novel

No.32 語りかける声(後編)

 間が悪い、ということは、不幸なことだが度々起きてしまうものだろう。
 だが普通、それは些細なことであり、その時はまだしも後には笑い話にでもなる、そんなちょっとしたトラブル。そのはずである。
 だからこそ、間の悪さというものが、これほどまでに大規模な不幸を招く結果になるものなのか・・・?
「そのものの名はダークファルス・・・!」
 興奮している彼女にとってはそうでもないかもしれないが、やはり唐突すぎる。リコが口にした何者かの名に、彼女を連れ戻しに来たハンター達はまたも戸惑った。
「千年に一度甦る破壊神。全宇宙の脅威」
 どうやらこの存在こそ、ダークファルスという名を持つ者らしい。しかしやはり、唐突に「破壊神」だの「全宇宙の驚異」などと言われても、あまりに規模の大きな話に肥大しすぎて理解に苦しむ。
 普通なら、そうだろう。
 だが、ハンター達はリコの語る単語単語に、少なからず身震いしていた。
 場の雰囲気が、そうさせたのかもしれない。
 遺跡と思われていた宇宙船。たしかに宇宙船と思わしき機械類が、壁の隙間から垣間見えていた。先ほどまでは。
 しかし今はどうだ。たしかに四方には壁があり、隙間からは金属も見える。しかしその隙間というのが、まるで肉片と、そこに出来た「膿」のような物がへばりついた・・・有機物で覆われたようなものの隙間。そして肉片はまるで生きているかのようにうごめき、ドクドクと心臓が脈打つような音と、クチャクチャと何かをしゃぶり尽くす音を醸し出している。そして床には血のように赤く透き通るガラスがしかれ、その先にもやはり肉片らしき物がうごめいている。さらに中では、顕微鏡でしかお目にかけることの無いような、肥大した微生物のような細長い物がうようよと漂っている。いや、このおぞましい微生物は、カラスの向こうだけでなく大気中にも漂っている。
 吐き気がする光景。何者かの体内にでも進入したような・・そんな雰囲気。
 こんな場所であれば、リコの終末的予言めいた言葉も、理解せずとも受け入れてしまうのは無理のないことだろう。
「・・・おそらく遙か昔、ある文明圏にそいつが現れた。そして、勇者が何とかしてそいつを倒した・・・」
 まるでおとぎ話のあらまし。そんな戯言とも受け止められない言葉も、今は息をのみながら耳を傾けてしまう。
「でもそいつは、完全に消滅したワケじゃない。いつかきっとまた復活する。だから、巨大な宇宙船に封印してどこか遠い惑星に捨てた」
「三流ゲームのオープニングじゃあるまいし・・・」
 ZER0がぼやくように、リコのメッセージに茶々を入れた。
 そうでもしないと、飲み込まれてしまいそうだから。この場と言葉に。その証拠に、ZER0の言葉は震えており、そして誰も、ZER0を非難出来なかった。
「それがこのラグオル・・・」
 つまり、自分達は三流ゲームの主人公に仕立てられているのだ。リコとZER0の言葉を借りるならば。
「あたしらの移民は、とんでもない星に、とんでもない時期に当たってしまった・・・」
 千年に一度。しかも遠く離れた惑星。そんな時と場所に巡り会った、間の悪さ。奇跡的な確率で起きたこの間の悪さは、最悪の事態をいまだに継続しているのだ。
「唐突すぎることばかりで・・・なんて言って良いか解らないけど・・・」
 確かに、リコのメッセージは興奮と自己完結の為に、伝達としては要領を得ない唐突さを持った物が多くなってきている。だが「語る」言葉には、興奮や不安といった気持ちものるもの。理路整然と単語を理解するのではなく、メッセージは彼女の感じている恐怖をもきちんと伝えている。そういう意味において、このメッセージほど適切正確な物はない。
「良い状況とは言い難いね・・・」
 だから感覚でしか結論づけられない。しかしそれで、それだけで充分だった。
「ふぅ・・・行くよ・・・」
 ただ黙って、ハンター達は先へ先へと歩き出した。
 恐怖に立ち向かう勇気。そんな大層な物があるわけではない。
 正直、皆怖いと感じている。
 だからこそ、この状況をなんとかしなければならない。そんな事も感じ取っていた。
 破壊神だとか、全宇宙の驚異だとか、そんな自分達の許容を越えた存在では、やはり想像も許容を超える。先に進んで何が出来るか解らない。でも、先に進むしかない。
 今はただ、リコを見つけて原因を突き止める。その為には進むしかない。理由はそれだけで十分だ。
 ダークファルスと呼ばれた破壊神を倒すなど、そんな途方もないことを誰が予想し想像出来るだろうか?

 罠というものは、これまでにいくつか体験してきた。
 パイオニア1の置き土産であった設置トラップなどは、馴染む物ではないが、馴染みある物だった。
 しかしラグオル文明・・・いや、ラグオルに捨てられた文明が残した罠は、馴染みのある物ではなかった。
 とはいえ原始的で解りやすく、罠としては非常に優れていた物が多いのは確かだった。
 例えば、突然天井から釣り鐘状の物が降り、犠牲者を捕獲。後に自爆してダメージを与えるという罠があった。常に天井を見上げていれば、簡単に見破ることは出来るだろう。しかしそうそう天井ばかり見上げてもいられないだろうし、注意をしていてもちょっとした隙に引っかかることもある。単純だが非常に効果的な罠と言えよう。
 そして今、ハンター達はさらに別の罠に苦戦を強いられていた。
「この霧・・・しまった、毒霧!」
 紫の「靄」は、最初この第三階層独特の気味の悪いオブジェの一種かと思っていた。それほど、紫色というあまりに禍々しい靄だったにもかかわらず、既に気色の悪いこの場の雰囲気に飲まれていたハンター達は、それが異常だという事に気が付くのに時間がかかった。常識が麻痺していたと言って良いだろう。
 気が付いた時には、周りをエネミーに囲まれていた。足音も無しに突如黒い靄と共に現れるエネミーに、コーラル文明のセンサーは対応しきれない。
 こうなっては退却するにも時間がかかる。かといってじっとしているだけでも徐々に靄に含まれた毒素にやられ、体力を奪われている。焦れば当然エネミーの餌食となり、体力だけの問題ではなくなってしまう。
 まさに八方塞がり。
RESTA! ANTI!・・・ダメです。何とか体力の回復は出来ますが、毒素は・・・この霧をなんとかしないことには・・・」
 奪われていく体力。貧血に近いこの感覚にふらつく頭。なんとか思考を保ちながら、黒の魔術師は打開策を模索しながら現状をなんとか最悪の状況にならないようテクニックをかけ続けた。
「何処かに解除スイッチがあるはずだ・・・」
 ならば、この靄、いや毒霧と呼ぶべきこの忌まわしい罠を止める必要がある。罠ならば必ず発動する仕掛けがあると同時に解除方法もあるはず。
 BAZZはセンサーを用いて必死にサーチを始めた。
「あれかっ!」
 部屋の隅に置かれたコンテナ。そのコンテナに隠れるように、赤く灯されたタッチ式の大型スイッチ。間違いなく、解除スイッチだろう。
「DOMINO、援護しろ!」
「Roger!」

 スイッチのある角まで走るBAZZ。それを妨げようと群がる兵隊を、DOMINOが銃弾で足止めする。
「く、護衛のお出ましか」
 目の前に「あの」黒い靄が現れた。それはBAZZを妨げる兵隊が現れる前兆。
「出迎えご苦労・・・そこで凍ってろ!」
 ひょいと、護衛の隙間をかいくぐりながらフリーズトラップの置き土産。それをすかさずDOMINOが打ち抜く。
 Bom!
 瞬時に、護衛はその役割を果たすことなく氷像へと姿を変えた。
 Click
 その隙に、BAZZはスイッチに到達し、触れた。赤から青へと輝く色を変えたスイッチは、罠が解除させたことを伝えていた。
「ふぅ・・・何とかなったな」
 だが終わりではない。視界が紫で染まることはなくなったとはいえ、同じ視界にはまだエネミーが映し出されている。
「It’sClobberin’Time!(戦いはこれからだ!)」
 ファイナルインパクトを握り直し、武器の名の通りこの戦いを終わらせにかかった。

 明らかに、リコは動揺していた。メッセージパックに吹き込む声が、それを証明していた。
「ダークファルスは闇の意識体であり、実体を持たない・・・」
 見つけたメッセージパックには、これだけが吹き込まれていた。
 次々に判明する恐怖という事実。そして実際に迫る、得体の知れぬエネミーという恐怖。ゆっくりとメッセージを残すゆとりなど、時間的にも心情的にもないのだろう。
 そしてそれは、このメッセージを聞いているハンター達も同様だった。
 実態の無い闇の意識体。それがどのような「者」なのか? 考えるゆとりなどあるはずもなかった。
「取りこまれるな、とある」
 次に見つけたメッセージにもまた、当時のリコの動揺が吹き込まれており、そしてハンター達にも動揺を与えた。
「闇の意識体はまず、実体を持とうとして・・・優秀な素体となる生物を探す習性がある」
 メッセージパックは碑文の書かれたオブジェの前にあった。どうやら、リコはこの碑文を読みながらメッセージを吹き込んでいたようだ。
 取り込まれるな。この言葉に一人、特に動揺した者がいた。
(自分を見失うなよ・・・)
 ズキズキと頭痛がする。それを必死に耐えながら、自分に何度も言い聞かせる。
(耐えろよ・・・戻るなんて今言えるわけねぇんだからよ)
 メッセージの声を聞きながら寂しさに耐える女性。彼女を前に、戻るなどと言えるはずもなかった。むろん、頭痛がする等とも言えるはずもない。そんな事を言い出せば、心優しき仲間達は間違いなく探索を中断しパイオニア2へ戻ってくれるだろう。しかしそうなれば、リコを必死に探し続ける、目の前の女性をまた悲しみで縛ってしまうかもしれない。それは絶対に出来ない。
(取り込まれるな・・・か・・・)
 「あの日」の夜を思い出す。自分が自分でなくなった、あの日。あの惨劇が何度もオーバーラップする。
 そんなZER0の様子は、端から見ても明らかにおかしかった。ふらつく足。時折押さえる頭。カタカタと震える左手とその手で押さえている刀の柄がぶつかる音。それを必死に隠そうとしているが、それでもやはり、何処かが不自然だった。
 普段ならば、仲間達もすぐ気が付いただろう。
 だが、彼らもまた、心にゆとりがなかった。
 ゆとりがないということが、どのような悲劇を生むことになるのか・・・むろんゆとりのない彼らが、知るはずもない。

 嘶く声が、部屋に響いた。
 まるで馬のようなその嘶きに驚いたハンター達が見た物は、まさに馬そのものだった。
 ただし、下半身だけ。
 片方の前足を、カツカツと地面にこすりつける。それはまるで闘牛場で暴れ回る猛牛のよう。
「避けて!」
 そして予想通り半身半馬のエネミーは、ハンター達を赤いマントに見立てたかのように突進してきた。
「ちぃっ!」
 衝突は避けられたものの、緊急回避の後ですぐに体勢を立て直すのは難しい。その隙を突くかのように、半馬はまたカツカツと足を鳴らし構えている。
「させるかっ!」
 BrakkaBrakkaBrakka!!
 ヤスミノコフ9000M。実弾に近いフォトン弾が半馬の突進を防いだ。
「よしっ!」
 今度は半馬が隙を突かれる番。体勢を持ち直したESとZER0が、銃弾に怯む半馬に詰め寄った。
 だが、半馬もハンター達と同様、素直にやられる事はない。
 Swish!
 半馬の右手がESに迫った。あの剣士同様、右手が剣のような形状になっている。しかし、その大きさは剣士とは比べ物にならない。剣士の右手を「剣」とするならば、半馬の右手はまさに「大剣」。
 しかも半馬は馬のような下半身だけでESと同じ分の身長がある。その上に付けられた上半身。つまり馬に乗った剣士と戦うように、ESは頭上から迫る剣撃にさらされた事になる。
「くぅ!」
 すれすれ。まさに紙一重というところで、ESは身体を後ろに倒す事で避けきった。正面の相手ならば、まだやりようがある。しかし頭上というのは、人にとって視界や意識を集中しづらい、まさに「死角」となる。そんなところからの一撃はまさに驚異。
「このっ!」
 Swosh!
 避けることに精一杯のESに代わり、反対側面にいたZER0が半馬を斬りつけていった。体が大きいだけに、左側に立たれたZER0に対し右手の剣は届かないようだ。つまり半馬にとって左が死角になっている。
 弱点が判明した。手練れであるハンター達にとって、攻略の糸口が掴めればそう苦戦することはない。
 だが、これでは終わらない。
 悲鳴のように、また半馬が嘶く。そして身体はまるで激怒したかのように真っ赤に染まっている。その様子に、何かがあることを長年の「勘」が告げる。
 ゆっくりと、だが怯むことなく、半馬はZER0に向き直り、右手の剣を、まるで銃口を突きつけるように差し向けた。
 Zzzzzam!
 まさに剣は銃となった。二又に別れていた右手の大剣は、その隙間から強力なエネルギー弾らしき物を、爆音と共に発射したのだ。
「っぶねぇ・・・」
 何かがあると予感していたZER0にも、まさかこのような攻撃をしてくるなどとは思わなかった。だがそれでも危険を感知していただけに、避けることは難しくなかった。
「万策尽きたってところかしらね。覚悟しなっ!」
 ZER0に向き直った半端。それはつまり、ESに背中を見せることになる。もちろんこの隙を逃す黒の爪牙ではない。
 三度目の嘶きは、絶叫となった。
「ふぅ・・・まったく、「ここ」は厄介なのが多いね」
 朽ち果て倒れた半馬。それが現れた時と同じように黒い靄と共に消えていくのを見守りながら、愚痴をこぼす。
(厄介なのは・・・こいつらだけならまだ良いんだけど・・・)
 痛み始めた頭を気にしながら、リーダーは一人、心の中で愚痴を続けていた。

「父さんに会いたい」
 リコの動揺は、とうとうメッセージに寂しさをぶつける程にまでなっていた。
 それをやはり、ESは寂しく受け止めた。
「・・・忙しい父さんが昔くれた赤いリング。だんだんとお互い話さなくなっていったけど、それが唯一の絆だった」
 レッドリング・リコ。その名の由来となった真っ赤なリング。彼女がどうして赤という色にこだわるのか。その由来はもちろんESもよく知っている。だが、それを滅多に口にすることはなかった。
 恥ずかしいから。リコはそう答えていた。父からの贈り物をずっと大事にしていることが、年頃の娘にとっては恥ずかしいのだろう。恥じることなど何もないのだが。
「思えば親不孝ばかりしてきたなぁ。今頃何してるんだろ」
 親不孝なものか。もしタイレルがこの場にいるならばそう言うだろうな。ESにはそれが判っていた。
 常に身に付け続けた赤いリング。片時も離さない事が、感謝の印。それを父が察するのは当然のこと。リコの名声とも言えるレッドリングという二つ名が、父の贈り物だとするならば、これほど誇らしいこともあるまい。
 確かに、色々と衝突もあった。政府高官という立場もあり、また不器用な性格もあり、娘に対して優しくはなかったかもしれない。だが、愛情だけは人一倍注いでいた。リコの傍らにいてそれを見続けていたESには、それがよく判っていた。
 リングだけが絆じゃない。それはリコも解っていただろう。だが、衝突を繰り返してきたリコにとっては、リングだけが絆と思いこもうとしていたのかもしれない。しかしそのリングをずっと大事にしてきた。それもまた、父親譲りの不器用な愛情表現だったのかもしれない。
「絆か・・・」
 普段滅多に使わない、「爪牙」の由来となった爪を取り出しながら呟いた。
(送り主が解るなら、絆にもなるよね・・・)
 ネイクロー。世界に二つだけしか存在しないと言われているフォトンクロー。
(この爪だけが、私の出生を知る手がかりなんだって言われたけど・・・解らないんじゃ、手がかりにはなっても絆にはならないわよね)
 溜息と共に爪をしまいこもうとした。その時、声をかける者がいた。
「その爪・・・ネイクローか?」
 驚き、声の主であったZER0に向き直った。
「知ってるの? これは確かあんたにも見せたこと無かったはずだよ!」
 手がかりが、こんな身近に存在していた。その驚きと興奮が、捲し立てるような質問となってZER0を責め立てる。
「あっ、いや、それと同じ爪を持ってる奴を知っててさ・・・」
 世界に二つしかない爪。そのもう片方を持っている人物。それをZER0が知っている。予期せぬ情報源に、ESの興奮は頂点に達した。
「誰!」
 故に、ESは見境もなくただ詰め寄るだけ。さすがにZER0を含め、他のメンバーはその様子にたじろいだ。
「落ち着けよ。今話すから・・・」
 興奮しきったESをなだめるZER0。そうして、やっと自分が興奮で顔を赤らめ、ZER0の胸ぐらを掴みかかっていた事に気が付く。
「あっ、あぁごめん・・・」
 落ち着くと同時に、自分がいかに興奮していたのかを冷静に悟る。そしてまた、今度は恥ずかしさで顔を真っ赤に染めた。
「・・・で、誰?」
 落ち着いたところで、改めて問う。
 その問いに、答えようとするZER0。だが、そこに水を差された。
 いや「水を差す」などといった、簡単なものではない。
 RumbleRumble!
 唐突に、地面が揺れた。
「地震?!」
 これが、あらゆる悲劇の引き金となる事に、誰も気が付くはずもない。
 だが、異変はこの地震の直後に始まった。
「くっ・・・頭が・・・」
 問いつめる方とされる方。その二人が、突然頭を押さえうずくまってしまった。
「! 大丈夫かっ!」
 気付き二人に駆け寄る仲間達。
 だが心配しても、彼らに何かをする術はない。
 尋常でない痛がり方。あの洞窟での一件を思い返す。
RYUKER! すぐに戻りましょう!」
 簡単ではあったが入院するほどにまで追い込まれた頭痛。あの悲劇を少しでも軽減する為に、すぐさまパイオニア2へ帰還した方が良い。残された者達が出来ることはその程度だった。
 ESはDOMINOの手助けによって、なんとか帰還できそうだった。
 だが、ZER0はその準備すら出来ない。
 いや、ZER0が拒絶したのだ。帰ることを。
 肩を貸そうとするBAZZを払いのけ、ZER0は一歩一歩、皆から離れるように後ろへとよろめきながら下がっていく。
(そういう事か・・・)
 ZER0は心の中で舌打ちした。
 もっと早く気が付くべきだった。
 何故あの日、自分は「アギトを持って」ノルの上にまたがっていたのか。
 あの「ヤレ」という言葉の意味。
 カタカタと、まるで何かに共鳴している愛刀。その愛刀が囁く。
 「ヤレ」と。
(不味い・・・意識が・・・)
 ZER0の心配は、不意に解消された。
 それはZER0の意識がなくなったから、などといった単純なものではない。
 いや、結果としては単純なものだ。
 ZER0の心配。それはつまり意識を乗っ取られ、仲間を傷つけやしないかという事。
 それを実行することが出来なくなったからだ。
 黒い靄と共に、ZER0が姿を消してしまったのだから。

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