デュラハン

悩み事がある。そう言って彼女が尋ねてきたのは、ちょうど夕食時だった。「悩み始めると、食事も喉を通らなくなってしまって・・・」そう言いながら、彼女はテーブルに置いた自分の頭に、たっぷりとソースのかかったステーキの一切れを運んでいく。「そりゃあ、食事は「喉」を通らないだろうよ。悩んでなくても」元から「喉」が無いのだから。離れている頭から胴へ、どうやって「食事」が通るのかは、この際気にしたら負けのような気がする。
「で、その悩みって?」半分は相伴にあずかり夕食を得ようと企んでいたのだろうが、悩みがあるのもどうやら本当の事らしい。「ええ。実はここ最近馬術競技の成績が思わしくなくて・・・」彼女は自信と同じように首のない馬にまたがり、馬術競技をたしなんでいる。その腕は彼女の愛馬が優秀な事もあり、たいした物。そんな彼女に、馬術の悩みを打ち明けられても、俺は馬術どころか乗馬も出来ないというのに。「いえ、少々知恵をお貸し頂けないかと思いまして」どうやら、技術的な事以前の話らしい。「私が乗馬する際、頭を脇に抱えますので、どうしても片手になってしまいますでしょう? つまり片手で手綱を引きながら馬術競技に挑まなければなりませんので・・・」つまり、根本的な乗馬スタイルの違いが、成績の行き詰まりになっているのではないかと彼女は悩んでいるのだそうな。どうにかして、両手で手綱を引く事は出来ないものか?「それはつまり、君の頭をどうするか・・・って事だよな」これはかなりの難題だ。俺達二人はデザートを口にしながら悩み続けた。
彼女の頭は完全に胴と離れている為、胴の上に人間と同じような形で頭を置く事は出来ない。仮にバランス良く置けたとしても、一歩歩けばすぐに頭は転げ落ちるだろう。手綱を握るだけならば、強引に頭を脇の下に挟めばどうにかなりそうだが、やはり乗馬のような上下に揺れる動きに脇が耐えられるかが不安な上、視界も悪くなり手綱を握る手にも力が入らないだろう。「こういうのはどうだろう」俺はメモ帳に簡単な絵を描き始めた。両肩を輪で挟み、その輪に棒を取り付け、頭を挟む輪と繋ぐ。そんな絵。「首がないのだから、肩に何か器具を付けて、そこから頭を固定する方法しか思いつかないなぁ」欠点は、頭を腕でかかえる以上に揺れる事。「一度試してみない事には・・・でもそれ以上に問題が」俺のアイデアにまんざらでもないと思ったようだが、しかしテーブルの上に置かれた頭は眉をひそめた。「誰が作るのでしょうか? この器具」俺達二人は、また悩み始めた。

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