ドワーフ&エルフ

今日は頼んでいた品の納品予定日。届けられたその品を、俺は眺めていた。「相変わらず見事な装飾だね。素人の俺にだって解るよ」手に黄金のサークレットを引っかけるようにして持ち上げ、細部まで仕上げられている装飾を眺めながら言った。「素人が解らなけりゃ、意味がないんじゃよ」ドイツの職人は満足げに蓄えた長い顎髭を撫でながら俺に語る。「装飾品で着飾るのは、結局素人じゃ。その素人が素直に美しいと感じられんのでは、装飾としての意味を成さないからの」確かにその通りだ。しかしその常識を凄腕の職人が語ると重みがまるで違ってくる。「技術を見せつけるだけの物は駄作じゃ。まず完成品ありき。それを何処まで完全に再現出来るかがわしらの腕、と言う訳じゃな」こだわりは二の次。そんなところは解るものだけが唸れば良いだけであり、誰もが素晴らしいと思える物を作ってこそ職人だと彼は言う。なるほど、当たり前と言えばそれまでの言葉だが、俺は彼の言葉一つ一つをしきりに頷き聞いていた。
「それはそうと・・・」俺は話題を変える言葉を紡ぎ、尋ねた。「何だって今日に限って直接届けに来たんだい?」俺は彼に、普段から今日受け取った様な装飾品から細工物、中には魔力のこもったルビーをレンズにしたサングラスなんて物まで作って貰っていた。そのほとんどは彼の祖国ドイツから「便利な宅配員」に頼んで届けて貰っていた。しかし今日は、頼んでいたサークレット共に彼と彼の奥さんが我が館に訪れていた。「ん・・・なに。普段工房に閉じこもってばかりじゃからな。たまには手を休めて、旅行でもしたいなんて「うちの」が言うもんでなぁ・・・」驚く程器用な割りに短く太い指が、ぽりぽりと頬を掻いている。その頬は僅かながら赤くなっていた。「これはこれは・・・質問が野暮でしたね」本心ではあるが、俺はニヤニヤしながら彼をからかうように謝る。「新婚何年目でしたっけ?」「さあな・・・100年を超えてからは数えておらんよ」それでも未だに、新婚のように仲むつまじい彼ら夫婦。妖精の愛は一途だと、彼らは俺にしっかりと見せつけてくれる。
「お話の途中宜しいかしら? あなた」噂をすれば・・・というやつだろうか。彼の奥さんがしずしずと俺達の方へ歩み寄ってきた。よく見れば、奥さんの煌めく金髪には髪飾りが。間違いなく、旦那の作品だろう。一件質素で目立たないようだが、目立たないからこそ自然な形で髪を整え、髪そのものの美しさを際立たせている。なるほど、これが「髪という完成品ありき」であり「技術を見せつけない」美しさなのか。確かな腕と奥さんの美しさを知り尽くしている彼だからこそ作れる、まさに彼女の為だけの髪飾りだ。まったく、あんな物を見せつけられては、同じく彼が作ったはずの、今俺が手にしている黄金のサークレットですら輝きを失ってしまう。
「食事の用意が出来ましたわ。お話の続きはテーブルでどうぞ」今日は奥さんが俺と館の住人達に手料理を振る舞ってくれるとの事で、期待していた。森で育った彼女は自然食材の目利きが鋭く、それらを活かした料理は絶品だ・・・と、彼女を愛して止まない夫からずっと聞いていたから。「そうですね。「話の続き」は、奥さんが居た方がより進みそうだし」むろんその話は本人同席の「のろけ」へと持っていく事になるだろう。それも又良し。何故なら、彼女とその旦那でしか作れない料理の一つ、「肴」となるのだから。

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