HUNTER DAYS FACTER

新人とベテランと
続・ココロの闇に巣食うもの
前編

 新米のハンターズを狙って非合法アイテムを扱う輩が出てからしばらく・・・。
 サイカの元に、一人の珍客が訪れていた。
「・・・え〜と・・・誰だっけ?」
 サイカのそんなズレた言葉にも反応せず、そのハニュエールは神妙な面持ちでサイカの方を見た。
「・・・忘れちゃったんですか・・・?あれだけの事をしておいて・・・!」
 ハニュエールの言葉にサイカの目が点になった。
「・・・・・・・・・え゛?」
 ぎこちない言葉でどうにかそう絞り出すと同時に、背後の方で“ガチャン”という硬いものが割れるような音がした。
 サイカが嫌な予感に振り返ると、そこには信じられないと言った顔の美和が、淹れたての紅茶のカップを落としたまま立ちすくんでいた。
「・・・そんな・・・お姉ちゃん・・・」
「ちょっ・・・美和!!」

 慌てて止めようとするサイカよりも早く、美和が泣き始める。
 居住区に、美和の大声とサイカの醜聞が響き渡っていった・・・。

「えっと、・・・じゃあ、アンタがあのケバい顔だった新米ハンターなの?」
「・・・ケバいは余計です・・・」

 拗ねた様な顔でそう言って、ソフィアと名乗ったハニュエールは新しく注がれた紅茶を一口飲んだ。
「・・・で?」
 サイカの目が鋭い光を放つ。これ以上無いほどに細まった目からは今にも殺気が零れそうな勢いである。
 怪しんでいる。それを思いっきり表したサイカの態度に、ソフィアが軽く引いた。
 何から言い出そうか迷っているような素振りの後、ゆっくりと、決意の眼差しでソフィアはサイカを見た。
「・・・実は・・・」

「って、ワケ」
 サイカの言葉にクーゲルが“へー”と気のない相槌を打つ。
 サイカはソフィアの説明を聞き、JOKERたちハンターズの集まる専用区画へ転送して来ていた。
「つまり、あの非合法アイテムを配布してるやつらはまだくたばってなくて、あの嬢ちゃんがそいつらのアジトを知ってるってワケか? で、やつらを潰しにいくってコトか?」
 クーゲルが反芻し、サイカが満足そうに頷く。
「・・・成程、言いたい事はわかった」
 仏頂面のままJOKERが軽く頷く。
「じゃさ、援護役に、クーゲル貸して♪」
 意気込んで言うサイカに、JOKERが首を横に振る。
「生憎とこのバカにも仕事が入ってるんでな」
「ま、そーゆーコトなんダ。諦めてくれヨ!」

 JOKERの言葉に、クーゲルもそう言って銃を背負ってみせる。
「そっかぁ・・・雪にも連絡付かないのよね・・・まいったな・・・」
 サイカが困ったように腕を組んで唸り始めた。
 無論、サイカ一人だけでもどうにか出来る話ではある。だが、それはあくまでサイカ一人で作戦を行ったら、である。美和はともかく、ソフィアは傍目に見ても素人で戦闘能力は歴然としている。
 ソフィアの身を守りながらでは明らかに不利だと、サイカは感じていた。
「え〜っと、つまりレンジャーならいいわけカ?」
 クーゲルの言葉に、美和が頷く。するとクーゲルは軽く手を叩き、言った。
「だったら、紹介してやるヨ!レンジャー能力しかとりえもねーガ、腕はオレが保証するゼ!」
 親指をびっと立てながら言うクーゲルに、サイカも美和も、ソフィアも目を大きく見開いていた。

「ここで待ってナ!すぐ戻ル」
 クーゲルがそう言ってサイカたちを連れてきたところは、ラグオル軍部の占有区画手前の転送装置だった。
「一体誰を連れてくるのかね・・・?」
 サイカが周りをきょろきょろと見回しながら呟く。どこもかしこも軍部の制服を来た連中で固められ、息もできないほどの圧迫感が辺りを支配している。
 隣を見ると、美和もソフィアも緊張の面持ちで直立不動の姿勢を保っている。
「よーす。待たせたナ!・・・どーした?」
 5分ほどの後、転送装置から出てきたクーゲルが見たのは、まるで1年はそこに立っていたんじゃなかろうかと言うほどに疲弊した3人の姿だった。
「い、いいから。それで、その当てってのは?」
 サイカが疲れ果てた声で言うと、クーゲルが横にスライドする。
「ほれ、こいつがオレの推薦。愛弟子のマコトだ」
 クーゲルの声に、陰に隠れて見えなかったその人影は、ぺこり、と御辞儀をひとつした。
 レイマール・・・最近新たにラグオル探索のハンターズに登録申請が可能になったと聞いていたが、サイカ自身、目にするのは初めてだった。そして、ラグオル軍部の制服を来たその姿は、紛れもなく少女のものだった。
「・・・あう・・・はじめまして、マコトです・・・」
 引っ込み思案な少年少女よろしくクーゲルの陰に隠れるマコトに、サイカは疲れた顔でその場に突っ伏した。
「大丈夫なんでしょうね・・・」
 サイカの疲れ果てた声に、クーゲルが笑顔で言った。
「任せとけヨ!言ってるだろ?腕だけはオレの保障つきだ!」
「ホントに・・・頼むわヨ・・・」

 疲れ切ったサイカの声は、誰にも届かなかった。

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