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No.40 鋼の魂 後編

「ウムム! まったくもって往生際の悪い連中だ!」
 自爆装置が作動したことをESから伝え聞いた時、モンタギューの第一声はこれだった。
「こっちはウルトを見つけたんだが・・・残念な事にまた逃げられてしまってね」
 見つけたのは少し前で、たった今ではないのだが、嘘にならない程度モンタギューはESをわざと誤解するような発言をした。
 スゥが立ち去った直後だった為、もし彼女の姿を見かけていたら・・・という事への配慮だった。
 まだ早い。まだ、ESにスゥを会わせるのは早い。
 天才は気を利かし、機転を利かせた。
「気になるな・・・」
 それよりも、ウルトだ。
 モンタギューはこれまでウルトの取った行動を一つ一つ整理しながら、考えを巡らせた。
「ウルトは旧式とはいえエルノアと同じように完全自律だし・・・外部から操作したとしてもあんなに不安定になるなんて・・・ムウ」
 可能性として、ウルトがWORKSに何らかの干渉を受けている事も考えられる。
 仮にそうだとすれば、自立型を無理矢理操る・・・つまり人間で言うところ洗脳のようなものを施した事になる。不安定になるのは安易に予想できる。
 しかし、それにしては不安定すぎる。モンタギューはそこに引っかかった。
 たしかにウルトは、譫言のような言葉だけをとっても不安定すぎる様子を見せていた。
「どう考えてもつじつまが・・・ン? エルノアと同じように・・・?」
 ふと、あることに気付いた。
 ウルトはプロトタイプとはいえ、ほぼエルノアと同じ構造だということに。
(ウルトは明らかに異常フォトンに反応していた・・・で、ボク達の前から消えていなくなるなんて芸当もやってのけた)
 一見、科学では説明出来ないような異常現象。
 だが・・・全ては科学で立証できる。
(まさか? ウルトの干渉進化型感情装置が今ごろになって・・・)
 天才ジャンカルロ・モンタギューがつまらないことを見落としていたとは!
 可能性は十分にある。なにせエルノアと同じ構造を持つアンドロイドなのだから。モンタギューは頭の中で自分の理論に納得していた。
「博士! オネエサマはここから下に向かったみたいですぅ!」
「遺跡の入り口ね・・・このやかましい警告も遺跡の端末がどーの言ってるし・・・この先にも何かあるみたいだわ」

 二人の女性がウルトの足取りを捉えていた。
 今は考える時ではない。早くウルトを捕まえないと。
「ムム・・・何だろう? いやな感じがするよ。エルノア、この辺りのデータも集めてくれるかい?」
 だが、焦ることは愚かな失敗に繋がる。全てにおいて、これは基本だ。
「あっ・・・ハイ!」
 言われた通り、エルノアはあたりの様子を観察し始めた。
 地面や壁の強度から、大気の成分に至るまで。備え付けられているセンサーをフル稼働しながら、事細かに調べ上げていく。
「・・・おかしなところは無いようですけどぉ・・・」
 そう報告し、観測を完了しようとした矢先。一つのセンターが異常な反応を始めた。
「あぁ! 大気中のフォトンの濃度が・・・どんどん上がっていますぅ!!」
 RumbleRumbleRumble・・・
 報告と共に、地面が揺れた。まるでエルノアの報告に驚いたかのように。
 嫌な予感。それが正しいことを証明している・・・その返答ともとれる嫌な地震だ。
「ボク達にはどちらにしろ、あまり時間が無いようだ・・・できればちゃんとデータも取りたいところだけど。さあ行こう!」
「同感だわ。急いだ方が良さそうね」

 迫り来る時に追われるように、三人はウルトを追う為に遺跡へと急いだ。
(・・・あの計画が現実にならないように祈るさ・・・)
 エルノアと同じ構造をしたウルト。そのウルトがエルノアと同じように干渉進化型感情装置が急速に活動し始めたとしたら・・・。
 モンタギューは軍の愚かさに舌打ちしながら、自分にしか思い描けぬ地獄絵図を頭に浮かべ、そして慌てて消し去った。

 WORKSの端末を探し、自爆を止める。ウルトを探すのはその後で。
 モンタギューが取った作戦はこうだった。天才を自称する彼にとって、コンピュータの端末さえあれば、すぐにでも止められる自信があっての作戦だった。
 問題は端末が何処にあるか、である。
 もちろん、それだけが問題ではない。
「こんな時に限って・・・次から次に!」
 遺跡に住まう原住民達である。
 蟻のように群がる兵隊を、真っ赤なフォトンの軌跡が次々と両断していく。
「えぇい!」
 ESと同じように、エネミーの一部から造り出された武器を手に、エルノアも声に似合わず奮闘している。
 エルノアの武器は、この遺跡に住まう半馬の腕から作られたライフルだという。なるほど確かに、遺跡の住人特有の不気味なフォルムがありありと残っている。
 驚くことに、同じ銃をモンタギューも扱っていた。彼の話によると、このライフルは素材が軽い為にフォースのような銃に不慣れな者でも扱いやすいのだという。ただ、かえってそれなりに銃の扱いも出来るハンターには、変な軽さが逆に照準を狂わせ扱いにくくなるとも語っていた。
 ともかく、二人の狙撃者のおかげでどうにか原住民達を退きながら先へ先へと進めることが出来た。
「ムム・・・あれは・・・あんなところに怪しげなコンピュータが置いてあるじゃないか」
 そして見つけた、一台のコンピュータ。
 遺跡に建ついくつかの古文書。その一つにピタリと寄り添うように設置されたコンピュータ。どうやら古文書を調べることが本来の目的なのか、コンピュータから延びたコードがいくつも、古文書に張り付いていた。
「坑道にあったものとは違うね。パイオニア2製・・・軍のものだ。連中、ホントに単純だなあ。これじゃあ、コンピュータはここにありますって、言っているようなものじゃあないか。ウフフ・・・」
 むろん、最初から軍も侵入者に押し入られ、自爆装置を作動されることになるなどと想定している訳はない。別段発見されやすかろうが問題はなかったのだが、つまらない手間をかけさせた軍に、少しでも罵声を浴びせたかったのだろう。
「どれ、お手並み拝見・・・・・・ウッフッフ。これでどうかな・・・連中、ボクの存在を計算に入れていなかったらしいね。ウフフ・・・」
 それもまた当然なのだが、裏をかいてやったという変な優越感が楽しいのだろう。上機嫌にキーを叩き、見事自爆プログラムを解除して見せた。だが・・・
「ん? ここにも何かプログラムが隠してあるじゃあないか? 何やら面白いものまで見れそうだよ・・・ウフフ」
 裏をかかれたのは、こちらだった。それをモンタギューは自らの手で知ることとなる。
「・・・なあるほど、連中やってくれる。それでウルトか」
 一人、博士はぶつぶつと状況を口にしながら整理をし始めた。
「とすると、こうなったのはやはりレオの指揮ではなく・・・エルノアに業を煮やした血気盛んな連中の仕業・・・ってところだね」
 残された二人には、何のことを言っているのかは判らない。ただESにとっては、このくだらない作戦とやらにレオが絡んでいないという事にホッとしていた。
「こんな設備では、到底成功するとは思えないな・・・しかし、このプログラムが止まっていないという事はまだ・・・何てことだ!」
 ダンッと、突然コンピュータを叩きながら、モンタギューは振り返りESに向かって事情を口早に説明し始める。
「ES君。どうやらボクたちは連中に一杯食わされてしまったようだ」
 してやられた。道化師にとってこれほどの屈辱はない。
「爆破のねらいはボク達をここに釘付けにする事。まったくもって不愉快なくらい単純な仕掛けさ!」
 バンッとキーボードを平手で叩きながら、全身でその不愉快を示すモンタギュー。
「・・・もう少し分かり易く説明しなさいよ」
 一杯食わされたのは判った。悔しい気持ちは同じだ。おそらくサコンは万が一のことを考え、この自作自演の自爆騒動を準備していたのだろう。用意周到といえばそうだろうが、単に気が弱く、ここまで用意しなければ安心できないタイプなのではないかと推測できる。傲慢な男ほど、意外と小さな事にビクビクしながら生きているものだ。
 それより、ESは今どういう状況なのか判らないでいる。サコンの高笑いが聞こえてきそうな事に少しいらつきながら、説明を求めた。
「まず、この爆破プログラムは時間稼ぎだったって事。連中の目的はおそらく・・・ウルトの力を強制的に引き出す事にある」
 ESは、ウルトが・・・エルノアに関してもだが・・・何の目的で作られたのかを知らない。ESの受けた依頼はウルトの捜索と捕獲であり、ウルト自身を知る必要はなかったから。もちろん好奇心はあったが、プロとしてそれを訊くのはタブーである。
 そのタブーに、依頼者自ら答えている。それは今後起こるかもしれない事態に対する予備知識として必要だから。
「ラグオル地下で確認されたこの大量の異常フォトンと・・・ウルトという力の入れものを引き合わせた反応によって、ボクがウルトに隠した「ある回路」を強引に作動させようとしているのさ」
 さすがに肝心な部分はぼかされたが、モンタギューの慌てぶりから、軍は何かとてつもなく恐ろしいことを計画しているのが判る。
「・・・なんて短絡的な計画だ! 尊敬に値するくらい飽きれた連中だよ。どっちも制御すらできないくせに!」
 何度も何度も、壊れるくらいにコンピュータを叩くモンタギュー。
「バカだ! バカだ! ああイヤだ! ああいう単純な連中にはホンット我慢できないよ! こんな稚拙な実験装置で「あの力」を制御できるものか! あの大量の異常フォトンが暴走なんかしたものなら・・・この地区どころか、ラグオル地下そのものも・・・!」
 エルノアですら、気が狂わんばかりに拳をキーボードに叩きつけるモンタギューに脅えている。
 血が滲み、真っ赤に染まるその拳を、ESは強引に掴み、そして優しく握り包む。
RESTA・・・少し落ち着きなさい、ジャン」
 優しいテクニックの光が拳を包むと同時に、モンタギューは落ち着きを取り戻していった。血がすっかり引いた頃には、いつもの冷静さが戻っていた。
「詳しい事は後でじっくり聞かせて貰うわ・・・それより、今はウルトを探す方が先決よ」
 ESもまた、相手を気遣うことで落ち着きを取り戻していた。
 今大切なのは、ウルトを見つけ連れ帰ること。詮索は後にでも出来る。
「・・・フウ。すまないES君。とりあえず今は時間がない。急いでウルトを捕まえるんだ! それが今ボク達にできる
最善の選択みたいだからね」

 ESの意見に同意したモンタギューは、癒された拳を再び握りしめながら宣言した。
「ウムム。WORKSめ。僕の可愛いウルトを実験材料にしようとした罰は後でゆっくり受けてもらうぞ・・・」

 遺跡に響き渡った警告音が鳴りやんだ頃、当のWORKSはウルトを連れ先を急いでいた。
「警報が鳴り止んだか・・・ウハハ、奴等め。罠にはめられた事に感づいたか・・・まぁいい。さあ、 ウルト! もう少しだ。お前を例の場所へ連れて行けさえすれば、我が軍部の計画も成功し・・・隊長もきっとお喜びになる・・・!」
 ふらつくウルトを強引に引き連れ、高笑いと共に歩み始めたサコン。
「少佐・・・サコン少佐! 質問があります!」
 そんなサコンを呼び止める者がいた。
「なんだ・・・DOMINO。作戦中だ。個人的な質問は後にしろ!」
 ウルト誘拐に荷担した部下、DOMINOに愉快な気分を邪魔され、少し苛ただしげに質問を却下した。
「この作戦は本当に・・・本当にレオ隊長の指示によるものなんですか!」
 だが、DOMINOは質問をぶつけた。あまりにも・・・あまりにも、この作戦は何処かおかしい。軍人であるが故に、命令には絶対的に従ってきたが、それも限界に達したのだ。
「貴様! 上官であるワシの命令にケチを付けるか!」
「私はレオ隊長直々の部下です。少佐の部下ではありません!」

 初めてだった。確かに直接の上官ではないが、階級が上の男にたてつくなど、軍人としてあるまじき行為。DOMINOは自分でも、あまりに大胆な発言に驚いていた。
「ちっ・・・ハンター風情に毒されおって・・・軍人としての誇りを無くしおったか」
 舌打ちし、罵倒される。こんな事、訓練を受けていた頃ならば日常茶飯事だった。慣れていたはずだった。今までだって我慢してきたはずだった。だが今のDOMINOには、サコンの態度が我慢ならなかった。
「誇りを無くしたのはどちらですか! こんな強引で卑劣な作戦・・・とてもレオ隊長の指揮とは思えません!」
 あなたの独断による暴走だ。口ではそこまで言い切らなかったが、DOMINOは言葉の勢いでそれをぶつけた。判断が鈍っていたとはいえ、自分がこんな作戦に荷担してしまったことへの後悔と共に。
「言わせておけば貴様! いいか、この作戦はWORKSの悲願がかかっている! つまり隊長の悲願が叶う大切な作戦なのだ! 経過が重要なのではない、結果が重要なのだ! 成功すれば隊長も喜んでくださるのだ!!」
 胸ぐらを掴み、ぐいとDOMINOを引き寄せながら、サコンは己の正当性を罵倒に変え訴えた。
「・・・やはりあなたの独断でしたか・・・こんな男に騙されるなんて、私は・・・」
 自分の愚かさに、泣けてくる。自分の弱さに、泣けてくる。軍人としても、ハンターとしても、自分はまだ未熟すぎる。それが悔しくて、それが許せなくて、DOMINOは瞳に涙を貯めていった。
「ふん・・・成功すれば良いのだ。成功すれば。来い、ウルト!」
 多少のトラブルはあったが、全ては順調にいっている。成功さえすれば、隊長は喜んでくれる。
 歪んだ忠誠心が、サコンの原動力。全ては隊長の為に。泣き崩れる捨て駒などにかまうことなく、男はもう一つの捨て駒の手を取り、先を急ごうとした。
「イヤ!」
 しかし、その手は捨て駒に払いのけられた。
「ウ・・・ウウ・・・カラダが、カラダが、熱イ・・・もうイヤ! ワタシを自由にして!」
 ウルトを縛る制御装置。サコンはウルトを大人しく従わせる為に、外部から干渉し操っていた。その制御装置が、ウルトと共に悲鳴を上げている。
「いかん! 暴走しはじめている! シミュレーションではこんな事態は予測されていないぞ!」
 思い違いをしている。
 ウルトは外部干渉で大人しくなったのではない。自ら、呼び声に従いここまで来ただけなのだ。
 元々、シミュレーション自体が初めから役に立ってなどいなかった。たまたまウルトが自らついてきたことを勘違いしたに過ぎない。
 その事に、サコンが気付くはずもない。突然の事態に、ただ慌てることしかできない。
「クソッ! ここに、どれほどの力が蓄積しているというのだ!? さあ! いい子だ・・・落ち着くんだ! ウルト!」
 なだめることも、脅し従わせることも、今のサコンに出来るはずもなく、今のウルトに効くはずもない。
「イヤ! コナイデェ!!」
 大気に、まるで蛍の光のような光源がいくつも出現した。
 フォトン。
 濃度を増したフォトンが、目に見える形で出現し始めたのだ。大気の水分が雨水になるように。
 これは異常な事態。それを理解した時には、もはや手遅れだった。
 Ka−Boooooooom!!
 激しい爆音と爆風。そして眩しいフォトンの光が、部屋中に広がった。

「ムム、爆発音?」
 ウルト探索を再開しようとした矢先、ES達の耳に巨大な爆音が届いてきた。
「まさか、ウルト!?」
 だとしたら、最悪の事態が始まったのか? そんな不安が急速にのしかかってくる。
「あっ! オネエサマ!」
 どうやら、その最悪の事態はまだ免れているようだ。ウルトがふらつきながらも歩いている姿を、三人は確認した。
「オネエサマ! 待ってくださぁい!」
「ム・・・! ウルト! その先には行っちゃいけない!! ウルト!」

 二人の制止も、ウルトには聞こえていないのか。ふらふらと、ウルトはただ歩き続けている。
「とにかく捕まえるわよ!」
 何が起こったのか。それはまず、ウルトを捕まえてから問いただせば良いこと。今はウルトを追いかけることが先だ。

「!!! ハカセ? エルノア?」
 ふらつくウルトに追いつくことは、難しくなかった。
 何度目かの接触。だが、今回はウルトに逃げる意志はなさそうだ。
 むしろ、今回は捕まることを望んでいたようにも見受けられる。
「さぁウルト! こっちへおいで」
「オネエサマが無事でよかったですぅ・・・もう! 心配したんですよぉ!」

 やっと捕まえた。もう逃げる心配もない。そんな安心感からか、二人は微笑みウルトを迎えようとしていた。
「ハカセ・・・エルノア・・・ありがとう。でも・・・ワタシは・・・」
 だが、これで全てが終わることはなかった。
「・・・うッ・・・! 体が・・・」
 突然、ウルトが苦しみだした。
「くっ・・・」
 と同時に、ESはまた頭痛に襲われた。
(ココカラ…)
 そして頭の中に直接響く、ウルトの声をした何者かの声。
「カラダが熱い・・・」
(外ニ・・・)
 ウルトの中に、別の誰かがいる?
 いや、ウルトを通じて誰かが叫んでいる?
 激しい頭痛に、判断もおぼつかない。
 判ることは、今ウルトが非常に危険な状態にあるということ。
「ムム! いかん、これは明らかに・・・異常フォトンとウルトの「核」が融合している・・・」
 それはもちろん、モンタギューにもエルノアにも判っていること。
「くそッ! バカなWORKSめ! 勘違いも甚だしいぞ! もともとウルトは「あの計画」用ではない! 試作機だ! こんな異常なエネルギーに耐えられるようには作っちゃいない!」
 狼狽しながらもWORKSに悪態をつくのは、そうすることで少しでも落ち着こうと必死だからなのだろう。あれこれと言いながら、必死に最善策を絞り出そうと必死なのだ。
「エルノア! 急いで、ウルトのデータをバックアップしてくれ!」
 その方法が、バックアップを取ることだった。
「・・・はかせ?」
 しかし、それがエルノアには理解できなかった。
 アンドロイドのバックアップは、基本的に不可能なのだ。
 理屈は解らないのだが、データであるはずの「心」が、どうしても上手くバックアップできない。
 それはウルトも同様だ。
「!! はっ・・・はい! わかりましたぁ!」
 だが、たった一つ例外がある。
 少ないバックアップの成功例。そこに共通しているのは、「対象となる相手が、二つ同時に存在しない時」。つまり、死の直前に取ったバックアップは成功する事例があるのだ。
 つまり、モンタギューはウルトの体がもう持たないと見切りを付け、心だけでも救い出そうとバックアップを取るという選択をしたのだ。エルノアはそれを理解し、すぐさま作業に取りかかった。
「・・・ワタシがワタシであるうちに・・・聞いて・・・ハカセ、エルノア・・・」
「オ、オネエサマ・・・」

 語り始めたウルトに驚いたのか。それともまだバックアップを取ることなく生還できると思ったのか。エルノアはバックアップの手を止めてしまう。
「エルノア! 手を休めるな! 早くバックアップを!」
 だが、今その選択を迷うのは危険だ。モンタギューはバックアップの継続を指示し、エルノアはそれに慌てて従った。
「ワタシ・・・ワタシは・・・いつも実験室のカプセルの中。自由を・・・手に入れたかった」
 淡々と、ウルトは独白を始めた。
「エルノア・・・アナタがうらやましかった。自分で自分の未来を手に入れる。それが夢だったの」
 姉の告白に驚きながらも、エルノアはバックアップを続けた。
「そんな時・・・ラグオルから思念波を受信したわ。それはワタシに呼びかけてきた・・・「ここから出たい」 と」
 確信はないが・・・ESはウルトの言う「思念波」が、この頭痛の源と同じではないか。痛む頭を押さえながらそう思えた。
「その時ね、ワタシと同じだ、と思ったノ。ほら、今だって・・・」
 RumbleRumbleRumble・・・
 地面が揺れる。ウルトの呼びかけに答えるように。
 そして頭の痛みも増す。
 間違いない。ウルトと自分は、同じ思念波を感じている。遠退きそうになる意識をなんとか保ちながら、ESはウルトの言葉を必死に聞き取ろうと踏ん張った。
「・・・イイエ。きっかけは何でもよかったノ。ワタシの背中を押してくれれば、どんな理由だろうと・・・」
 所詮、動機は己の「欲」。
 理由を付けては、己の欲を正当化する。それは人として恥ずべき行為。
 そう、人として。
「・・・でも結局、それはワタシのわがままでしかなかったのネ・・・」
 ウルトは、欲を抱く「心」を持っていた。それを悪と、誰が遮断できる?
「ワタシはジブンの中に・・・「こんなモノ」があるなんて知らなかった・・・」
 その「モノ」が何を指すのか。生みの親である博士にだけは見当が付いた。
 そしてその「モノ」こそ、軍が目を付けた「核」。
「何か変・・・ワタシじゃないワタシが・・・血に飢えたケモノみたいに・・・モガき、 焦がれテ。全てを得ようトスル・・・存在と同調した」
 それこそが、声の主。ウルトの言う「モノ」が何かを理解していないESにも、それだけはハッキリと理解した。身をもって。
「そうワタシが、エルノア・・・あなたの自由に恋焦がれルように」
 もしエルノアに涙を流す機能があるならば、姉の告白を涙ながらに聞いていただろう。辛い気持ちを吐き出す術がないまま、エルノアは淡々とバックアップ作業を続けた。
「ソレはワタシの制御装置で押さえ切れるほど甘ク無かった・・・ハカセの言う通り、ラグオルに降りるなんテバカな事・・・しなければ・・・」
 独白は終わりに近づいた。と同時に、ウルトの身体も限界に近づいたようだ。言葉を発するスピーカーがかすれ始めてきた。
「ゴメンナサイ。許してモラエマスカ・・・? ハカセ、エルノア・・・ワタシと同じ声を聞くハンターさん・・・」
 なんと声をかけて良いのか。それぞれが戸惑った。
 なんと声をかければ、ウルトは救われるのか?
 考える時間は、無い。声をかけることなく、ウルトは限界を迎えようとしている。
「アリガトウ。ワタシのためにキケン・・・ナ・・・」
 RumbleRumbleRumble・・・
 再び起こる地響き。
 そして、迎えた限界。
「ウッ! アア・・・ア、アアア・・・」
 熱を発するかのように、ウルトの身体から赤い光がほとばしる。
「オネガイ、ニゲテ・・・」
 赤い光を打ち消すかのように、今度は青い光がウルトを包む。
 そして、ウルトは姿を消し、溝の向こう、手の届かぬ所で姿を現した。
「はかせぇ!」
 バックアップはどうにか完了していた。だが、成功しているとはかぎらない。
 死に逝こうとしている姉を、どうにか救えないものか?
 エルノアは懇願するように呼びかけた。
「エルノア! ここにいるのは危険だ! パイオニア2まで緊急待避! すまない・・・ウルト・・・ムッ・・・間に合ってくれ・・・」
 しかし博士は、バックアップを信じこれ以上の危険を回避しようとした。
 けして、見捨てようとしているのではない。
 だが、エルノアには目の前で死に逝く姉を捨て置けなかった。
「オネエサマア!!!」
 悲痛な叫びと共に、エルノアの周囲に青い光が集まりだした。
 これは、ウルトの時と同じ。
「エルノア! バカなことをするな!」
 博士の声は聞き届けられなかった。
 エルノアはウルトと同じように、光に包まれかき消え、そしてウルトの側に現れた。
「いやですう! オネエサマを助けるんですう!」
 バックアップなど信じられない。
 もう、姉が苦しむ姿を見たくない。
 優しいエルノアは、優しいが故に、無謀へと歩み始めてしまった。
 そんなエルノアの周りを、眩い光がちらちらと輝きだした。
「ア、アアア・・・」
 臨界点に達したウルトは、光と共に爆発した。
 ・・・かに、思えた。
 だが、エルノアの周りで輝く光が、爆発する光を飲み込み、押さえ込んだ。
 ドサリと、倒れ込むウルト。
 助かったのか?
 刹那、そう思えた。
 しかし危機は、まだそこにある。
「オネエサマぁ・・・! ううっ・・・どうして・・・いや・・・やですう。こんなのいやですう」
 倒れ動かぬ姉を見下ろしながら、エルノアは初めて感じた絶望に我を忘れようとしている。
 それが、次なる悲劇への引き金となった。
 光がエルノアを包む。
 そして、ウルトの身体をも。
 気が付けば、ESも光に包まれていた。
 懐が熱い。何かが、光を呼び集めている。
 マグだ。エルノアから受け取ったマグが反応しているのだ!
「!? どうしたエルノア?」
 あからさまにおかしいエルノアの様子に、モンタギューは声を荒げた。
「はかせぇ、なんか変なんですぅ・・・こんな気持ち・・・ワタシ・・・ワタシガ・・・」
 突如、エルノアの背中が輝き、一つの形を形成していく。
 翼。
 エルノアの背中に翼が生えた。そんな錯覚に捕らわれる。
 よく見ると、それは翼ではない。
 マグだ。見た事もない美しいマグが、エルノアの背中に浮かんでいる。
「あれは「ELENOR」 ・・・!!! まさか? 今になってどうして・・・!?」
 エルノアと同じ名を、博士はマグに対し呼んだ。
 博士はマグの事を知っていた。だが、この事態は予想外。ただ呆然と眺める事しかできないでいる。
「システムMOTHER01。コードYN−0117起動。パイオニア2軍部支援システム検知」
 エルノアの声で、エルノアでない何かが、エルノアを通じて淡々と何かをしでかしている。
「これは・・・」
 目の前で繰り広げられる光景に、モンタギューは釘付けになった。
「接続完了。パイオニア2軍部アンドロイドシステム検知」
 ハッキング。エルノアは今ハッキングを行っているのだ。
 ラグオルの地下から、宇宙に浮かぶパイオニア2に向けて。
「MOTHER・・・」
 その様子をただただ食い入るように見続けるモンタギュー。
 そしてESは、続く頭痛に苦しみながら、やはりただ見守る事しかできない。
「制圧開始」
 宣言された、制圧。
 何が起こっているのか。何を制圧しようとしているのか。
 一人は全てを理解し、一人は全く理解しないまま、エルノアの動向を見守り続けた。
「アあぅ・・・ああ・・・」
「・・・制圧完了。補助ターゲット変更。MOTHER−00ヨリMOTHER−01」

 一つのスピーカーから、同じ声ながら別々の人格が語り始めた。
 間違いない。エルノアとは異なる何かが、エルノアを通じてハッキングをしているのだ。
 そしてエルノアは、苦しんでいる。
「はかセぇ、頭が・・・頭ガ・・・割レそう・・・ですぅ・・・」
「設定プログラム実行開始シマス」
「助ケて・・・」

 苦しむエルノアは、博士に助けを求めている。
「・・・素晴らしい・・・これが僕の作ったエルノア。『MOTHER』・・・」
 だが当の博士は、己の造り出した作品に、魅了され続けていた。
「侵入経路。システム<BEE>ヨリ確保。パイオニア2メインコンピュータアクセス。セキュリティシステム08カラ15マデ制圧。ターミナルブロックヨリ武装コントロールシステム侵入」
 エルノアの中の何かは、次々と制圧を完了していく。このままでは、パイオニア2の全てが、エルノアでないエルノアに支配されてしまう!
「ESさぁん・・・わたし・・・わたし・・・」
 苦しむエルノアを救う事が出来ない歯がゆさ。噛みしめる唇は、頭痛に耐えている為だけではない。
「ウッフッフッフッフ、すごい! すごいぞ! やはりぼかぁ天才だな! ウッフッフッフッ!!!」
 ただ魅入られているだけではない。モンタギューの様子は明らかにおかしい。
(異常フォトンか・・・ZER0と同じ。ジャンもダークフォトンに取り込まれようとしている!)
 どうにかしなければ。
 だが、うずく痛みに耐えながら何が出来る?
 効果があるかは判らない。だが、正気を取り戻す手段といえばこれしかない。
 Bap!
 渾身の力を込めて、モンタギューの頬を平手で打った。
「ジャン! しっかりしなさいジャン!」
 古典的な方法。だが、効果はしっかりとあった。
「! すまん! ES君! つい我を忘れて・・・!」
「手間・・・かけさせないでよね・・・」

 モンタギューの意識を取り戻す事に成功したESは、痛みに歪む顔でどうにか笑いかける。
「エルノア・・・! そうかあの碑文から異常のフォトンが・・・! だから、予測臨界値を軽く越えて・・・くそッ! 僕としたことが! どんな方法でもいい・・・アクセスしなければ・・・!」
 正気に戻ったとはいえ、打つ手がない事に変わりはなかった。
 どうにかして打開策を見つけなければ。モンタギューは焦った。
「ESさぁん・・・はかせぇ・・・わたし・・・たぶんもう・・・だめ・・・逃げてください・・・お願いですぅ・・・」
 誰も巻き込みたくない。ウルトに替わり、今度はエルノアが逃げる事を勧めた。
「エルノア! バカな、お前まで自爆する気か!?」
 悲劇が、繰り返されようとしている。
「確かにあれを目的として僕はエルノアを作った・・・」
 エルノアを見つめながら作品について、博士は語り始めた。
「マグから軍事用アンドロイド、果ては巨大宇宙船に至るまで・・・ある新型AIを搭載したもの全てを支配するためのプログラム・・・それが『MOTHER』。全ての兵器の母親となる存在」
 壮大な計画。とてもではないが現実的ではない。
 だが、事実目の前で、それが現実となっている。
「あれを使って完全な兵権を掌握し軍の支配を確立する。それが軍部の・・・いや、母星軍高官たちの思惑だよ」
 WORKSはこれを狙っていたのだ。
 母星軍高官に替わり、自分達が支配しようと企んでいたのだ。
 だが、エルノアは完全ではない上に、おいそれと盗み出せる物ではない。
 そこで目を付けたのがウルト。
 そして始まった悲劇。
「そのための実験場がラグオルというわけさ・・・」
 パイオニア1だけでない。パイオニア2もまた、移民だけが目的ではなかった。
 その事を、タイレル総督は知っていたのだろうか?
 いや、知るはずもない。
 あの頑固な正義漢が、知りながら総督の地位になどつくはずもない。
「やって・・・くれるよ・・・あんたも、母星軍部も・・・」
 悪態をついている場合ではない。だが、一言でも言わねば、気が済まなかった。
「こんな計画を軽々しく引き受けてしまった僕の罪の重さはわかっている。その罰は受けよう。初めは興味本位だった。ただの実験に過ぎなかった」
 モンタギューは素直に罪を認めた。ESに言われたからと言うよりは、彼も自分の罪を、常に感じていたのだろう。
 道化師も、化粧を落とせばただの人なのだ。誰だって、罪を背負い込むのは辛い。
「だが・・・! 今は違う・・・! エルノアは僕にとっていなくてはならない子なんだ!」
 初めて、「父親」の顔をしたモンタギュー。ESはこの土壇場にいながら、嬉しかった。ジャンにとってエルノアがただの作品でないと知った事が。
「それにエルノアのためにも君を巻き込むわけにはいかない・・・あの子は君を大層気に入っていたからね。悪いが、パイオニア2に戻ってもらうよ、ES君。エルノアは僕がなんとかしてみせるさ!」
 寂しげに笑いながら、モンタギューはテクニックで帰路を造り出した。そしてESに、その帰路を使うよう促す。
 だが、ESはそれを拒んだ。
「冗談じゃ・・・ないよ・・・これ以上・・・これ以上・・・「仲間」を失って・・・たまるもんか!」
 何かある。何か手はある。
 ギリギリまで、あきらめるわけにはいかない。
 もうこれ以上、誰も失いたくない。
 もうこれ以上、誰も悲しませたくない。
 それだけが、今のESを支えていた。
「わかってくれたまえよ! 君の力じゃあどうにもならないんだ!」
「それはお互い様・・・でしょ? ジャン」
「わからず屋だな! 今のエルノアは君の知ってるエルノアじゃあないんだ! 無理矢理にでも送り返すぞ!」
「そんな暇が・・・あるなら・・・エルノアを救う・・・手だてを・・・考えなさいっ・・・て」

 強がっているが、ESにも限界が近づいていた。
 意識が遠退く。
 激しい頭痛に、何も考えられない。
 かすむ視界に、光を増すエルノアが写る。
「エルノア! このままでは・・・くそお! ジャン! お前の頭脳はこの程度か・・・!?」
 当代一の頭脳。それをもってしても、事態は一向に好転しない。
 破滅へと、時は進む。
 このまま、どうにもならないのか?
「ESさん・・・はかせ・・・ありがとう・・・さようならです・・・」
 最悪の事態だけは免れよう。エルノアはそう決断し、二人に別れを告げた。
「だ・・・め・・・エルノア・・・」
「エルノア! エルノア!」

 二人の声は、虚しく木霊するだけだった。
「オネエサマ・・・オネエサマはわたしを・・・「自由でうらやましい」 って言っていたけれど・・・わたしぃ、優しいオネエサマと一緒にいれたから・・・えへへ・・・いつもぉ・・・楽しくしていられたんだと思いますぅ・・・」
 ウルトを抱き上げ、エルノアは幸せそうに微笑んだ。
 最高の笑顔。この期に及んで、エルノアは何処までも優しかった。
「最後も一緒に・・・」
 決意の言葉が遠くで聞こえる。
 ESも、もう限界だった。
 遠くなる意識の中、視界に二人の影が映った。
 真っ赤な影と、真っ黒な影。
「娘と、娘の仲間達に何かあったら・・・ただじゃおかないって言ったでしょ? 博士」
「爆破は回避できないわ! みんな衝撃に備えて!」

 二人の女性。
 誰なのかという疑問は、派手な爆音と真っ白になっていく意識の谷間の中にかき消されていった。

「そうか・・・そんな事がな・・・」
 ホテルのラウンジ。
 BAZZが親友との密会に利用していた部屋。
 その場所で、BAZZの親友とBAZZの弟子が密会していた。
「申し訳ありませんレオ隊長・・・私の判断が至らぬばかりに・・・」
 深々と頭を下げ続ける女性。その真下には、いくつものシミが生まれていた。
「頭を上げたまえ、DOMINO君・・・元を辿れば、サコンの勝手な暴走が原因なのだ。いや・・・」
 深い溜息と共に、レオはDOMINO以上の責任を己に感じていた。
「さらに元を辿れば、私の責任・・・だと言えるな・・・」
 サコンが暴走した原因。それはサコンが歪んだ忠誠心を抱く対象がいたからこそ。そう考えれば、彼が崇拝するレオにも責任があるといえる。
「WORKSか・・・若かりしレオ・グラハートの亡霊・・・か・・・」
 何者かによって暗殺された父。その父の無念を晴らす為に築いた部隊、WORKS。
 復習に燃えたレオが掲げた部隊の理念。
 クーデター。
 父を殺した母星政府や軍への復讐は、クーデターによって完成する。そう信じ切った彼は、クーデターを起こす同志を集めていた。そして生まれたのが、WORKSなのだ。
 今のWORKSに、レオはいない。
 だが、歪んだ理念だけが残っている。歪んだ崇拝と共に。
「BAZZ・・・俺は過去の亡霊から逃れる事はできんようだよ・・・」
 今のレオに、クーデターの意志はない。
 BAZZがその愚かさをレオに説かなければ、今でもレオは亡霊に心を捕らわれていただろう。
 レオは改心した。だが、隊を改心させる前に、BAZZは隊を離れ、レオも隊を引き離された。
 そうして、亡霊だけが今もなお残っている。
 もうレオに隊の手綱をコントロールする事は出来ない。
「俺が生み出した亡霊だ。俺が最後まで責任を持たんとな・・・そうだろ? BAZZ」
 どうにかしなければ、また悲劇は繰り返される。
 今回の事件は、全てモンタギュー博士の単独犯という事で片づけられようとしている。
 つまり、サコンを断罪できない状況にあるのだ。
 だからといって、彼を、WORKSをこのまま放っておく訳にもいかない。
 何か手を打たなければならない。早急に・・・。

「というわけで・・・君たちにもそれを依頼したい。事態は急を要する! よろしく頼むぞ!」
 ハンターズギルドのカウンター近く。一人の軍人が、若いハンターとフォースに依頼している。
「任せときな!」
 自慢のダブルセイバーを手に、若いハンターは意気込み、ラグオルへのテレポーターに向かう。それにフォースも続いた。
「まだだ・・・まだ、終わりではないぞ・・・」
 それを見送った軍人は、一人呟く。
「クーデターは必ず成功させます。見ていてください、隊長!」

「ところで・・・ES君の様子はどうなんだ?」
 気分を変えようと、ラウンジでは別の話題に切り替わっていた。
「はい・・・昏睡状態にありますが、命に別状はないようです。もうしばらくすれば、目を覚ますだろうとの事です」
 自分が所属していたハンターチームのリーダー。その様子を伝えるDOMINOの心中は穏やかではない。
 間接的とはいえ、自分が彼女を悲劇に巻き込んだ。そんな自責の念で心はいっぱいだった。
「レオ隊長・・・私は、私はどうすればよいのでしょうか?」
 そして、不安でいっぱいになっている。
「もうハンターズにも、WORKSにも戻れません。私はどうすれば・・・」
 こんな時に隊長ならば、BAZZならばどう言ってくれるのだろうか?
 なにかと、BAZZに頼っていた自分に気付き、また心を締め付ける。
 ハンターズもWORKSも、自分にとって居場所ではなかった。BAZZの元こそ、自分の居場所だった。そうしていたのだ。
 それに気付き、また不安になる。自分にはもう、居場所がない事に。
「・・・私は父の、本当の意志。そしてBAZZの志を受け継がなければならない」
 真っ直ぐにDOMINOを見つめながら、語りかける。
「その為に、私は自分が過去生み出した亡霊を打ち破り、そして腐った政府を立て直さなければならない。むろん、クーデターなど無しに、だ」
 DOMINOの両肩に手を置き、力強く、熱く、レオは語る。
「DOMINO、私に力を貸してくれ。今の君なら、私の、私達の目指すべき理想が見えているはずだ!」
 涙ながらに、DOMINOはレオに敬礼を返した。

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