novel

No.co7 情報収集武力闘争
with ENN(ヲイッス)

「めんどくせぇ・・・」
 仕事とはいえ、明確に何をすればよいのか見えないというのは、確かに面倒だろう。
 総督府から通達された、「セントラルドーム爆破の原因を探求せよ」という依頼は、あまりにも規模が大きすぎ、そして抽象的すぎる。まず何から始めるべきか? その取っかかりすら見えない。
「めんどくせぇ・・・」
 ハンターズギルドでそれなりに名の通ったENNは、使命感と言うより興味本位100%でこの依頼へと踏み込んだ。が、元々「力」で事を解決する方を得意としているだけに、最初から頭脳労働を強いられる今回のケースは面倒以外何物でもない。
「あぁ、イライラしてきた!」
 ラグオルに降り立ちほんの数刻。セントラルドームにたどり着き、辺りを少しばかり見て回っただけでこれである。面倒なのは確かだが、それにしても気が短すぎると言わざるを得ない。朱に染まった髪をかき乱しながら、言葉通りイライラを体中で表現する。その様は、とても彼女が女性であるとは思えぬほど乱暴だ。
「もっと手っ取り早く、こう・・・なぁ」
 何かを知る為には、それ相応の努力を必要とするものだ。しかし「情報」という見えない「物」は、見えないだけに安易に考えがちだ。だからこそ、すぐに判らないという事を当然だとは考えず、その事に苛ついてしまう。
「・・・あー、そうだ。調査の基本は聞き込みだよなぁ。そうだ、そうだよなぁ」
 確かに、調査の基本は聞き込みだろう。しかし今回のケースで言えば、聞き込む相手・・・つまりセントラルドームに住んでいたパイオニア1の住民すら消え失せてしまい、聞き込むどころか彼らの消息も探さなければならない。その上で誰に聞き込むというのか?
 彼女の下卑た笑いが、あまり正当な方法ではない事を伺わせている。

 軟派師として、ナンパは何度もしてきたが、ナンパされる事は滅多にない。
「おい、セントラルドームの事を教えろ」
 その前に、これはナンパというのだろうか?
「あー・・・意図が見えないんだが?」
「わからねえ奴だな。いいから、セントラルドームについて知った事を全部吐きやがれ」

 ハンター同士、情報交換をする事は良くある。が、これはあからさまに情報「交換」ではない。一方的に情報の提供を呼びかける・・・もっと分かり易く言えば「脅し」「カツアゲ」と言った類だろう。
 つまり、これが彼女の考えた「聞き込み調査」なのだ。
「・・・リコのメッセージで得られた情報以外、俺もそれ以上は知らないな」
 ほぼ事実である。実際、軟派師・・・ZER0はメッセージ以外で知ったセントラルドームの事はほとんど無い。彼の仲間が「12%程設計図より物量的に小さい」と測量したが、それは後にリコもメッセージで明かしいてる。
 ただ・・・黙っている事が一つあるとすれば、今ZER0がラグオルに降りている理由についてだろうか?
 彼は以前、「さる高貴な血筋」にあたる少女を救出した事がある。その少女は、旅客機を装いパイオニア2がセントラルドームと更新するよりも前にラグオルへと降り立とうとした。少女を助け出したものの、その理由がいまだ不明なままだ。その真相をもう少し判らないものかと、独自に再調査している最中なのだ。
「・・・何か隠しているだろ、お前」
 勘が鋭い。ENNはスラム街で育った経緯やハンターになる前色々と「裏」で活動していた事もある。そういった環境下で「勘」は鍛えられるもの。いや、そういった独特な「勘」が無ければ生きていけない世界なのだ。
 ・・・という理由もあるが、実のところ、新しい情報を得られない事に対するいらつきを、見知らぬハンターに押しつけているだけとも思える。
「とんだとばっちりだな、おい」
 さすがの軟派師も、不快感をあらわにする。それも当然だと思うが。
「ああん? 使えねえおめぇが悪いんじゃねぇか」
 随分な言いぐさだ。しかしここで言い返したところで泥沼と化すだけ。はぁと、大きな溜息一つで全て忘れ、場を離れようとした。
 が、この溜息がいけなかった。
「なんだお前、文句あんのかこらぁ!」
 あるに決まっている。そういう意味も含めた嫌みな溜息なのだから。つまりは、ZER0も大人げないと言える。
「絶対何か隠してるな! 素直に教えやがれ、このっ!」
 Swosh!
「あぶねっ!」
 突然振り回されたダブルセイバー。本来ハンター達が使う武器はセイフティー装置が取り付けられており、同じハンター同士で傷つけ合わないようフォトンに細工がされている。とはいえ、いきなり振り回せれれば、反射的に避けて当然。しかも相手は明らかに攻撃の意図があり、セイフティーを外していると考えられるならば。
「素直に吐きな。痛い目に遭う前にさ」
「横暴だな。まるで手柄の横取りみてぇな事しやがって」
「人聞きの悪い事を言うんじゃねえよっ!」

 この場合、人聞きの悪い事であってもZER0の方が正しいだろう。正しいだろうが、素直に言わなくても良かったのではないだろうか? どちらにせよ、売り言葉に買い言葉。もう手が付けられない状況なのは確かであろう。
 本来ハンター同士の争いは・・・いや、ハンター同士でなくても、争い事は御法度だ。それも人の生死が絡むとなれば当然。だがハンターはどうにも、この手のトラブルが多い。元々がならず者の集まりという所から始まっているハンターズギルドだけに、それは仕方のない事なのかもしれない。
 その為、ギルドには「トラブルは自己責任で」という、ある意味突き放した規約がある。そうでもなければ、とてもではないが面倒を見きれないのだ。こんな些細な事で喧嘩を始めるようなハンター達の面倒は。
 Ka−Tanng!
「喧嘩っ早い奴だな。そんなんじゃモテないだろ。なんなら今度デートしてやろうか?」
「大きなお世話だ! ぶっ殺すぞてめぇ!」

 ENNの気の短さはもちろん問題だが、余計な事を言いすぎるZER0もやはり問題だ。わざとなのか素なのか、相手を挑発する言葉をはき続けている。
 が、それもここまでだ。
(マジで女かよ。見た目どっちかってぇと細い方だろうによ・・・言葉通り「男勝り」って奴?まいったね・・・)
 相手の猛攻を左手に装備された盾で受け止めたが、その左腕が痺れる。相当な「力」が込められていた証拠。
 油断できない相手。ZER0はこれ以上無駄口を叩く余裕など無い。
(力で押すタイプか? なら・・・)
 行動や言動もそうだったが、どうやら豪腕に物を言わせ戦うタイプらしいと、ZER0は読んだ。ならば相手の攻撃をいなし、手数で優位に立とうと考えた。「柔よく剛を制す」と言ったところか。
 上段から振り下ろされるダブルセイバーを寸でかわし、隙を付き愛刀で斬りつける。
「ちっ!」
 その予定だったが、それをENNが許さない。
 振り下ろしたダブルセイバーをすぐに切り返し振り上げ、ZER0を近づけさせない。
 それだけではない。切り上げられた剣先をかわす事で体勢を崩したZER0に向け、すぐさまダブルセイバーをまた振り下ろす。しかもダブルセイバーが両端に刃を持つ特殊な構造をしているのを利用し、身体にも勢いをつけながらダブルセイバーを振り回す。まるで二本のセイバーが交互に襲うかのごとく、ZER0を斬らんと迫る。
「くそ、外した!」
 よほど自信があったのだろう。かなり際どいところだったが、全てを避けられ、ENNは悔しさをあらわにした。
(冗談じゃないぜ・・・力だけでなく技もありやがるとは・・・)
 どうにか避けきったとはいえ、背中に冷たい物を感じずにはいられない。
 強敵だ。間違いなく、目の前のハンターはかなりの腕を持つ強敵だ。
 まずい。ZER0はこの喧嘩、ただではすまない事を悟った。
 相手も然る者だが、自分もそれ相応に自信がある。このままだと、本当に生き死にに関わる事態になりかねない。
 今更ながら、無駄に挑発していた自分を詰りたい気分にさせられた。
(さて、どうする? さっそうと退却・・・って訳にもいかねぇだろうなぁ・・・)
 などと、考える暇もない。
「八つ裂きにしてやらぁっ!」
 有言実行。まるで肉塊にでもしてやろうかと、ENNが迫ってきた。
「はっ!」
 迫る剣先を、愛刀で弾く。が、弾かれた勢いを利用し、もう片方の剣先を振り下ろす。それを見越し、強引なほどに屈みかわす。そして屈むだけでなく、相手の脚を払いのけるように愛刀を横へ振り抜く。
「く!」
 さすがに屈んで刀を振り切るにはあまりに姿勢が不自然。わずかに鈍る。その鈍りにどうにか救われたか、ENNは飛び退く事でそれをかわす事が出来た。
(久しぶりだね・・・こんなに手応えがある奴は・・・)
 当初の目的を、ENNは忘れかけていた。
 ぺろりと、舌なめずりをするその仕草は、まさに「獲物」を前にした野獣。
 Rustle
 唐突にENNの後ろ、茂みが揺れた。
「おい、後ろ!」
「なっ!」

 突然、狼が三匹飛び出してきたのだ。
 Bap!
「余計にややこしくしやがって・・・」
 そして上空から、二匹の巨体が舞い降りた。
 加えて、地中からは凶暴なアナグマまではい出てきた。
「おい、一時休戦な! こいつらを先に殺るぞ!」
「しょうがねぇな。一時だからな!」

 さすがにエネミーが群れた中で喧嘩を続けるわけにもいかない。二人は湧いて出たエネミーに向き直った。
「楽しみを邪魔しやがって・・・ぶった斬ってやる!」
 舞い降りた巨体・・・ヒルデベアにまずは近づき、ダブルセイバーで斬りつける。
 さすがに相手はZER0程すばしっこくはない。易々とダブルセイバーの刃が巨体を切り刻んでいく。
「次!」
 倒れ逝く森の王者に目もくれず、すぐさま次の標的へと駆けつける。
「はっ!」
 一方ZER0も、先ほどまでの相手に比べれば、狼やアナグマは随分とかわいらしい動物達だ。唸る愛刀が一閃する度、断末魔が木霊していく。
(・・・今しかないな)
 エネミーが湧き出てきたのはトラブル。しかしZER0にとってはチャンス。
(ま、あいつなら問題ないだろう。随分数も減ったしな)
 ZER0はこっそりと、一人退却した。群がるアナグマ達に奮起しているENNに気付かれぬよう。
 卑怯な男だ。一人女性が猛獣たちに襲われている中を、逃げ出すのだから。
 だが、このまま猛獣たちを全て倒した後に待ち受ける事を考えると、ZER0の行動も卑劣とは言い難い。
(まったく・・・どうせなら、バーチャルルームのバトルステージでけりを付けたいところだがな・・・)
 ハンター同士の争いは御法度。汚名をかぶろうとも、ZER0は争い事を回避する方を選んだ。

「ちっくしょぉ!」
 一人、ENNは吠えた。
 気付けば、周りには誰もいなくなっていた。
 エネミーはもちろん、ZER0すらも。
「あの野郎・・・逃げやがったな!」
 逃げられた事や、置き去りにされた事はどうでもいい。もちろん、本来の目的だった情報収集が出来なかった事に腹を立てているのでもない。
 決着が付いていない。それがすごく悔しい。
「大体あいつ・・・手抜きまでしやがって・・・」
 ZER0がこの場にいるならば、そこは否定するだろう。本気だったと。
 ただし、ZER0は刃をENNに向けていなかった。刀の背が相手に当たるよう、つまり峰打ちが出来る状態で戦っていたのだ。ENNにとってそれは「手抜き」と受け止めた。
 どんなに失礼で、どんなに強敵でも、ENNは女だ。少なくとも軟派師に言わせれば。それが「逆手」というやり方を取ったZER0の心境。
 もしその事をENNが知ったらどうなるか? おそらくは「女扱いしやがって」と憤慨しただろう。
 ある意味、とことんまで相性の悪い二人だった。後々、二人はそれぞれにそれぞれの噂を聞く度にそう思うだろう。

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