サヨナラネコ

少女はその言葉を口にした。
ごく普通に、ごく自然に
彼女は口にした。

サヨナラ

幼くとも、彼女はその言葉の意味を知っていた。
幼くとも、彼女はその言葉の重みを知っていた。

サヨナラ

だけれども、だからこそ、
彼女は笑顔で、その言葉を口にする。

サヨナラ

言葉の先には、天使の羽根を与えられた猫。
猫が何故天使の羽根を与えられたのか、
その理由は判らない。

サヨナラ

ただ少女には、
その羽根には永遠の別離という名がある事を知っていた。
直感していた。

サヨナラ

口にしたのは一度。
心のなかでは数度。
笑顔のままじっと見つめながら。

サヨナラ

だんだんと猫がぼやけて見える
それは猫の旅立ちの現れ
それは瞳の潤いの表れ

サヨナラ

言葉の意味が、現実へと移り変わる。
別れ。
その最後の瞬間まで、彼女は言葉を繰り返す。

サヨナラ

その言葉を置いて他に、少女はかける言葉が見つからなかった。
それは幼いから。
彼女は沢山の言葉を知らない。
彼女は沢山の別れを知らない。

サヨナラ

しかし少女は、別離の刹那に言葉を見つけた。
心の底から、しかし心に止めず。
幼き唇は震えながら、しかしハッキリと。

大好きだったよ。

目次へ 目次へ