を見ようとする人は皆無だと聞いている。関心がない上に万が一関わって面倒に巻き込まれたくないという保身がそうされるのだろうが・・・寂しい話だ。しかしだからといって、ここから彼らが語る話には同意しかねる。「ならば俺達のSoundで彼らのHeartをOpenさせてみせる!」「そう、俺達のSoulをBeatに刻んでWorldに目を向けさせるのさ!」・・・志はさておき、あのシャカシャカ鳴らしてるのはサウンドなんだ・・・まぁせめて、もうちょっと伝わりやすく、かつCoolなMusicにしてくれよ。「よし、ここで俺達の新曲を聴いてくれ!」「タイトルは『We are the Wash』だ、CheckNow!」シャカシャカ始まったところで俺は黙ってノートパソコンを開き、USB端子にヘッドホンを繋いだ。

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