シルキー

白く目も眩むような絹をまとった婦人が、「まったく・・・どうしてこんなに散らかせるんですか?」と小言を言いながら俺の部屋を片づけている。俺は「これでも片付いている方だよ」と気のない返事を返すだけ。
「ああ、祖国にある懐かしき古木よ」首を左右に振りながら、彼女は嘆いた。「どうしてこの方はこうも・・・散らかる部屋の中で平気でいられるのでしょう」溜息混じりにうなだれる。
ザッと自分の部屋を見渡し、俺は言う。「これでもさ、何処に何があるかは把握しているんだぜ」
サッと俺の部屋を片づけながら、彼女は言う。「この状況で? 何処に何があるのか把握できるものですか」
「例えば・・・」演奏を終えたCDを取り替えるため、次にかけるCDを、同じようなCDが山積みされた瓦礫の中から取りだし「このCDはこのあたりに・・・って、ちゃんと判ってるぜ?」と、取り出したCDを自慢げに見せる。
「だからといって・・・」呆れながら言う。「片づけなくて良いという事ではないでしょう? 本とCDで埋め尽くされた床は、ホウキを入れる隙間もないのですからね!」と言われては、俺はぐうの音も出ない。
本当のところ、彼女はこうして家事をするのが好きなのだ。「どうせ綺麗になったままなら、自分で散らかして仕事を増やすくせに」と、実のところイタズラ好きでもある婦人を責めた。「日本に馬車は滅多にないからな。さすがに車相手にイタズラは出来ないものなぁ」
そんな俺の言葉を、ハイハイと聞き流す。「でしたら、私が散らかしたくなるように綺麗にしてご覧なさいな」と、バケツとぞうきんを俺に手渡す。つまらぬ事は言うものではないなと、俺はバケツに水をくみに行きながら思った。

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