ハリティー

俺は土産に貰ったザクロを頬張りながら、直に貰った「お守り」を眺めていた。そのお守りには「安産祈願」と書かれている。「本来ならば、その者が直接我が身を祭る堂へ参るのが良いのだがな」同じくザクロを頬張りながら、鬼の角を生やした女神が語った。「そうなんだけどさ・・・俺が「鬼子母神へお参りでも行ったら?」って勧めるのもなんか変な話しだしさぁ」そもそも頂いたお守りさえ、旦那でもなく親戚でもない俺が渡すのはどうなんだろうと悩んでいる。おそらく渡さないままになりそうだなと予感はしている。そうなると、直接女神から頂いたこのお守りも宝の持ち腐れになってしまい、なんだか勿体ない気がしてしまう。
「なに、子を授かった者がおるなら、その守りが無くとも見守ってやろうぞ」複雑な表情でお守りを眺めていた俺の心中を見透かしてか、女神からありがたい言葉を頂いた。「子は宝ぞ。誰の子であれ、全ての者にとって宝となろうぞ」安産と育児を司る女神らしい、力強い言葉と共に。
千の子を持つ母親でもある彼女は、それだけで安産と育児を司るに相応しい女神だと思える。それだけに、彼女が元々人の子を喰らう悪鬼だったというのが信じられない。「子は良いぞ。それこそ、食べてしまいたくなる程に可愛いものぞ」「・・・シャレにならないから止めてくれ」ペロリと舌を出し茶目っ気を見せながら何個目かのザクロを頬張る夜叉(ヤクシニー)。
「ところで、お主は子を儲けなんだか?」突然の質問に、俺は少し戸惑ったがすぐに答えた。「生んでくれる相手がいない事には話にならん」自嘲気味に笑いながら、しかし俺は悲しい現実に心で泣いた。「ふむ・・・しかし子はなにも人の子でなくとも良かろう?」子供であれば誰でも可愛いし愛せるのだろうが、それは間接的に同族の女性は諦めろと言っているようで、更に泣けてくる。むろん、彼女は判っていてからかっているのだが。「もしそなたに子が出来るのならば、何か進物してやろう。何が良いか今の内に申してみよ」言われても、相手のいない今では「自分の子供」という者がなかなか想像出来ないが・・・それでも俺は、一つの良案を思いつき口にした。「そうだな・・・とりあえず、元気に育って欲しいから「鬼のオムツ」がいいな。もちろん五年履いても破れない丈夫な奴な」「なんじゃ、そなたの子は五年もおしめが取れぬような幼子に育てる気なのか?」二人は笑いながら、再びザクロに手を伸ばした。

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