novel

No.5 軍人〜掃討作戦1号〜

 パイオニア2は、船団の総称である。
 約3万の乗員の他に、移民のための資材や軍の兵器,研究施設などを一度に運ぶ必要があったため、大型船1隻では事足りない。そこで船団という体勢をとり、各船をワープホールで結んでいるのだ。これにより、船は数隻あるものの、1隻の巨大艦に搭乗しているのと同じ状況を生みだしている。
 しかも、居住区,総督政府区,軍部区,ハンターズギルドといった施設ごとに、船そのものを区分けしているため、ワープホールに制限を設けるだけで、各施設への不法侵入を防ぐことができる。もっとも、ハンターズギルドと総督政府区はパイオニア2本船内にあり、繁華街も本船内にあるのだから、このワープ制限を行っているのは、母星政府高官も搭乗している軍部区だけなのだが・・・。
「珍しいな・・・お前から接触してくるなんて」
 繁華街の一角にある高級レストラン。その場に不釣り合いな者が来店したことで、店内は軽くざわめいていた。
「よく言う。わざわざ接触しやすいように、民間の繁華街まで出てきたくせに。お前が軍部区にいたままじゃ、こうして接触もできなかったのだからな」
 来訪者は、一人で食事をとっていた男に立ったまま話しかけた。その光景もレストランという中では多少珍しいことかもしれないが、客がざわめいた理由は別にある。
「軍部区の食堂は悪くないが・・・たまにはおいしい物を食べてみたくてね。まぁアンドロイドの君にはわからん感覚かもしれないが」
 アンドロイドは食事をしない。それは当然食事をする必要がないということもあるが、食事を楽しむという感覚がないからという事でもある。
「まぁ座ったらどうだ? BAZZ。わざわざ訪ねてきて立ち話もないだろう」
 飲食店には食事以外の利用目的がある。待ち合わせの場や座談の場といった利用目的などだ。アンドロイドとて、そのような利用目的でレストランを利用することも当然ある。故にジャンクフード店などではアンドロイド用の給油設備もあったりする。だが高級レストランでそういった設備はない。だから客は多少ざわついたのだ。
 とはいえ、けしてあり得ない話ではない。そのためか、回りの客はすでに落ち着きを取りもどし、各々の食事を楽しんでいる。
「俺の体を支えられる椅子はなかなかなくてな。壊れやしないかと椅子を調べていただけだ」
 軽い冗談を言いながら椅子を引き、椅子に体を預けた。
 Bank!
 そして、椅子に腰掛けたアンドロイドは、再び回りの客から注目されることになった。
「たしかに・・・ここには人間用の椅子しかなかったな」
 粉々になった木片の中央には、しゃがみ込む体勢をとったままのアンドロイドがいた。
 注目を集める合図となった破壊音よりも大きな声で、着席を勧めた男が大笑いをしていた。

「それで、軍を辞めたお前が俺に何のようだ?」
 場所を個室のラウンジに代えたところで、いきなり本題にはいる。
「軍は何を企んでいる?」
 そして質問者も、何のためらいもなく単刀直入に訊いてきた。
「・・・・・・相変わらずだな。もうちょっと、駆け引きというものを覚えた方がいいぞ」
 笑いながら、昔の戦友の相変わらずな性格に、ある種うれしいとさえ感じていた。
「駆け引きならもう始まっているだろう」
 一方、BAZZは至って真面目に切り返した。彼もまた、かつての戦友の性格をよく知っていたから。
「お前は、俺・・・いや、俺たちハンターズにやらせたいことがある。だからわざわざ高官となったお前が、高官がいてもおかしくない店・・・高級レストランで俺を待った。違うか?」
「・・・どこで解った?」

 BAZZの推理に興味を持ったのか、認めながらも推理の根拠を聞き出そうとする。
「簡単だ。お前との連絡を取ろうとした時、秘書があっさりとお前の居場所を俺に知らせた。加えて、あの店は高官クラスにしてはグレードが低い。俺が来店できる程度の店を選んでのことだろう」
 相変わらずの洞察力に、元同僚は感心していた。もっとも、そう難しい推理でもないのだが、それでも彼は、BAZZの衰えていない洞察力を確認できただけでまたうれしく思うのだった。
「さすが・・・と言うべきかな」
 しかし、口ではあまり高い評価を与えない。もっとも、これが彼なりのほめ言葉であることを、BAZZは良く知っているのだが。
「では、俺もこの駆け引きに終止符を打つ必要があるな」
 深く腰掛けていたソファーの手元を、軽く叩く。すると目の前にテレビサイズの画面が出現した。
 ここは個室とはいえ、ラウンジである以上、それ相応の広さがある。さらにいえば、政府高官が使うようなラウンジだ。広さだけでなく設備や装飾品も全て豪勢。もちろんサービスも超一流である。それ故なのか、広すぎる室内を動き回ることなく事を成せるような設備が整っているようだ。
 画面にはホテルの従業員らしい受付嬢が映っていた。
「DOMINOをここへ」
 一言だけ告げると、受付嬢と画面は、かしこまりましたという言葉を残して消え失せた。
「・・・さて、彼女が来る前に、2,3君の質問に答えなければならないな」
 ソファーから立ち上がり、窓辺へと近づく。
「君が言うように、軍は何かを企んでいるようだ。が・・・俺も軍を退いて久しい。なかなか連中の動向を把握するのが難しくなった」
 元軍人である政府高官は、さも悔しそうに愚痴るよう語る。軍人から政府高官へ。通常ならこれほどの出世は名誉であり喜ばしいことのはずだ。だが、彼はこれがいたく気に入らないらしい。
「俺たちがいた部隊にも、上層部から送り込まれた者が入り込んでいてね。なかなか、俺の思い通りには動かせなくなってきた」
 彼はかつて、部隊の大隊長を勤めていた。BAZZはその部隊で小隊長を勤めていた。つまりは、BAZZにとって彼は元上司に当たる。もっとも、二人ともお互いに上下関係があるなどと思ったこともないが。
「だが、お前が政府高官にある事によって、あの部隊も政府直轄の分隊になった。そのための障害も多いが、こうしてパイオニア2に無理矢理乗船されることもできた・・・。結果論だが、これがかなり好転してきているじゃないか」
 戦友の愚痴に、フォローを入れる。これも昔と変わらない。軽く口元をゆるめながら、話を続けた。
「今回、ラグオルの探査を総督府が真っ先に手を打ってくれたおかけで、全てを軍と母星政府に掌握されることは免れた。だが、彼らがイニシアチブを取りたがっていることに変わりはない。そこで・・・」
 PiPi
 途中言葉を切るように、来訪者を告げるベルが鳴った
「来たようだな。入りたまえ」
 ドアへ向かって声をかけると、ホテルという場所ではとうてい目にすることがない服装・・・軍服姿の女性が入室してきた。
「失礼します」
 女性らしくも、凛とした声。軍特有の敬礼をしているところを見ると、服装通りの職にある者のようだ。
「パイオニア2宇宙軍空間機動歩兵、第32分隊。特務小隊レイマール、DOMINO。参りました」
 これもまた軍人らしいと言うべきか。長い自己紹介を終えて、ようやく敬礼を解いた。
「・・・・・・いつも言っているだろう。公式な場でないところで、堅苦しいことはするなと」
 苦笑いを浮かべながらの小言。おそらくは、彼は何度もこの台詞を口にしているようだ。
「はっ。申し訳ありません」
 再び敬礼。どうやら、彼女は根っからの軍人のようだ。訓練学校で染みついた礼法がなかなか抜けないでいるようだ。
「紹介しよう、BAZZ。君が抜けてから軍に入隊した、DOMINO君だ」
「DOMINOです。以後、お見知り置きを」

 3度目の敬礼。思わずBAZZもつられて敬礼をしてしまう。彼もまた、まだ軍人であった頃の癖が抜けていないのかもしれない。
「よろしく、DOMINO。俺は・・・」
「存じています。元機動歩兵32分隊、アンドロイド小隊隊長、BAZZ殿ですね。機神としてのご活躍、私が訓練校の生徒だった頃より聞き及んでおります

 ハンターズに所属する前のBAZZは、軍の中で知らぬ者はないというほどの英雄だった。だが、彼がアンドロイドであったがために、昇級することはなく小隊長として常に最前線にいた。故に英雄談を生み出し続け、いつしか「機神」と呼ばれるようにまでなっていた。
「活躍か・・・」
 だが、そんな英雄談も、今の彼には不要の物。それどころか、かえって彼を苦しみ続けることになっているのだが・・・。
「BAZZ、彼女をしばらくハンターズに潜伏させたい。その手続きとその後の面倒を君に頼みたい」
 何かある、とは思っていた。だが・・・政府高官殿はとんでもないことをさらりと言ってのけた。
「・・・・・・つまり、お前もハンターズ側の情報が欲しいと?」
「そういうことだ。もちろん、俺の情報は彼女を通じて全て伝える。悪くない話だろ?」

 一見、五分の条件のように思える。だが、そうはならないことをBAZZは解っていた。
 ハンターズ側の情報は、直接DOMINOが見聞きするために正確なものが伝わるだろう。だが、政府や軍側の情報は、高官である彼がDOMINOに伝えない限り、BAZZ達が知ることはできない。つまりは情報をコントロールすることが可能なのだ。
「OK。その条件でかまわないが・・・」
 BAZZはこれを了承した。なぜなら、彼はこの条件を申し出た男を良く知っていたから。
 レオ・グラハート。政府高官となった彼の目的をBAZZは知っている。
 高官の職に就く前から、レオは軍と政府の怪しげな計画を暴こうとしていた。というよりも、彼は政府と軍の計画を知るために軍へ入隊したようなものなのだ。そして着実に実績と信頼を勝ち得、自分の同志を集め、機動歩兵32分隊という隠れ蓑を着た彼のための部隊を築いた。
 だが、そんな彼の企みを知ったためか、あるいは軍内部での発言力が増した事への懸念か、政府は彼を無理矢理高官の職へ就かせることで、彼を、彼の作り上げた32分隊、通称「WORKS」から切り離したのだ。
 今のレオの立場は、政府高官でありながら、ハンターズと総督府に近い。そんな彼が、情報操作をする必要はほとんどないと言っていい。
 間違いなく、レオはBAZZにとって味方なのだ。
「ハンターは軍人じゃない。そしてハンターは軍人を嫌う。けして軍人であることを悟られないようにな。DOMINO」
 この言葉が、そのまま契約成立の証となった。
「Yes sir!」
 気迫を込めた敬礼を見て、BAZZがこの後の苦労を予見したのは言うまでもない。

「その服じゃ、ほとんど前とかわらんな」
 戦闘時に装着する服は軍服しか持ち合わせていないと言うDOMINOの為に、ハンター用の服をギルド直営の衣料店へ出向き購入しに来ていた。
「それでも、正規軍の物とは違いますし、ハンターズのIDもありますから、誰もDOMINOさんを軍の方だとは思いませんわよ」
 BAZZはアンドロイドであり、思考回路も男性にセッティングされているため、女性の服を選ぶセンスに欠けている。そこで、ESの部屋で待機していたMに、DOMINOの服を選ぶ手伝いをしてもらっていた。
「まぁいい。実際、今レイマールの間ではそういうのが流行なのだろ? 目立つこともないか」
 ハンターとは言え、やはり自分が着る服などにこだわる者も多い。もちろん実用性も兼ねる必要があるため、そうバラエティーに富んだ物が多く存在するわけではないが、それなりにファッションにこだわる。面白いことに、そのファッションも職業や性別ごとに流行が存在し、色こそ違えどほぼ似た形状の物になっている。今では、服装で職業が解るようにまでなった。
 余談だが、ハンター用の服は一律10万メセタと高額になっている。これは、デザインや色の指定などは科学的発展のためにそう費用のかかる物ではないのだが、全てオーダーメイドの特注品であることから高額になっている。ハンターとして、盾や鎧も装備しなければならず、それらの装着部品が最も高額なためでもあるのだが。
「・・・・・・・・・」
 照れているのか? いや、どちらかといえば不服なのだろう。DOMINOは二人の批評を聞きながらも、黙ったまま少し俯いていた。
「なんだ? 卑しいハンターズに身を置くのがそんなに嫌か?」
「!? いえ、そのようなことはけして・・・」

 口では否定したものの、あわてた態度が図星であったことを物語っていた。
 ハンターが軍人を嫌うように、当然軍人もハンターが嫌いであった。彼ら軍人は、厳しい訓練の末に入隊し、民間人を守るという指名に燃えている。なんの訓練も受けずに、金儲けのために戦うハンター達とは誇りも精神も違うのだ。彼らは常にそう主張していた。むろん、それはDOMINOも例外ではない。
「君がハンターをどう思おうが勝手だ。だが、これは君にとっては作戦行動の一つだ。それもスパイ行為というな。作戦を成功させたければ、準じることだ」
 BAZZの言うことはもっともだ。それはDOMINOにも解っている。
 だが・・・プライドがそれを邪魔する。
「まぁ、あのレオさんが推された方ですから、きっと慣れますわよ」
 元軍人でハンターズのことも理解しているレオが、何故こうも軍人気質の抜けない、それもまだ若いDOMINOをこの作戦に指名したのか・・・親友であるBAZZにも、その真意は測れないでいた。
(あいつの事だ・・・考えがあるのは解るが・・・まったく、面倒を押しつけてくれる)
 そして、面倒がもう1つやってきた。
「なに彼女。新入り? そうかぁ、俺もハンターやってんだ。良かったら先輩として、ハンターにおける基本的な心得っていうのを教えてあげるよ。まぁ立ち話も何だからちょっとそこの喫茶て・・・・・・」
 Krrakk!!
 BAZZの、名の通り鉄拳がうなり、唐突に現れた男の頭を殴りつけた。
「女と見るなりそれか・・・先輩なら先輩らしく、ちょっとは毅然としろっ!この軟派師が」
 頭を押さえうずくまる男を見下ろしながら罵倒。
「それにしても、鼻が利くというか・・・女性の事となると神出鬼没ですね。ZER0さん・・・」
 褒めているのか呆れているのか、Mは苦笑しながら評した。
 ただ1人、どう対処して良いのか戸惑うことしかできない少女がいた。
「・・・これだからハンターは・・・・・・」
 本当に、ハンターにとけ込むことができるのだろうか? ハンターとして最悪のスタートとなったことだけは間違いないようだが。

「むちゃくちゃな依頼だなおい・・・降下後十分で指定エリアのエネミーを全滅させろだぁ?」
 BAZZがレオから託されたのは、DOMINOだけではなかった。
 掃討作戦
 軍の本格的なラグオル調査が開始されるのにあたり、戦力の整わない軍の代わりに先発隊としてハンターがエネミーを一掃。邪魔がいなくなったところで軍と軍の科学者が侵攻するという作戦。これをハンターギルドを通した依頼として受けて欲しいというものだ。
「先にBOSSや他のハンターから報告があるように、ラグオルの原生生物は、理由はともかく一掃しても時間が経てばまたどこからか現れる。つまり安全に軍のヒヨコ達を送り届けるためには、殲滅して復活するまでの間が勝負なわけだ」
「まったく・・・徒党を組まねぇと何も出来ねぇ連中はこれだから・・・大体、軍がギルドに依頼とはねぇ。奴ら、何企んでるんだ?」

 ZER0の言葉に、DOMINOがたまらず立ち上がろうとした。それを気付かれぬようにMが制する。
「調査そのものは何かを企んでいるんだろうが、少なくともこの作戦自体には打算はないだろう」
 一息つき、ちらりとDOMINOを見た後で続ける。
「あるとすれば、戦力の効率的な温存。軍にとっては、ハンターズに打撃があっても、なんら問題にはならんしな。金で解決できるのなら、多少の出費とプライドも惜しまんということだ」
 DOMINOの肩が震えていた。Mがそばでなだめているが、その震えが止まることはない。
「はっ。普段はやれ鍛え方が違うだの、やれ金に汚い亡者だのと俺たちをバカにしてきたくせに。いざって時にはこれだ。自分たちの身かわいさに、金で事を解決する連中のどこにプライドってのがあるのかねぇ」
 俯いたまま、顔を上げずに必死にこらえていた。突っ張った腕の上には、ポタポタと雫がこぼれ落ちていた。
「・・・ん?どうしたお嬢さん」
 さすがのZER0も、DOMINOの様子がおかしいのに気がついた。自分が彼女の心を痛めつけているとも知らずに、優しく声をかける。
 ZER0には、DOMINOが軍の特務で派遣されたことを伝えていない。ダークサーティーンのメンバーでない彼に伝える必要がないということもあるのだが、軍を嫌っている彼に真実を伝えることで拗れることを恐れたからだ。
 結果、ZER0は知らずの内にDOMINOを傷つけることとなった。
 彼は無類の女好きだ。たとえ軍の者でも女性であれば優しく接していただろう。彼女が軍の者だと知っていれば、このような愚痴をこぼすことはなかったはずだ。
 この判断は失敗だった。いや、実はBAZZにとっては計算済みだったのだ。
 ハンターズの軍に対する本音。この生の声を聞かせることが大事だと、BAZZは考えていた。
 軍の中だけでは、偏ったものしか見えてこない。それはハンターズにもいえること。軍しか知らない彼女にとって、ハンターズのイメージは最悪だ。そしてそれはハンターズしか知らないZER0にとっても同じで、軍のイメージは最悪なのだ。互いに、誇りを持って任務に当たっているのに、だ。
 ハンターズに潜伏する以上、ハンターズの本音を知る必要がある。そしてハンターズの誇りも。そのための荒治療。
「初陣で緊張してらっしゃるのよ・・・ちょっと休ませて参りますわ」
 Mが気を利かせたフォローと共に、DOMINOを外へ連れ出した。BAZZの荒治療のフォローも兼ねて。
「・・・・・・彼女の気が落ち着いたら作戦を開始するぞ。今回はBOSS不在のために俺が指揮を執る。まぁ部外者のお前に言っても仕方ないがな」
「ぬかせ・・・ところで、彼女はダークサーティーンに入隊させたのか?」

 入隊を許されない彼にとって、ハンターに成り立ての新人が入隊するのは面白い話ではない。まあ彼としては、新しい女性と近づけるきっかけが出来ることはうれしいのだが。
「それはBOSSが決めることだ。まぁ重要な作戦以外は俺と行動を共にすることになるがな」
 言葉に「ナンパは出来ないぞ?」と言う意味を含ませた言いよう。それはZER0も理解していた。
「ま、俺はいいさ。それよりも、ESに食われんように気をつけるんだな」
 軟派師の言葉に、さすがのBAZZも多少不安を覚えた。

 簡単なミーティングは降下前にすませていた。
 今回は時間との勝負であるため、エネミーを瞬殺する必要がある。
 そこで、ZER0はいつも通り切り込み役として率先して敵に向かい、加えて敵を1カ所にまとめるおとり役も兼ねてもらう。
 まとまった敵に対して、BAZZのショット,Mの鎌が多数のエネミーにダメージを与える。もちろん、Mのシフタ,デバンドも忘れずに。
 DOMINOは補佐として、ZER0が引きつけることの出来なかったエネミーの足止めをハンドガンで行いつつ、ジュルン,ザルア,レスタといった補助や回復を任されていた。
 本来なら、MとDOMINOの役割は交代するべきだろう。Mはフォースである以上補佐役に徹するのが定石であり、ショットも扱えるレンジャーのDOMINOの方が複数攻撃に向いている。
「すごい・・・・・・」
 だが、このBAZZが組み立てた作戦が正しかったことを、DOMINOの感嘆の声が立証していた。
 あまりにも統率のとれたチームワークに、DOMINOが入り込む隙間などなかった。
 お互いに声を掛け合わずとも、自分の役割を良く理解し、行動に移す。それも臨機応変に。
 これが訓練も受けていない者の実力なのか? BAZZは軍出身だから納得がいくにしても、他の2人は? しかも内1人はフォースであり戦闘には不慣れのはずでは?
「よし、次っ!」
 エネミーを殲滅し、セーフティー解除された扉へとすぐに駆け込むZER0。敵を引きつけるためには、真っ先に駆け込む必要がある。
 敵が分散してしまわないように、ZER0以外のメンバーはいったん足を止める。その間にMがシフタとデバンドをかけ直す。そして敵がまとまったところで3人が扉を潜る。
 全く無駄がない。これほどの行動を、どうして訓練を受けていない者たちが実戦できるのだろうか? DOMINOは作戦中、その疑問ばかりが、頭を駆けめぐっていた。

 そして、瞬く間に作戦は終了した。
「終わったな・・・七分弱か。この程度だったら、もう少しタイムを縮められたかもしらんな」
 予定時間よりも3分早く終わらせただけでも、称賛に値する。だが、それでもBAZZは少し不服そうだ。
「冗談じゃねぇぜ・・・時間通りやりゃあ良いんだよ。タイムラップを競ってんじゃねぇんだからよ」
 ZER0の言うことはもっともだった。特に、終始駆け回っていたZER0にしてみれば、これ以上頑張れといわれるのは酷な話だ。
「どうだ、DOMINO。初陣の感想は」
「えっ・・・」

 BAZZに感想を求められ、言葉に詰まる。
 自分は、どれだけ作戦に貢献できたのか? いや、むしろ足を引っ張ったとしか思えない。
 もう少し早く・・・BAZZの言っていた、タイムを縮められなかった要因は自分にあるのではないか?
「いやぁ、お嬢ちゃんはたいしたもんだ。足止めをかなり的確にやってもらって助かったぜ。さすがレイマール。褒めてやって良いんじゃねぇの?」
「そうですわね。援護というものは功績が見えにくいものですが、前線に立った私たちは間違いなく、あなたの援護に救われていましたわ。よくがんばりましたね」

 ハンターとしての先輩2人は、新米を暖かく評価した。
「うむ。だが、リロードがまだ甘い。照準を定めるのも少しまごついていたな。動く標的は慣れてないのかもしらんが、もう少し的確な射撃を心がけろ」
 対して、元軍人でありレンジャーとしての先輩は、厳しい評価を与えていた。
「きっついなぁBAZZ。やっぱ軍出身は暖かみがないねぇ」
 むろん、ZER0流のシャレを含めた言い方ではある。だが、これがハンターと軍の違いなのかと、DOMINOは痛感していた。間違いなく、これが軍での作戦であれば、BAZZよりももっと厳しい評価を受けていたのは間違いない。DOMINOにはそれが解っていた。
「あの・・・1つ聞いてもよろしいでしょうか?」
 作戦中、ずっと疑問に思っていたことを口に出す。
「何故・・・訓練も受けずに、ここまで完璧なフォーメーションが組めるのです? それもあんなに臨機応変に・・・」
 DOMINOの疑問に、3人がくすりと微笑してしまった。
「あら、ごめんなさい。そうね・・・経験と、慣れ。それと信頼かしらね?」
 Mの返答が全てだろう。だが、あまりにも教科書通りな答えに、納得がいかないでいる。それが顔に出ていたのだろうか? ZER0がDOMINOの表情を見て、Mの答えに付け加える。
「このメンツで依頼を何度もこなしているしな。お互い、何をすべきかも経験で知っているし、どんな戦闘をするのかも理解してるんだよ」
 それでもまだ納得できていない。そこでZER0は言葉を続ける。
「例えば・・・自分で言うのも何だけど、俺はあまりごちゃごちゃと考えるのが嫌いでね。戦闘時も、細かいことを考えながら戦うのが苦手で、猪突猛進、敵のど真ん中につっこんで、ダメージ食らうのもかまわずに乱闘するスタイルが好きだ。だから自然と俺の回りに敵がよってくる。BAZZは俺のそんな性格を知った上で作戦を立てているんだよ。別におとり役を買って出てる訳じゃないのさ」
 軍ではあり得ない作戦の組み立て方だ。まず各々の役割を、得手不得手関わらずこなさねばならない。好き嫌いで役割を分担するものではないはずだからだ。
「加えて、ZER0はそう敵に潰されることはない。まぁバカでもこいつは引き際を知っているからな。だから安心して任せられる。これがMの言葉を借りて言うなら信頼って奴だ」
「ついでにいや、俺はBAZZの作戦を信じてやってる。M達のフォローもあると解っているし。まぁこれも信頼だな」
「よく言う・・・お前は絶対に、俺の作戦にまず反対するだろう」
「あったりまえだっ! 反対しなけりゃ、お前なんでも俺に押しつけるだろっ!」
「信頼してのことだったが・・・理解してもらえず悲しいよ」
「おめぇ・・・心のこもらねぇ台詞はいてんじゃねぇよ」

 照れ隠しも含めて、2人は普段通り軽口をたたき合い始めた。DOMINOにはそれすらも、息のあった信頼行動に見て取れる。
「まぁ、あまり深く考えなくてもよろしいですわ。これから、あなたももっと肌で感じることが出来るようになりますわよ」
 にこり、と女神が戦乙女に微笑みかける。
 少しだが、ハンターが民間人に支持される理由が、解ったような気がしていた。
「そうそう。まぁもっと深ぁく俺たちの事を知ってもらうには、やっぱもっと親密に話でもすることかなぁ。というわけで、仕事も終わったし、この後俺の部屋でゆっくりしていかない?」
 くっと、軽くDOMINOの肩に手を回し、引き寄せる。
「キャアァァァァァァァァァァッ!!」
 悲鳴と共にZER0をはねのけ・・・・・・
「それだDOMINO。そのタイミングを忘れるなよ」
 戦闘時よりも素早い構え。そして照準会わせ。銃口はきっちりとZER0に向けられていた。
「これだからハンターは・・・」
 まだまだ、彼女のハンター嫌いが治るのは先のようだ。

5話あとがきへ 5話あとがきへ
目次へ 目次へ
トップページへ トップページへ