レプラホーン

「寝ている間に小人さんが・・・」といった話を耳にしたことはないだろうか? 寝ている間に小人が仕事を片づけてくれるという奴だ。まあ、そんな事が実際にあればいいのだが、もちろん現実は厳しい。
・・・おっと、その「現実」というのは、君が考えている事ではない。
「で、俺は明日までに仕上げなければならない書類を抱えているわけだが・・・」と、カタカタキーボードを鳴らしながら語りかける。「コンコンコンコン、うるさいんだけどな、小人さん達よぉ!」と、イライラキーボードを叩きながら叫んだ。
「おっと、そいつは悪かったね」と小人の一人が謝るが、コンコンと鳴るハンマーの音を止める気配はない。「でも折角だからさ、これだけ完成させてよ」「その台詞は今日で三度目だ。もちろん、今作ってるのも三足目だったな」怒鳴る俺などどこ吹く風と、小人はまだ平然と靴を作り続けている。「ちゃんと君のサイズに合わせて作ってるんだし、いいじゃん」「よくねぇよ!」思えば、このやりとりも三度目だった気がする。
彼らの作る靴はかなりの出来で、人の作るそれを遙かに凌駕している。それはいいのだが、問題点が二つある。一つは、これが木靴だという事。今の日本を、木靴で出かける度量など俺にはない。そしてもう一つの問題は・・・。「で、どうせ作るならよ。さっき作った靴のもう片方を作る気はないのか?」靴は片側しか作らないという事だ。
片方しか作らない言い分は、こうだ。「だってさ、同じ物を二つ作ってもつまらないもん」「靴ってのは、左右合わせて一足だろうが・・・」俺は頭をかかえた。それはまだ続くハンマーの音に対してか、それとも小人達の考えが理解出来ないからなのか、それは俺自身にもよく判らない。デザインの異なるイギリスサイズ8インチの靴が片方だけ、ずらずらと靴箱に並ぶ現状にも頭をかかえているのかもしれない。
思えば、おとぎ話で靴屋のおじいさんを助けた彼ら小人は、既に完成していた片方の靴をそっくり真似て作る事が楽しかったのだろう。木靴は左右どちらも同じ型だから。
寝ている間に、この書類を小人さん達が片づけてくれたらな・・・なんて事、俺は絶対に思わない。

解説へ
目次へ