novel

No.27 机上と土中の戦〜夢幻のごとく3号〜

「まず、我々は大きな勘違いをいくつもしていた、という事を認めなければなりませんな」
 ドームの爆破から数えて、何度目の会議になるだろうか?
 普段はメンバーのみで行っていた作戦会議。それは任務をこなす上で必要なことだった。むろん、今の会議もかなり重要な物であることにかわりはない。
 だが、参加人数が膨大に膨れあがっていた。
「先日ES女史らダークサーティーンのメンバー方々に持ち帰っていただいたデータを検証したところ・・・いくつかの新事実が発覚いたしました」
 今議会を進めているのはモーム博士。ラボ内の生物遺伝子研究所に勤めている研究員だ。当然ダークサーティーンのメンバーではない。彼のようなメンバー外の協力者も多数参加しているため、今回の会議「も」大人数が参加する形となってしまったのだ。
「まずβ772と名付けられた、オスト博士研究によるアルタードビーストですが・・・どうやらあの坑道で研究されていたのでは無い、という事が判明しました」
「どういう事?」

 モーム博士の報告に、ダークサーティーンのリーダーであり、この会議の議長となっているESが、疑問を挟み尋ねた。
「β772はケージ移動中に暴走し逃走した、という事は既に承知のことと思うが、どうやら坑道ではない別の所から坑道へと移動中に、坑道で逃走したらしい。先に断っておくが、残念ながら何処で研究されていたのかは不明のままだ」
 いつもの事ながら、確かに新たな事実は判明した。しかし替わりに別の謎も生まれる。
「要するに、坑道以外にも研究所みてぇなところがあるって事かよ。その口ぶりだと、ドーム内じゃないんだろ?」
「さよう」

 少しばかり無念を顔に残し、博士はZER0の質問に答え、そして説明を続ける。
「付け加えると、オスト博士が主に研究していたのも、どうやらβ772ではないらしい。主な研究内容、そしてその研究場所に関しては、我々だけでなく、総督府も母星政府も、そしてラボも追求中だ」
 持ち帰ったデータにしてみても、ハンターズや総督府だけで所有しているわけではない。総督府に渡った段階で、母星政府にもデータは渡り、総督府が解析を依頼しているラボにも渡ることになっている。
 しかし、その逆があるとは限らない。
「・・・私の立場で言うのもなんだが・・・母星政府はともかく、ラボも追求成果を素直に知らせるとは考えにくいがね」
 総督府は立場上、データの引き渡しは必要だ。ラグオルを統括する立場として、現状報告を母星政府に報告する義務があるのは当然として、ラグオルの事件を解決するために、専門的な調査を行える科学研究所・・・通称ラボにデータを渡し解析させるのも必要なことだ。だが母星政府やラボは、総督府になんらかの結果やデータを渡す義務はない。むしろラグオルよりも自分達の立場を優先する彼らが、率先して総督府に協力するわけがない。
「だからこそ、あなたのような人がいて助かってるわよ。モーム博士。そしてアリシア」
 ラボの人間としてハンターズのES達に結果を報告する義理は、モームにはない。しかし人としての義理が、彼らに報告をさせている。そこには依頼を達成してもらった事への恩義などもあるのだろうが、それ以前にラグオルの事件を解明したいという探求心がモームを動かしているのかも知れない。
「なに、私はただの研究者でね。政治的な立場だとか発言だとか、面倒で好きになれんだけだよ」
 モームの言葉に、苦笑しながらZER0が深くうなずき、アリシアも微笑しながら同意した。
 ラボは元々、政府の資金で研究を行っている機関であり、政治的な権力を持った集団ではない。だがフォトン科学を中心に、あらゆる研究成果が政府や軍の活動を左右する事が多くなるだけでなく、そのまま人々の生活を支える事が多くなった現在は、ラボが最重要機関だという事を全ての人々が容認している。それはそのまま、ラボに政治的発言権を持たせることを黙認することになり、ラボは母星政府や軍にならぶ勢力へとのし上がる結果を生み出した。
 勢力とは、互いを意識し敵視する傾向がある。
 ラボとしては、よりスムーズに研究を行うために・・・もちろんそれだけの理由とは考えにくいが・・・彼らは自らの立場を最大限に利用し、政府や軍になにかと注文を付け、研究結果の引き渡しを餌に「ゆすり」をかけることも多くなってきた。そうなれば当然、政府や軍と対立することも多くなる。
 総督府,軍を交えた政府,ラボ。この三者は非常に仲が悪いという、政治的には不味い状況であるにもかかわらず、今は微妙なバランスで保たれているのだ。
「続けよう。オスト博士の研究に関してはデータ量が膨大な割に、肝心なデータが欠落している物が多い。故に調査は思うように進んでいない。報告にはもう少し時間がかかりそうだ」
 報告を終えモームが席に座ると、今度はBAZZが席を立つ。
「本来俺は専門家ではないが・・・ここのメンバーの中では俺が一番詳しいからな。俺から坑道のエネミーとなったロボットについて報告しよう」
 鉄で出来たレンジャーは、同素材で出来た敵に関してまとめたレポートを手に、説明をはじめた。
「人型についてだが・・・あれは確かに「元」労働用のロボットだったのは間違いない。しかしどうやらパイオニア1のラボによって改造され、警備兵器として運用されていたことが記録に残っていた。ギルチックなどといった名前で登録されている」
 労働用や看護用のロボットが何故武装されていたのか? その答えは意外とあっさりしていた。パイオニア1ラボによる改造。一番可能性のある答えであったことで理解は出来たが、どことなく拍子抜けしたのは、謎だらけの日々に慣れすぎたためだろうか?
 しかし、その改造された警備兵器が何故襲ってきたのか? という疑問は解決されていないのだが。
「あとシノワ型のエネミーについてだが、やはりこいつらもパイオニア1で改造と研究がされていたようだ。俺たちが目にした物は従来型のシノワに手を加えたタイプだが、あの透明になる迷彩機能や分身機能は、パイオニア1ラボ独自の研究によるもので、さらに機能を強化したパイオニア1オリジナルのシノワシリーズも多数存在しているらしい」
 改良シノワでさえ手こずるのに、さらにその上がいる。その報告はハンター達にとって驚異でしかなかった。ただその強化型を、まだ誰も目にしていないのが救いだ。設計段階で制作されていないのかもしれないが、願わくばこのままお目にかかりたくないものだと、誰もが思う。
「そして・・・この改造などの研究もまた、坑道で行われた物ではない」
 この調査結果から、BAZZは驚くべき、そして恐るべき推測を立て、公表した。
「仮に、β772の研究とシノワシリーズの研究が同じ場所で行われていたとすれば・・・パイオニア1ラボは、軍事目的の研究をしていたのではないか? と仮説が立てられる」
「ちょっと待て、マジかよおい!」

 ZER0が立ち上がり、驚きと共に叫ぶのも無理はないだろう。移民目的だったはずのパイオニア1が、軍事研究をしていたなどといわれれば。
「あくまでも仮説にすぎん。だが・・・ここまでくると可能性の高さは否定できんな。我々の知る坑道はおそらく、あの奥にあった扉への、文字通り「坑道」だった事と、別にあった研究所の研究成果を試す試験場。そして警備兵器をわざわざ設置するほどの「何らかの危険性」からの防波堤。そういった役割を担っていたと考えられる」
 膨大なデータから真実を知ろうとした結果は、確かに実を結んだ。ただその真実が、必ずしも喜ばしい結果とはならないことも、また真実だった。
「・・・たしかに、私達は大きな勘違いをいくつもしていたわね。ラグオルという希望の大地全てに」

「まだ震えが止まらないわ」
 会議を終え、半ば自室となったZER0の部屋へ戻ったノルが、ぽつりと漏らした。
「何も知らないから、知りたいなんて思うのよね。知った後のことも考えずに」
 ジャーナリストである彼女は、ラグオルで起きたドーム爆破事故の真相を突き止めようと躍起になっていた。しかし真実が明らかになるにつれ、その事実を公表することを恐れた。真実に含まれる毒素に、人々が耐えられるとは考えにくいからだ。しかし好奇心という中毒に陥った彼女に、その毒素を全て振り払うことは出来ず、また新たな毒素にあてられた所なのだ。
「どうする? ジャーナリスト。どこまでHONに掲載するつもりだ?」
「私の判断じゃ無理ね・・・編集長とギルドに任せるわ。もちろん記事は私が書くけどね」

 ハンター達が情報収集に利用するギルド発行のオンラインニュースHON。ノルはそこでフリージャーナリストとして記事を書いている。そこに行き着く経緯も全て彼女自身の好奇心と「ジャーナリスト魂」が導いた結果なのだが、その結果が「中毒」も招いていることに、自らを笑いたくなる。
「ところでアナ達は?」
「ダークサーティーンが請け負った「いつもの」作戦に同行するってさ。俺は別件の依頼をこなしてくる」

 ZER0は回復剤の役割を持つ青い香水ムーンアトマイザーの数を確認しながら、ノルの質問に答えた。
「・・・また依頼人女性でしょう? しかも同伴ね」
 ZER0は元々チームも相棒も持たない為、一人で依頼をこなすことが多い。にもかかわらずムーンアトマイザーを準備するZER0を見て、ノルは推理した。ムーンアトマイザーは瀕死状態の者を回復する力がある香水。瀕死状態では自らに香水を振りまく事は出来ない故に、普通この香水は仲間に対して使用する。つまり、今回の依頼に同伴者がいることが推測出来る。そしてZER0の性格を考えると、相手は女性だろうとも。
「・・・別にいいだろ」
「そうね。ただ、またこの部屋に同居人が増えるのは勘弁して欲しいわ」
「勝手に転がり込んどいてよく言うぜ」
「一般居住区よりここの方がギルドに通うの便利だから。それだけよ。転がり込んだ覚えはないわ」

 ほとんど日常茶飯事になりつつあるこの会話をまたさらりと互いに流し、ZER0は出かけるために立ち上がった。
「じゃあ後よろしく。いってくら」
「はーい。気を付けてね」

 同居人である事を否定したノルに留守を頼み、またノルも当たり前のように声をかけ、ZER0は玄関の扉を開けた。

 ZER0の言っていた「いつもの作戦」は、レオから依頼された殲滅作戦だった。
「大量にエネミーが発生するポイントを制圧すること。これが依頼内容だ」
 至極簡単に内容を伝え、リーダー代理は具体的な作戦指示へと移る。
「今回は別件調査をしているESと別件依頼をこなすZER0が参加しない替わりに、ウェインズ姉妹とマァサに参加して貰う。三人ともよろしく頼む」
 無骨ながらも丁寧な言葉に、三者三様、首を縦に振る。
「ポイントでは無造作にエネミーが湧いて出る。終わりが見えない分不安になると思うが、焦らず着実に事を運んで欲しい。Mとマァサはテクニックの種切れを気にせず派手にいってかまわん。もしフルイドが切れたら近くの仲間に声をかけて分けて貰ってくれ。乱戦で手渡しが難しいなら、床に置くだけでも良い」
 既に三回目となるこの駆除作戦。慣れることはなくともコツはつかんでいる。ESは的確な指示を次々と与えていく。
「カナディンは俺とDOMINOに任せてくれ。クロエはスライサーで狙えるだろうが、前線ハンターがアナだけになるのは避けたい。最も二人のコンビなら俺が心配する事もないと思うがな」
「まぁ〜かせて! 前線はビシバシ行くよ!」
「ではお言葉に甘えて、私も人型に集中します」

 スライサーを得意とするクロエは、アナとコンビを組む際レンジャーの代わりをよく務める。しかしスライサーは多数の敵を攻撃することには優れているが、銃ほど命中精度がよいわけではなく、また頭上の敵に対しても銃ほど性能がよいわけではない。しかも今回はレンジャーが二人もいるのだ。BAZZの言うとおり、カナディンに気を配る必要はないだろう。
「他、特に質問はないな?・・・よし。かなり厳しい戦いになるだろうが、各自の能力を考えればさして難しくはないはずだ。それでは行くぞ」
 各々が各々の武器を手に、機神の号令を待つ。
「・・・Attack!」
 スピーカーから発せられた音を合図に、六人のハンターは走り出した。

 BAZZ達とは別に、ESは一人戦いの地へと足を踏み入れていた。
 面会。
 交渉という戦を、ESはモームの紹介で行うまさにその時であった。
「やぁ、君がES君か。エルノアから話は聞いてるよ。僕はジャンカルロ・モンタギュー。ジャンと呼んでくれていいよ」
 ゴーグルのようなメガネと、ピエロが着る派手な衣装。そしてキノコを思わせる不自然に大きい帽子。派手好きで知られるニューマン男性の服装としては比較的標準といえるが、それでもやはり道化師の印象は拭い捨てられない。握手のために差し出す手の動作も、どことなく道化じみている。
 戦う相手として、これほどやりにくい男もそういまい。つかみ所がない・・・それが一番やっかいなのだ。交渉という戦においては。
「よろしく、モンタギュー博士。ダークサーティーンのリーダー、ESよ」
 差し出された手を握り替えし、ESは「呼んでいい」と言われた愛称で呼ぶことを避け、自己紹介を返す。
 すでに戦いは始まっている。
 愛称で呼べと言われても愛称で呼ばない。それはつまり、まだ信用していないという表れとも言える。そう、交渉という戦いは言葉一つ一つが武器となり盾となる。
 そしてモンタギューは既に先制攻撃を行っていた。
 エルノアから話を聞いている。それはつまり相手の情報は把握しているという意思表示。そしてこれはモンタギューの意図ではなかったかも知れないが、ESにとってエルノアの名前を出されたことはかなりの衝撃になっている。
「ああ、僕は生体科学博士をやってる。単純に言えば天才かな。ウフフ」
 自称天才は、ESにならって己の職業を再度自己紹介する。それもまた駆け引きの一つか?
(掴めないわね・・・天才故に天然っぽい所もあるけど・・・)
 懸念という心の葛藤を表に出さないよう努めながら、ほどいた手を放し、席に着く。
「最近はお偉方に泣きつかれてラグオルの生物を調べてたんだ。もちろんラグオル地下に出現した機械生命体もね」
 席に着くなり、愚痴のような、自慢のような、そんな独白がモンタギューの口から発せられた。
 お偉方。それはつまり軍の連中のことだろう。エルノア・・・おそらくは目の前の博士が開発者だと思われるが・・・彼女が軍と関係していた事を考えると、やはり軍部高官と考えるのが自然だ。
「そういえば・・・私もシモンズっていう助手に、その調査のことで泣きつかれたことがあったわね」
 むろん皮肉だ。モンタギューがこれをどう切り返すか。それで相手の性格を計ろう。それがESの狙いでもあったが。
「あぁ、そんなこともあったね。あの時はエルノアが世話になったよ。シモンズの不手際も許せないけど、軍の連中はなんなんだろうね。作戦中にハンターを介入させるとは何事だ、だってさ。やだねぇ、くだらないプライド。あんな連中のプライドより、エルノアの方がよっぽど大事だって、どぉ〜して判らないかなぁ」
 くすりと、ESは思わず微笑した。
 まるでピエロのような、オーバーリアクションを交えた彼の愚痴が可笑しかったこともある。しかし彼のこんな反応が、「天才」で「天然」だと言うことをハッキリと確信させた。それがなんだか可笑しかったのだ。
 確かに軍と関わりがある人物だった。しかしだからといって軍の人間というわけでもない。ましてこういったタイプは、ラボに縛られることもないだろう。天才故のプライド。そしてそれは典型的な天才タイプとしての人間形成を物語っている。そういう意味において、確かに信頼出来る人物かも知れない。
 だがしかし、信用出来るかどうかはまた別だ。
 油断ならない相手。モームが評した「変わり者」という印象は、得てして油断してしまうものだが、この道化博士はそれを利用さえするだろう。
「それじゃ、そろそろ本題に入りましょうか。ジャン」
 とりあえず、この一言が今ESが下した判断そのものと言える。

 激戦は予想していた。
 しかしだからといって、対処出来るとは限らない。
「ぎっ・・・GIZONDE!」
 心の震えは、声の震えとなる。しかしそれでも言葉を振り絞り、ハンタースーツに組み込まれたテクニックディスクを発動させる。
 マァサにとって、実戦は初めてのことではない。
 とはいえ、慣れているわけでもない。
 心強い味方が周りに沢山いるとはいえ、それを遙かに上回る敵の数は、それだけで驚異となりマァサの小さな心を圧迫する。
「ハァ・・・ハァ・・・」
 理屈は判らないが、テクニックは心労を伴う。そうでなくとも、緊張という心労を抱えたマァサにテクニックはきつい。すぐに息が上がる。
「マァサちゃんこれ!」
 右手にヴァリスタを構えたDOMINOが、その銃で偵察機を撃ち落としながら、左手でディフルイドの入ったピルケースをマァサに手渡す。
「ハァ・・・ありが・・・とう・・・」
 礼の言葉を述べるだけでも、今のマァサには一苦労。なんとかピルケースを受け取り、そこからディフルイドを一つ取り出す。アンプル型になっているディフルイドの先端を折り開け、中身を一気に飲み干す。
「ハァ・・・」
 ほんの少し、心臓の鼓動が遅くなるのが判る。そしてほんの少し、あたりの状況を判断するゆとりが生まれ、ふと、少し離れたところに立つMに目を向ける。
 テクニックの援護は、ほとんどをM一人で行っている。マァサが息を荒げ手を休めている間でも、Mの援護は的確に行われていた。
 だからといって、マァサが役立たずなわけでも、足手まといになっているわけでもない。
 ほんの少しのゆとりが、マァサに気配を感じさせた。
 気づき上を見上げるその先に、まるでコウモリのように天井にぶら下がるロボットが写った。
FOIE!」
 つき出した右手から火弾が飛び、天井から飛び降りたばかりの忍者にぶち当たる。
「マーちゃんナイス!」
 怯んだ忍者が生み出す隙を、その忍者と同じく両手に刃を持ったハニュエールは見逃さない。すぐさま駆け寄り切りつける。
 しかしその一方で、ハンター達も隙をつかれた。
 忍者は反対方向にもう一体待ちかまえていた。
「あっ!」
 気が付いたときには、既に忍者は片手を高々と構え上げながら飛び込んでいた。マァサに向かって。
 Ka−Chunk!
 振り下ろした腕。付けられたブレード。その刃はマァサに届くことはなかった。
「大丈夫か?」
「はい・・・ありがとうございます」

 振り向きもせず声をかけた心を持つロボットの広い背中に、軽く礼を述べる。
「これだけの数だ。全てを把握するには無理がある。背中には「壁」があると思って目の前に専念してかまわんぞ」
 全てを把握し指揮を執る「壁」は、優しく声をかけながらショットの弾丸をぶちまけていた。
「はい・・・」
 悔しかった。
 沢山の仲間に助けられる事が、ではない。優しい言葉や気遣いも、マァサには嬉しい。
 ただ、ただ、自分の未熟さが悔しかった。
 目指す女性は目の前で、一人で判断し、一人で皆を助け奮闘している。気高く、強く。
(早くMさんのように・・・)
 その為の実戦経験。だからこそ、ここで悔しがっている場合ではない。
GIFOIE!」
 少し背伸びをしたい少女は、少女なりに、気高い志を胸に奮起する。

「部品? まぁその辺に転がっているので良いなら問題ないが・・・判った、いくつか持ち帰る」
 ESへの終了報告を行ったリーダー代理は、奇妙な注文を受け取っていた。
「ESさんなんですって?」
「うむ・・・モンタギュー博士からの依頼で、こいつらのサンプルが欲しいんだそうな。そこである程度部品として形が残っている物を持ち帰って欲しい・・・だそうだ」

 足下に散らばったエネミーの破片を、愛用のショットで軽くつつきながら、部下の質問に答えた。
「部品ですか? といっても・・・かなり細かく飛び散ってますからねぇ・・・」
 坑道のエネミーは、破壊される際に勢いよく爆発する。その為か、破片は残っても明確な形を残すことは少ない。これは軍事用ならではの特徴だ。敵に兵器のデータを取らせないための処置。その為に機能停止直前に自爆する仕組みになっているのが通例で、エネミーも例外ではないらしい。
「ねぇ! ちょっと部品が欲しいんだって! なんか形残ってるの無いかな!」
 離れたところで戦利品を吟味している姉妹に呼びかける。
「部品? どうだろ・・・あ、こんなのどう?」
 目敏いアナは早速何かを見つけ、それを手に駆け寄ってきた。
「腕か・・・これはシノワの物だな。きっちり両方とも残っているとは珍しい」
 しげしげと、アナから受け取った両腕を手に取り眺め観察する。
「正直・・・あまり気持ちの良い物ではないな。俺にとっては」
 なんだか、肩から二の腕にかけてむずがゆい感覚を覚える。アンドロイドにそのような感覚があるはずもないのだが、もしこの腕が・・・という考えがふと頭をよぎったとき、その奇妙な感覚が芽生えた。
「隊長。これはどうでしょうか?」
 今度はDOMINOがなにやら持ち帰った。今度のそれは、BAZZに奇妙な感覚を与えることはない。なぜならば、BAZZには無い部品だから。
「ミサイルボックスかこれは。ふむ、バランゾの物か」
 自立砲台の驚異も、こうなってしまうとなにやら悲壮感が漂う。そう感じるのは、同じ鉄から生まれた者同士だからだろうか?
「DOMINOさぁ〜ん! これどうですか?」
 遠くから呼びかけたクロエが手にしていた物は、部品ではなく銃だった。
「あっ、それ・・・」
 駆け寄ったDOMINOはその銃を見て、少し困惑した。
「使えるようなら使え。ただ、それを俺に向けるなよ」
 よもや作戦後に、ここまで、それも自分一人だけ、憂鬱な気分になるなどとは思わなかった。
 そんな事を、戸惑いながらもDOMINOが受け取った銃・・・対アンドロイド用ライフルを見ながら鉄の勇者は考えた。

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