novel

No.5 保たれる裏社会
〜Underworld equilibrium〜(前編)

「やけに素直だな・・・」
「・・・同じ事を訊くのね。まるで「本物の」親子みたいよ?」

 口元をつり上げるように歪める少女に対し、隻眼の男は口元を下げるように歪めた。
 二人は今、地下へ向かう転送装置の前にいた。周囲は点々と人口の建造物こそあるが、他に視界を遮る物はなく、ただただ砂漠が広がっている。先ほどまで周囲を平行していた軍人や装甲車は彼らの後方に控えている。
「親子さ。世間はそう認知しているだろう?」
 持って回す言い様。その含みある言葉に、少女は苦笑した。
 それきり、会話は止まった。そして、時も止まったかのよう・・・。
 これが小説のワンシーンなら、ヒロインが「何処へ連れて行くの?」と問い詰めるところだろうか。そして敵役が「知ってどうするつもりだ」などとふてぶてしく言い放つのが決まり事だろうか。しかし残念ながら、少女・・・ルピカにヒロインの自覚はなく、また脇に立つ男も彼女をヒロインだなどと思うわけもない。ただ少なくとも、その男、レオ・グラハートを名乗る男が「敵役」であることは誰もが認めるところだろう。
 敵役・・・望むところだ。もし隻眼の男が問われればそう答えるだろう。彼は己の野望を果たすために、様々な犠牲を伴ってきた。
 自身にも、相手にも、世間にも。
 恨まれることには慣れている。誰に恨まれようと、信念を貫き通し「計画」を推進させるためならばそのようなもの、ハエの羽ばたきにも等しい。うっとうしいが、たいした害にはならない。
 この先・・・地下へ通り、少女ルピカを連れて行くこと。たったそれだけで、計画は飛躍的に進み、ほぼ完成という域に達する。男はそう確信していた。かの少女を連れ出す・・・いや、連れ戻すために「少々」強引な手法を用いたが、計画が進み成功すれば、既に起きているだろう政治的な問題など取るに足らない。なぜならば、計画の成功はそのまま政権交代・・・クーデターの成功を意味するのだから。
 男は進む一歩一歩が野望達成への前進であると確信している。一歩一歩進むごとに成功の確信は高まる。ここに至るまで、何一つとして不安要素が噴出してこないのだから。
 だからこそ、不安にもなる。完全を確信するからこそ生まれる疑心暗鬼。だからこそ、男はつい尋ねてしまった。あまりにも素直に付いてくる「生贄」に。彼は計画成功を確信するからこそ、不安を心中に抱え始めていた。むろんそれを認めるはずは・・・そもそも自覚することも無いのだが。自覚はなくとも不安は心にこびりつき、それは言動に表れる。先の質問がまさにその表れといえよう。
 そして生贄とされる少女はといえば・・・からかう余裕とは裏腹に、心中は混乱していた。
 生贄にされることを自覚しての恐怖心か? いや、彼女はそれを自覚しながら、恐怖どころかむしろ高揚・・・早く生贄の祭壇となる目的地にたどり着きたいと願っている。そんな自分に気付き戸惑っていた。
 何故? 自身に問い詰めても答えは返ってこない。何処へ連れて行かれるのかなど全く知らない。そこに何が・・・「誰」が待ち受けているのかなど知らないはず・・・それなのに、早く行きたい、早く会いたいと・・・会わなければならないと、心が逸る。
 誰に? やはり応えはない。少女は近い未来自身に降りかかる不幸に怯えるよりも、今、この今、理不尽に心が求める何かに怯えていた。
 心? 心とか気持ちとかではない・・・まるで・・・そう、例えるなら、身体が、「細胞」単位で求めているとでも言うべきなのだろうか・・・この理解しがたい感覚を脳で判断など出来るものか。判るだろうか? 音無き声が直接語りかけてくるような感覚、耳に聞こえない誘いの声を認識する感情が。
「・・・行くぞ」
「ええ・・・」

 転送装置に足を踏み入れる二人。程なくして、二人の姿は地上から消えた。

「何をしている?」
 先行する二人が転送装置から地下へと移り、その後を数名の部下が追っている。護衛していた残りの者達は各所へ散らばり警戒を強めようとしているところ。最後に地下へ向かう予定の二人、その内の一人であるアンドロイドが、後ろを向き大きく手を振っている・・・まるで大きく手招きをしているような仕草に疑問を持ち、もう一人の女軍人がその疑問をアンドロイドにぶつけた。
「ハッ・・・遠くに小さいながらも「光」が見えたもので」
「光?」

 それが何を意味しているのか、問いかけた者にはすぐに理解は出来なかった。ただ眉を寄せ軽く首を傾けさせるに止まった。
「はい。やがてこれより先の「地下砂漠」を強く照らすだろう、光です」
 ずいぶんと抽象的な物言いだ。普段的確に伝わりやすい言葉を選ぶ「相棒」にしては珍しい。何故そのような言い回しをするのか・・・女軍人がその真意に気付いたとき、口元に笑みが浮かんだ。
「そう・・・間に合ったみたいね」
 その笑みが何を意味するのか。少なくとも彼女にとってその「光」は良い知らせだったのだろう事は伺える。
「ならば我々も急がなくてはね」
 女軍人の視線が転送装置に向けられる。転送装置に向けた顔は凛とした、軍人にしては整った綺麗な顔。表情は固い決意が見て取れる。しかし視線を送る瞳には戸惑いの色も濃く見える。為すべき事は決まった。しかし決行に不安はまだ付きまとっている。複雑な心境が表情瞳に別々の感情を表している。
「・・・行きましょう、ギリアム」
「はい、カレンお嬢様」

 正か悪か。聖か邪か。自分が為せと命じられたこと、それに反発し為そうとすること。どちらがどちらなのか・・・カレンは戸惑っていた。戸惑ってはいたが、やるべき事は決まっている。何よりも優先すべき事はもう判っている。
 父を助ける。仲間を救う。戸惑いがあろうとも、カレンの進む道は決まっていた。
(お爺様の遺産・・・あんな物があるから・・・)
 戸惑いの元凶を恨む心は、身体と共に地下へと消えていった。

 アッシュは悪態をついていた。誰かに向けたものではない。それは現状に向けてつかれていた。
「また新手かよ!」
 ルピカ達の後を追いようやく視界に捉えたときには、すぐに地下へと降りていった。その後を出来る限り素早く追いたい彼らだったが、ずいぶんと離れた位置からの追跡であり、しかも途中途中に配備されている軍人を、時には目を盗み、時には言葉巧みに、そして時には力ずくでご理解いただき、どうにか転送装置にまでたどり着くのには相応の時間を掛けた。そうして飛び込んだ転送装置の先では、彼らを熱烈に出迎えてくれる者達が待ちかまえていた。
「あわわわわ、なんかなんか怖いのが迫って参りましたよ!」
 緊迫があるのか無いのか、テイフーの情けない声が地下空洞に響く。
 迫り来るエネミーは5匹。青黒い独特な・・・かの遺跡、セントラルドームの地下にある遺跡にてよく目にした、あの趣味悪い独特の配色をしている。姿はその遺跡で目にした剣士、後にデルセイバーと名付けられたあの人型剣士を妙にデフォルトしたような姿をしている。横につぶれた顔から長い手足が伸びており、その手は両方ともかのデルセイバーの右手のように剣のような形をしていた。
 エネミーは足音も立てず・・・ここは地上から落ちたと思われる砂が引き詰められている、いわば「地下砂漠」というような場所であるにもかかわらず、砂を踏む音を立てず接近してくる。
「ありゃあ・・・見るからに亜生命体か? 嬢ちゃん、ちょいとフォイエあたりで様子を見てくれねーか?」
「はい、やってみます・・・
FOIE!」
 バーニィの指示にマァサが素直に従い炎弾を放つ。見事に炎弾は直撃したが、青黒い新手のエネミーは歩を止めることなくこちらへ向かってくる。
「・・・ったく、やりにくいったらないね」
 被弾している以上それ相応のダメージは受けているようだが、顔のような身体を持ちながらその顔はいっこうに変わる気配がない。これでは「様子」を見るというのは難しい。
「ま、こーいう時は先手必勝ってね」
 迫っては来ているが敵はまだ遠方。かといってこのまま待ちかまえても仕方ない。下手にアッシュが飛び出す前にと、今度はバーニィが炎の銃弾を浴びせた。
「なに!?」
 着弾したのは間違いない。だがその瞬間、敵はその場を離れ一気に間を詰めていた。 予測もしなかった瞬間移動に驚くバーニィに向け、新兵は腕を振り上げ、下ろす。どう見ても振り上げた腕が届く距離ではないのだが、バーニィは大きく横へと飛んだ。案の定、先ほどまでバーニィがいた場所には大きく伸びた新兵の腕が砂にめり込んでいた。
「こいつ!」
 やっかいな相手だ。飛び出すのを我慢していたアッシュは新兵の手強さを間近で目撃し、我慢の限界を迎えてしまった。バーニィを襲った新兵に向け、両剣を振り下ろす。
「なっ!」
 手応えはあった。しかしその瞬間、またしても新兵はその場から消え失せていた。
 敵は横に。そして敵の腕も横一文字になぎ払ってくる。
「うぐっ!」
 流石にかわしきれない。どうにか左腕のシールドで衝撃は和らげたが、無傷というわけにはいかなかった。
「ちっ・・・嬢ちゃんは下がってテクで応戦してくれ。こいつら、たぶんテクには反応しねぇ」
「はっ、はい!」
「あわわわ、ならばわたくしめはお嬢様をお守りしますです」

 最初の「様子見」は無駄ではなかった。マァサのテクニックでは間を詰めることも横へ動くこともなかった事を考慮すれば、バーニィの指示はおそらく間違っていないだろう。マァサは新兵達から距離を取り、テイフーもそれに続いた。
「こっちはヒット&アウェーでいくしかねーな」
「くそ・・・苦手なんだよ、ソレ」

 近中遠、どの位置であっても物理的な攻撃に対し瞬間移動で応じリーチの長い攻撃を繰り出される以上、打って逃げるを繰り返すしかない。地道にダメージを蓄積させるこの手の戦法、アッシュが不得手だろう事は安易に想像できるのは確か。
 しかしそんなアッシュでも、それ相応に対応している。むしろ相手の習性を知ってしまえば、それを応用することで逃げるのも攻撃するのもどうにかなるものだ。
 一太刀浴びせれば横に逃げられるのが判っているなら、両剣を振り下ろした直後に前後どちらかへ逃れればなぎ払いに対処できる。銃弾を受け手間を詰めてくるなら、一発当てたら左右へ逃れ、また銃口を向ければ良い。むろん対処の方法が判っていても身体がついて行くとは限らないし、なにより砂に足を取られ上手く足を運べない。しかしそこは流石にハンターズ、これまでの経験と勘が思うように身体を動かしてくれる。
 一方経験と勘がまだ少ないマァサはといえば、相手が反応を示さないテクニックで焼いては凍らせ、あるいは感電させ奮闘している。近づく敵に対する対処が遅れがちだが、そこは護衛を担っているテイフーが上手くあしらっている。このアンドロイド、口ぶりの弱々しさとは裏腹に、アッシュにも・・・いやバーニィにも引けを取らない動きを見せる。時折妙な悲鳴を上げることを除けば、間違いなく一流のハンターといえるだろう。
「ふぅ・・・ったく、いきなりコレかよ」
 アッシュが愚痴る、つまり戦闘に一息ついたことの証。最後の一兵が黒い霧となり消えたところで、アッシュは額の汗を拭いながら口を開いていた。
「亜生命体か・・・ここにも出てくるとはな」
 ダークファルスが残した悪しき因子、D因子で構成された生命とは呼びづらい生命体。それが亜生命体。これまでにダークファルスが眠っていた遺跡やD因子の研究をしていた施設のあるガル・ダ・バル島などでいくつも「沸いて」いたが・・・その亜生命体の新種が表れたことは、少なからず衝撃となっていた。
 顎に手を当て、バーニィは考え込む。ここに亜生命体が出てきたと言うことの意味を。
「奥に何があるってんだよ・・・」
 遺跡とガル・ダ・バル島。二つに共通して言えることは・・・D因子の源、つまりダークファルスあるいはそのプロトタイプが待ちかまえていたということ。直接邪神を目撃したわけではないが、邪神を討伐した四英雄から話は聞いている。もし、もしも・・・その事と今この場に出てきた新手の亜生命体出現とに因果関係があるとすれば・・・。
「おいバーニィ、ぼけっとしてないで急ぐぞ! ルピカを助けるんだ!」
 思考は中断された。確かに今はアッシュの言うとおり、優先させるべき事がある。バーニィは残り二人と共に、既に扉の前で待つアッシュの元へ急いだ。
「いやはやしかし、妙ですな・・・」
 急ぎながらも、テイフーがふとスピーカーから言葉を漏らす。
「ここはルピカ様やにっくき悪党どもが通った道でございましょう? 彼らが先ほどのようなバケモノを倒しながら進んでいるならばですよ? またバケモノが現れるまでにもう少々時間が掛かってもよろしいようなものでしょうに・・・」
 通常・・・というよりはこれまではと言うべきか、セントラルドーム付近でもその地下でも、当然島でも頭上の地表でも、一度エネミーを討伐すれば同じ場所に再度エネミーが現れるようになるまでにそれ相応の時間が掛かった。いくら追いつくのが遅れているとしても、テイフーが言うようにこんなに早くエネミーが出てくるのは妙だ。
 どういう事だろうか? 焦るアッシュの背中を見つめながら、バーニィの思考はまた謎に包まれていく。

 ES一行はうんざりしていた。
 予測はしていた。ある意味想定内の出来事。しかしあまりにも・・・多すぎる。
「スゥの奴・・・俺達にここの掃除をさせようって魂胆なんじゃねえだろうな。これだけいりゃあ、片付けるのは面倒くせぇもんな」
 溜息混じりに、ZER0がぼやく。そのぼやきに誰も返答はしないが、半ば同意していた。
 スゥに導かれるまま転送装置に飛び乗り降り立った地は、砂の敷き詰められた巨大な空洞・・・地下砂漠。ES達は確認も出来ないが、アッシュ達と同じ空洞に降りていた。むろん位置は異なり、そこがアッシュ達よりも後ろなのかルピカ達よりも先なのか、見当も付かない。見当を付けようにも、次から次に襲いかかるエネミー達がそれを邪魔する。蟻の巣にでも踏み込んだのかと思うほどにぞろぞろと群れ出すエネミー。一小隊を潰し先へ進めばまた群れだし、それをまた潰し・・・を何度繰り返したか。今ようやっとその何度目かを終え一息付けられる・・・そういった状況だ。
「なんにしても、進むしかないわね。ちょうど扉は来たのを除けば一つきり・・・迷うこともないわ」
 空洞そのものは人の手が加わった形跡など見あたらない。しかし当然ながら、そこに取り付けられた扉までが自然の物であるはずはない。明らかにここは、何者かによって改装された地下砂漠。ちょうど、セントラルドームの真下にあった洞窟のような・・・。
 ES達は扉をくぐり、今度は完全に人工物のみで造られた通路へと足を踏み入れる。一本道の通路の先にある次の扉を目指しながら歩を進めていく。
「なあ・・・どう思うよ?」
 その道中で、ZER0が声を掛ける。彼の言葉には問いかける主題が抜けているが、しかし彼が何を問いかけているのか、他の三人には判っている。
「・・・ブラックペーパーにとって、ルピカがWORKSの手元にいること自体面白くないんでしょうよ・・・その為に私達も利用して邪魔してやろうって事でしょ?」
 スゥが所属するブラックペーパーは母星コーラル10カ国連盟政府直属の執行部隊。政府から見てWORKSはテロ集団にも等しい部隊だと認識しており、当然そのような者達の元に「ネオ=ニューマン」であるルピカが捕らわれているのは由々しき事態だ。そうなれば、どうにかしてルピカを取り戻そうと動き出すのは道理で、その為に同じくルピカ奪還に動き出したES達を利用しようとするのもまた当然といえる。
「そーなんだろうけどよ・・・それにしちゃ回りくどくないか? なんかこー・・・まだ裏があるって言うか、なんか他にも色々あるんじゃねぇかって思えてよ」
 たどり着いた扉に手を掛けながら、ZER0が口を尖らせる。言い様に踊らされているのを自覚しながら、それでも自分達にとって必要だと納得し行動する。判ってはいても、面白くはないだろう。
「裏って言うかさ・・・こいつらが面倒だからっていうあんたの意見も、あながち間違いじゃないかもね」
 開いた扉の先には、またしても敵の群れ。溜息を一つつき、ESは武器を構える。
「待ってください、様子が・・・・」
 Mが言うように、エネミーの様子がおかしい。いや、おかしいのはエネミーだけでなく開かれた空洞全体。射撃の音やテクニックが破裂する音が奥の方から響き、エネミー達はES達に目もくれずそこへ向かっている。間違いなく、エネミー以外に誰かいる。
「・・・バーニィ達ではありません。ルピカの姿も確認できません・・・あれは・・・」
 シノが状況を確認しようと、内蔵されたスコープで遠視を行っているところに、その対象から声が届く。
「あーっ! ESさぁ〜ん、お久しぶりですぅ!」
 この緊迫した空気とはあまりにも不釣り合いな、間の抜けた声が響く。
「本当かい?・・・ああ、ES君。悪いんだが、ちょっと手伝ってくれないかね。天才の僕でも、こと戦闘となると苦手でね、フフフ・・・」
 続く声には多少緊迫の色はあるが、やはり助けを求めるというようには聞こえない。しかし状況を見る限り、声の主二人ともう一人、三人が敵に囲まれ難儀しているのは間違いなさそうだ。
「なんであんた達が・・・まぁいいわ、助ける代わりに謝礼はたっぷりもらうからね?」
 その謝礼は莫大な物になる。思わず口元をゆるめるES。駆け出す彼女に他の三人も続いた。
 謝礼に期待するのは貴重な情報。依頼主は天才博士と彼が産み出した二人のアンドロイド姉妹。ここに彼らがいることも含め、彼らがもたらす情報は何物にも代え難いはずだ。

 部下を引き連れ先を急ぐ隊長は、憤りを覚えていた。
「我々より先行し、雑魚を一掃しておく手はずだったはずだが?」
 円滑に「動力」を運搬するために、レオを名乗る男は部下にエネミーの駆除を命じていた。しかし彼らが降下したときには多数のエネミーが湧き出ており、それらを討伐しながら進んでいた。そして今ようやく駆除を命じた部下と合流を果たしたところで、任務を果たせていない責任を追及している。
「もっ、申し訳ありません・・・ハンターズの連中に任せたのですが・・・奴らは任務を完遂しなかったようで・・・」
 震える部下は責任という矛先を下請けとなるハンターズに押しつけている。軍部が自分達の代わりにハンターズを使い作戦決行することはよくあることで、今回もこの軍人はハンターズに本来の目的を告げずに討伐を任せたようだ。
 本来ならハンターズに依頼したこの軍人にも「監督責任」というものがあるだろうが、しかし自分達で行えるだけの戦力がない事などは棚に上げてハンターズを見下しているような軍人に、責任を取るなどという潔さがあるはずもない。
「それと・・・異様に早いのです、バケモノの復活が・・・」
 殲滅すればしばらくエネミーが沸くことはない。この「常識」通りに事態が進んでいない事を進言する軍人。それは事実で、こればかりは誰の責任でもないだろうが、しかしどのような状況になろうとも任務は遂行しなければならないのが軍人だろう。
 情けない。我が部下ながら、任務に対する責任感よりも保身を重んじる発言に憤りも失せ失意が溜息に混じる。隻眼の男はその片眼で部下を睨みつけるだけで、責任に対する言及は行わなかった。これを部下がどう捉えるのか・・・小刻みに震える部下に、期待するものはもう無いのだから、どう捉えるかも興味など無いのだが。
 これが現状か。改めて、パイオニア2軍部、そしてWORKSの内情が浮き彫りになった。軍という組織の「威」を借りるだけの狐に出来ることなど無く、このままではWORKSの理想をかなえるにはほど遠い。
 だからこそ欲しい。即戦力となり現状をひっくり返すほどに強力な、あの兵器が。その為にも先を急がなければならない・・・。
「クックックッ・・・流石WORKS、良い部下を持っているじゃないか」
 暗がりから声。一斉に銃口がそちらへ向けられる。
「褒めてやったらどうだ? 責任を回避するその口ぶりをな」
 無数の銃口が向けられている自覚がないのか、それとも恐れていないのか。暗がりからゆっくりと、人影が姿を現す。
「・・・政府の犬か」
 舌打つ音が漏れる口は、苦々しくつり上がる。部下に対してよりも厳しい視線が、人影に向けられる。
「・・・その娘を置いていってもらおう」
「面白くない冗談だな、猟犬」

 キリーク・ザ・ブラックハウンド。巨大なカマを手にした細身のアンドロイドが、急ぐ小隊の前に立ちふさがった。

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