リャナンシー

「また、逝ってしまわれたわ」と、彼女は寂しそうに、しかし涙は見せず、俺の傍らで嘆き悲しんでいる。
これで何度目だろうか? 彼女は常に恋をし、そしてその恋は相手の死という形で終わりを迎える。それもそうだろう。彼女は彼女の意に関わりなく、愛する者の生を糧にしてしまうのだから。
「私はただ、愛する方のお側にいたいだけなのに」と嘆願するが、それがより彼女の思惑から遠ざけている。もちろん本人も自覚しているのだが。
「君に愛される人は幸せだよ」と、俺はほんの少しの妬みを込めて語った。「君のような女性に愛される男は幸せさ。そして何より・・・」俺が欲する「もの」が手に入る妬みが、言葉に間を開け「才能という財産を得られるのだから」と、言葉を結んだ。
ほんの少しだけ微笑んで、しかし瞳は悲しみを湛えたまま、彼女は俺に向き直りこう言った。「あなた様は、わたくしに愛されることを望みますか?」と。
才能を手に入れる。代わりに命を差し出す。この究極の選択を突きつけられ、俺は戸惑ったが、俺が答えるまでもなく答えは出ている。「君は愛されることを望まないだろう?」
「そうですね。わたくしは恋多きふしだらな女ですが、愛されると冷めてしまうのですよ」。欲深き俺が、彼女に恋心を抱かずにいられる自信などありはしない。つまりこれで答えは出ているのだ。
「わたくしは、芸術のみにひたすらのめり込んで欲しいのです。わたくしにのめり込んでしまわれては、折角の才能が無駄になってしまいますもの」。一理あるが、これだけの女性を目の前にしても芸術だけにのめり込める男というのは・・・正直信じられない。
いや、よくよく考えれば、だからこそ天才というものなのかも知れない。ならば、彼女に愛される男は、既に才能という財産を既に持っているのではないか?
少なくとも、俺は才能もなければ彼女に愛される資格も無いというのだけは確かなようだ。

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