君が憧れた海へ

海が見たい
彼女がそう言った
いつも見てるじゃないか
僕がそう言った
陸から海を眺めてみたいの
彼女は改めて言った
そして僕は何も言わず、彼女を抱き上げた
照りつける太陽と焼ける砂浜の狭間に立ち
僕は彼女に海を見せた
綺麗ね
彼女が言った
海面に煌めく光に目を細めながら
彼女は彼女の海を眺めている
私達はあんなに素敵なところで暮らしているのね
誇らしく語る彼女が少し羨ましかった
僕の陸は彼女の海ほど美しくないから
そんなこと無いわ
彼女は首を振りながら言う
私の海が美しいのは、あなたの陸から見ているからよ
僕の首に回した腕に少し力が入る
陸から眺める海が見たかった
海ばかり見ていては、海の素晴らしさが判らないから
微笑みながら諭しながら、彼女は続ける
海から見た陸をご存じ?
空から見下ろす陸をご存じ?
あなたの陸は、あなたが思っている以上に素敵な所よ
微笑む彼女を見て気付いた
海が美しいのは、彼女のいる海だからだと
では僕のいる陸はどうだろう?
何を言っているの
彼女は尾を振りながら笑った
あなたがいる陸ですもの
海から見たあなたの陸は、いつでも素敵だったわ
彼女を支える腕に力を込め、ぐっと抱きしめる
太陽よりも、砂浜よりも
もっともっと熱い何かが、海と陸の狭間にあった

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