novel

No.41 隠居ハンター

 話はESが悲劇という爆炎に巻き込まれる前にさかのぼる。ちょうど、ESがZER0の病室を出た後まで。
 静まりかえった病室に、ずかずかと大きな足音が二つ、近づいてきた。
「よお兄弟」
 病室に入ってきたのは、一人のレンジャーと、一人の老人だった。
「バーニィ・・・」
 レンジャーには見覚えがあった。何時だったか、ある依頼を遂行中に知り合った男。そして・・・
「まだ生きてたのかって顔だな」
 ZER0がアギトに心奪われていた時、殺しかけた男。
「・・・すまん」
 ZER0に恨みあっての言葉ではない。彼なりの「おどけ」なのはZER0にも判っている。だが、冗談が過ぎる。故意ではないとはいえ、殺しかけた男に対し、なんと言葉を返せば良いのか・・・ただ謝罪することしか、ZER0には出来なかった。
「あぁ・・・まぁ気にすんな。俺はこうして生きてるんだし・・・」
 無理にでも場を明るくしたかったのがかえって逆効果になった空振り。気まずい中、どうにか言葉を紡ぎ出しながら、バーニィもまた、思うことをぽろりと口にする。
「そうだ、俺はまだ生きてる・・・間抜けな醜態をさらしてな・・・」
 ゾークを守りきれなかった。そして自分だけが生き残った。
 ゾークを殺したZER0を恨むよりも、彼は自分を恨んだ。ZER0を恨むのは筋違いだと判っているからこそ、彼は自分の不甲斐なさを悔やんだ。
「まあ、命があるうちはやれることもあるってもんよ」
 悔やむからこそ、前へ進まなければならない。
 ゾークが、教えてくれたこと。
 バーニィは恩人ゾークの為にも、拾った命を大切にしなければならない。そう心に誓っていた。
 そしてそれは、ZER0にもいえる。
 自分の責任に押しつぶされている目の前の男。彼もまた、拾った命を前へと進む為に使わなければならない。
 ゾークの為にも、彼自身の為にも。
「で、兄弟よ。実はお前に会わせたい人がいるんだが・・・」
 その為に、バーニィは一人の男を連れてきていた。
「貴様がゾークを倒したという男か・・・なるほど、腕は立つようだが・・・」
 もう一人の老人。彼こそ、バーニィが連れてきた会わせたい人物。
 厳密に言うと、会いたがったのは老人の方だった。
 バーニィにとってはむしろ、本意ではない。なぜならば、この老人の状況をよく知っていたから。
「早速だが若造。ワシの命はそう長くない」
 突然の言葉に、伏せっていたZER0も面食らった。
 それはそうだろう。威勢良く現れたと思ったら、唐突に余命幾ばくも無しと告げられれば誰だって驚く。
 そんなZER0の心境を知ってか知らずか、老人は相手の反応を待たず続けた。
「この余命、出来れば戦場で終わらせたい。そこで・・・若造。おぬしに立ち会いを頼む」
 次々と信じられないことを言い放つ。あっけにとられたZER0は、何も答えることは出来ない。
「うむ、沈黙は了解と受け取った。では遺跡で待っておるぞ。なにやら軍の連中が作戦行動の為に封鎖しようとしておるからの、急げよ」
 言うだけ言い終わると、老人はまたずかずかと病室を出て行った。
 あまりの出来事に、整理がつかない。
 とりあえず・・・これは依頼なのだろうか? 老人を連れてきたバーニィに向き直り、問いただそうとした。
「まぁ・・・あの人につきやってくれ。あの人の為にも、そして・・・お前の為にも」
 問いただす前に、レンジャーは答えた。
「それがあの人の・・・ドノフ・バズの願いなんだから」
「ドノフ・・・バズだって!?」

 またも、ZER0は驚かされた。
 ドノフ・バス。かつて三英雄と呼ばれた内の一人で、ハンターズや軍人憧れの的になっている。
 そして、同じく三英雄と呼ばれていたゾークやフロウウェンの親友である。
 自分が殺してしまったゾークの親友。
 そのドノフが、何故この様な事を? 何故ZER0を指名するのか?
「・・・俺にも、あの人が何を考えているのかはよくわからん。だが・・・別に敵を討とうって訳じゃないから安心しろ」
 むしろ、その方がどれだけ楽だったか。
 誰かに断罪して貰いたい。お前が悪いんだと罵声を浴びせられる方が、己の罪を収まりきらない心の中に無理矢理押し入れるよりよほど楽だ。その結果殺されるなら、それもまた本望。
「みんな・・・俺に何をさせたいんだよ・・・」
 深い溜息を一つ。
 ZER0は重い足取りながらベッドを降り、身支度を整え始めた。
「シノ・・・君もついて行った方が良い。君にも・・・たぶん必要なことだから」
 呆然と、ただ黙って立っていたアンドロイドに、バーニィは同行することを勧めた。
 同行して良いものか、シノは悩んだ。
 自分で行動を決定することに、従属型のアンドロイドであるシノは戸惑っている。
 だからなのだろう。シノはじっと、ZER0を、新しい主人になるかもしれない男を見つめた。
「・・・勝手にしろ」
 ZER0には、シノの主人になる意志はない。
 シノの主人になることはつまり、四刀を受け継ぐということ。
 そんなこと、出来るはずもない。
 だから勝手にしろと告げた。
 しかしシノはそれを、同行の許可と受け取った。うなずき、彼女も又身支度を始めた。

 重い足取りでラグオルへ降り立つテレポーターへと向かうZER0は、そこで意外な人物と出会った。
「アリシア・・・」
 ESの親友にして、ダークサーティーンの協力者。彼女はまるでZER0が来るのを待っていたかのように、彼を見つけると歩み寄り、深々と頭を下げこう言った。
「ドノフを・・・よろしくお願いします」
 何故アリシアが? ドノフとの一件を知っていたのかという疑問もあったが、それ以上に何故アリシアがドノフをよろしく頼むと頭を下げるのか? それが不思議だった。
「ドノフさんとは・・・」
 その疑問を、短い言葉で尋ねた。
「私のフルネーム、ご存じですか?」
 アリシアのフルネーム。
 アリシア・バズ。
 それを思い出し、ドノフ・バズとの関係に思い当たる。
「ドノフは・・・私の夫です」
 だがZER0の推測は外れ、また驚かされた。
 年が離れすぎている。孫と祖父というくらいに。娘ならまだ納得はいくが、夫婦とは・・・。
 そういえば、ZER0はもう一つのことを思い出した。
 アリシアは、三英雄の一人だったヒースクリフ・フロウウェンの養子である。なるほど、少なからずドノフとは元々縁のある人だったのだろうと、とりあえずは納得した。
「彼はパイオニア1に親友がいました。ヒースクリフっていう、ね・・・」
 目を伏せ気味に視線を落としながら、アリシアは語った。
「まるで兄弟・・・いえ、それ以上でした・・・」
 三英雄の話は有名だ。それだけに、ZER0も三人の友情話はよく知っていた。だが、アリシアが語る話には、ただの英雄談ではない重みがあった。
「だから・・・たぶん最後のときくらい、彼と同じ大地を踏んでいたいんだと思います」
 アリシアは名を口にしなかったが、おそらくゾークも同じ土地ラグオルで逝ったことも彼の考えにはあったのだろう。
 それが判るだけに、ZER0はまた心に重圧を感じる。
 どうして皆、俺ばかりに・・・。
 のしかかる様々な因縁に、疲れ果てていた。
 だが、涙を湛えた瞳を見せぬように頭を深々と下げるアリシアを責める気にはなれない。
 彼女もまた、小さな心に様々な思いを押し込んでいるのだろうから。

 とても死に際の淵に立たされた男とは思えない。
 英雄ドノフは、身の丈よりも大きい剣「ザンバ」を自在に振り回していた。
 鬼とも修羅とも形容できる、鬼気迫る奮闘に、ZER0は圧倒された。
「体力に限界を感じ、ハンターを隠居してもう十年になるが・・・」
 さすがに病魔に冒された身体では、息乱す事無く・・・とはいかぬのだろう。言葉を切りながら、英雄は己の過去を振り返り語る。
「やはり身体が疼いてのぉ」
 Zan!
 迫り来る兵隊を両断しながら、何事もないように会話を続ける。
「たまに病室を抜け出しては、若い連中とこの地に降りてみたが・・・」
 肩を上下させながらも、一人群がる兵隊を次々となぎ払っていく英雄。ZER0もシノも手を貸す必要がないほどに、見事全てを成敗していく。
「まったく、ヒースの奴は何をしておったんだか・・・こんなモンスターどもをのさばらせおって・・・」
 本当に彼は余命幾ばくも無いのか? 親友を愚痴りながら戦う彼の姿は、あと十年は戦えると思わせるほど見事なものだ。
「時に若造・・・おぬし、何故アギトを持たん?」
 部屋中に湧いた兵隊と蛭を一掃したところで、英雄は振り返り苦悩する若者を叱咤する。
「・・・バーニィから聞いてるだろ? 俺がアギトを持つとどうなるか・・・」
 英雄相手とはいえ、ZER0は不快な感情を隠そうとせずに突っかかった。
 今ZER0は普通のフォトンセイバー「グラディウス」を持っている。強力だが、極々普通に手に入るセイバーである。
 アギトはもう握らない。
 手にしなければ、同じ悲劇を繰り返すことはないのだから。
「ふん・・・ゾークと同じように、ワシを斬り殺してしまうとでも思ったか? ゾークはどうだったかしらんが、このワシがおぬしごときに切られはせん」
 英雄の戯れ言に、耳を貸す気はない。
 ドノフはここで朽ち果てる事を望んでいる。つまりは、暴走したZER0に切られることを望んでいるのだ。
 挑発に乗るほど、ZER0は愚かではない。
 正直、ドノフがどうなろうが、どうでも良い。
 ただ、また自分が自分でなくなった時に・・・今度は誰を殺してしまうのか。それが不安なのだ。
 この手で相棒を斬り殺した。その感触はまだ生々しく手に残っている。
「仕方ないの・・・なら、不本意じゃが奥の手を使うとするか。バーニィ!」
 振り向き、声を張り上げレンジャーを呼ぶ。
 そして現れたのは、バーニィと、一人の女性。
「なっ!・・・ノル!」
 バーニィに銃を突き付けられ歩いてきたのは、ZER0にとって大切な女性の一人。
「テメェ、バーニィ! どういうつもりだ!」
 ZER0の問いに男は答えることなく、変わりに卑劣な老兵が口を開いた。
「アギトを持ちワシと戦え、ZER0。拒絶したりおぬしが負けた場合は・・・判るじゃろう?」
 あまりに卑怯際成り無い脅しに、怒りが彼を一気に包み、奥歯がぎしぎしと音を立てる。
「ふざけやがって・・・何が英雄だ!」
 結局は人づての英雄談。蓋を開けてみれば、英雄も血迷った老いぼれに過ぎなかった。
 いや、英雄だからこそか。
 己の往生を英雄的に語り継がせたいのか。
 なんにせよ、腐った老兵の死に様など、どうでもいい。このふざけた老いぼれに、一太刀浴びせたい。
 だが・・・だからといってアギトを手に出来るか?
 ドノフを倒したところで、ノルを救出できるとは限らない。救出したノルを、自らの手で斬り殺してしまうだろう。
「・・・シノ。もし俺がまた暴走したら・・・殺してくれ」
 アギトを預かっているシノに歩み寄り、ZER0は頼み込んだ。
「そんな・・・わたくしにそのようなことは・・・」
 戸惑うシノに、ZER0は再度頼み込む。
「これ以上、俺は仲間を殺したくない。頼む、シノ! ゾークの敵を討つんだよ!」
 敵という言葉に、シノは硬直した。
 目の前の男は、四刀の後継者候補である前に、ゾークの敵なのだ。
 だが・・・だからといって、ZER0の願いを聞き入れられるのか?
 迷う心が即答を避けた。
「沈黙は了解って事で。頼むぜシノ!」
 アギトをシノの手から奪うように取り、鞘から愛刀を引き抜いた。
「ぐっ・・・」
 そしてすぐさま襲いかかる頭痛。
 そして、「ヤレ」と囁く声。
(やってやるさ・・・やってやるさ!)
 自らなのか、それともアギトに導かれてなのか。ZER0は腐った英雄に斬りかかっていった。

 死闘と呼ぶにふさわしい戦いが、行われている。
 方や、死を望み若者を挑発した者。
 方や、死にものぐるいで愛刀の誘惑と戦いながら斬りかかる者。
「ぐあぁ!」
 まるで獣のような咆哮。叫びながら、一太刀一太刀斬りかかるZER0。見事な太刀筋ながらも、全てドノフに捌かれていく。
「どうした若造! その程度でゾークを倒したというのか!」
 挑発しながらも、じっとZER0の目を見据えるドノフ。
「苦しいか? アギトの呪いがそんなに苦しいか?」
 捌くドノフも、言葉とは裏腹に必死だった。一つ間違えば、確実に一太刀で殺られる。
 隙を見て攻撃に転じた方が、勝機は見出せるはずだ。だが、ドノフは踏み込もうとせず、ただ太刀を捌くだけだった。
 この地で死ぬことを望んでいる。勝つことが目的ではない。本当にその為だけだろうか?
(くっ・・・意識が遠退きやがる・・・)
 囁き続ける「ヤレ」という声。
 確かに、やらなければならない。ノルを救う為に。
 だが、声に従ってはならない。また自分を見失うから。
 敵は目の前の英雄ではない。手にしたアギト。
「・・・英雄なんてものはの、ただの言葉飾りにすぎん。目の前にいる男は、親友の眠る地で死にたいなぞほざく、ただのわがままな老人よ」
 肩で息をしながら、老兵は呪いと戦う若者に語りかけた。
「いや、それも己を正当化したがる言い訳に過ぎぬな。戦士というのはどうにも、ベッドの上で死にたがらぬ困った連中での・・・」
 刀と剣がぶつかり合う。その音を合いの手に、老兵の講釈は続く。
「戦うことが心底好きなだけじゃ。死ぬ間際まで、戦っていたいわがままなマニアなんじゃよ・・・」
 老兵の言葉にZER0は反応を示さない。ただ黙々と刀を振り下ろすのみ。
「おぬしもハンターなら判るじゃろ? 自分が戦う訳を。理由を付けて戦いたいだけの、どうしようもない人間だと気付いておるのじゃろ!」
 ほんの少し、ZER0の太刀筋が鈍る。
 ヤレ
 囁き続ける声。
 そうだ。気付いていた。これはアギトの声ではない。
 己の欲望なのだと。
「己を恥じるな! どうしようもない自分を受け入れろ! 欲望を拒絶するな!」
 力がこもる。双方共に。
 ぶつかり合う音が激しさを増す。
(ドノフ・・・あんた・・・)
 意識が戻ってくる。
 そして見えてくる、意図。
「この老いぼれを断ち切れ! 己の迷いと共に!」
 Zan!!
 一刀。
 捌くことを止め、両手を広げた老兵に、刀が一太刀浴びせた。
「ドノフ!」
 倒れる老兵に、皆が駆け寄った。
「バカ野郎・・・小細工しねぇで初めから・・・」
「なに・・・ゾークから・・・聞きかじった話を、真似てみたくてな・・・見事アギトを受け入れた・・・ようだな、若造・・・」

 急ぎ気付け薬ムーンアトマイザーを振りかける。
 だが、老兵には効果がない。
 元々余命のなかった老兵には、もはや気付け薬は役に立たないのだ。
「ゾークが為し得なかった事・・・替わりにワシが果たしたまでじゃ・・・」
 四刀の伝承。その話を聞いていたドノフは、バーニィからZER0の事を聞き、今回の事を思い立ったのだと、白状した。
 怖い思いをさせてすまなかったなと、英雄はノルに謝罪した。ノルはただ、ZER0の為にしたまでですと、泣きながら答えた。
「すまんな。ずいぶんとワシのわがままに突き合わせてしまった・・・皆、付き合ってくれて感謝しとる」
 ZER0の事はついでだと、咳を交え笑い飛ばした。
「最後に、ワシは為し得ることが出来て良かった・・・」
 涙ながらに自分を見つめる皆の顔をゆっくりと見回しながら、老兵は満足げだった。
「パイオニア1に乗った「あれ」の親・・・ヒースクリフにも会わせてやれんかったしの。例のあの事件のことも複雑な気持ちだったのじゃろう・・・リコ嬢ちゃんには親をとられたと思っていたからの。「あれ」は・・・ははは・・・」
 おそらくは自分の妻のことを言っているのだろう。残していく妻へ謝罪する。
「両剣を教えたあの小僧もヒースくらいの使い手になればのう。まあワシが教えたのでは不安なところではあるが・・・」
 死に逝く老兵は、試練を乗り越えた男を見つめ、頼み込む。
「アッシュ・カナンという小僧がいる・・・まだまだ危なっかしいが、素質はある。すまんが・・・ワシの替わりに、あの小僧を見てやってくれ・・・」
 ああと、一言だけ答えうなずき、ZER0は承諾した。
「これからは君らの番よ。この星やパイオニア2がこの先どうなるのかなんぞはワシにはとんとわからん。それは君らの手で切り開けばよい話よ」
 剣を杖に、老兵は立ち上がろうとしている。
 これ以上無理をさせたくはないと思いながらも、死に逝く老兵のわがままに最後まで付き合おうと、二人の男が肩を貸した。
「老兵は、去る時が来たんじゃよ・・・政府に残ったヒースがこの地で死に、政府に逆らったゾークもこの地で死んだ・・・奴らを無視しつづけたワシもまた、この地で死ぬ・・・はっはっは・・・思えば三人それぞれに不器用な人生だったな・・・」
 友を想い、振り返る我が人生。
 悔いのない人生とは言えないが、精一杯生きたと胸を張れる。
 胸を張らなければ、先に逝った二人に、会わせる顔がない。
 肩を貸す二人に離れるよう促し、老兵は剣を支えに、しかししっかりと大地を踏みしめ立っている。
「よく見ておけ、ゾークの跡を継ぐ若造・・・そしてバーニィ、シノ。これが・・・これが英雄なぞと祭り上げられた、一人の老いぼれ。その死に様よ!」
 Bap!
 渾身の力で剣を振り上げ、そして地面に突き刺す。
 仁王立ち。
 英雄はそのまま、友の元へと逝った。

「やっと・・・あんたの役に立てたかな?」
 パイオニア2に戻ったノルは、笑顔でZER0に語りかけた。
「すまなかったな・・・」
 随分と、ノルには迷惑をかけた。今までも、支えになってくれていた。
 これまでのことを含め、ノルへ精一杯の感謝を述べた。
 それをノルは、にこりと微笑み受け取った。
「欲望を受け入れろ・・・か。ZER0もさ、もっと素直になりなよ? ESさんも事とか」
 ノルに言われると、どう答えて良いのか戸惑う。
 そんなZER0の様子を、ノルはまたくすくすと笑顔で見つめている。
「私ね・・・HONを辞めることにしたの」
 突然の告白。ZER0はノルの一言一言に戸惑わされ続けた。
「ちょっと、ハンターギルドから・・・というより、あんたから離れてみたいの。私も・・・自分の欲望に、素直になる為に」
 ノルの気持ちは知っていた。知っていながら、お互い何も言わなかった。
 それが自然だと想っていたから。
 だが、「恋」という欲望を隠したままで居続けることは、やはり不自然なのだ。
 自分の中の恋。それを確かめる為に、ノルは決断した。
「・・・じゃ、またね」
「ああ・・・またな」

 明るく、ノルは手を振りながら立ち去った。
 ZER0も、ノルをどう思っているのか・・・また改めて考える時期だった。
 その期間をノルの方から与えられた。
 真剣に考えないとな。そう思いながら、もう一つ、真剣に考えた答えを、傍らに立つ女性に告げる時が来た。
「シノ・・・俺はゾークの跡と、ドノフの志を受け継ごう」
 アギトを手にした運命。ゾークをこの手で殺してしまった罪。ドノフが命をかけ受け継がせた跡と志。
 四刀と共に、ZER0は「豪刀」の名を手にした。
「ただ、俺は君を従わせるつもりはない」
 バーニィから聞かされた、ゾークのもう一つの意志。
 シノを自立させたい。
 ZER0はその願いも受け継ぐことを決意していた。
「・・・とはいえ、すぐに自立するのは無理だろう。だから、しばらくは俺の側にいてもかまわない。ただし、条件がある」
 ZER0がアギトを手放したように、シノも一組の武器を手放していた。
 ヤスミノコフ9000M。
 ZER0はかつての相棒が愛用していた銃を、シノに手渡した。
「もし俺がまた、暴走するようなことがあれば・・・こいつで殺してくれ。君にはその義務がある」
 重い。手渡された銃は、シノにはとても重かった。
「・・・御心のままに」
 だが、逃げるわけにはいかない。
 ZER0が受け継ぎ決意したように、シノもまた、受け継ぎ決意しなければならない。
 英雄と呼ばれた二人の男と、彼らに肩を並べる程に勇敢だった一人の機神。彼らの想いを無我にするわけにはいかない。
「よろしく頼むぜ、相棒」
 二人が受け継ぐものはあまりにも多く、そして重い。
 だが、それを乗り越えなければならない。
 運命だとか義務だとか、そんな陳腐な宿命の為ではない。
 己の欲望の為に、二人は進むことを決意した。

41話あとがきへ 41話あとがきへ
目次へ 目次へ
トップページへ トップページへ