ノルンの階段

ただ、ただ、階段を上る。
早くもなく、遅くもなく。
ただ、ただ、階段を上る。

早すぎたかな?
遅すぎたかな?
そう感じても、歩む速度は変わる事はなく、
朝であれ夜であれ、夏であれ冬であれ
1年前でも10年前でも、
ただ、ただ、階段を上るその速度は
変わる事はない。

変わる事のない階段の駆け上がり。
変わらぬ速度に、違和感はない。
違和感がない事に気づいたとき、
僕はなぜか違和感を覚えた。

そもそも、この階段には一歩先がない。
何もない空間に足を踏み込み、初めて階段の続きが現れる。
普段は気づかずに踏み出す一歩が見えない。
それを自覚したとき、僕は初めてこの階段に恐怖した。

それでも、僕は変わらぬ速度で階段を上がる。
一歩先に不安を覚えながらも、歩みは止まらない。
自分の意志とは無関係に、足は歩みを止めない。

怖がる事はないわ。
傍らに寄り添う女性がささやいた。
彼女は言う。今の自分を信じて踏み出せばいいと。
恐れる事はない。
背中越しに老婆の声が聞こえてきた。
踏み出し作り上げた一歩一歩が僕の歴史なのだからと。
さあ、前を向いて歩き出してよ。
目の前で幼女が手招きをして励ましてくれる。

一歩が今の自分を支え
一歩が過去から僕を励まし
一歩が未来へと続いていく。

ただ、ただ、階段を上る。
上る足を止める事は出来ない。
ならば、前を向いて上ろうじゃないか。
どうせ止まらぬ歩みならば、
心軽くして足も軽やかに行こうじゃないか。
三人の女神がいてくれるなら
笑って階段を上ろうじゃないか。

ただ、ただ、階段を上る。
早くもなく、遅くもなく。
ただ、ただ、階段を上る。
僕は、今も階段を上がっている。

目次へ 目次へ