モー・ショボー

「日本という国は、ホント住みやすい国だわ」モンゴルから来た少女が、けらけらと笑いながら語る。「だってさ、こんなにもロリコンが多いんだもの」
「否定はしないが・・・」頭をかきながら、俺は反論する。「民族的な伝統というか・・・日本だけじゃなく、アジア圏は文化的な価値観からして・・・」という要領を得ない弁明を「どっちにしても、ロリコンなんじゃない」と一刀両断された。
愛を知らず死んだ少女。彼女は鳥の化身モー・ショボーとなり旅人を襲い続けている。「ちょっと声をかけるとすぐについてくるのよ。お金も魂も取り放題」言いながら、たった今届いた着信メールを確認するために携帯電話を取り出す。「ほら、また獲物が引っかかった」自慢げに見せた携帯の画面には、待ち合わせ場所と時間が記されていた。
「ホント、こんなに良い国はないわ」と、手早くメールの返信をすませた少女は楽しそうだ。愛を知らないからこそ愛を売り物に出来る。そうやって生きている少女に、俺は説教できる自信がない。
愛をどうやって説明する?
「あんたならタダで良いよ。もちろん魂も取らないよ」と、好意で少女は俺に言う。本当に好意なのだろう。本来はとても良い娘なのだ。ただ、愛を知らないだけで。愛を知る事が出来ないだけで。
「君が俺を愛してくれるなら、ね」と、俺はいつも言っている。その度少女はつまらなそうな顔をするが、いつもの事とすぐ「獲物」へと想いを切り替える。「じゃ、行ってくるね」と、笑顔で出かけていった。
俺はどうやって彼女に愛を教える事が出来るのだろうか? 無理矢理止める事も出来ない意気地なしは、少女に会う度自分の中にある愛についてあれこれと悩む。そして答えが出ないのもまた、いつもの事だった。

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