スフィンクス

「朝は四つ足、昼は二本の足、晩は三本足で歩くものは何か」唐突に、かの有名な謎かけを言い放つ。「それは人間だ。赤児のときには四つ足で這い、成人すると二本足で立って歩き、老人になると杖を突いて歩くからである・・・だったな。確かそれを解いたのは英雄オイディプスだったね?」ふむと、答えて当然という顔付きで俺の言葉を聞いていた。「有名になりすぎたな。リドル(謎かけ)として、少々つまらなくなったかもしれん」とは言うものの、どうもそのリドル自体はどうでも良いようだ。
「一つ尋ねるが」と麗しい唇から前置きの言葉を発しながら、たくましい獣の半身をずいと俺に近づけ、続けた。「人間は、「私の謎」を何時解き明かすと思う?」
スフィンクス像は、エジプトのピラミッド脇に、まるでピラミッドに眠るファラオを守るように建てられている。その事から、スフィンクスはファラオの守護神だという説が当初あった。だが、実はピラミッドよりもスフィンクス像の方がもっと古い時代に建てられていたことが判明し、この説は立ち消えた。
後、ファラオがスフィンクスに守って貰えるように今の位置にピラミッドを建てたとか、スフィンクスのリドルそのもの、つまり太陽の位置と人の老いを同一視するエジプト特有の思想から、太陽神かそれを囲むミューズ(女神)ではないのか?と様々な説が発表されている。死者の魂がスフィンクスになるという説もあった。
スフィンクスとは何なのか。彼女の謎かけよりも、彼女自身の方が謎多い存在なのだ。
「俺が思うに・・・」口元がすこしにやけたのは、おそらくこの後の言葉に自らきざったらしいと自覚したからだろう。「女性というのは、何時でもミステリアスであった方が魅力的って事さ」さすがに知性の女神も、俺の言葉に馬鹿馬鹿しいと溜息を漏らしながらうつむいた。
「しかし実際・・・」なおも言葉続ける俺に、まだ呆れながらも興味を持ったのか、うつむいた美顔を俺に向け聞き入った。「謎があるからこそ解き明かそうと、人は必至になっている。スフィンクスという永遠の謎、スフィンクスという永遠の知性を求める人の欲は、解き明かすことを望みながら解き明かす時は来ないと・・・思うがね?」

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