静かな広めの個室に、一人の男が椅子に座り机に両肘を突き、手を組みそれを顎に当て佇んでいた。
 いや、少々訂正しなければならないだろう。
 静かだった広めの個室と言うべきだろう、今は。
 ノックも前触れもなく、ドカドカと幾人もの男達が、今は狭くなってしまった個室に上がり込んできた。
 男達は手に銃を持ち、そして部屋に入るなりそれを構えた。銃口は個室の主に向け。
 いくつもの銃口を向けられながらも、部屋主は微動だにしなかった。ただ部屋主の前に進み出た男に視線を移す以外には。
「久しいな」
 口元を片方つり上げ、乱入者の中唯一銃を持たぬ男が言葉を発した。
 男の問いかけに、部屋主は何も答えない。ただじっと、男を見つめるのみ。睨むというわけでもなく、しかし怯えているというわけでも虚ろでいるわけでもない。坦々と、男を見ていた。
「・・・どうした? 感動の言葉一つくらいあげてもよかろう?」
 思ったような反応のない部屋主に、男は不愉快そうに舌打ちをする。しかし現状の優位を思い返し、再び嘲笑を顔に貼り付け煽り始めた。
「こうして、我らがWORKSによるクーデターが始まったのだからな」
 これは決定的な「決め台詞」だろう。男はそう確信し口元を更につり上げた。がしかし、部屋主の態度は何一つ変わらない。ただ男を無言で見つめるだけだ。
 見つめる瞳に、何が映っているだろうか? そこは鏡のように、醜い男が嘲る顔が見えるのみ。
 机が揺れる。男が力一杯叩いたから。
 面白くない。ここまで全てが思うように進み、こうして「この男」を窮地に追い込んだというのに。
「・・・まあいい」
 そう、そうだ。まだいいだろう。男は自分に言い聞かせた。
 時間はある。そして時間が流れれば流れるだけ、「この男」の立場は悪化し、自分を愉しませてくれるはずだから。
 まだまだ、この男の顔が苦悩で歪むのを見る機会はいくらでもある。
「いいか、これだけはよく理解しておくのだな」
 部屋主に向け、そして周囲にいる部下達に告げるよう、男は高らかに宣言する。
「たった今より、我らがWORKSの悲願、クーデターは始まった! そしてこの聖戦に勝利することを誓おう! 我が名、レオ・グラハートにかけて!」
 部屋は兵の歓喜に似た雄叫びに包まれる。
 ただ一人、部屋主はじっと「現状」を見つめていた。

novel

No.0 序章・堕天〜MeteorStrike!〜

 息が荒い。はあはあと肩を揺さぶりながら、青年は・・・いや、少年か? どこか幼さの残る印象を持った青年が、手に柄と汗を握りしめている。
 周囲には巨大な穴熊と凶暴な狼。それぞれブーマ、サベージウルフと名付けられモンスター。その混合集団。
 赤いハンタースーツに身を包んだ青年は、完全に囲まれていた。
「ったく・・・なんだって俺が・・・」
 愚痴りながらも、視線は周囲を常に見ていた。そして何度も身体を回し、同じ相手に長時間背中を見せないよう気を配った。
 敵の中にいるサベージウルフ。奴らは背後から飛びかかるのを基本戦術としている。その為背後に回ろうと距離を保ちながらゆっくりと弧を描くように歩いている。それをさせじと、青年は常に身体を回していた。
 しかしこれを繰り返しているばかりはいられない。もう一方、ブーマ達は先方などかまいなく、ただ真っ直ぐ、しかしゆっくりと青年に近づいていった。このままでいれば、ブーマの爪が青年の肩に振り下ろされるのもそう先の話ではないだろう。
 この状況をどうにか突破する必要がある。今なら何処か一角に狙いを付け、一点突破で包囲網をかいくぐることは出来るだろう。
 だが、青年はその場でグルグルと回るだけ。ただ悪戯に時間は過ぎ、ブーマは近づき、状況は悪い方にしか流れない。それでも青年は仕掛ける素振りすら見せない。
 一歩、ブーマが動く。一歩、サベージウルフが動く。そして状況は悪化する。
 そしてついに、ブーマは一歩踏み出すのを止め、腕を振り上げた。
「だぁ! もう良いだろ!」
 青年は叫んだ。
 誰に?
 少なくとも、穴熊でも狼でも無さそうだ。
「ちっ」
 軽い舌打ち。それは青年よりも遠方、青年を囲むモンスター群よりも外側から聞こえた。
RAFOIE!」
 そして直後、テクニック発動の言葉が軽く響き、青年を中心に爆炎が広がった。
「ほら! ちょっと漏れたじゃない! まったく、一二発くらい我慢して喰らいなさいよね!」
 爆炎の範囲から外れていた何匹かのモンスターを指差しながら、声とテクニックの主である少女が姿を見せた。顔は不服と不満をありありと表している。
「ふざけるな! こっちは体張ってんだぞ!」
 青年の言い分はもっともだ。たとえ後で傷を回復してくれるとしても、わざわざ痛い思いをしたい者はそういないだろう。
 青年は愚痴りながら、こんがりローストを免れた穴熊へと迫った。
「あったり前でしょ、囮なんだから! それぐらいしか役に立たない癖に」
 少女の言い分は・・・まあ納得できる部分もある。がやはり、理不尽さは否めないだろう。ただ彼女にしてみれば、その理不尽さも含め「当然」なのだろうが。
 少女も文句を言いながら、かりかりウエルダンを退けた狼へ視線を移す。
 そして二人は、口で言い合いを続けながらも各々生き残ったエネミーを駆除にかかっている。
「だいたいなぁ、囮なんて必要ないだろ。真っ正面からだって勝てるぞこいつらなら」
 柄の両端にフォトンによる光の刃が伸びている武器、ダブルセイバー。青年はそのダブルセイバーの中でも品質の良いツインブランドを巧みに扱い巨大穴熊を両断していく。
 青年が主張するように、確かに彼の腕ならばブーマ程度に後れを取りそうもない。だが、どうにもまだ武器の性能に助けられている面もあるように見受けられる。無駄な動きが多く、動作の遅いブーマだから対応できているにすぎないのが見て取れる。
「効率の問題でしょ? いっぺんにドカンとやっちゃった方が早いし疲れないというのがまだ解らない?」
 小さな杖を手にした少女は、その杖で殴るのではなく、テクニックを駆使して近づく狼を一掃していく。
 少女が主張するように、確かに少女のテクニックならサベージウルフ達を一度に葬るだけの威力を発揮することも出来るだろう。だが、それは青年という「生け贄」が必要であり、また体力の低いサベージウルフだから一撃で済むに過ぎない。
「実際討ち漏らしてんじゃねぇかよ。これならわざわざおびき出してまとめるより、さっさと倒していった方が早かったぜ」
「なによ、アンタがもっと引き付けないから悪いんでしょ! 五六発殴られて血がドバッて出るぐらいまで我慢すればいいじゃない」
「それのどこが効率的なんだよ!」
「効率的じゃない! 私は疲れないし痛くもかゆくもないし」
「俺はいてぇだろうが!」
「知らないわよ! そんなこと」

 これだけ言い争いながらも、確実に敵を仕留めていく二人。
「なんだかねぇ・・・一応これでも「チームワークが良い」って言うんかねぇ・・・」
 そんな二人を、更に遠方から見つめる男が一人、ぼやいた。
 呆れながらも二人の「仕事ぶり」を見守っているこの男。彼は文字通り見守ることが今回の「任務」だった。
 二人だけで簡単な殲滅クエストを見事完了させる。それを見守る任務を言い渡されていた。
「まぁあの二人なら難しくないのは判ってはいたが・・・任務は達成しても目的は果たせてねーな、こりゃ」
 目的は任務完了ではない。チームワークを深めていくこと。男が言うように、誰がどう見たところでチームワークが深まったようには見えない。
 溜息をつきながら男が二人に視線を戻すと、どうやら敵の殲滅は完了したようだ。しかし二人の口論だけは終わることなく、むしろ白熱してきている。
「いつまで何やってんだか・・・おーい、アッシュ、ルピカ! もうそのくらいにしとけ」
 二人に声を掛けながら、男は腰を上げ歩み寄っていく。
「だってさバーニィ、こいつがくだらないことばかり言いやがってよ」
「くだらなくないでしょ! アンタこそ、もっと大人になりなさいよ」

 俺に言わせれば、どっちもくだらなくどっちも子供なんだがな。バーニィと呼ばれた男はその言葉を飲み込み、代わりに後頭部を掻き苦笑いを浮かべた。
「わかったわかった。続きは上に戻ってから・・・なんだありゃ?」
 不意にバーニィが視線を二人から外し、少し上へと移した。
 つられて二人も振り向き、バーニィと同じ方角に目をやる。
 そこには、一筋の光が見えた。
 天に真っ直ぐと伸びる光。その光は太くクッキリと見えるが、ごうごうと轟く音から推測して、距離としては随分遠くの光のようだ。
 何事だろうか。三人は無言のままその光を見つめていた。
 何事かは解らない。だが、何かが心に訴える。
 これが不吉な光であり、何かが起こり始めた号砲なのだと。

「総督! タイレル総督!」
 総督府総督室。緊急灯が点滅した通信機より、慌てた様子の声が響く。
「どうした?」
 突然の連絡に慌てる様子を見せず、タイレル総督はマイク越しに問いかける。
「隕石が・・・ラグオルより謎の「光」が射出され、隕石に命中。隕石は軌道を変え、ラグオルへ降下しています」
「隕石だと?」

 タイレルはしばし考え、一つの報告を思い出す。ラグオルの衛星軌道内に隕石が接近している、と言う報告を。
 しかし報告では、その隕石の軌道を計算したところ、特にラグオルおよびパイオニア2へ急接近しているわけではなく、何ら心配はないだろう、と言うものだったはず。危険が無いため特に市民向けに公表もしなかった小さな報告だったが・・・どうやら、事態が急変した様子。
「隕石の落下予測地は特定できたか?」
 もし落下場所がセントラルドームやその周辺、あるいはガルダ・バル島だった場合、そこで調査などを続けてるため降下しているハンターズに被害が及ぶ。そうなれば緊急に引き上げるよう要請を出さなければならない。
「はい。場所はセントラルドームより南東。特に施設およびハンターズなどへの被害はないと思われます」
 報告をしながら落ち着きつつあるのだろうか。声は冷静さを取り戻しつつあった。
「そうか・・・」
 まずは一安心。人的被害がないのは何よりだ。
 しかしここで安心してばかりもいられない。
「報告に「謎の光」とあったが、その正体は掴めたか?」
 隕石落下の被害が無いのは良しとしても、隕石が急に軌道を変える原因となった「光」がなんなのか。これが判明せねば同じようなことが何度も起こる可能性が拭えなくなる。むろん回数が増えれば次こそ人的被害が出ることも考えられるのだから。
「それが・・・現在判明しているのは、隕石の軌道を変える程の質量という点から考察するに、相当なエネルギーを持った光だったという事だけです。我々の常識から言わせて頂ければ、とても自然的現象とは思えません」
 手を組み、タイレルは唸った。
 自然的現象ではない。それはすなわち、人工的だと言うこと。
 確かにそれほどの光が自然現象ではなく人工的なものだという推測は理解できる。その方が説明が付きやすい。だがそうだとして、それだけの光を射出できる人工物とは何か? そしてそれが何処にあり、何故今それが射出されたのか。
「・・・アイリーン」
 タイレルはすぐ傍に控えている秘書に声を掛けた。
「至急調査隊の手筈を。それと「ダークサーティーン」に連絡を取ってくれ」

「・・・そして隕石が衝突したラグオル地表には巨大なクレーターが出来、クレーターから謎の光が立ち昇りました」
 総督室に訪れた二人のハンターに、アイリーンがこれまでの経緯を説明している。
 むろんハンター二人とは、言わずと知れたダークサーティーン、ESとMの二人。
「つきましては、あなた達にクレーター周辺の状況調査をお願いしたいのです」
 これは総督府から直々の依頼。並のハンターなら総督を前に萎縮してしまうような状況だ。
「・・・で、調べるのはクレーターだけじゃないんでしょ?」
 しかしこの二人が「この程度」の状況で萎縮するはずもない。視線を総督に移し、不躾に質問をする。
「・・・実は既に調査隊をあなた達よりも先に調査へ向かわさせたのですが・・・」
 黙ったままの総督に代わり、秘書が質問に答える。
「定時連絡の時間を過ぎても連絡がありません。新種のエネミーがいることも懸念し、ハンターを数名同伴させましたが、彼らも同様に消息不明に陥りました」
 若干目を伏せ気味にアイリーンは状況を説明した。ESはそれを腕組みしながら聞き、そして視線を又総督へと戻す。
「ちょっと厳しそうね、色々。こっちで勝手にメンバー増やすから、その分報酬はどーんと上乗せしないよね?」
 人数が増えて困ることはないはず。特に異論はないと思っていたESだったが、総督は首を縦には振らなかった。
「追加メンバーについては、「ある機関」より要請が出ている。是非この者達と共に調査に出て欲しいとな」
 総督の時事に従い、アイリーンがESにメモを渡す。
 それを見たESは、軽く鼻で笑いMに手渡す。Mもメモを見てクスリと笑った。
「あんた達はいっつも面倒くさいことするわね」
 皮肉を返すが、ESは特に総督の提示した追加メンバーに異論はなかった。むしろこの提示、あって無いようなものだから。
「それと・・・」
 アイリーンが少し声を落とし警告を発する。
「どうやら、軍が動いているようです。それも異常な程手早く。何かあるかもしれませんから気を付けて下さい」
 何かあるかも、と言うよりは、何かある、と言いたげだ。むろんそれを声高に言えるはずもなく、トーンもボリュームも落とさざるをえないわけだが。
 眉間にしわを寄せ、ESは内心またかと溜息をつく。
 何か大きな事件がある度に、軍が横やりを入れてくる。今回もつまらないちゃちゃを入れられるのかとげんなりしていた。
「・・・まぁいいわ。あんな奴らどうにでもなるから」
 気になるのは、アイリーンの言う「異常な程手早く」という一言。
 今回の事件、不可解なところが多く、また人的な何かが動いているのは明白。
 もしその何かが軍によるものだとすれば・・・またややこしいことになるなと、嫌な予測が当たりそうなことにESはまた心中で溜息をつく。
「ああそうそう。気になったんだけど」
 嫌な気分を紛らわす事も含め、ESはちょっと話題を変える。
「受付の娘、なんかやたら若い娘が新しく入ったみたいだけど」
 総督府受付にてモモカと自己紹介を受けたES。今彼女はその新人を話題にした。
 ESはアイリーンと総督。それぞれを交互に指差しこう言った。
「・・・子供? 二人の」
 赤面し抗議の声を上げるアイリーンと、顔を手で覆う総督。
 一人ESだけが高笑いをしていた。

 総督から指示のあった追加メンバー。そのメンバー二人は、既にラグオル降下用テレポータの前でES達二人を待っていた。
「いよっ、お二人さん」
 待っていた一人、刀二本を背負い二本を腰に巻いた男が、軽く手を挙げ挨拶をしてきた。
「これはこれは、ラボ代表のお二人。この度共に調査が出来ること光栄に思いますわぁ」
 ESはバカらしい程丁寧に挨拶し、頭を下げる。
「・・・っとに、面倒なコトするわ、あの狸と女狐は」
 そもそも、誰に指図されずともESは目の前の二人と組むつもりだった。
 ハンターZER0と、その相棒シノと。
「ま、あの二人も色々あんだろ」
 苦笑いを浮かべながら、ZER0が察してやれとなだめる。
 ESが助力を請うなら、ZER0とシノしか考えられない。それはタイレル総督もラボチーフナターシャも解っていただろう。しかしそれでも、「極秘裏に」四人を組ませる事に「意味」があるのだろう。確かに面倒だが、特に何かが変わるわけでもない四人にとっては、そこはどうでも良い事情だ。
「ミーティングの必要はないわね、あなた達なら。すぐに降下するわよ。なんか色々と下でも面倒が待ってるみたいだし。軍のバカ連中がさっさと行ってるって話だしね」
 何が待ち受けているか解らない不安は多少あるが、何が待ち受けているのか解らない以上事前に計画を立てる必要もない。四人ならその場その場で適切な連携が出来るという強い信頼がある以上、ここに止まる必要はもう無かった。
「ちょっと待ってくれ。その軍なんだがな・・・」
 急かすESを止め、ZER0が眉を寄せながら話を切り出す。
「お前らを待っている間、軍のことが気になって色々事前に情報を聞き出そうとしたんだが・・・」
 更に深刻な顔つきになり、ZER0は溜息で一区切りし話を続けた。
「DOMINOと連絡が取れない。ついでに・・・レオともだ」
 DOMINOは四人にとってかつてのハンター仲間。今は政府高官となったレオ・グラハートの下「TEAM00」のリーダーとして活動している。
 軍の情報を掴むなら、同じ軍人であるDOMINOと、軍人にカリスマ的な存在としてあがめられるレオから聞き出すのが手っ取り早い。そうZER0は考え二人に連絡を取ろうとした。
「二人ともBEEからの連絡に反応しない。偶然連絡が取れないだけなら良いんだが・・・なんか引っ掛かる」
 ZER0は勘の鋭い男だ。故に「引っ掛かる」と言うだけでも妙な説得力がある。
 場の空気が重くなる。
 間違いなく、今回の事件軍が大きく絡んでいるだろう。それも、自分達が思っている以上に。
「・・・ここで色々考えても始まらないわ。行きましょう」
 ESの号令に、皆が従う。不安は引きずったままだが、それを解消するためにも行くしかない。
 四人はラグオルへと、初めて訪れる地へと足を踏み入れた。

 ハンターズギルドは慌ただしかった。
 たった今、総督府より広くハンターズに依頼の公布がされたためだ。
「ほら、やっぱりあの光が絡んでるぜ。なぁ、この依頼受けようぜ」
 掲示板を指差しながら、アッシュが仲間二人に声を掛ける。
 依頼内容はES達が受けたものの簡易版。先発調査隊のことは伏せられ、隕石落下地点の調査をして欲しいという簡単なものだった。
 謎の光も隕石の落下も、ハンターズはもちろん一般市民も多く目撃していた。故に隕石の事実は伏せることなく、むしろ大々的に公布し、それと共にハンターズへの依頼も提示されたのだ。
「えー、今上がってきたばかりじゃない」
 愚痴るルピカに、アッシュは興奮気味に説得を始めた。
「だってよ、久しぶりに大きな依頼だぜ! ちまちました殲滅より、こういう俺達の実力をキッチリ示せる仕事しなきゃよぉ!」
 俺達の実力ねぇ・・・色々言いたいことはあるが、バーニィはぽりぽりと後頭部を掻くだけに止めた。
「・・・まあいいけど。そんなに疲れてないし」
 ルピカの答えに、バーニィはもちろん、説得していたアッシュも思わず驚いてしまう。
「・・・なによぉ、行きたくないの?」
 アッシュは慌てて首を振った。
 これで参加が決まった。善は急げと、アッシュは勢いよく二人を置いてギルドを出て行った。
「やー、張り切っちゃってもー。若いってのはいいねぇ」
 苦笑いしつつ、バーニィがゆっくりと後を追う。
 そしてルピカがその後ろを付いていく。
 何故即答してしまったのだろうか。バーニィの後ろを付いていきながら、ルピカは自分が出した早すぎる結論に疑問を感じていた。
 二人が驚いたように、普段の自分ならもっとごねるはずだ。最終的にごねること自体が面倒になり了解するまで。
 なんとなく、行きたくなった。いや、行かねばならないと感じた。漠然と出した結論はそれだった。そして漠然過ぎる結論に又疑問を感じる。
(まあいいわ・・・別にたいしたことじゃないし)
 くだらないことに悩み続けるのもバカらしい。ルピカは考えることを止めた。
 それでも、心には微かに響いていた。
 何かが、何者かが、自分を呼ぶ声が。

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