HUNTER DAYS FACTER

夜を刈り取る黒い走狗(イヌ)
意志を遺すものと受け取り誓うもの死を

−BAN!BAN!BAN!!−
−パラララララッ−

 乾いた音と薬莢が床を叩く音だけが通路に響いていた。暗闇に彩られている世界の中、頼り無い明かりを唯一の頼りかのようにして、クーゲルとシグマがそれぞれヤスミノコフとリピーターを撃ちながら後退していた。
「ったく・・・とんだ依頼だな・・・」
「口を動かす暇があるならもっと弾幕を張れ。この程度ではヤツに追いつかれるぞ!!」

 ぼやくクーゲルに対して、珍しく余裕の無い声のシグマ。
 フォトンの弾丸が消えて行く暗闇の向こう側で、殺気が緩やかに膨れ上がっていく。
「来るぞ!!」
 シグマの声に、二人は同時に身を沈める。同時に、ヒュゥッという風を切る音とともに飛来した鎌は、二人の髪の毛をかすめて後方の壁に突き刺さっていた。
「ったくよぉ・・・しつっこいオトコってのは、嫌われるっゼ!!」
 クーゲルが怒鳴るようにしてヤスミノコフを上に投げ上げ、瞬間的に腰のレバーを引いた。
 クーゲルの背中に当たる部分から軽く煙が上がり、戒めを解かれた巨大なバズーカのようなものが回転するようにその右の手に収まる。
「good night baby!!」
 小さくそう呟くと、クーゲルは両手でバズーカのようなもの、正式名称“フレイムビジット”を強く握り、暗闇の中の敵に向かって撃ち出した。
−・・・ゴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン・・・・−
 轟音とともに炎の舌が辺りを埋め尽くし、クーゲルはヤスミノコフをキャッチすると慌てて後退する。シグマもそれに習って後退した。
「どう思う・・・?」
 シグマの言葉にクーゲルは苦笑いを浮べていた。
「・・・ったく・・・つくづく、Cool・・・だよナァ・・・全然効いてねえんでやんノ・・・」
 炎の治まり切った先で、殺気に満ちた眼光が二つの影を捕捉した。

「ジュエル・・・・・まさか貴方が負けるなんてね・・・」
 子供のように小さくか細い呟きを漏らしながら、セツはジュエルの首を抱きしめる。
「馬鹿・・・・なんで死ぬのよ・・・」
 抱きしめるセツのその瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。それを見ていたシレルの瞳に決意の光が灯る。
「セツさん・・・あなたは逃げてください・・・」
 セツにそう言うと、シレルはライフルを構える。
 通路の奥にある扉の向こうで駆動音が聞こえていた。
「おそらくギャランゾタイプだと思われます。私はマスターを探すためにこのエリアを探しますので、セツさんは逃げて新たに救援を要請してください・・・」
 シレルの言葉に、セツは動かず、淡々と告げた。
 セツの瞳に映るシレルの姿が、いつもすぐ隣に佇んでいるはずのレイキャシールのそれと重なる。
「戻ろう・・・シレルちゃん・・・クーゲルたちのところへ・・・」
 セツが下を向いたままそう言って立ち上がった。ぎゅっと抱えたままのジュエルの頭部に、セツの瞳から溢れた雫が筋を作る。
「今の私は・・・そんな雑魚を殺してやるほどヒマじゃないんだ・・・」
 セツの言葉が終わるよりも早く、扉の向こうの駆動音は止まり、冷ややかな冷気が扉の隙間から噴き出していた・・・。
「あの走狗(イヌ)に教えてやる・・・私を怒らせた愚かさを・・・!!」
 今やセツの周囲の空気がまるで凍りそうなほどに冷たいものに変わっていた・・・。

「・・・ぐぅっ・・・」
 床に横たわり、呻き声を上げる影が二つ。一人はクーゲル、もう一人はシグマである。
 二人とも、身体に鋭利な刃物で抉り取られたような傷を受け、床に血溜まりを作っていた・・・。
「モウ終ワリカ・・・?」
「ざっけんなヨ・・・」
「・・・ぐぅぅっ・・!!」

 キリークの言葉に、クーゲルもシグマも立ち上がろうとするが、それもおぼつかないほどに、傷は深いようだった。
 そんなシグマたちの様子を見下ろすようにして、キリークが愉快そうに笑う。
「オ前タチハ運ガイイ・・・死ヌ前ニ痛ミヲ感ジテ死ネルノダカラナ・・・」
「・・・もはやここまでか・・・ならば・・・死に顔は晒さぬ」

 シグマが今度こそフレームを自爆させるスイッチを押しそうになった瞬間、その声はやって来た。
「キリーク!!」
 声と同時に向けられた殺気に、キリークが嬉しそうに笑った。
「クハハハハッ!!クハハッ・・・クハハハハハハハハハッッ!!!」
 狂ったように笑うキリークを一筋の眼光が射抜く。瞳には決意の光を浮かべ、両の拳を握り締めている・・・。傍らに立つのはシレル。その腕にはジュエルの首が大事そうに抱かれていた。
「ソウカ・・・最後ハ貴様カッ!“死を呼ぶもの(エンドブリンガー)”」
 キリークの笑い声を受けて、セツは声の限りに叫んでいた。
「走狗(イヌ)が・・・。・・・貴様の回路の隅々までに叩き込んでやる!我が心は曲がることの無い一本の槍、決して何者にも負けず!退かず!貫くのみだってことを!!」
 セツが首から下げたペンダントの、下げられたボールを握り、強く叫んだ。
「プロテクト解除!!」
 瞬間、まばゆい光がセツを包み込み、その光の収まった後には、奇怪で異様な雰囲気の、脈打つスーツのようなものに総身を包んだセツが立っていた。
「・・・本気ニナッタカ・・・"エンドブリンガー"!!」
 キリークが嬉しそうに瞳を狂気的に歪めてくつくつと笑う。その手に光る鎌が、先ほどの戦闘で吸ったシグマとクーゲルの血を鈍く光らせて見えた。
「貴様だけは、絶対に許さない!!」
 セツは、一般の人間ならば卒倒しかねない程の鋭い瞳でキリークを睨み、総身を守るスーツ、“寄生装甲ネルガル”の上から額に触れた。
 カシャッっという軽い音とともにバイザーが下り、その目を保護する。
「さぁ・・・始めようか・・・」
 肉食獣のような獰猛な気配をその身体から放つセツは、そう言って愉悦の表情を見せた。

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