セエレ

「えーっと・・・品は以上で間違いないかな?」宅配人が届け物の確認を俺に求めている。「ちょっと待ってくれ」届けられた物は、牛乳四ガロンとジャージー牛がそれぞれ乳牛用と食肉用に二頭ずつ。それと、オルトロスが一匹「おい、俺は荷物か?」俺は宅配人とひとしきり笑ったところで、間違いないと伝えた。「OK。じゃ、ここにハンコかサインお願いしまーす」宅配人は伝票を俺に差し向け、角の方を指さした。「なあ、これって必要なのか?」宅配人は堕天使であって業者じゃない。そもそも伝票自体必要ないはずだし、「天馬便」なんて会社は存在しない。「俺達堕天使は契約書にサインが基本だからな」伝票は契約書じゃないと思うんだが・・・とりあえず手元にハンコが無かったので、俺はサインで済ませた。
そのまま俺は各々の荷物を所定の場所に運ぶのも彼に任せた。具体的な場所をシルキーから聞いた堕天使は、瞬く間、まさにこの言葉通り瞬き一つする間もなく全てを所定の場所へと運び込んだ。「まったく、お前に来て貰うと助かるよ」世界中のありとあらゆる物を運搬できる堕天使の力は、世界中の友人達と物資のやりとりをしている俺にとって大変ありがたい物だ。どんなに大荷物でもどんなに距離が離れていても、全てを一瞬で運んでしまうのだから。
「ゲリュオンへのお礼は、後日何か届けるよ。その時には又よろしく」お礼は何が良いだろうか?そんな事を考え始めた俺の耳に、とんでもない事を言い出す番犬の声が届く。「礼は今すぐ、身体で払って貰うぞ」は?いや、俺にそんな趣味は・・・「契約は既に成された。準備が整い次第向こうへ運ぶが?」堕天使が、先ほどの伝票を俺に向け再度突き出している。よく見ると、伝票に見せかけた紙の下にもう一枚、重なっている。めくってみると、そこには本物の契約書が。「契約書にサインは基本だといったろ?」契約書には、「謝礼として、牛小屋の清掃を行う事を誓う」と書かれており、そこにはしっかりと俺のサインがカーボン紙を通して書かれている。堕天使に謀られた事を、俺はようやっと理解した。
「契約書には人数の指定はない。俺なら何人でも運べるから、他の「贄」を集めてくるんだな」ゲリュオンの牛小屋はとても広く、一人はもちろん十人いたって片づくのにそうとう時間を要するだろう。ついでに言えば、あまり進んでやりたい仕事ではない為、素直に協力してくれる奴などいるのかどうか・・・。「キュウリで釣っても五人くらいだろ? 後はどうするかなぁ・・・」俺はゲリュオンが企んだ「謀りの連鎖」に引っ掛かった一人として、次の犠牲者をどうするか思案していた。

解説へ
目次へ