HUNTER DAYS FACTER

とあるハンターズのお話

 それは今よりも前の話・・・
 あるところに、少女がいた。
 ごく普通の家に生まれ、ごく普通に市民として育ち、パイオニア2の居住区から見える宇宙の光景を見てすくすくと育った。少女は、珍しいものを見るのが好きだった。
 父親はその少女の笑顔を見るためにハンターズに登録をした。ラグオルにはたくさんの遺留品があり、それは少女を果てしない夢の世界へと駆り立てた。
 父親は来る日も来る日もラグオルで危険を顧みず戦った。それは市民のためではなく、娘の笑顔を護るためであった・・・。
 しかし、その生活もあるときを境に停滞を見せる。レイマーの父親が、ラグオルで事故に巻き込まれ片腕を失ったのだ。その事故をきっかけに、運命の歯車は回り始める。少女は親の庇護下を離れ、一人ラグオルに降りるためにハンターズとして登録する決意をした。
 それは父親のためでも他の市民のためでも無く、自分自身のために・・・ 
 強い決意を胸に、少女は歩き始めた・・・。

<ラグオル森林区画、エリア1>
 穏やかな日の射す中を、3人のハンターズがエネミーと戦っていた。
「SAY! HOOO!!」
 軽快なリズムに合わせて歌うように、クーゲルは何かを口ずさみながら銃を放つ。
「調子こいてるんじゃないの! 馬鹿!!」
 クーゲルの横から走りこんだレイキャシールがクーゲルの前に立ちはだかるようにして右腕を振るう。金属をこするような音を立てて、ブーマの爪がレイキャシールの右腕に阻まれていた。
「甘いのよ・・・」
 レイキャシールが左の手で右腕の立てた肘の辺りに触れる。かすかな金属音を響かせて、ブーマの爪が手首の辺りを含めて細切れに切り刻まれた。
「秋姉・・・相変わらずえげつない武器だなぁ、そりゃあよぉ・・・」
 クーゲルが感心したような呆れたような複雑な声を上げる。秋姉と呼ばれたそのレイキャシールはあまり感心がなさそうにクーゲルから目線をそらすと、今しがたブーマの手を切り裂いた武器、<シノワビートブレード>でブーマの腹部を切り裂いた。紫色の体液にまみれて、秋姉のイエローメタリックの外装甲がマーブル模様に変わる。
「まぁ、一応サンキュ! 愛を感じたぜ!」
「あらそう? 私は愛を送ったつもりなんかないけどね」

 クーゲルの言葉に素っ気無くそう返すと、秋姉はもう一つのエネミーに向かって走る。行く先は後方、自分たちが戦っていた前線から外れた先に、モネストが降りてきていた。
「きゃー!!きゃー!!」
 悲鳴を上げながらハンドガンを手当たり次第に乱射しているフォニュエールがいる。どうやらモスマントの数にパニックに陥った様子だった。
「クッ・・・」
 秋姉が両腕をだらしなく下げる。両腕の外側から蒸気のようなものが噴出し、地面にシノワビートブレードが転がった。
「マナ!伏せて!!」
 秋姉がそう言って両腕を背中にまわすと、背中に背負ったバックパックを二つに割って両腕にそれぞれ装着する。
「は、はい!!」
 マナと呼ばれたフォニュエールがその場にしゃがみこむように伏せた。
「LOCK ON!!」
 秋姉が両腕をあわせるようにして、モネストとその周りのモスマントに狙いを付ける。秋姉の両腕が巨大なバズーカ、<インフェルノバズーカ>の形をとっていた。
「Fire!!」
 空気を震わせて焼夷徹甲弾が発射された。反動で秋姉が大きくよろめく。巨大な弾丸はモネストの中心に見事にぶち当たり、周りに炎の嵐を巻き起こす。モスマントが次々に炎に巻かれて燃え尽きていく中、マナが地面を這うようにして秋姉のもとまでやってきていた。
「し、死ぬかと思いました・・・」
「死にはしないわ。ちゃんと計算して撃ったもの」

 秋姉がしれっと言う。マナが今にも泣きそうな顔をしているのを見て、秋姉が表情を緩めてマナの頭をぐしぐしと撫でる。
「さて、いったん戻ろうか?」
 秋姉に撫でられていた頭に手を添えて、少しうつむいていた顔を上げると、マナはきっぱりと言った。
「いいえ、行きましょう!」
 秋姉が満足そうに頷く。と、今まで何処にいたのか判らなかったクーゲルが、不意に炎の中を渡ってこちらにやってこようとしていた。軽く炎の方を振り返ってニヒルに笑う。
「アスタ・ラ・ヴィースタ・ベイヴィー(地獄であおうぜ、ベイビィ)」
 秋姉は無言でクーゲルに歩み寄るとその後頭部にバズーカによる縦打撃をお見舞した。

「うううううううううううううううう・・・・」
 少女が唸っている。体中に力を込めて、全体の力を一心にその細い腕に集めて・・・
「ううううううううううううう・・・・・!!」
 少女の想いとは裏腹にピクリとも持ち上がらないその大剣を見て、熟練と思しきハンターの男が、そっと少女の肩に手を添える。少女がビクッと身体を縮ませて、ハンターの男をすがるような目で見た。ハンターの男は残念だといわんばかりに首を横に振る。少女は絶望感に打ちひしがれた表情のまま、その場を後にした。
 その手の中の、“ハンター適正不合格”と書かれた書類が風に揺れていた。

<ラグオル洞窟区域・エリア2>
 氷に囲まれるという形容が当てはまるこの洞窟で、ハンターズは今日も戦い続ける。
「オン・アミリタ・テイゼイカ・ラ・オン!!」
 洞窟の中に東洋の密教真言が響き渡る・・・。
「マーリーチャよ!諸天の加護をもって我を守れ!天水権現急々如律令!!」
 銀髪のハニュエール、サイカの言葉に答えて、その傍らを飛んでいたマグがその姿を変える。と同時に付近から水柱が上がり、虹色の空間の中を水が埋め尽くす。その水に支配された空間内を、巨大なオルカに変貌したマグは自在に動き、エネミーを次々に叩きのめしていく・・・。
 そして、光と水が収まった後にはエネミーの姿は消えてなくなってしまっていた。
「楽勝、楽勝♪」
 サイカが軽くそう言って、持っていた如意棒をバトンのようにトワリングさせた。一連の様子にすぐ傍らのフォニュエールが目を輝かせている。先ほど森林区画にいたフォニュエール、マナである。
「マナ殿、くれぐれもサイカ殿の真似をして、命を危険に晒さぬよう・・・」
 マナの傍らにいつの間にか立っていたレイマーが、仰々しくそう言う。それを聞いてサイカが膨れて見せた。
「ぶぅー。いいじゃないのぉ〜、別にぃ。シグちゃんには関係ないでしょ? これが私の戦い方なんだから」
 サイカの言葉にレイマー、シグマは別段取り立てることもないかのように言った。
「だから拙者はマナ殿に話しておる。サイカ殿のその戦い方はマナ殿には真似はできんよ」
「むぅ〜〜!!」

 サイカが怒ったようにそう言って、不意に自分の背後に現われたプフィスライムを目で追う事もせずに叩き切った。まるで背中にも目がついているかのような正確な斬撃に、シグマでさえも言葉を失う。
「なんてね、冗談。私の戦い方は命を短くするからね。あんまりお勧めできないわ」
 サイカがぱっと表情を戻し、肩をすくめて言う。まるで猫の目のように表情がころころ変わるので、マナはサイカが本当に気にしてないのかそれとも演技しているのかわからなかった。
「・・・とはいえ、もう少し周囲には気を配るべきでござろう・・・」
 地面に折れ倒れたようにしていた百合の花が突然伸び上がるのを見て、シグマはそう言って何も持たない左の手を振るった。そのスリットのあいたリストカバーからフライトカッターが次々と飛び出し、楕円軌道を描いて百合の花の形をしたエネミー、<ポイゾナスリリー>を貫いた。
「すごいすごい! すごいです!!」
 マナが目をキラキラと輝かせる。シグマが少しだけ表情を和らげた。
「そんなに言われると照れるでござるよ。ニンともカンとも・・・」
 顔を赤らめるシグマに、マナは言った。
「フライトカッターなんて希少(レア)な武器、どこで手に入れたんですか〜??」
 キラキラと目を輝かせるマナの前で、シグマが盛大にコケた。
 後にサイカは語る。
 “後にも先にもあのシグちゃんをコケさせたのはあの子が初めてだった”と・・・

 BAN! BAN! BAN!!
 射撃演習場に発砲音が響く。次々と発射された弾丸が的を撃ち抜く音が響く。
 レンジャーになるための試験の中で、少女がハンドガンを握り、発砲した。
 BAN!・・・BAN!・・・・BAN!!
 たどたどしく撃ち出された3発の弾丸は、内2発が的にかすりもせずに床にめり込み、天井をえぐり取る。判定員らしきその軍服の女性は、少女の方を見て、残念そうに首を横に振る。
 少女は、手の内に2枚目の不合格の紙をもらい、その場からとぼとぼと歩き去った・・・。

「お〜♪」
 メタリックグリーンのレイキャシールが目を輝かせる。その目にはラコニウムの杖の輝きしか映っていないようだった。
「らこ〜らこ〜・・・・」
 まるで蝶を追う無邪気な少年少女のような瞳で、レイキャシールがラコニウムの杖を拾い集める。
「さすがに疲れるわね〜・・・」
 サイカが疲れたように首を回す。その様子に美和が微笑んだ。
「丸一日くらいラグオルで戦うのなんて初めてだもんね〜♪」
 美和の言葉にサイカを含むその場のハンターズが笑顔を見せる。
 心地よい疲れを知っているものの顔だった。
「らこ〜らこ〜・・・」
「ま、まぁ・・・あの辺りは放っておいて・・・」

 サイカが恍惚とした表情を見せながらラコニウムの杖の海にダイブしているレイキャシールから目線を逸らし、その場に集まったハンターズ全員を見渡して、言った。
「何か欲しいものってある?」
「はーい!俺、このウォルスもらいー!!」

 軽い調子で手を上げてクーゲルが、戦利品の中からウォルス−MK2を取り上げる。
「じゃ、私は未開封の武器をもらっておくわ」
 秋姉がそう言って、ハードプロテクトを施された武器の入った箱を取り上げる。鑑定所でプロテクトを解いて、開いたときに初めてその正体がわかるものだ。その箱には小さく銃のマークと“SW”の文字が刻まれている。
「ん?どうしたの?」
 皆があれやこれやと騒ぐ中、サイカが一人動かないマナを見つけてその顔を覗き込む。
「あ、あの・・・私ももらっていいんですか・・・・?」
「ん?どうして?」

 サイカが不思議そうに聞く。まるで、“それが当たり前なのになんでまたわざわざ聞くの?”といった風である。
「私、今回全然お役に立てませんでしたし・・・」
 サイカが今にも泣きそうなマナの顔を上に持ち上げた。強引に引き上げて、空を見せる。
「だーったらぁ・・・“次は頑張ろう”で、いいんじゃないの?」
「然り」

 いつの間にか隣に来ていたシグマが同意する。気がつけば、マナの回りに他のハンターズも集まってきていた。
「あ、あの・・・じゃあ・・・これ・・・」
 マナはその場に積み上げられたアイテムの山の中から、剣のマークの入った“SW”の箱を手に取った。

「はぁ・・・私、ハンターズになれないのかなぁ・・・」
 少女は居住区とハンターズの専用区の境目で途方にくれていた。自分の才能はどこにも秀でていない。それはこの2枚の不合格通知を見れば明らかだ。
「はぁ・・・・」
 何度目かのため息をついていた少女は、急に背中から抱きつかれた。いや、実際はもたれかかられただけだったのかもしれない・・・。
「っひゃああああ!!??」
 悲鳴を上げる少女が抱きついてきた誰かの手に持った杖を握る。そのとたん、魔力が迸り、少女を中心に火柱が上がった。
「あ・・・・・あ・・・・?」
 何が起こったのかわからないような少女の様子を尻目に、抱きついてきた“誰か”は杖を立て、何事かを唱える。
「ギ・バータ!!」
 杖の先から氷の結晶が次々と、まるで吹雪のように走り、次々と炎を消し止めていく。やがて、完全に消火の終わったその場で、抱きついてきた“誰か”と、少女は向かい合う。その顔は、逆光にかかって見えなかった。
「あなたすごいねぇ♪ フォースなの?」
「ふぉーす・・・?」

 少女が聞き返すと、“誰か”は不思議そうな顔をした。
「にゅう? フォース知らないの? う〜ん・・・みんなのサポート役・・・なのかな?」
 うまい言葉が見付からないのか、苦しそうにその“誰か”が言う。声の調子からは、女性だろうか・・・?少女はその言葉に勢いづいて聞き返した。
「ハンターズの職業・・・なんですか?」
「うん。フォースも、立派なハンターズだよ」

 楽しそうに言うその“誰か”に、少女が食らいつきそうなほどの勢いで飛びついた。
「お願いします!私にフォースとかいうその職業になる方法を教えてください!!」
 少女の言葉に、“誰か”は頷く。少女が沈んでいた顔をパッと明るくして、言った。
「私、マナって言います・・・」
「よろしくね、マナちゃん。わたしは・・・」

「ふにゃ?」
 居住区の自分の部屋でマナは目を覚ました。寝癖だらけの髪の毛をブラシでとかしながら起き上がり、時計を手に取る。時刻は正午・・・・
「うぁ!?約束の時間まであと20分ないー!?」
 マナは慌てて自分のパジャマを脱ぎ捨て洗浄槽に放り込む、自分の服がかけてある場所まで走り、そのうちの一着を手に取り、急いで着付ける。
「早く! 早く!」
 階下に降りて前日にセットしてあったパンが焼けているのを確かめて、4つに分けてコーヒーと一緒に口の中に放り込んだ。
「ん〜!ん〜!!」
 口の中の物を苦労して一気に飲み干すと、マナは玄関に立てかけてある自分の杖を手に取った。
 出かける前に、玄関においてある写真立ての前で、マナは立ち止まる。そこには、片腕を失ってなお優しそうな笑顔を浮かべているハンターズが、幼き日のマナと一緒に写っていた・・・。
「いってきます。お父さん」
 マナは写真に向かってそう言うと、玄関を出て走り出した。
 結局、昨日手に入れた“SW”の箱はドラゴンスレイヤーだった。今日は一体何が手に入るのか・・・・?そんなことを考えるとひとりでに胸が躍る。
 遥か彼方の方に見慣れたみんなの姿がある。マナは追いつこうと全力でダッシュをかけた。
「まってー!!」
 マナの声にハンターズのみんなは立ち止まってマナのほうへと踵を返し、笑顔を見せた。

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