モスマン

怪奇!本当にあったUMA(未確認生物)。そんなタイトルのテレビ番組が放送されていた。俺達はその番組を、何の気無しに見ていた。「・・・あれ? これお前の事じゃないか?」不意に映し出された映像に、俺は見覚えがあった。その見覚えのある本人に、俺は声をかけた。「What?・・・ああ、本当だ」毛むくじゃらの来客が、大きな羽根を器用に狭めながらテレビの前に歩み寄り、そして頷いている。画面の向こうでは、自称「UFO研究家」が熱弁を振るっていた。「何・・・お前宇宙人だったの?」研究家が熱く語ることを鵜呑みにするなら、今真っ赤に輝く目を画面に向けている彼は、宇宙から飛来したエイリアン・アニマル(宇宙人のペット)なのだという。「エイリアン・アニマルは酷いなぁ」容姿を見れば、少なくとも宇宙「人」ではなさそうだが。
「ま、宇宙から来たのかどうかまでは知らないけどね」テレビではアメリカのウエストバージニア州に中継が繋がったようだが、食い入る程でもないと来客は元の席へと戻っていく。「なんだよ、自分のことなのにそこは曖昧だな」番組は彼のことをエイリアン・アニマルだと断定して話が進められているにもかかわらず、当の本人は素知らぬ顔。「だってそうだろ? 俺はウエストバージニア生まれのハイウェイスター。それだけで充分。キミ達人間だって、本当に猿から進化したと断定出来るかい? そしてそれはキミにとってどれだけ重要なことなんだい?」言われてみればそうだ。好奇心を刺激する以外に、自分の先祖がどこから来たのかは知らなくても生きていける。まさに今流行の「トリビア」という奴だ。
番組は既に別のUMAを取り上げ始めたらしく、中継がウエストバージニアからプエルトリコへと切り替わっていた。「さと、そろそろ時間か。邪魔したな」来客は時計を見てから立ち上がった。「ん? これから何処に行くんだ?」夜活動することの多い来客達だ。夜更けであっても出かけること自体に疑問はないが、わざわざアメリカからやってきた客人の予定が気になった。「ああ、これからターボばあちゃんと首都高でバトルさ」日本のハイウェイスターと日米バトル。それはそれで是非見てみたいのだが、彼らのバトルを偶然目撃してしまう人々が大きな事故を起こさないでいてくれることを俺は願った。

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