HUNTER DAYS FACTER

新人とベテランと
続・ココロの闇に巣食うもの
後編

「・・・しっかりついて来なさいよ・・・!」
 後ろから付いてくる二つの気配を放り出し、サイカが音もなく疾走する。
 目標はふたつ、目の前に居る人型機械ギルチックと、その集団に詰め寄られようとしている一人のヒューマーらしき青年。ギルチックが青年に殺到する事を止め、サイカの方に向き直った。
 どうやら、ヒューマーよりも近い位置にサイカが侵入したらしい。
「遅い遅いっ!!」
 軽い調子で言うと、サイカが腰に付けられた双つのセイバーのようなものを引き抜き、胸の前でお互いの柄の根をくっつける。と、そのセイバーの柄が元々そうであったかの様に一つになった。
「さーて・・・久々に暴れちゃいましょうかぁ☆」
 両端に迸るフォトンの輝きを弄びながら、サイカが獲物を見つけた鷹のような目つきを見せた。

 ヒューマーの青年は一人でこの場に来たことを激しく後悔していた。
 元々、ハンターズの一員になるべき度胸など持ち合わせていなかった。
 憧れは憧れで終わって置けばよかったと激しく後悔していた。
 居並ぶギルチックに困窮して、青年は、自分の手元を見た。
 アディションスロットが4つ空いているフレームに収められたGパーツ,タイプアーム/ゴッドアームによって、かろうじて装備できているヴァリスタと呼ばれる小銃。唯一の攻撃力の要。
 しかし、この大群を捌き切れるとは到底思えなかった・・・。
「ああ・・・こんな機械の中で屍を晒して死んでいくなんて・・・ボクの人生って・・・」
 涙を次々溢れさせ、青年は号泣する。しかし、人情の機微などはギルチックが理解しようはずも無い。
−がつんっ−
 急にやって来た鈍い痛みとともに、ギルチックの一撃で青年は弾かれて転がった。装備していた高性能の盾と、体力増加用ドーピングマテリアルのおかげで、何とか死だけは免れたが、ダメージの大きさに動くことはおろか、立ち上がることさえおぼつかない。
「お父様、お母様。先立つ不幸をお許しください・・・」
 青年が瞼の母親と父親に別れを告げる間に、ギルチックの動きが急変した。一斉に青年に背を向け、逆方向に殺到する。
「雑魚ザコぉっ!!」
 女性の声が響き、ギルチックの一体が派手に吹き飛んだ。真っ二つに両断されたそれは、寝転がる青年のすぐ横に飛んできて、金属質の床を大きくをバウンドして爆発、四散する。
「神楽流双剣術!転舞昇華(てんぶしょうか)!!」
 一際大きな声とともに、ギルチックの一団が吹き飛ばされて転がった。
 爆炎が辺りを包む中、一人の女性が倒れている青年の前に立つ。白い肌を辺りに見せ付ける様なコスチュームの端々に、青年には理解不能な装置をつけた風体は、戦火をくぐったベテランの様相を思わせるに十分な迫力を秘めていた。
「大丈夫?・・・なワケないか☆」
 一寸、おどけたように笑顔を見せると、その女性は青年に向かって手を突き出した。
「テクニック発動!、レスタ!」
 緑色の淡い光がその掌から溢れ、青年の傷を癒していく・・・。
 やがて完全に傷の治療が終わったとばかりにその女性が掌を離したときには、青年に疲労も痛みも残ってはいなかった。
「あ、ありがとうございます・・・」
 素直に礼を言う青年に、女性は笑顔を見せた。
「いいのいいの♪私もキミに聞きたいことがあるから☆」
「聞きたいこと・・・?」

 オウム返しに聞き返す青年の足元に転がるヴァリスタを拾い上げ、女性はしげしげと眺めた末に右手で軽々と握りつぶした。
 ぐしゃっ、という音とともに金属片が辺りに散らばる。驚いたのは青年だ。助けてくれた命の恩人の行動に、思いがけず狼狽するばかりである。
 おろおろとしている青年に関係なく、その女性は興味もなさそうに残骸になったヴァリスタを放り出し、青年の顔を上目遣いに見上げる。銀色の髪の間から覗く瞳に、青年が一瞬目を奪われる。
「このヴァリスタ、どこでどんなヤツに貰ったの?お姉さんに教えてくれないかな・・・?」
「も、勿論いいですよ!教えますとも!!」

 青年が、鬼の首でも取ったかのようにべらべらと話し始める。
「コレ、ボクの友達がチーム組んでみんなで作ってるんです! 軍部の試作品とか勝手に持ち出すのなんか訳ないですし、量産して、みんなで使ってるんですよ」
「へぇ・・・でも、それって、非合法違法品って事じゃないの?」

 女性の言葉に、青年が馬鹿笑いを始める。
「そんなナンセンスなこと言う人まだいたんですねぇ・・・。だって、そうでもしないと生き残ることなんてできませんし、第一、バレなきゃいいんですよ」
「そっかぁ・・・でも、そんな物を作れるなんて、貴方のお友達って凄いのねぇ・・・」

 女性の言葉に青年が自分の事のように話し始める。
「実は結構レベルの高いフォースなんですよ。フォニュームって言うんですか?あれ。お姉さんも強かったですけど、アイツも強いですよーいつもは・・・」
 べらべらと良く喋る青年からフォニュームのいる場所を聞き出すと、その女性は柔和な笑顔を青年に向けた。
「そういえば、お名前、聞いてなかったわね?」
「あ、ボクはダイヌムって言います。ヨロシク」

 すっかり打ち解けたように手を差し出す青年に、笑顔を返しながら、その女性は言った。
「そう・・・いい名前ね・・・おやすみ、ダイヌムくん」
 不思議そうな顔をダイヌム青年が見せた瞬間、すぐ隣のブロックに通じる通路から飛び出した軍服の少女に肩を打ちぬかれ、なす術もなくダイヌムが転がった。
「ゴメンねぇ・・・。まあ、ホスピタルには連絡しておいてあげるから、そっちでゆっくり療養しててね☆」
 悪魔のような笑みを浮かべると、その女性はリューカーのゲートを開いて、その中にダイヌムを蹴り出した。ダイヌムの姿が完全に消えてなくなると、その女性の姿が見る間に縮んでいく。
 髪の長さも縮んでいく背の丈にあわせて短くなっていき、色も緋色に変わって行く。
「ふぅ・・・”銀髪”のモードは疲れるわ・・・」
 肩を大きく回して疲れている様子をアピールした後、少女の姿に戻った女性、サイカはマコトの方に向き直った。
「あう・・・いいのかな・・・あんなことして・・・?」
 マコトが眉毛を八の字に曲げて、そんな言葉を漏らした。しかし、サイカは構わず手をぱたぱた振ると、
「いーのいーの☆さっき聞いた話によると、あのダイヌムって子も間違いなくグルだ
から♪」

と言ってのける。これにはマコトも言葉を失うばかりだ。
「そういえば、ソフィアはどうしたの?」
 ぷるぷると首を横に振るマコトのはるか向こう、隣のブロックから、件のソフィアの悲鳴が聞こえてきた。
「サイカさぁ〜ん!助けてよぉ〜〜〜。コイツってばチョーウザい!!」
 隣の区画で、ヒュンヒュンと飛び回るカナディンを相手に狙いもつけずに銃を乱射し、微妙に尻上がりの言葉で助けを求めるソフィアに、サイカが肩をすくめて隣のブロックに向けてダッシュした。

「はいはい、いらっしゃい! いい武器そろってるよ!!」
 ハンターズ専用区画の一角で、今日も威勢の良い声が響く。
 ひょろ長いフォニュームと、太っちょのレイマーが二人、並ぶようにして床に様々な武器を並べて、露店よろしく口上を上げていた。
「さあさあ、掘り出し物のスプニ(スプレッドニードル)もあるよ〜!!」
 大勢の新人ハンターズが集まる中、一人のハニュエールが商品のひとつを手にとって眺めていた。太っちょのレイマーがハニュエールに近づき、営業スマイルを向ける。
「お客さん、お目が高い。どうです? 本店自慢の軍部試作段階の赤いハンドガン」
 ハニュエールは太っちょのレイマーの方を一瞥して、ハンドガンを返した。
「このハンドガン・・・高性能リミッターを掛けてあるわね・・・しかも、この性能値。まっとうな品物なの?」
 ハニュエールの言葉に、太っちょのレイマーが言葉を失い、砂糖に群がるアリの様な状況だった新人が、一斉に退いた。
「まっとうな品物じゃなかったらどうだと言うんですか?」
 緊迫を破ったのはひょろ長いフォニュームの方だった。しかし、居直り強盗のような態度ではなく、務めて冷静な態度である。
「確かに、非合法ではありますよ? でも、生きるか死ぬかの戦いで、非合法の武器で戦っても、文句なんか出ませんよね? 使わなきゃ死ぬんですから・・・」
 フォニュームの言葉は至極当たり前の理屈だが、極論だった。だが、経験の浅い新米ハンターズには、十分な意味を発揮するようだ。退いていたハンターズが近づきそうな勢いを見せる前に、今度はハニュエールの方が動いていた。
「だったら、ここにいた、みんなはそれを知っていたのかしら? 今まで誰も知らなかったでしょうね。非合法品の武器を使用して、それがラグオル軍部、政府に知られたら、苦労して取得したハンターズたちのライセンス剥奪っていう事実だって、新米の人たちにはあんまり知られてないことだもの・・・」
 新米のハンターズたちがざわめき、太っちょのレイマーが慌て始めた。ひょろ長いフォニュームも、冷静さを装っているだけで、内心は動揺しているのかも知れない。
「知っている人たちの方が多いですよ。ここの人たちはたまたま知らなかったんでしょうね」
 いけしゃあしゃあと言い放つフォニュームに、ハニュエールが手招きした。
「じゃ、この人は?」
 ハニュエールの手招きに応じて人込みの中を抜けて現れた人物に、フォニュームが愕然とした表情を見せた。
「貴方のところの武器を使ってた、ソフィアちゃん。言い逃れ、できる?」
 勝ち誇ったように言うハニュエールの目の前で、フォニュームが哄笑した。
「いやいやいや・・・大したものだ。サイカさん・・・」
 名も知らないはずの相手に名前を呼ばれたことで動揺した次の瞬間、サイカのこめかみに向けて、小銃が向けられていた。辺りを見ると、周囲に居た新人、総勢10人程がこぞってサイカに銃を向けている。
 ここに来て、サイカは自分が嵌められたと気がついた。
「・・・ゴメンねぇ・・・オバサン☆」
 小銃をサイカのこめかみに向けたまま、ソフィアがクスクスと笑ってみせる。
「・・・なるほど・・・こっちの動きはもとから筒抜けだったってワケ?」
「そーなの。助けを求めたのも芝居だったってワケ☆」

 サイカの言葉にソフィアが答え、フォニュームが頷いてみせる。
「いやいやいや・・・例の”組織”に私たちが狙われる危険もあったんですが、これで解決した。何しろ、組織から抜けた危険人物、”銀髪の悪魔”の首を持っていけば、あの組織も私たちを迎え入れてくれるはずですから・・・」
 気味の悪い笑い声を響かせて、フォニュームが合図した。
「ごめんねぇ・・・オバサン。レアアイテムのために・・・死んでちょーだい☆」
 一斉に引鉄が引かれる、その瞬間、
「外さない!外せない!外すかぁー!!」
 無茶苦茶な三段活用とともに、空中から無数のフォトンの弾丸が飛来し、新人の銃を次々に跳ね飛ばした。
「な・・・」
 驚きに目を見開くソフィアの隙を突いて、サイカが動いた。瞬時に身を沈めて拳銃の射線から外れ、ソフィアの足を払う。そしてそのまま回転し、遠心力を乗せた回し蹴りを空中に浮かんだソフィアのどてっ腹に叩き込み、太っちょのレイマーめがけて吹き飛ばした。
 レイマーとソフィアはそのままもつれ合って気を失い、残ったフォニュームにも、地面に転がった小銃を拾い上げたサイカの照準が正確に付いている・・・。
「形勢・・・逆転♪マコトちゃんサンクス♪さっすがクーゲルのお墨付きなだけあるわ〜☆」
 軽くウィンクを向けるサイカの後ろでは、空中から弾丸とともに降りてきたマコトが、両手に構えたハンドガンと、小銃を利用した格闘術で新人ハンターズを全てなぎ倒していた・・・。

 翌日にも軍部に引き渡されることになったフォニューム、名前をコランダムというこの男の下に、サイカは再びやって来ていた。
「はろ〜♪調子はどう?」
「・・・勝者が敗者に何の用です?」

 自嘲的に笑って、コランダムがサイカの方を見る。サイカはそれに構わず軽く笑って見せた。
「アンタのやってることは、間違ってたけど、良い事だった。新人が死んで行くのが嫌で、それで自分で強力な武器の模倣品を作ってたんでしょ?」
 サイカの言葉に、コランダムはさらに自嘲気味の笑みを強くした。
「よしてくださいよ。私は、自分が神様になったような気で居た単なる馬鹿なんですから・・・それよりも・・・」
 コランダムは自嘲気味の笑みのまま、サイカの方を向いた。
「サイカさん。私を止めると言うことは、貴方は何か考えがあるんでしょうね?新人が無駄に死なないような良い考えが・・・」
 コランダムの言葉に、サイカは微笑んでいた。
「良い考えならあるよ♪ もちろん」
 翌日、フォニューム、コランダムとレイマー、ジルコンの二人組はソフィア、ダイヌムとひとくくりにされて、JOKERに引き摺られ、ラグオル軍部の方に連れて行かれることになった。

 そして・・・
「いいかぁ?へっぽこども!銃を撃つときには腰を落として狙いをしっかり定めるんだ!」
「テクニックは効果的に、後方支援ができるのは私たちなんですからね」

 ハンターズ専用区画の一角で、百戦錬磨のハンターズの声が響く。
 サイカが提案した、”初心者の館”と名づけられたこの区画では、初心者のためにベテランのハンターズがラグオルをついて回りながら教え、一人でも戦える一人前になれるように修行をさせるシステムを用いて、新人とベテランの交流を行っていた。
「新人は、良い師匠に出会って、実力をつける。ベテランは、弟子に教えながら自分の実力をさらに伸ばす!一石二鳥ってね☆」
 初心者の館に集う多くのハンターズを迎えるように、ラグオルの地表を恒星が照らしていた・・・。

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