風が吹いている。
私に向かって。

北風はこう呟いた。
世間は君に冷たいかい?
私は答えた。
世間が冷たくとも、私には人の温もりがありますと。

南風はこう怒鳴り散らした。
怒りは君に熱すぎないかい?
私は答えた。
怒りは熱くとも、私には人の優しさがありますと。

向かい風がこう語りかけた。
壁は君に厳しくないかい?
私は答えた。
壁は高くとも、私には人の努めがありますと。

追い風がこう囁いた。
期待は君に重くないかい?
私は答えた。
期待は重くとも、私には人の愛しさがありますと。

風が吹いている。
私に向かって。
風は私を罵倒し現れ、
風は私を励まし去っていく。
そして風はまた、
私に向かって吹いてくる。

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