ホブゴブリン&ブラウニー

今日は台所がやけに騒がしい。晩餐会に招待した客が大勢いる為、その準備に追われているのだ。「ナイフとフォークの数間違えないでね。ああ、その大皿はこっちにお願い」シルキーの指示に、蹄を鳴らしながら小人が一人大皿を両手一杯に抱えてテーブルのそばまで運んできた。「おい、このままじゃ届かねぇよ。相棒、椅子を引いてくれ」「ホイきた相棒」大皿を抱えた蹄の男が、もう一人の、こちらはちゃんとした人の足をした小人に指示を出す。二人とも背が低すぎて、とてもではないが両手一杯の大皿を頭上にあるテーブルの上に運べないのだ。仕方なく、一人が椅子を使いテーブルの上に登ってから、残った一人が大皿を手渡して運んだ。
見ているぶんにはとても効率が悪いように見えるのだが、二人はちょこまかと、しかしシルキーや他にもいる者達の邪魔になることなく、よく働いている。二人でそのまま二人分の働きとはいかないが、一と半人分くらいの働きはしているだろう。
「相棒、ナイフを運ぶぞ。まずは1、2、3、4、5、五本だ」「解った、五本だな。よし、1、2、3、4、5、五本だ。受け取ったぞ」「ホイきた。次はフォークだ。1、2・・・」「なあ、今何時だ?」「ん? 今は四時だな。4、5、五本だ」「まてまて相棒。四本しかないぞ」「なんと、それはおかしいな。どこで数え間違えた?」「それはな、相棒。そこの親愛なるでくの坊が邪魔したせいだ」いやまさか、「時そば」がそのまま通じるとは思わなかったんだが・・・。「なあ相棒。僕らはたったコップ一杯のミルクで喜び勇んで手伝っているというのに、見てみろ、三ガロンはたっぷりミルクを飲んだって腹をしている、あの親愛なるビア樽は指一つ動かしやしないぞ」「ああ、まったくだな相棒。あの親愛なるぐうたらは、絞れば三ガロンはミルクを出しそうな腹をしているのにつま先を僅かも動かしやしないときた」三ガロン(イギリスサイズで約13.5リットル)って、そこまで太ってはない・・・はずだ。からかった代償ではあるが、小人二人の言葉に俺は眉をしかめ苦い顔をした。
「まあまあ、小さな働き者の皆さん。そう館の主を攻めないで」シルキーが俺達の仲裁へ乗り出してきた。「ここは一つ私に免じて、たった一つ料理を運ぶだけで許してやってくださいな」うそのわざとらしい「たった一つ」という言い回しに、俺は嫌な予感がしてきた。「よし解った。ならその「たった一つの料理」は僕らが選ぼう」「そうだな相棒。なら、「アレ」を運んで貰おうか、一人で」小人が指さしたのは、まるまる焼かれた子豚がデンと置かれた巨大な皿。重さ以前に、皿だけでも一人で運べる料理ではない。「しかしシルキーは優しいな。たった一つ運ぶだけで親愛なるビア樽を許してやれと言うのだから」「そうだな相棒。しかしな、そのたった一つも運べないと言い出したらどうする?」「まさか! そんな事を言い出すなんて考えられるかい? いいか、たった一つ、たった一つなんだぞ?」妖精学者たる者、妖精をからかってタダで済むはずがないと解っていただろうに・・・しかし俺も、一応学者の端くれ。どうすれば効率よく、この巨大な大皿料理を運べるかなどすぐに思いつく。そう、簡単な事なのだ。小人の背丈よりも低く頭を下げる事なんて。

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