カーシー

ペットを飼う際、色々と気を付けなければならないことは多い。例えば餌の問題とか居住の問題とか。しかしこれらはごく一般的な、ごく平凡なペットを飼う場合、良識的な飼い主ならさして問題にはならないだろう。問題になるのは、飼い主が良識的でもペットが常識的ではない場合。「普通の大型犬だって、怖がる人はいるからなぁ」俺は舌を出しはぁはぁと嬉しそうにしている暗緑色の超大型犬を見つめながら、後頭部を掻き色々と考えあぐねていた。「躾の面では問題ありませんよ。私がキチンと躾ますから」シルキーが言う通り、躾はキチンとされているようだ。現に今こうして彼女の声符と指符に従って、ちゃんと「お座り」しているのだから。問題は、お座りしている状態で俺と真っ直ぐ、下にも上にも視線を動かしていない俺と目が合うこの犬の大きさだ。「成熟した雄牛よりは小さいわよ」とはシルキー。「それでも子牛よりは大きいだろ」とは俺。
大型犬を飼う上で気を付けなければならないのは、その大きさとそれに見合った力強さ。たまに大型犬の散歩をしている女性が、リードを引っ張られよたよたとしている姿を見かけることがある。普通の大型犬でそれなのだ、目の前に鎮座する暗緑色の超大型犬を散歩させることなど出来るのか?「この子は賢いから大丈夫よ」とシルキー。牛を放し飼いにしている牧草を駆け回るくらい、勝手にするからというのも大丈夫と太鼓判を押す理由にあるらしい。「妖精の番犬は伊達じゃないから」確かに、番犬としてこれほど頼りになる犬は相違ないだろう。
「ただ・・・難点という程ではないんだけれども」超大型犬をお座りから解き放ちながら、シルキーは言う。「とても人なつっこいのよね。とりあえず、じゃれられても大丈夫なくらい体力を付けて下さる?」喜び勇んで暗緑色の犬は、先輩犬である漆黒の猟犬、ヘルハウンドとじゃれ合い始めた。遠目で見る分には微笑ましい光景に見えるが・・・想像して欲しい。牛程に大きな犬が二匹、じゃれ合うその現場に近づけばどうなるかを。「ちょっと鍛えてどうにかなるレベルじゃないだろ・・・」牛だったら大人しいからどうにかなるが、牛程に大きな犬というのは人間が飼うには問題がある。とりあえず今の俺に出来ることは、玄関に「猛犬注意」の立て札を立てることくらいか・・・効果があるのかはこの際二の次として。

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