「くそったれ!!」
ガイアは、近況を知らせる小型情報端末を片手で握りつぶして悪態をついた。
「何で戦わせてくれなかったんだよ・・・」
「無茶言わないの。アタシたちが生きてるのも、ある意味では奇蹟に近いんだからね」
サイカがそう言うと、ガイアはさらになにかを言おうとしたが、シレルの無言の訴えの前に敗北し、口をつぐんで湯飲みの中身を一口飲んだ。顔はあいかわらず渋面である。
「それにしても・・・ガイア君が狙われたってのは・・・“アレ”のせいなの?」
サイカが話を振ると、ガイアの顔が険しくなった。シレルも、ガイアとサイカとを交互に見ている。
「・・・・ああ・・・・どうやらそうらしい・・・」
ガイアの言葉に、サイカは気難しい表情をして、考え込むようなポーズをとる。
「・・・・・とりあえず、行くアテがないんなら、うちにしばらくいると良いわ。でないと、この辺りも、やつらの勢力内だからね・・・」
サイカの言葉に、ガイアは無言で頷いて、湯飲みを傾けた。顔が渋面に染まる。
「・・・どうでも良いが・・・この飲み物は・・・苦いな・・・」
ガイアは湯飲みの中身、最高級の玉露を飲み干し、顔中に十面を浮かべて言った。
それを受けて、サイカが薄く笑う。
「さぁ・・・?私には、味がわからないからよくわからないわね・・・」
サイカの言葉にガイアが渋面を濃くする。シレルはそんな様子を見てくすくすと笑っていた。
そして、一方、そのころ・・・
−かぽーん・・・・・−
やたら高層型のワンルームに、なぜかししおどしの音が響く。
一面畳張りになっている部屋の外側に石庭が敷かれ、玉砂利が並べられている。床の間が存在し、掛け軸がかけられ、そこには大きな字で“じゃぱん命”と書かれていた・・・。
その“和”(?)の空間の中、正座したレイキャシールが、その場に不釣り合いなロッキングチェアに座ってシリアルを口に運ぶフォマールへと、湯飲みを差し出す。
「・・・って言うわけよ。これで私の過去の話はお終い」
シリアルを口に運びながら全てを語り終えたフォマールは、妙にすがすがしい顔でレイキャシールの方を見る。
「まぁ、飲みなさいよ。サイカから貰った最高級の玉露なんだから・・・」
レイキャシールが薦めるので、フォマールは湯飲みを片手だけになった手で受け取ると、作法も何もなく豪快に喉の奥に流し込んだ。
「・・・・・・・にがぁ・・・・」
フォマールが呟く。レイキャシールが、胸の前で湯飲みを回転させ、ゆっくりと緑色の液体を口元に運ぶ。
「・・・セツにはまだこの世界は早すぎたかもしれないわね・・・“わび”と“さび”の世界は・・・」
それがとても苦かったことを表すかのようにセンサーをぴーんと伸ばしきったままわびさびを語るレイキャシールに、フォマールはくすくすと笑いながらシリアルを口に運んだ。
それを受けて、レイキャシールも笑い始める。
−かぽーん・・・・−
二人の笑い声の中で己の存在を誇るようにししおどしが高らかに鳴り響いていた・・・。
−すぺしゃるさんくす・とりあえずここまで読んでくれた方々−
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