モリガン

どうも最近、俺の「趣味」が皆に知れ渡ってしまっている。いや、それはそれで別にかまわないのだが、やはり「性癖」として指摘されるのは恥ずかしいものがある。「こういう娘が好みなのか」などと言われながら、「趣味」の本をマジマジと見られるのはいたたまれない。「わらわと同じ名を持つ娘がいたと魔女達から聞いてはいたが・・・なるほど、では次からお主の前に出でる時は、この娘と同じ姿をしてやろうか?」「いや、それは微妙に嬉しいが恥ずかしいから止めてくれ・・・」胸元の開いたレオタードのような衣装。そんな大胆な姿になってくれるというのだから、もちろん男として嬉しいのだが・・・嬉しいのだが、どうにも落ち着かないだろう。「そうか。まあ淫魔などと一緒にされても困るからのう」ぽいと見ていた本を俺に投げてよこす。そう、彼女は低俗な悪魔と一緒にされるような存在ではない。女神なのだから。
女神とは言っても、本質は淫魔よりも邪悪。今でこそ彼女は美しい乙女の姿をしているが、本性は血と死を好む残忍な女神。そうでなくとも誘惑されそうになるのだが、彼女に魅入られたら最後、俺はこの戦女神に翻弄され戦場を駆け回る事になるだろう。
「血と死が好きなのは変わらぬが、不用意に求めたりはせん。そうだな、「勝利の女神」とでも言って貰おうか? お主もわらわを求めるならば「勝利」を約束しようぞ」確かに、彼女の言葉に嘘はない。ただ、彼女に守護して貰えるようになるのは、色々と大変だ。「勝利というのは魅力的だけどね。ただ残念な事に、俺はあんたと「一夜を共にする」だけの「力」が無くてね」女神が魅入り、そして女神の「愛」に耐えられる勇者でなければ、所詮勝利は得られないという事か。彼女を愛人として迎えている大地と豊穣の神ダグザや、彼女に愛されながらも拒絶した勇者クーフーリンのような力は、俺にはない。
「わらわに愛されたくば、「力」を身に付ける事じゃな。「武力」「知力」「魅力」・・・「力」は様々なれど、全ては「努力」でつかみ取る物ぞ」つまり、勝利は自分の力で勝ち得る物と言うことか。なるほど、彼女に愛される事が勝利を「約束」されるというのは間違いないようだ。

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