ドラゴン

「なぁ、見てくれよこれ。いいだろ、やっと手に入ったんだぜ」彼が自慢げに見せるのは、一振りの日本刀。人の半身程の長さはあるその刀を、まるでボールペンを指でつまむようにして見せつけた。「ほら、お前んとこの国の、なんとかって武将が使ってた、なんとかって有名な刀なんだぜ」「なんとか、で判るかよ」俺はこれで五つ目になるコレクション自慢を、呆れながら聞いていた。大切な用があると呼び出され、彼の住処である洞窟へとわざわざやってきたら、これだ。もっとも、半ばこの展開は予測済みではあったが。「それと・・・おお、これこれ。見てくれよ、このサークレット。この前ドワーフどもに作らせた一点物だぜ。ここを見てくれよ、このブルーダイヤ。サークレットにはめたらピッタリじゃないかと思って作らせたんだが、やはりね、俺様の目に狂いはなかった」金,銀,パールで彩られたサークレットの中央には、大粒のブルーダイヤ。俺は宝石類に詳しくないが、コイツが自慢するくらいなのだから、天然物なのだろう。たしか、1カラットで2〜3百万はすると聞いた事はあるが・・・あの大きさならはたして、いくらになるのだろうか? そんな高価なサークレットも、奴の手には小指の爪で引っかけるほどの大きさにしかならないというのに、彼は嬉しそうに自慢話を続けた。
九品目を自慢されたところで、耐えきれず俺は尋ねた。「で、大切な用ってのは結局なんなんだよ」この質問に、奴め、平然と言ってのける。「なんだって? おいおい、俺様は耳が遠くなっちまったのか? 大切な用が何かだと?」ぐっと頭を下げ、荒い鼻息で俺を吹き飛ばすつもりかというくらいにまで接近し、俺の予測した通りの返答をする。「この俺様が世にも珍しい俺様自慢のコレクションを見せてやろうというのだ。お前にとって、これ以上名誉な事があるか? 一も二もなく、大切な用だろう、これは」ああ、さようでございますかと、俺は頭をかきながら呆れた。同族の中ではかなり若い方だろうに、どうしてこうも高圧的で自尊心が高いのだろうと考えるのは、さて何度目の事だろうか?「仕方のない奴だ。ならばとっておきのを見せてやろうではないか」この後、「更にとっておきの物」と続き、「更に更にとっておきの物」へと続くのだろうなと予測しながら、俺は十品目の説明を聞き流していた。

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