novel

No.co4 立場
with「TAGS(Team attack group force)」
(Pokeka)

 スパイ活動を行う上で注意しなければならない事は様々あるが、一番重要なのは潜伏先で正体を知られない事だろう。
 DOMINOの場合、スパイ活動というほど大げさな行為ではないのだが、しかし潜伏先となっているハンターズで、自分が本来軍人であるという事は知られてはならない事だ。
 ハンターズと軍は仲が悪い。その為多くの者が互いを啀み合っている。DOMINOが軍人である事をひた隠しにしているのは、こういった事情があるからだ。
 しかし逆に言えば、ハンターズは軍と仲が悪い故に軍人の知り合いがいる者など皆無だ。自ら軍人である事を公言でもしない限り、そう発覚するものではない。
 そう思っていたのだが、一つ落とし穴があった。
「DOMINO! こんな所でなにやってんの・・・それにハンターズの服まで着て!」
 唐突に声をかけられたDOMINOは大いに慌てた。
 声をかけた女性は、DOMINOとほぼ同じようなハンタースーツを着込んでいた。つまり相手もレイマールなのだ。
 ただ同じなのは服だけではない。
「久しぶり。まさかこんな所で会うなんて・・・もしかしてDOMINOも軍を辞めてハンターズに?」
 落とし穴とは、これである。
 ハンターズには軍のように採用試験などがあるわけでもなく、ギルドに登録すれば即ハンターズの一員として認められる。その為様々な経緯でハンターズへ登録する者がいるのだが、その経緯に「軍を除隊してハンターズになった」というのも多く、珍しい事ではない。かの機神BAZZもそんな経緯の持ち主だ。
 ハンターズは軍人を嫌い知り合いもいないのが普通だが、軍を経由してハンターズになった者は例外となる。つまりハンターズの中にも軍人に知り合いがいる者もいるのだ。
「久しぶり・・・アドレーヌ・・・そっか、そういえばあの後ハンターズになったんだっけ・・・」
 DOMINOは軍人であるが故に、ハンターズを嫌っている。こうして今、任務とはいえハンターズの中に紛れているのも不本意な事なのだ。そんな彼女にとって、ハンターズに紛れている事が発覚してしまった事より、ハンタースーツを着ている自分の姿を見られる方が恥ずかしい事。出来ればハンターズに身を落としたわけでないのを熱弁したいところなのだが、もちろんそれが出来るはずもない。
「私がWORKSを辞めて以来だっけ。それにしてもあのDOMINOがハンターズにねぇ。別に軍じゃ珍しい事じゃないけど、あんなにハンターズの事すごく嫌ってたのに」
 この勘違いを正したい。もちろん勘違いされている方が任務上有利なのだが、プライドからか、ついつい口を滑らせてしまいそうになる。
「それにしても、どうして軍を辞めたの? レオ隊長ともめた私と違って、あんなにレオ隊長になついてたのに」
 なついていたという表現にいささか棘を感じるが、それよりも、この場をどうごまかせば良いのか。適当に嘘を付いてやり過ごせばよいのだが、どうにもその軽い嘘にすら、変なプライドを持ってしまい、上手く付けない。
「いや・・・あの・・・」
 故に、言葉がおぼつかない。
「いやぁ、こいつがレオにこっぴどく振られちゃってねぇ。それでざっくり深く傷ついた心を俺が癒してやったらさ、あなたについて行くわってそのままハンター・・・」
 Bap!
 何時、どこから、どうやって。いつの間にか現れDOMINOの肩に手を回し雄弁に語る軟派師を、拳一つで黙らせた。

「そうか、アドレーヌに会ったのか。いや、災難だったな」
 定期報告の為に訪れたラウンジにて、笑い声と共に慰めの言葉をレオにかけられた。
「あの娘は元々ハンターズ向きの所があったからな。元気にやっているようで何よりだ」
 アドレーヌはレオともめて軍を除隊しハンターズになった。もめた原因は二人とも語ろうとしないので詳しくはわからないが、少なくともレオはアドレーヌに悪い感情を持っているわけではないようだ。
「それにしても、ZER0は相変わらずだな。彼には感謝しなければならんぞ? なにせその場を彼がごまかしてくれたのだからなぁ」
 レオはまた豪快にDOMINOの災難を笑い飛ばした。
 本来アドレーヌに会った事も、その場をどう切り抜けたのかも、レオに報告する事ではない。だが今回は大して報告することがなかったことと、ちょっとした座談の流れで話しただけ。DOMINOにしてみれば、愚痴吐きにも等しいのだが。
「冗談ではありませんよ。アイツはああやって女性を軽く見過ぎる嫌いがあります。これだからハンターは・・・」
 顔を真っ赤にしながら抗議するDOMINOを見て、満更でもないだろうにとレオはほくそ笑んだが、さすがに言葉にはしなかった。
「さて・・・定期報告ついでに、一つ任務を任せたい。いつもの掃討作戦だ」
 普段見せる事務的な顔付きに戻すと、レオは部下に任務を伝えた。
「場所は坑道エリア。以前にも同じ作戦をダークサーティーンの面々には協力して貰ったが、今一度コンピュータの中身を調べたいとラボから要請があった。そこで前回とほぼ同じ依頼になるが、引き受けて貰いたい。ES女史にはこちらからも連絡を入れておこう」
 淡々と作戦内容を説明するレオ。既に真顔に戻っていたDOMINOは、敬礼一つで了解した。

「今回の依頼は人数を必要とするのは判ります。その為に助っ人を呼んだのも判ります。今回は隊長もESさんもいませんし・・・」
 ぐっと何かをこらえながら、DOMINOはぶつぶつと独り言を言うように、場にいる面子へ・・・というよりは、ZER0と彼が連れてきたメンバーに対して文句を吐き出している。
「どうしてアドレーヌがいるんですか!」
 元同僚とはもう会いたくなかった。自分がハンターをやっている姿を見られたくない。あの場をどうにかごまかしたDOMINOは、もう二度と会う事がないように祈っていた。にも関わらず、ほんの数刻後に又再会するとは思ってもいなかった。それもあの場をごまかした「材料」になっていたZER0の手によって。
「いや、お前の元同僚だっていうし、問題ないと思ったんだがなぁ」
 言いながらにやつくこの男に、言葉以外の思惑があるのは間違いなさそうだ。
「それにこれは私から頼んだ事なのよ。「うちの死神」が是非「そちらの死神」と一度に仕事をしてみたいって言うから・・・ごめん、迷惑だった?」
 対して、アドレーヌは悪気無かったようだ。彼女にしてみればDOMINOの事情を知っているわけでもなく、ただ元同僚として懐かしさあっての申し出だったのだろう。
 それに彼女が言う「うちの死神」という話にも嘘はないだろう。
「まぁ良いんだけどね・・・」
 こうなったら腹をくくるしかない。どのみちアドレーヌはDOMINOが思っている以上にDOMINOがハンターズにいる事を深く考えていないようなのだから。
「すみません。アドレーヌから元同僚がダークサーティーンに入隊していたと聞いたもで、つい無理を・・・」
 アドレーヌの言う死神とは、彼女の兄だった。名をコマエモンと言うらしい。
 物腰の柔らかそうなフォーマーがすまなそうに頭を下げる姿を見せられては、むしろこちらが申し訳ないと思ってしまう。
「いえ、あまり気になさらず。DOMINOさんも突然の事にただ驚いただけですから」
 リーダー代理となっているMが、DOMINOに代わって場を収めている。
 死神と呼ばれている二人が互いに頭を下げる。言葉にすると少し面白いシチュエーションになっているが、見た目二人とも死神と呼ばれているようには見えない。それだけによくよく考えるとよりおかしいシチュエーションと言える。
 それにしても、どうしてこのフォーマーが死神などと呼ばれるのだろうか? ダークサーティーンの面々にはそれがいまいち理解出来なかった。
 厳密には「魔導死神」と呼ばれているそうだが、「魔導」は彼がフォーマーである事からよく判るとはいえ「死神」のイメージは何処にも見受けられない。少なくとも見た目では。
 ダークサーティーンの死神は、彼女が関わる仕事に必ず死がまとわりつく事から付けられた陰口に近い二つ名だ。今でこそ死神の名を別の意味に捉える事で誇りとしているのだが、目の前の男も似たような経緯でもあるのだろうか?
「それと、彼女がリボン。彼女「も」うちの前衛担当なんです」
「あの・・・よろしく・・・」

 も?
 控えめなハニュエールがお辞儀をする姿を見ながら、ダークサーティーン側の三人は頭にクエスチョンマークを何個も浮かべていた。
 その「?」を「!」に変えたのは、作戦を開始してすぐの事だった。

「ハァッハハハハハ! 死にやがれぇ、この鉄くずどもが!」
 ソウルバニッシュと呼ばれる鎌を持ちながら、敵の群れへと突っ込む一人の男がいた。
 むろんZER0ではない。あの「魔導死神」コマエモンだ。
 なるほど。さすがにこの光景を見せられたのだから、三人は否応なしに納得させられた。
 ただ、驚いたのは死神に対してだけではない。
「このっ、とっととバラバラになっちゃいなよ! アハハハハハ!」
 控えめだと思っていたリボンまでもが、高笑いを上げながらコマエモン同様暴れ回っている。
「二人とも二重人格なのよね。ああでも、リボンは普段こんなんじゃないのよ。ただ今日は皆さんがいるから「ちょっと」興奮しているみたいだけど」
 一人冷静に、アドレーヌがあっけにとられている三人に説明をする。
 慣れているのは判るが、よく平気で説明が出来るものだと、変なところに感心してしまう。
「えっと・・・とりあえず、サポートは私が行いますから。ZER0さんはコマエモンさん達をフォローして頂けますか?」
 あの様子では、フォースであるはずのコマエモンからテクニックによるサポートは期待出来ない。事前に作戦を組み立てた時にはコマエモンもサポートをする予定だったのだが、興奮している本人は作戦の事など覚えていないだろう。
 おまけにもう一つ。リボンは本職だけに「ちょっと興奮」しているとはいえ、きちんと敵をさばききっている。しかしコマエモンはお世辞にも接近戦に慣れているとは言い難い。そうでなくても今回は敵がやたらと湧いて出ている。ZER0がコマエモンのフォローをする必要があるとMは判断した。
「しょうがねぇな・・・」
 苦笑いを浮かべ、ZER0が前線へと切り込んでいく。普段どちらかといえばZER0が一人で突っ込む事が多いのだが、そのお株を奪われては苦笑いの一つもしたくなるというもの。
「・・・これだからハンターは・・・」
 慣れてきたと思っていたハンターズだが、やはりDOMINOには理解しがたいところが多すぎるようだ。
 いや、これがハンターズの全てと思われても困るのだが・・・。

「いやはや、大変お恥ずかしいところをお見せしてしまって」
 作戦終了後。恐縮しきりの死神がZER0に頭を下げていた。
「まぁ作戦は完了したし、そう気にするなって。それに・・・」
 場にはコマエモン達三人とZER0が残っている。Mは報告書作成の為にESの部屋へ戻っており、DOMINOもレオに報告する為にいつものラウンジへ向かっていた。
「誘ったのは俺だしな」
 たしかに、コマエモンがMと共に仕事をしてみたいと思っていたのは事実だが、先に声を掛けたのはZER0だった。
「こんな可愛い二人とは是非お近づきになりたいし、それにさ・・・」
 コマエモンの側にいる二人の女性に向けて片眼をパチリと閉じるZER0の姿にすこし、いやだいぶ引かれながも、彼は続けた。
「色んなハンターと仕事するのも経験しておかないとな。こんな心配、本当は俺がすべきじゃないんだが」

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