鬼神集う時代

 

第一話 めざめよ、ゴメス!
第四節 一つの終わりと始まり

 

 マデラからヨークへ向かうには、パプカ山を越える必要がある。
 ゴメスは疾風のごとく・・・とは行かないまでも、全力疾走で山を越えようと走っていた。
 急いでマーシャを助け出さなければ!気ばかりが焦る。
「待ってたぜ、ゴメス!」
 そんなゴメスを、すんなりと行かせてくれるわけもなかった。
「ガルード様の命令だ。こっから先は進ませねェぜ!」
 獲物を手に待ちかまえる、ガルードの手下。
 しかしゴメスは、眼中に無いとばかりに速度をゆるめることなく走り続ける。
「どけぇ!」
 野牛の一括。
 手下をハンマーで叩きつけながら、走り抜ける。
「いたぞ〜〜っ!こっちだ!!」
 随所に待ちかまえている手下達。
「行け!逃がすな!!」
 襲いかかる者達をハンマーで蹴散らし、猛進を続けるゴメス。その様はまさにバッファロー。
 もはや、誰もゴメスを止めることは出来ない・・・
「き、貴様がどれほど強かろうとも、ドラコ様に勝てるわけがない・・・」
 手下の一人が散り際の言葉を残す。
 ゴメスにその言葉が届いてるわけもないが・・・
 仮に届いていたとしても、ゴメスの猛進が止まることはない。
「マーシャ・・・待ってろよ!」
 パプカ山の終わりが見えてきていた。

「マ、マーシャ!」
 ペックは、ただマーシャの行方を追うことしかできなかった。
 ガルードの後を付け、ヨークの町まで来たものの、何もできないペック・・・。
 無力さが身に染みる。自分にゴメスほどの力があれば・・・。
「ペック、逃げて!」
 連れ去られようとしている自分のみよりも、ペックの身を心配するマーシャ。
「うるさい、さっさと乗れ!」
「キャッ!」
 ガルードに突き飛ばされ、船に無理矢理乗せられる。
「心配しなくても、あの男には何もしませんよ」
 わざとらしく、優しい言葉をかける。
「あなたを助ける勇気もない男を、わざわざ殺すこともありませんからねぇ。クックックックッ・・・」
 顎で部下に指示を出し、船を出すように指示を出す。
 ゴメスが港についたときには、すでに出向してしまっていた。
「チクショウ!」
 ペックの苦渋に満ちた声が港に響く。
「ペック!」
 出向した船を悔しそうに見つめるペックを見つけ、ゴメスは声をかけた。
「今の船、まさか・・・」
 ゴメスが質問し終わるよりも早く、ペックはせき立てるように事情を話す。悔しさのあまりあふれ出た涙を拭いながら。
「マーシャが連れて行かれたんだ!この船で追いかけようぜ!」
 ペックなりに、マーシャを助け出そうと必死なのだ。それはゴメスにも痛いほど解る。
「おうっ!すぐに追うぜっ!」
 近くに停泊していた船に乗り込み、後を追う。
「よし行くぞ!」
 舵を握る手が震えている。ペックはそれを押さえるのに必死だった。

 島は、不気味な霧に包まれていた。
 ここはドラコの要塞が立てられた絶海の孤島。いや、島全体がドラコの要塞と言って間違いないだろう。
 海賊ドラコ。この名は、ヨークの町を航海する者なら知らぬ者はいない。
 魔晶石を積んだ商船ばかりを狙う海賊。狙われたら最後、一瞬にして粉々にされると言う。
 そんな化物が待つ島へ、正面からなぐり込みをかけようと言うのだ。あまりにも無謀だ。
 しかし、ゴメス達には選択権はなかった。
 マーシャを一刻も早く助け出す。そのためには下調べなどしている暇はない。
「間違いない!マーシャがさらわれた船だっ!」
 島の停泊所には、すでに一艘の船が停泊していた。
「奴ら、この島のどっかに絶対いるハズだ・・・」
 どこか・・・あまりにも曖昧な範囲。だが、確かにこの島のどこかにマーシャはとらわれているのだ。
「・・・考えていてもしょうがねぇか」
 じっとしているよりは手当たり次第に探したほうがはやい。
「ペック、お前はここで・・・」
 待っていろ、そう切り出そうとした時、ペックはすでに答えていた。
「ここで待ってるから・・・ゴメスのアニキ・・・がんばってくれよ!」
 待つように言うつもりだったのだから、問題はないのだが・・・。ペックの態度に、思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「よし、それじゃ行って来るぜ!」
 敵の本拠地。待ちかまえているのは、今までのような雑魚ばかりじゃないだろう。
 船を一瞬にして粉々にすると言われる、ドラコ。
 おもしれぇじゃねぇか。ゴメスはハンマーを握る手にさらに力を入れる。
「絶対、マーシャを助けてくれよ!」
 要塞の中へと消えていくゴメスに、ペックの声援がかけられた。

「貴様のような奴が、来るとは聞いていない」
 要塞の中では、門番が二人待ちかまえていた。
「・・・立ち去れっ!」
 ここまで来て立ち去るわけもない。ゴメスは歩みを止めない。
「貴様っ!」
 あまりにも大胆な行動に驚くも、怯むことはない。
「ドラコ様の敵として排除する!」
 構えたサーベルをゴメスに向ける。
「どけ・・・この俺様に殴られたら、痛ぇだけじゃすまねぇぞ?」
 門番同様、ハンマーを相手に向けて威嚇する。
「貴様には、ここは通させんっ!」
 刹那、門番がゴメスに襲いかかってくる!
「うおぉぉぉぉぉっ!!!
 咆哮と共に、ハンマーが振り下ろされる。
 一撃で、門番の一人が吹き飛ばされる。
 今のゴメスは、手加減出来るほど心にゆとりはない。
「ひっ!」
 残された門番が、短い悲鳴を上げてしまう。
 強い。
 あまりの強さに、腰が引けてしまう。
「どけ・・・」
 再度ゴメスの警告。
 だが、ここで引くわけには行かなかった。
 引けば、次はドラコに殺されるのだから。
「うわぁぁぁぁぁ!」
 ガン!
 門番の運命は、ゴメスを出迎えてしまったときに決まっていたのだ。
「マーシャ・・・」
 ゴメスは再び、探索のために歩き始めた。

 要塞の中腹に向かうほど、敵の数も強さも増していった。
 だが、ゴメスの歩みが止まることはない。
 十何回目の戦闘で、運良く、というべきなのだろうか?虫の息ではあるが生き残った者がいた。
「・・・マーシャはどこだ?」
 ゴメスは押し殺した声で問いかける。
「そこの・・・その先の・・・牢獄に・・・・・・」
 震える手で、ドラコの手下が指さした所にマーシャがいる。
「マーシャ・・・」
 治療の代わりにリカバの魔晶石を渡し、ゴメスは示された方へと急いだ。

 短い通路を通ると、目の前に牢獄が見える。
「あれか!」
 牢獄に駆け寄ったゴメスは、そこでうなだれたまま座り込んでいるマーシャを見つけていた。
「マーシャ!」
 ゴメスの声に、顔を上げるマーシャ。
「・・・ゴメス・・・さん?」
 ゴメスの声に、半信半疑答える。
 そして、涙でぼやけた視界にゴメスの姿をとらえた時、涙がまたあふれてきた。安堵の涙が。
「ゴメスさ〜ん!!」
 ゴメスの元へ駆け寄ろうとした時、マーシャはゴメスの後ろに別の姿を発見して立ち止まる。
「ゴメスさん!!」
 マーシャの声と、迫る殺気に気がつき、ゴメスはゆっくりと振り返った。
 そこには、何度も見、そして何度も殴りつけたかった、嫌らしい笑顔があった。
「生きていたのかゴメス・・・」
 部下達の袋叩きにあい、万が一のために配置したパプカ山の部下達の妨害にあい、この要塞で何十人もの手下と戦闘を繰り広げてきたはずである。生きているはずがない。
 だが、現実は違った。目の前には、幾多もの返り血を浴びたゴメスが立っている。
「ガルード・・・覚悟しな・・・」
 これまでにない形相でゴメスに睨みつけられ、ガルードは震えが止まらなくなっている。
「やっちまえ!」
 だが、気丈にも部下に命令を下す。
 ガルードにも立場がある。指揮官としての立場が。
「今度こそ、息の根をとめてやるぜ!」
 生きていたとはいえ、五体満足であるはずがない。ゴメスを殺るなら今しかないのだ!
「それはこっちのセリフだ!ガルード!!」
 咆哮がこだまする。
 ガルードが引き連れていた親衛隊は、今までの雑魚よりも強い。
 しかし、ゴメスの敵ではない。今までのように一撃とは行かないが、葬るのにさして問題があるわけではない。
「くっ・・・おい!者どもであえ!ゴメスを殺せ!!」
 切り無く、親衛隊は次から次へと沸いて出る。
「ガルードぉぉぉぉっ!」
 親衛隊に阻まれ、なかなかガルードの元にたどり着けなかったゴメスだが、ようやく射程圏内にとらえることが出来た。
「ケ、ケンカをしたら、死刑じゃなかったのかよーっ!!」
 殺られる!その恐怖がガルードを被う。
 今までの威勢の良さが、全く失われている。
 金の力という武装を脱がされたガルードは、今やただの優男にすぎない。
 所詮、この程度の男なのだ。ガルードは。
「残念だったな・・・ここはマデラじゃねぇんだよ!」
 振り上げたハンマーが降ろされる。
 決着はついた。
「く、くそっ、ガルード様がっ!?こんな奴と戦ってられるか!」
 所詮、金で雇われた兵隊だ。主の仇をとろうなどと考える者はいない。
 守る者がいなくなった親衛隊は、散り散りになって逃げていく。
「マーシャ〜〜〜ッ!」
 今までどこに隠れていたのだろうか?唐突にペックが牢屋に駆け寄っていた。
 おそらく、マーシャを心配するあまり、じっと待っているのに耐えられなくなったのだろう。ゴメスの後を、隠れながらついてきたようだ。
「まってろよ!マーシャ!」
 鉄格子の鍵を開けようとするが、興奮して手が震え、上手く開けることが出来ない。
 いや、その前に鍵を持っているわけでもないのだから、開くわけがないのだ。
 やっとマーシャを助け出せる。その興奮が彼の思考を鈍らせている。
「どいてろ、ペック!」
 助走を付け、体当たりで鉄格子をぶち破るつもりのようだ。
 それを理解したペックは、あわててその場を離れる。
 ガシャン!!
 けたたましい音と共に、鉄格子はまるで発泡スチロールのように簡単に砕けた。
 とらわれていたマーシャは、やっと解放されたのだ。
「ゴメスさん・・・」
 言い尽くせない感謝の気持ち。名前を言うだけで精一杯だった。
「遅くなっちまったな・・・すまねぇ」
 ゴメスの言葉に、ただ首を横に振る。
「マーシャ・・・助かって良かったよ・・・」
 もう一人の功労者が、マーシャ声をかけた。
「ペック・・・ありがとう」
 マーシャの顔を見て、ペックもやっと安心できた。
「ドラコがまた、マーシャに悪さするといけない」
 安心したと同時に、いつもの「調子のいい」ペックに戻っている。
「ゴメスのアニキ・・・ドラコをたおしてくれよ!」
 元々は、ドラコがマーシャを気に入ったことから始まった騒動。
 ドラコを倒さない限り、安心できないのは当然である。
 ゴメスは初めから、ドラコを倒すつもりで乗り込んでいるので何ら問題はない。
「おいらはマーシャを連れて、先に船へ行ってる・・・後は任せたぜ」
 ゴメスの返事も待たず、勝手に話を進めるペック。
「さっ!行くぞ、マーシャ!」
 今度はゴメスに声援を送ることなく、そそくさとこの場を離れようとする。
「でも、ペック・・・」
 自分のために、ゴメスが危険な目に遭うのがつらい。
 だからといって、マーシャに何か出来るというわけでもない。
「足手まといになりたくないだろ!?」
 ペックの言うことはもっともだ。しかし・・・戸惑うマーシャ。
「船で待っていてくれ、マーシャ。必ず戻るから・・・」
 ゴメスに促されて、やっとうなずいた。
「必ず・・・帰って来てくださいね・・・・・・」
 ゴメスが力強く首を縦に振るのを見届けると、マーシャはペックと共に船着き場へと逃げていった。
「さて・・・これからが本番だ」
 ガルードなど、ただの小物にすぎない。
本命は、さらに奥で待ちかまえている・・・。

 最深部へ向かうゴメスに、手下達が群をなして向かってくる。
「来やがったな・・・」
 二振りのハンマーへを構えなおし、迎え撃つ準備を整える。
 だが、手下達の様子がおかしい。
「たすけてくれぇぇぇぇぇぇ!!」
 恐怖の絶叫と共に、ゴメスの脇を皆すり抜けていく。
「何だぁ?」
 拍子抜けである。
 ガルードの時以上に、ドラコの親衛隊との激しい戦闘が待っているかと思えば、その親衛隊が皆逃げようとしているのだ。
「ドラコ様が、ドラコ様がっ!まさか、あんな・・・」
 逃げまどう手下達が口々に叫ぶ。ドラコに何が起きたのだ?
「おいっ!ドラコがどうした!」
 逃げる手下の一人を捕まえ、問いただす。
「おまえがドラコ様を怒らせたんだ。もう、今のドラコ様は・・・誰にも止められないっ!!」
 強張った顔をした手下の様子が、怒れるドラコの恐ろしさを物語っている。
「おまえがいくら強くてもだっ!!命がおしったら、早く逃げることだなっ!!」
 敵に逃げることを薦める。それだけ混乱しているとも言えるが、それだけ今のドラコが恐ろしい存在なのだろう。
「上等だ・・・」
 どちらにせよ、ゴメスの腹は決まっている。
 ドラコを討つ。それだけだ。

 今までとはあからさまに雰囲気が違う。
 最深部。ドラコの部屋だ。
 洞窟の中とは思えない、贅の限りを尽くした部屋。周りには、戦利品であろう様々な宝が無造作に置かれている。
「テメェがドラコか」
 船の碇を手に、王座に鎮座している男がいた。
 間違いなく、彼がドラコだ。
「テメェがゴメスか、ずいぶんと・・・俺の計画を、邪魔してくれたようだな」
 王座から立ち上がり、一歩一歩、ゴメスに歩み寄る。
 歩を進める度に、ドス!ドス!と地響きのような音と振動が伝わってくる。
 ゴメスの額から、一筋の汗が流れ落ちる。
「だがここが・・・テメェの墓場だ・・・」
 カッ!
 ドラコの体からまばゆい光が放たれる!
 その光の中にあった人の影は、次第に膨らみ、人ならざる大きさと形を形成していく・・・
「おいおい・・・冗談だろ・・・・・・」
 我が目を疑いたくなる光景が、目の前で繰り広げられた。
「グるルるルるルるルるルるぅぅぅ・・・」
 二首の龍が、そこにいた。
「少しぐらいは、楽しませてもらえるんだろうなっ!」
 変身を終えたドラコが、余裕のセリフ。
「もちろん・・・あの世で語るのに困らねぇくらい楽しませてやるぜ!」
 二首に対し、二振りのハンマーで対抗する。
「あの世で語るのは、お前だゴメス!」
 左の首から、水のブレスが吹きかけられる!
「くっ!」
 かろうじてかわした。が、逆からは強烈な顎がゴメスを襲った!
「ぐはっ!」
 身につけた鎧が貫通してしまいそうなほど、強力にかみつく。
 ぶんっ!
 ドラコはそのままゴメスを放り投げ、壁に激突させた。
「かぁはっ!!」
 衝撃がゴメスを襲う。
 並の男なら、これだけで即死だ。だが、ゴメスの強靱な肉体は、並の人間のそれではない。
 そして何よりも、ゴメスは人間すらも超えた力に目覚めている。
「ほぅ・・・持ちこたえるとは思わなかったぞ・・・」
 人間がここまでやるとは。
 予想以上に持ちこたえるゴメスに対して、関心を寄せてしまう。
「ガルードが手こずるわけだ。これは面白い」
 ゴメスはふらつくことなく立ち上がった。
「なに、これからもっと面白くなるぜ!」
 言いながら、懐から魔晶石を取り出す。
「リーフ!」
 魔晶石の力を借りて、魔法を発動させる。
「何!」
 対してダメージを受けたわけではないが、意表を突かれた。
 そこをゴメスは逃さない。
「うおおおおぉぉぉ!!!」
 ガンッ!
 まずは左のハンマーを振り下ろす。
「ぐっ!」
 続いて、右のハンマーを振り下ろして連続攻撃を喰らわせる!
「くぅ、おのれぇ・・・おのれえぇ!!」
 思わぬ攻撃を食らい、完全に「キレ」た
 そのことが、よりゴメスの形成を優位に立たせる。
「喰らえ!」
 水のブレスが再びゴメスを襲う。
「ワンパターンなんだよ!」
 冷たい息をかわしたゴメスは、反対側から襲い来る右首を待ちかまえていた。
「おぅりゃっ!」
 攻撃を左で受け止め、右のハンマーを目にめがけてハンマーを振り下ろす!見事なカウンター攻撃が炸裂した!
「ぐぎゃぎゃぁぁぁぁぁ!!」
 今までに味わったことのない苦痛。強すぎた龍は、激痛になれていないのだ。
 それが彼の、完全な敗因となった。
「トドメだ!」
 両方のハンマーを高々と掲げ、一気に振り下ろす。
 龍の青い体を、赤く染め上げた。
 ゴメスは大きく腕を振りかざすことで、勝利を宣言した。
「ぐぬぬぬ・・・一人では死なん。この要塞ごと、破壊してやる・・・」
 負けることはプライドが許さない。
「おまえも道連れだッ!」
 咆哮と共に、赤い光の炎に包まれるドラコ。
「なっ、何をする気だ・・・」
 キーンと、甲高い音共に光は徐々にしぼまれ、そして消えた
 ゴゴゴゴゴゴ!
 次の瞬間には、島全体が揺れ始めた。
「・・・そういうことか!」
 天井が崩れ始めた。
 ドラコの要塞は今、崩壊を始めたのだ。
「まずいな・・・このままじゃ生き埋めだ・・・」
 来た道を引き返そうと試みたが、すでに道は地割れし、向こう側に行くこともできない。
「他に逃げ道は・・・」
 辺りを見回すと、さらに奥の方へ続く道が残されていた。
「どのみち、あそこをくぐるしかねぇか・・・」
 危険を承知で、さらに奥へと走り抜けた。
 その直後、ゴメスの後ろでは音を立てて要塞が崩れ果てていた。

 一気に道を走り抜けたと同時に、その道は土砂で埋まっていった。
「間一髪って奴か・・・」
 ふぅ、とため息と共に胸をなで下ろす。
「それにしても・・・ここは?」
 どうやら島の中腹らしいところに出たらしい。
 周りは、来たときと同じように霧が立ちこめている。
 その霧の中から、うっすらと建物が姿を現し始めた。
「何だ?」
 城、というには少々奇怪な建物がそこにあった。
 ゴメスが思案しているところに、何者かが近づいてくる気配を感じ取った。
「誰だ!」
 振り向いたゴメスは、見覚えのある姿を目撃した。
「いやぁゴメスさん。お見事、お見事」
「やるな!ごめす!つよい!つよい!!!」
 そこには、バントロスとガブリ族のサンクがいた。
「お前ら・・・」
 奇妙な組み合わせのハズなのだが、何故か不思議には思わなかった。
「何でお前らが・・・」
 ゴメスの疑問に答えることなく、バントロスは独り言のように語り始めた。
「マーシャさんもペックさんも無事に船でマデラに帰って行ったし・・・これで計画の第一段階も終了ですな」
「第一段階?」
 何のことを言っているのか?全く持って理解できない。
 だが、マーシャもペックも無事なのだということだけでも知り得たのは、ゴメスにとって良い収穫だった。
「フフフ・・・実をいうと、あなたからオーガストーンを取り上げたのも、ドラコを退治して頂いたのも、全て、私の計画どおりなのです!」
 ゴメスのことなどお構いなしに、ここまで順調に事が運んだ自分の手柄を自慢する。
「もちろん、不思議な鬼の像に会い力を得たこともです・・・まぁ、これは運命と、いったほうがよいでしょうね」
 意味は分からないが、ゴメスにとって面白い話ではない。バントロスに操られていた「らしい」事が解れば、誰だった腹も立つ。
「おかげで、この島もキレイに片付きましたし、快適に暮らせますね」
 それでもこの男は、ゴメスが不機嫌になっていることに気にもしない。
「では、あらためて・・・ようこそ、ゴメスさん。私たちの運命の大地へ!!」
 わざとらしく、腕を振り下ろしながらお辞儀をする。
 その道化師的な振る舞いに、とうとうゴメスが怒りだした。
「どういうことだ、一体!?」
 何がどうなっているのか、全く理解できないうえに、この道化。怒り出さない方がおかしいというもの。
「ま、そうカッカしないで。これには深〜い訳があるんですよ」
 なだめるように、バントロスが言葉を続ける。
「実は他にも大勢、あなたと同じ運命の人がいるんです。その人たちをですね・・・」
 ここで初めて、バントロスはゴメスに、これまでのこと、これからのことを語り始めた。その話は、あまりにも途方で、あまりにも唐突な話であった。
「・・・と、いう訳なんですよ」
「な、なんだってぇ〜!」
 話の内容に驚愕し、大声を張り上げてしまうゴメス。
 バントロスがゴメスに語った話は何なのか?
 それはまた、別のお話として語る日が来るでしょう・・・。

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