You're not the only hero

たたかいのいしずえ

「分かった。このディスクにデータを入れてくればいいんだな」

 ハンターギルド。
 一人の新米ハンター、アッシュがラグオルの地に降りようとしていた。
 引き受けた依頼は「データの回収」。
 セントラルドーム周辺にあるコンピューターのデータをディスクに取り込み、戻って来れれば完了だ。
 あの大爆発の後でも生きているコンピューターは多く、人々はそれぞれの目的の為にそのコンピューターのデータを活用している。
 彼のクライアントもまた、そのデータを必要としていた。
 その依頼のクライアントである『ジッド』……実はアッシュのおじである。
 少々心配性な彼は、アッシュに別のクライアントの依頼を頼ませるのが不安でたまらなかったので、自分の依頼を受けさせた、という訳である。
 確かに、アッシュ自体も無鉄砲ですぐに突っ込むという癖があったから不安になるのも仕方ないが。
「ああ、気を付けて行ってくるんだ。危なくなったらテレパイプで帰るか、すぐBEEで知らせるんだ」
 不安を隠しきれず、ジッドは出発前にアッシュに言った。
「おいおい、俺だってもう17なんだ」
 そんなに子供じゃないさ……そう言い残し、アッシュはテレポーターへと乗って行ってしまった。
「本当に、大丈夫か?……何だか嫌な予感がするな」
 何も無ければ良いのだが……ジッドは勢い良く飛び出して行った若い甥をただ見送るしかなかった。

「すげぇな……」
 ラグオル、森エリア。
 コーラルで既に失われた美しい大自然に囲まれた……そこはまさに桃源郷。
 時には蝶が華麗に舞ったりもする、さまに第二の住居に似つかわしい星……だったはずだ。

 惑星「ラグオル」。それは、人類に第2の故郷として選ばれた星。
 かつて人々が暮らしていた本星コーラルは、資源を掘り尽され、大気が汚れ……生命が住めない状態へと着実に近付いてきていた。
 このままでは皆、星と運命を共にするだろう……。そこで、新たなる住居、人が住める別の惑星に移民しようという計画が始まった。
 通称、「パイオニア計画」。先駆者と言う名を抱く、壮大な計画。
 人類の住める惑星を探すために無人探知機が打ち上げられ、また長距離移動が可能の宇宙船……「パイオニア」の建造を始めた。
 そして、打ち上げた無人探知機がとうとう、生命が住む事が可能な惑星を見つけた。
 まるで太古の本星がそのままの姿で残ったかのような、青く美しい惑星……そう、ラグオルである。
 まもなく……移民船第一陣、パイオニア1が多くの人間を乗せて、ラグオルへと旅立った。
 そして、環境を整備し、人々の生活の拠点となるセントラルドームの建設に乗り出したのである。

 長い年月が経ち、移民船第2陣パイオニア2がパイオニア1からの招聘を受けて、ラグオルを訪れる。
 衛星軌道上にパイオニア2が到着し、そして完成したセントラルドームとの通信回線を開く直前。
 惑星表面上に、突如大爆発が発生した。原因は未だに分からない、謎の爆発。
 それから、セントラルドームとの通信は途絶え、今もパイオニア2はラグオルに着陸出来ず、宇宙空間に漂っている。
 調査に出ようにも、軍の装備は殆どがパイオニア1に回され、無力に近いものだった。だが、そんな軍の代わりに調査に出向いた者達がいた。
 ハンターズ。アッシュ達が所属する総督府管轄機関。
 大人数で動く軍とは違い、ハンターズに所属する者は依頼を受け、大抵は個人、または小規模のパーティで行動する。
 少人数なので一見、軍を派遣するより危険だと思える。
 しかし、ハンター達はそれなりの装備を個人で所持していた。そして、何より個人個人の力が軍のそれよりも強力なものがあった。
 今でこそ簡単なテストで手軽に加盟できるハンターズだが、何せ、長年ハンターとして活躍している多くの者はかつてコーラルで傭兵として戦ったきた、いわゆる「闘いのプロ」だったのだから。
 何はともあれ、何も出来ない軍の代わりに、新天地に心躍らせるアッシュ達のような若いハンター。そして長い間大仕事を待っていた古株のハンターが依頼で雇われ、地表に降り立っているのである。
「そろそろセントラルドーム周辺かな」
 襲いかかってくる原生生物をセイバーでなぎ倒し、アッシュは奥深くヘ進んでいく。
 雨が降ってきて大分視界が悪くなったが、どうにか目的地へ着く事が出来た。
 アイテムパックからディスクを取り出し、コンピューターの中へ入れる。
(確か、バックアップを取るんだな)
 コンピューターを操作し、銀色に光るディスクを端末に差し込む。
 キリキリとデータが書き込まれるディスクの音が、雨の音の中、微かに聞こえてきた。
「……よし」
 無事バックアップが終了したのを見計らってディスクを取り出す。
 アッシュには正直この中に何のデータがあるのか、そして叔父がこれを何のために使うのかは分からない。
 だが、別に知る必要は無かった。自分がこれをジッドの所へ持っていけば、依頼は終了する。それだけでいい。
「なんだ、案外楽だな……」
 ディスクをアイテムパックの中に入れ、そして代わりにテレパイプを取り出そうとした。
 テレパイプとは、パイオニア2に繋がる一度限りのテレポーターを生み出すアイテム。これを使えば、わざわざ来た道を戻らなくともパイオニア2に戻る事が出来る優れものだ。
 アッシュはそれを使って、パイオニア2に帰るつもりだったのだが……。
「あれ……?」
 ガサガサとアイテムパックを漁る。
「……え?」
 しかし、アイテムパックにテレパイプの姿が見当たらない。
 出てくるのはモノフルイドばかり。……はっと、アッシュは気付いた。
(……しまった、買うのを忘れたのか)
 ジッドの予感は見事に的中してしまった。
「戻るしかないか……」
 テレパイプが無い今。アッシュには、来た道を引き返すしかない。
 仕方なく、雨に濡れながら酷いぬかるみの道を駆けていく。
 雨はより一層強くなって、土砂降りになっていた。だから、彼は気付かなかった。気付く事が出来なかった。
「グルルルルル……」
 雨に隠れ、背後から忍び寄ってくる、飢えた者達の存在に。

 ……数時間後。

 ハンターズギルドに、漆黒を纏ったハンターが現れる。……若い青年のハンターだ。
 黒の、ローブのような形状のハンタースーツから、彼がテクニックを攻撃の要とするフォースであることを察する事が出来る。
 揺らめく、墨を流したような漆黒の髪。
 その間から覗いている、鮮やかに輝く群青の眼が良く映えていた。
「君が依頼を受けてくれたジェット君か」
 ギルドにはジッドの姿があった。
 部屋は常に適温設定されているはずなのだが、彼は汗を掻いていた。
 表情は平常を保とうとしているようだが、どこか落ち着きがない。
 先程から不安そうに、チラチラと何度も腕の時計で時間を気にしている。
「……」
 ジェット、と呼ばれた青年は何も言わず、表情も変えず、ただ軽く頷いた。
「……実は数時間前、一人のハンターにラグオルのコンピューターのバックアップを頼んだ。しかし、予定時間を過ぎても帰って来ないのだ。何かあったに違いない……今回の依頼はそのハンター……アッシュの救出と彼が持っている『データディスク』の回収だ」
 少々早口な説明で、ジッドは事情を話す。
 成る程、落ち着きが無かったのはアッシュの安否を気遣っていたからなのだろう。
「君一人ではない。あそこにいる彼……キリークの旦那とだ」
「……?」

 ジッドはそう言うと、手招きをしてあるハンターを呼び寄せた。
 ゆっくりとやってきたハンターは、鈍い輝きを放つ紫の装甲に包まれた、男性型の……一般にヒューキャストと呼ばれるアンドロイドだった。
 背丈はおそらく2mはあるだろう。だが、彼の手に抱かれている武器はそんな彼の身長よりも長い……鎌だ。
 弧を描いたその刃は鈍い輝きを放っていた。……フォトン兵器が出回っている今、このように本物の金属製の刃のある武器は殆ど出回っていない。
 それはフォトン兵器が非常に使いやすく、初心者でも手ごろに扱えるからなのだが、金属製刃は殺傷能力が高く、危険。もしかしたら人間同士で……こちらの方が大きな理由となっている。
「ジェット……と言うのはお前か」
 愛想の無い口調で話しかけるキリーク。
 ……冷たい目。その機械の眼には、人間……いや、アンドロイドにもあるはずの「感情」が感じられない。
 ただ、視覚機能が働いている証拠としてアイセンサーが金色の光を放っている、それだけだ。
「まぁ旦那、そう気を悪くしないでくれ。二人いてくれたほうが良いんだ」
「フン……」

 まるで凶暴な猛獣の相手をするように、ジッドはキリークを宥める。
「アッシュの救出とデータディスクの回収を一人でするのは大変な事だろう。どうか協力して依頼を達成して欲しい。アッシュは私の甥なんだ……死なせたくはない」
「……気に入らんのは確かだが、そこまで言うのなら仕方ない。……行くぞ」

 キリークの後にジェットが続き、ギルドを後にした。

「ふぅ……」
 ラグオルへと向かった二人を見送った後、不安が募って少し疲れたジッドはギルドのベンチに腰掛けた。
(……依頼したのは良いが……果たして協力してくれるのだろうか)
 どちらも、あまりフレンドリーな方とは言えない様子だった。
 キリークは自分も知ってはいたが、邪魔だと判断した者には容赦ないし、もう一方のフォースは最後まで一言も話す事が無かった。
「隣、いいかしら?」
 ジッドがあれこれ悩んでいる所に、ふと女性のハンターがやってきた。
 細身のニューマンで、髪は淡い金色。見た目は20歳前半ぐらいと思われる。
 だが、成長が早いニューマンは外見年齢と実際の年齢が当てはまるとは限らない。寧ろ全然違う事の方が多い。
「あ、ああ」
 考え込んでいた時に尋ねられたため、ジッドは慌てて首を上下に振った。
「フフ、ありがと」
 女性は気さくに笑みを浮かべ、ジッドの隣に座る。
「何の依頼かは知らないけど、ジェットはちゃんと果たしてくる奴だからさ。そんなに心配しないでよ」
「え、君は彼の知り合いなのか?」
「もうそれはそれは深い関係なのよ……」

 いやらしい女性の笑みに、ジッドは何となくだがその「深い関係」の予測が付いた。
「そ、そうなのか……。しかし、いつもあんな様子なのか?」
 少し困ったように、ジッドは尋ねた。
 すると、一瞬女性は酷く悲しげな表情を見せた。すぐに、それは微笑に変わったが。
「ごめんね。実は、話さないんじゃなくて……」

「クハハハハハッ!!」
 鮮血が舞う。襲い掛かってきた原生生物達のものだ。
 血だけではない、首、腕、時には臓物……。もはや原型を留めていないような肉の塊が大地に還る。
 咆哮も抵抗も許されず、敵と見なされたものは全てキリークの鎌の餌食となった。
「……」
 後方では、赤いテクニックの炎が次々と襲い掛かるサベージウルフを焼き払っていた。
 ……サベージウルフは、背中を見せると飛び掛ってくると言う習性を持っている。
 普段、それは死角に飛び込まれ、致命傷を受けかねない、対峙する側としては嫌な習性だ。
 しかし、その習性は考えようによってはこちらが有利になる事もある。
 例えば今、ジェットが使用者を中心とし、旋回する炎を発生させるテクニック「ギフォイエ」を使用してから、わざと狼達に背中を向けさせるように。
 狼は勿論、背中めがけ飛び込んでくる。すると、案の定狼達は勝手にギフォイエの炎に突っ込んでいく。まさに、飛んで火にいる夏の虫とでも言うべきか。
 それでも生きている者には、上級テクニック「ラフォイエ」でとどめを刺す。
 自らが放った爆風で長い袖を翻しながら、ジェットはキリークに首元を斬られ苦しく唸る最後の一匹をフォイエで楽にしてやった。
 辺りは、血と、そして肉の焦げた独特の臭いが立ち込めていた。お世辞にも心地良い空気とは言えない。
「申し分ない。足手まといにはならなさそうだな」
 敵を全滅させた後、キリークがまるで品定めするように呟いた。
「……」
 別に何も思わなかった……気にも留めなかったのだろう。
 ジェットはただチラリとキリークを見ただけで、すぐに向き直って先へと進んだ。
 キリークもまた、鎌に付着した血を振り払い、その後に続く。
 アンドロイドに表情は無いはずなのに、リキークは心なしか喜んでいるようにも思えた。
(久々に、楽しめそうな奴を見つけたな)

 何度も同胞が命を落とす場面を見たというのに、狂おしい原生生物たちはそれでもなお二人に襲い掛かった。
 だが、力の差は歴然。多くの原生生物達が屠られた。
 ……二人には、回復テクニックで治せる程度の軽い傷しか付かなかったが。
 そして、より森の木が生い茂り、道が狭くなり始めた場所に差し掛かったころ。
「……む?」
 辺りにはフォトンセイバーによって切り裂かれた、原生生物が転がっていた。
 その傷は、二人ではない、第三者がつけたものだ。もしかしたらアッシュかもしれない。
「うう……」
「!」

 微かに、しかし確かに、耳に届いた呻き声。……アッシュだ。二人は確信した。
「急ぐぞ」
 奥へと二人はより一層足を速めた。
(何か聞こえるな……唸り声?)
 キリークは微かに、森の中から聞こえる音を感じ取っていた。

 やはりアッシュはそこにいた。
 しかし、様子がおかしい。苦しそうに肩で息をしていて、震える両手でわき腹を押さえていた。
「……!?」
 アッシュはこちらに気付いたのか、残った力で起き上がろうとする。
 だが、足が思うように動かず、すぐにバランスを崩してしまう。
「あ、あんたら……何者かは知らんが、気をつけろ……」
 弱々しい声。かなりの深手のようだ。
 わき腹を抑える腕を見ると、指を伝って多量の赤い血が流れ出ていた。
 不幸中の幸いか……急所は免れたものの、このまま放っておけばいずれ失血して命に関わってしまう。
「まだこの奥に隠れて……」
 そんな酷い状態であるのに、彼は必死で何かを伝えようとしている。応急処置をしようと、ジェットは急いでテクニックを唱え始める。
 本来、体力回復テクニック「レスタ」の発動はほんの一瞬で終わるのだが、やけに時間が掛かっていた。
 そんな時、先程からキリークが感じ取っていた唸り声が徐々に、しかし確実に近付いてきていた。
「来るぞ!ソイツは後回しだ!」
 キリークが叫んだと同時に、唸り声の主達が姿を現した。
 4体のサベージウルフ……いや、1体だけ体色が異なっている。
 通常、サベージウルフは草色の体毛を持つ。
 しかし、3体のサベージウルフに守られるように佇む1体は、姿は同じものの、体毛はギラギラと青光りしたものだ。
 バーベラスウルフ、サベージウルフのリーダー格と称されるエネミー。
 能力はサベージウルフを遥かに凌駕しているものの、背中を狙う用心深さは変わっていない……はずだ。
「ウウウ……ウウウウウウウ……!!」
 しかし、バーベラスウルフは血の匂いに興奮し、気が立っている様子。いつもの用心深さはどこに行ったのか、 殺気を撒き散らし、血液の付着した牙を剥く。
 そして一匹が、丁度レスタを発動したジェットの隙を見て、その喉元を噛み切らんとばかりに飛び掛ってくる。
 ……だが、狼は自分の体が不吉な光に覆われ始めていた事に気付かなかった。
「!!危な……!!!」
 思わずアッシュは目を瞑った。
 自分を助けてくれたハンターが殺されてしまうのなんて見ていられなかった。
「オォォォォォーッ!!?」
 しかし、聞こえてきたのはウルフの甲高い悲鳴。
 驚き、再び目を開くと、そこには絶命したウルフが横たわっていた。
「……グランツ……?」
 ウルフの命を奪ったのは、フォース専用のテクニックであるグランツ。
 絶大な威力を誇る最強とも呼べるテクニック。しかし反面……詠唱、発動に時間がかかり、リスクの高いテクニックと言われている。
 キリークと同様、声に気付いていたジェットがレスタの前にこのグランツを唱えていたのだ。
グランツの標的になったのがこのバーベラスウルフだったのは、幸運としか呼べないだろう。
(面白い奴だ……)
「……」

 何食わぬ顔で、既に1匹を仕留めていたキリークに続き、テクニックで応戦した。
「すげぇ……」
 レスタで傷の癒えたアッシュは、ただ二人の戦いぶりに感嘆の声をあげることしか出来なかった。

「有難う、助かったよ。きっとあのままでは俺は……。そう言えばアンタ達はどうしてここに?」
 なんとか落ち付いたアッシュはふと疑問に思い、尋ねる。
「……クライアント、ジッドの依頼でお前の救出とデータディスクの回収を命じられた」
「え……ジッドが……!!」

 キリークの言葉を聴聞き、アッシュはチッと舌打ちし、固い地面を殴り付ける。
「クソッ!!いつまでも半人前扱いか……」
 キリークは原生生物の亡骸の近くに落ちていたディスクを拾う。
「実際に半人前なのだから仕方なかろう。依頼を甘んじた貴様が悪いのだ」
 容赦なくキリークはアッシュに言い放つ。
 反論しようとするが、キリークの言っている事は正しい。ただ言葉を飲み込むしかなかった。
「戻るぞ。この足手まといは俺が連れて行く。お前は先にクライアントの元に戻っていろ」
「くっ……」

 悔しげに歯を食いしばるアッシュを尻目に、キリークは淡々と伝える。
「……お前には見込みがある。この先どう育っていくか、実に楽しみだ」
 そう言い残し、早々とキリークはテレポーターを開いてアッシュと共にパイオニア2へと向かった。
 そして、ジェットもまたその後に続いた。

 ギルドでは、メディカルセンターにまだ行ってないのか……ボロボロのアッシュ、そしてジッドがいた。
「おや、キリークはとっくに報酬を受け取って帰ったよ。あんたより先にな」
 ジッドは「はあ……」とため息をついて、言葉を続けた。
「あんなアンドロイドは初めてだ、殺気すら感じたよ。まるで戦う為に作られたかのようだな……」
(俺から言わせて貰えば、殺気しか感じなかったけどな……)

 密かに心の中でアッシュは愚痴っていた。
「ふう、有難うジェット君。報酬はカウンターで受け取ってくれ」
 コクリとジェットは頷くと、報酬を貰い、立ち去ろうとした。
「あ、あのさ……」
 先ほどまで黙っていたアッシュが口を開いたので、ジェットはアッシュのほうに振り向く。
 突然呼び止められたのが、いささか驚いたようだ。
「本当に有難う。俺も強くなるよ……そして、いつか必ず借りは返す!!」
 すると今まで表情一つ変えなかったジェットはうっすらと微笑み、そしてギルドを後にした。
「あの人、寡黙だな。全然喋らなかったぜ。話すの苦手なのかな」
 アッシュがそう呟いた時、ジッドは先程ギルドで出会った女性の言葉を思い出した。
『ごめんね。実は、話さないんじゃなくて……話せないの。声が出ないのよ』

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