novel

No.23 創られし者たち 後編

「こんな地下施設を建設するなんて聞いたことがない」
 リコのメッセージが語るように、ハンター達もまた、目の前に広がる地下施設の建造などまったく聞かされた事はない。
「あたしの情報網でわからないんだから、よほど政府は厳重に隠してたのよ。この施設のこと」
 リコの情報網がどの程度のものかはわからないが・・・むろんESは判っているが・・・レオの情報網ですらつい先ほどまで坑道の存在どころか坑道という名前すら知る事がなかったのだ。政府と軍が混乱している隙をついてやっと知り得る事が出来る程、厳重に守られた情報だった事は五人とも理解出来ていた。
「政府の情報操作なんて、そりゃ今に始まったことじゃないけど。結局あたしらは何も聞かされちゃいない」
 大移民のために始まったとされるパイオニア計画。その先兵として放たれた探査機が偶然発見したラグオルを移民先に選んで進められた・・・とされているこの一連の計画ですら、全てが情報操作によって様々な事が隠蔽されていた。「今に始まった」どころか、初めから何も聞かされてなどいないのだ。
「・・・政府筋はあたしらハンターズにキビシイしなぁ。利用するときは利用するくせにさ」
「あんたが言うとおかしいわね」
 ESがメッセージパックに向かって呟いた。リコの父親はパイオニア2総督であり、母星政府とは一応切り離された政府機関ではあるが、「政府筋」に変わりはない。しかもその政府筋に利用されるように、ES達ハンターズはラグオルの調査を行っているのだ。リコの愚痴は、そのまま皮肉にもなりえるのだ。
「大体、自分から首つっこんどいてよく言うわ」
 正義感の強かったリコは、頼まれもしないトラブルに自ら関わり、ほとんど無償で事件を解決していた。そんなリコだからこそ、原生生物の狂暴化に関する調査を始め、そしてこのメッセージパックを残すような事態にまで発展したのだ。
 ESはメッセージパックの電源を切り、元の場所に戻しながら行方知らずの恋人に呆れていた。
「BAZZ、そっちはどう?」
 ESがメッセージパックを調べると同時に、BAZZはレオと連絡を取り合っていた。
 坑道と呼ばれた研究施設はもう一つ下にも階層が存在していた。ES達はその階層へと踏入しメッセージパックを発見した事を一つの区切りとして、進軍を中断し事態の整理に努めている。
「どうやら軍も政府も、あの改造メカの存在は知らなかったらしい。自分達で調査を進めたかったが、改造メカに邪魔され、思うように事が運ばなかった為・・・」
「ハンターズを送り、改造メカをやっつけさせて自分達は戦力の温存か。はっ、リコじゃねぇが、ホント利用する以外に何もしねぇなあいつら」

 BAZZの報告をZER0が引き継ぎ政府筋への皮肉へと代えた。これにDOMINOは軍人として反論したかったが、事実である事は彼女にもよく判っていた。自分の目でそれを幾度も目撃しているだけに。
「政府のやる事に今更愚痴を言う気はないけどね・・・それより・・・」
 ESはまたもや浮上した疑問を口にした。
「政府が知らなかったって事は、パイオニア1から報告がなかったって事でしょ? じゃあ誰がロボットの改造を?」
 セントラルドームの爆破に始まった森や洞窟の異常は、無理はあるがなんらかの自然災害とすれば納得は出来る。だが、ロボットの改造がとても自然災害の一端とは思えない。プログラムの暴走というソフト面の異常ならまだしも、改造という明らかなハードへの着手が自然災害で起こるはずがない。
 では誰が?
 様々な憶測は思いつくが、どれも現実味を帯びない。
「とりあえずは・・・」
 皆が思考という底なし沼に沈みかけていた時、Mが助け船となる一言を発し、現実へと引き戻した。
「私達には好都合だったかもしれません。あのロボット達のおかげで、私達は軍よりも先に潜入することが出来たのですから」
 軍や政府はハンターズが自分達よりもラグオルの調査を進めている事を面白くは思っていない。彼らはラグオルでの主導権をハンターズと、彼らの雇い主となっている総督府に握られたくないのだ。加えて、ラグオルとパイオニア1の持つ極秘事項を彼らに知られたくない。だからこそ総督府に横槍を入れ、ハンターズの調査範囲に制限を加えてきたのだが・・・背に腹は代えられないのか、彼らは秘密の漏洩よりは坑道の現状把握と軍の戦力温存を優先した。
「確かにそうだが・・・研究施設に関しては調査のしようがないな。至る所にロックがかけられている。解析できないこともなさそうだが・・・専門的なツールでもない限り無理だ」
 軍がハンターズにイニシアチブを譲った経緯は、ここにもある。そう簡単に秘密が漏洩しないだろう事も、彼らは計算していたのだ。
「・・・使えねぇなぁ」
「ヤスミノコフ9000Mの弾丸、味わいたいらしいな。軍事用アンドロイドにしか使えないこの銃はかなり美味だぞ?」

 ハンター用セイフティーを外しながら銃口をZER0に向ける。
「冗談だ冗談!」
 慌ててZER0が前言を撤回し、BAZZは再びセイフティーをかける。
「ったく、表情が読めねぇ分、本気かどうかよくわからねぇよ」
 ZER0のぼやきに、BAZZはぽつりと返した。
「仕方あるまい。俺たちはそのように「創られた」のだからな」

 侵入者を撃退するにはいくつかの方法があるが、何よりまず先に行わなければならないのは、侵入者の早期発見だろう。そして発見出来次第、早期対処。これが最も望ましい。だが、発見する者あるいは設備と、対処する設備などは基本的に別となっている物が多く、発見から対処までタイムラグが生じてしまう。このタイムラグを埋める最も良い方法は、発見した者がそのまま対処出来る事。これほど防衛側に望ましい処置はなく、また侵入者にとって最もやっかいな物はないだろう。
「ちっ、またでやがった!」
 ステルス機能を搭載しているためか、レーダーに反応しない敵を黙視で確認しZER0が舌打ちで歓迎した。元は偵察機として製造されていた飛行型メカに、攻撃設備を加えた改良機。つまり偵察、いやステルス機能がある事を考えれば密偵と言った方が正しいだろうが・・・その密偵と攻撃のどちらもこなせる、侵入者にとってやっかいな相手が音もなく忍び寄っていた。
「円盤は任せたわ。ZER0は人型に集中して」
「了解した」「Roger!」「任せろ!」

 飛行メカが通報したのだろうか? 人型ロボもわらわらと応援に駆けつけ、ハンター達を取り囲むように接近してきた。
 人型ならばESやZER0は今まで通り対処出来るだろう。だが飛行型メカは宙に浮いているため、接近用武器が通用しない。となれば、射撃かテクニックが最も有効な手段となる。ESはMをサポート役に徹底させ、人型と飛行型にそれぞれ攻撃役割を分担させた。
「このっ!」
 Bang!
 照準を合わせ、的確な射撃を行ったDOMINOではあったが、敵はその上をいっていた。瞬時に移動しフォトンの弾丸をあっさりとかわしたのだ。
「なっ、なに!?」
 確信を持って放った弾丸をかわされた事もあったが、素早く移動した円盤が突然赤いレーザーポインタをDOMINOに合わせ狙いを定め始めたことで軽いパニックに落ちてしまった。慌ててポインタから逃れようと走り出すが、赤い糸はDOMINOをしっかりと絡め取り離れようとしない。そのことがDOMINOをさらに混乱させた。
 Zzzzam!
 しかしそれが功を奏した。糸は突然消え失せ、かわりに糸があった軌道上に黄色い稲光が放たれていた。混乱し走り続けていたDOMINOはそのプロポーズを偶然だがかわしきった。
「ふぅ・・・なるほど」
 稲妻の一撃は、DOMINOに冷静な判断を取りもどさせた。
「結局とってつけた攻撃機能ってわけね。生兵法は怪我の元になるって、身体に教えてあげるわ!」
 再び赤い糸でプロポーズをしてきた円盤を、今度は恐れることなく照準を合わせ構えた。円盤にとって今ほど絶好のアタックチャンスはない。だが、まるでためらうように攻撃を仕掛けない。
 DOMINOはこれで確信した。的外れな攻撃は、タイミングを逃したためではなかったのだ。一定時間のポインタによる追撃と、時間経過による攻撃開始。プログラムされたパターンでしか攻撃出来ないらしい。つまりポインタで狙いを定めている時間帯ならば、逃すことなく撃ち落とせる絶好のチャンス。
「落ちろ!」
 Bang!
 今度は外さず、円盤の中核へとプロポーズの返事を刻み込む。
 Bang!Bang!
 ふらふらと、しかし垂直に降下してきた円盤に、さらなる拒絶の返答を撃ち込み、見事ストーカーを撃退した。
「蚊トンボがちょろちょろと!」
 DOMINOの判断は見事だったが、彼女の師匠はさらに深い「読み」で飛行型を撃墜していた。
 BrakkaBrakkaBrakka!!
 薬莢がいくつも飛び出し、落ちる過程で本来のフォトンへと戻り宙にとけ込む。その度に飛行型はクレーン射撃の円盤のように、次々と四散していく。BAZZは円盤の素早い動きにも一定のパターンがある事を読みとり、移動し終えた所へ予め狙いを定め確実に撃墜していた。
「このヤスミノコフ9000Mに死角はない」
 DOMINOが一機を撃墜する間に、BAZZは五機撃墜していた。一歩も動くことなく事を為し得仁王立ちするその姿は、まさに機神。
「そっちも片づいたみたいね」
 人型を倒し終えたES達が合流し、戦闘に一区切りを付ける・・・はずだった。
「!! まだだ! 来るぞデカイのが!」
 マップレーダーには新手の敵をキャッチし光点として映し出していた。その光点は人型や飛行型とは比べ物にならないほど大きい。
 RumbleRumbleRumble
 地響きを立て近づくそれを、ハンター達は己の目で直接確認した。
「でけぇなおい・・・」
 緑色の動く巨像を見上げ、思わず呆然と立ちつくしてしまう。その大きさは、メンバーの中で一番大きいBAZZの身長よりも倍は高く、天井すれすれを走行してきた。
 Shwipp!
「! 全員退避!」
 上部の発射口が開き、無数のミサイルが発射された。ミサイルはハンター達を付け狙うようピッタリと張り付くように迫ってくる。
「しまっ!」
 号令をかけるという、ちょっとした動作がちょっとだけ逃げるのを遅らせ、そのほんのわずかな遅れがミサイルの到達を許してしまった。
「危ねぇ!」
 着弾スレスレ。まさにミサイルが爆破したその時、ZER0がESを抱え込むように飛びつき、横へ回避して難を逃れた。
「っつぅ・・・まったく、こんな所で女を押し倒すのは俺の趣味じゃないんだがなぁ」
「そうかしら? とりあえず助かったわ、ZER0。ほんのちょっとだけ惚れちゃったわよ」
「続きはベッドの上で聞くぜ。次来るぞ!」

 ミサイルの後を追うように、重装型の自立歩行砲台もハンター達を追っていた。そして立ち止まり、重心を下へと落とす。ミサイルをまた発射する下準備だ。
 ZER0がESの手を引き起きあがらせ、手を繋いだまま逃走した。さながら愛の逃避行と言いたいが、そんな悠長な事態ではない。
「このまま近づけないんじゃ埒あかないわね・・・」
 あまりにもミサイルの数が多く、正面から近づく事はままならない。しかもミサイルが追尾してくるならなおさら。今は逃げる事で精一杯の状況。
「まてよ・・・おいBAZZ! あのミサイルは「ミサイルが」追尾してるのか? 「本体が」コントロールしているのか? どっちだ!」
 逃げながら、ZER0は既に安全圏内に逃げ切り逃走の援護射撃をしていたBAZZに大声で尋ねた。
「・・・ミサイルが独自に追尾している。援護は任せろ、思いっきり死んでこい」
 ZER0の「企み」に気が付いたBAZZは、最高のエールと共に援護を申し出た。
「ありがたいお言葉で。ES、このまま真っ直ぐ逃げてくれ。俺に考えがある」
「・・・任せたわよ。骨になったら抱いてあげるから」
「抱くのは俺だ」

 ウインク一つ、それが合図となりZER0は愛しい人の手を放し逆方向・・・自立砲台へと向かって走り出した。ミサイルも同時に二手へと分かれたが、飛行距離が長くなりすぎたか、ミサイルは着弾することなく爆発した。
「よし、かかった」
 そして砲台は横をすり抜けようとするZER0へ向き直り、ミサイル全弾ZER0へ向けて発射した。
 ミサイルも、そして砲台も全てZER0をターゲットに絞ったらしい。ミサイルは常にZER0の背後に、砲台は常にZER0の方を向き追尾していた。
 それは全てZER0の狙い通り。ZER0は砲台の周りをぐるぐると周回するように走り続けた。これにより、ミサイルも砲台もその場に固定されたかのように留まっている。
「今だ!」
 砲台が自分へ向き直したそのタイミングを見計らい、滑り込むように砲台の下へと潜り込んだ。当然その後をミサイルが追いかけようとするが・・・。
 Ka−Booom!!
 ミサイルは直線距離、つまり最短距離でZER0を追っていた。となれば、当然砲台の下をくぐり抜けようなどとはせず、砲台を無視するようにZER0を追いかけようとしたため・・・砲台に直撃した。
「よし、一斉射撃開始!」
「Roger!」

 ライフルに持ち替えたDOMINOと共に、BAZZは自爆した砲台に止めとばかり銃弾を浴びせ続けた。
 ミサイルと銃弾のダメージに耐えられなくなったのか、砲台は装甲がはげ落ちるかのようにバラバラと鉄くずを落としていった。
 Shwipp!
 しかしまだ砲台は機能していた。まるで怒り狂ったかのように、先ほどよりも多い弾数のミサイルをZER0に向けて発射した。
「しつこいね、どうにも」
 だが、結局は数が増えただけでやる事は変わらない。
 Ka−Booom!!
 二度目の自爆と共に、砲台はとうとう傾き、そのまま機能を停止した。
「ふぅ・・・こいつがバカで助かったぜ」
 単純な手に引っかかったとはいえ、ミサイルの攻撃力は凄まじい物があった。一歩間違えれば確実に大打撃を受けたであろう事を考えると、冷や汗の一つも吹き出てしまう。
「相変わらず、姑息な作戦は得意だな」
 その作戦に手を貸したBAZZが、知将に賛辞の言葉を贈る。
「けっ、こんな所で姑息も何もあったもんじゃねぇての」
 何をもって姑息と判断するかは別として、ZER0の作戦は見事全員の無事を確保出来たのだ。状況を考えれば、全員の安全を第一に考えた作戦に文句はないだろう。
「隊長。もしかしてこの機体は・・・」
 機能停止した鉄の山を見上げながら、DOMINOは元軍人であるBAZZに意見を求めた。
「うむ。こいつはギャランゾだな。自立プログラムは組み込まれていない機体だったはずだが、他は全て従来のギャランゾと大差ない」
 人型や飛行型は元々が戦闘用ではなかった。そのため戦闘用に大幅な改造が行われていたが、BAZZがギャランゾと識別したこの砲台は、元々が戦闘用であったためたいして改造はされていなかったようだ。
「こいつは軍事用戦闘砲台でな、WORKSにも配備されていた兵器だ」
 軍事兵器に詳しくない三人に軽く説明をしながら、BAZZは鉄くずのスキャンを終えた。
「他にバランゾという高位機種も存在するが・・・おそらくそれも持ち込まれているだろう」
 さらなる強敵の存在を危惧しながらも、対処方法が確立した事で皆あまり心配はしていなかった。それよりも・・・。
「あの忍者ロボットもそうですが・・・これほどまでの兵器をパイオニア1に搭載する必要があったのでしょうか?」
 参謀が提示した疑問の方が、よほど問題だった。
「ようするに・・・」
 その疑問の答えをリーダーが推測するが、それはあまり喜ばしい解答ではなかった。
「パイオニア1が発掘しようとした物ってのに対抗する準備って事でしょ・・・」
 発掘しようとしていた物の正体。その片鱗をほんの少し想像出来る手がかりではあるが、あまり想像したくはないかもしれない。これからその発掘物を確認しに行くハンター達にとっては。

「これで三つ目。複数で何かの意味を成すのかなぁ」
 リコのメッセージと共に発見した「それ」は、メッセージが伝える通り、ハンター達も三度目の目撃となった。
「文字の解読って進んでる?」
 それ、すなわち森や洞窟にあったのと同じ柱のようなモニュメントを隅々まで記録映像として撮影しているBAZZに、柱に刻まれた文字の解読状況を尋ねた。
「総督府の学者に任せているが・・・リコ同様、サンプルが少なすぎると嘆かれたよ」
 BAZZが依頼したのだから、信頼は出来る学者なのだろう。しかしそんな学者の専門知識をもってしても、そうそうに解読は進まないのが現状なのだ。
「『光・・・影・・・対あり・・・存在・・・無限・・・律・・・印・・・』いくつかの単語の意味は絞れても、文脈がつかめるまでは至らない。くやしーっ!」
 しかしリコは、自ら貧弱と評したツールだけで、ここまで解読出来たのだ。サンプルが増えた事もあるだろうが、リコの才能には一同が舌を巻いた。
「リコでここまでいけたんだ・・・この映像でそれなりに解読して貰わなくてはな」
 記録映像を取り終えたBAZZは、この場にいない学者に期待とプレッシャーをかける。
「さて・・・そろそろメインディッシュへと行こうか?」
 柱のあった部屋のドアを開け、そこから見える、やはり三度目となる大きな転送装置を見つめながら他の面子をテーブルへと誘った。
「そうね・・・今度はどんなご馳走が待っているのやら・・・」
 ナイフとフォークを持参して、五人はレストランの入り口へと向かった。

 Deep!Eep!Eep!
 正面玄関から来店した五人の侵入者は、警告音で歓迎された。
「制御室か? ここは・・・」
 四方に巨大モニターを設置した大きめの部屋。普通ならば、何らかの観察と制御を行う部屋に見えるが・・・。
「拷問部屋って感じだぜ・・・」
 出口のない密閉された部屋は、まさにZER0の言う部屋の方が雰囲気は近い。
「ESさん、後ろ!」
 Mの叫びに反応し振り返ると、そこには巨大モニターに細長い奇妙な物体・・・見方によっては瞳を縦にしたそんなイメージのある・・・そんな物体がまるでギロリとハンター達を凝視するように映し出されていた。
「・・・何?」
 その映像が映し出された真意が掴めぬまま呆然としていたが、やがて瞳はモニターの中を移動し始めた。
「何なんだ?」
 ES同様、皆何が起こっているのか把握しきれていない。それをあざ笑うかのように、突然モニターの瞳は姿を消し、変わりに部屋の中に数本の人ほどの長さを持った柱が現れた。
 突然の事だが、これが何らかの攻撃意志だと直感したハンター達は、身構え出方を伺った。
 それは半分正しい行動と言えたが、半分は誤った判断だと言えた。
 Zzzzam!
「くっ!」
 確かに攻撃への前兆だった。しかし物理的攻撃ならば対処出来たであろうが、テクニックのような雷にはすぐ対処出来なかった。避ける間もなく、ESは天井の避雷針を経由して放たれた雷の直撃を食らった。そしてその直後、ESをあざ笑うかのように、再びモニターにはあの瞳が映し出された。
「あれはただの映像じゃないぞ! この部屋全体のメインだ!」
 スキャニングの結果、あの映し出された瞳に全ての指示系統が集中している事を突き止めたBAZZが叫ぶ。
「そういうこと・・・Mはラゾンデ、DOMINOは天井の避雷針。他はあの目玉が写ったモニターを攻撃!」
 自ら受けた雷の予防策も怠ることなく、的確な指示を出す。敵の正体が掴めれば対処は速い。各々は己の役割に奮闘した。
RAZONDE!」
 部屋全体を稲妻が走り、瞳の写ったモニターとその下にある小さなモニターへショックを与えた。
「おりゃ!」
 実刀が実体が定かでないモニターの奥にある瞳へと斬りつける。実体は定かではなかったが、モニターの瞳には確実に効いているようだ。攻撃の度に、部屋全体が呻くように揺れている。
「赤く光った柱だけを狙え! それがあの目玉に直結している!」
 耐えきれなくなったかのように消え失せた瞳。その変わりにまた唐突に生えてきた柱。その柱を素早くスキャンし直し、BAZZが弱点を分析した。
「せいっ!」
 赤い柱のすぐ脇にいたESが、先ほどのお返しとばかりに切り刻み、柱を一本へし折る事に成功した。
 そしてまた、モニターには瞳が映し出される。
 結局メインディッシュも、ここまでの前菜やデザートと同じように、単純なパターンを繰り返すだけの機械に過ぎなかった。
 そう思っていた。
 何度も同じ攻撃を繰り返していた後、とうとう陥落したのか、モニターが全て砕け散り、部屋全体が大きく揺れだした。
「よっしゃ!」
 勝利を確信し雄叫びをあげるZER0。だがそれをBAZZが否定した。
「いや、まだ終わってないぞ・・・上だ!」
 見上げると、いつの間にか大きく開かれていた天井から、巨大な鋼鉄の塊が降臨してきた。
「もうお腹一杯なんだけどね・・・」
 愚痴りはしたが、ナイフとフォークを握りしめながら食事の続きが出来る姿勢を立て直す。
「BAZZは弱点を捜して。他は手当たり次第に攻撃!」
 ただ呆然としていてはやられるだけ。ならば少しでも攻撃をした方がまし。先ほどの失敗を考えESが指示を出す。
「弱点も何もないな。強いて言うなら、弱点の塊だこいつは」
 つまりは、何処を攻撃しても有効ということ。
「ありがてぇ。こんだけでかけりゃ切り甲斐があるってもんだ」
 もちろん、敵もただ黙って切られるはずはない。突然身体を反転させ、ZER0に身体の一部を開いてみせた。
「やべっ!」
 そこには、無数のミサイルが詰まっていた。身の危険を感じたZER0ではあったが、大きすぎる的に無策で飛び込んだ為にとっさの回避行動がとれない。
「ZER0!」
 まさに無数のミサイルが放たれ、ZER0に着弾しそうになったその時、ESはZER0を抱えるようにして飛びつき退けた。
「意外だな、お前にもこんな趣味があるとは・・・助かったぜ」
「ベッドの上で続きがしたかったら、もっといい男になりな」

 ZER0額を軽く小突き、すぐさま起きあがった二人。その時自分達に赤いレーザーポインタで照準を合わせられている事に気が付いた。
「これはまさか・・・皆さん、ひたすら走って逃げて!」
 DOMINOには経験があった。この赤い糸に。DOMINOの指示で走り逃れ始めたハンター達は、DOMINOの指示が的確だった事をすぐに思い知った。
 Bap!Bap!Bap!
 自分達の後ろを巨大な柱が、まるで臼の中の餅を叩き潰す杵のようにドカドカと降りてきた。
「やっぱり・・・良かったぁ」
 自分の判断が正しかった事と、初めて自分がメンバーに指示を出した事の安堵と緊張感が、DOMINOに隙を生ませた。
「きゃっ!」
 鉄の塊から放たれた光る玉に気が付かなかった。迫ってきた光の玉に触れられたと思った瞬間、突然地面よりDOMINOを囲うよう岩が生えて来たのだ。
「ちょっ!何これ!」
 閉じこめられたDOMINOは身動きがとれない。それを見計らったように、巨大な鉄の塊は正面・・・と思われる突起した部分をDOMINOに向けた。その突起物の周囲で光っていたライトが、まるでカウントダウンをするかのように青から赤へと順々に色を変えていく。
「まずい!」
 異常に気付いたメンバーがDOMINOを囲っている岩を懸命に砕く。
 カウントダウンが迫る。
 少しずつだが、岩は削れている。
 しかし、ライトはほとんどが赤へと染まっている。
 捕らわれた小鳥は何も出来ぬまま、ただ皆の懸命な姿を見守るのみ。
 そしてとうとう、ライトは全てが赤へと染まった。
 と同時に、岩が砕けた。
「ちぃっ!」
 ZER0はすぐさまDOMINOに飛びつき、その場から引きはがした。
 真後ろで、突起から放たれた無数のレーザーが地面を焼いていた。
「今日はこんなんばっかだな・・・大丈夫か?」
「あっ・・・ありがとう・・・」

 助かった高揚感からか、それとも他の感情か? DOMINOは顔を赤らめながら礼を述べた。
「何時までも抱き合ってんじゃないの。とっととこいつを片づけるよ!」
 ESの叱咤にすぐさま飛び起きた二人だったが、DOMINOはその叱咤を聞きさらに顔を赤らめていた。
ZALURE・・・ダメですね、ザルアは効かないようです」
 早期決着を計るために敵の防御力を下げようと試みたが、それは失敗に終わった。他の攻撃テクニックは効くようだが、それよりは物理的な攻撃の方が有効。そう判断したMは、黒魔術師から死神へと転身した。
「はっ!」
 鎌の一振りは、広範囲に斬りつける事が可能。つまり的が大きい眼前の塊に対してはかなり有効的な攻撃となった。
「このっ!」
 DOMINOも愛用のランチャーに持ち替え、広範囲にダメージを与えていった。
 この二人の判断が功を奏したのか、あるいはやはり攻撃方法が順序こそランダムとはいえ単調な物の繰り返しだったためか、間もなくして鋼鉄の塊は本当にただの塊へと成り果てた。巨大な爆音と炎に包まれながら。
「今度こそ・・・やったな?」
「・・・大丈夫だ。もう何の反応もない」

 BAZZの確認がとれたところで、やっと全員が安堵の溜息をつく事が出来た。
 いや、たった一人だけまだ安堵出来ない者がいた。
「・・・・・・何ともない・・・か・・・」
 ESは自分の身に頭痛が襲ってこない事を確信し、やっと肩の力を抜く事が出来た。これまでの経験から、そろそろ頭痛に襲われるのではないかと身構えていたが、それが徒労に終わった事は少しばかり拍子抜けであった。しかし何もない事の方が遙かに良いに決まっている。何より、まだ先を探索出来るという事が彼女にとって何よりも喜ばしい事だった・・・のだが・・・。

「こういう邪魔は考えもしなかったわ・・・」
 目の前には、開く事のない扉が立ちふさがっていた。つまりこれは、これ以上の探索を中断せざるを得ないという現状を物語っているのだ。
「まぁ・・・収穫があったから良しとすべきかな」
 ESのいう収穫とは、目の前の扉そのものと、リコのメッセージ。
「やっぱりあったんだ、この惑星に先文明が。もうこれは確実。なんたってその遺跡が地下に埋まっていたんだから」
 リコが言うように目の前の扉とその周辺は、あからさまに異文明の物としか言い様のない、異形な形状と雰囲気を醸し出していた。
「そして政府は、極秘にこれを発掘,調査しようとしていたに違いない」
 リコも独自ながら、政府のやろうとしていた事に確信を持った様子だ。
「少なくとも我々がやってきたとき、この惑星上には知的生命はいなかった。ということは、先文明は何らかの理由により滅亡したということだ」
「先文明か・・・またややこしい要素が加わったなぁ」
 ZER0が愚痴るのも無理はない。そうでなくとも謎が多く、政府や軍のといった要素だけでも手一杯なのだから。
 確かに柱の謎に関してリコは、先文明の可能性を示唆していた。それはハンター達も判っている。だが、政府や軍,パイオニア1の謎ばかりが目立っていたため、先文明という要素が頭の片隅に追いやられていた。
「いったいこの惑星に何があったというのだろう」
 学者でもあるリコらしく、彼女は先文明の滅亡原因に興味が移っている。だが・・・。
「この惑星に何があるのか、の方が重要よね」
 ESが言うように、政府はこの惑星に何かがある事を確信してパイオニア計画を進めていたのだ。先文明が存在していた事が明らかになった以上、その先文明が何を残し、政府はその何を欲したのか、その方が重要だ。
「政府の研究機関も例の文字を解読しようとしていたようだ。ここに残っていた分析結果と、あたしの手持ちのデータを
合わせてみる」

 政府が文字を解読していた。それはつまり先文明の文字においてハンターズは政府に出遅れている事を示している。ESに多少焦りが生じたが、今更ジタバタしても変わらない。そのままメッセージに耳を傾け冷静さを取りもどした。
「『光・・・影・・・対あって無く・・・存在・・・無・・・無限・・・印を結ぶ・・・ムゥト ディッツ ポウム』・・・?・・・よく解らないけど、最後のは呪文か何か? 印を結ぶというのは・・・何かの封印だろうか」
 少しだけホッとした。政府も完全な解読は出来ていないようだ。リコの解析結果がどれほどの物だったかは判らないが、二つの解析結果を合わせてもこの程度しか判らないのだ。
 しかしホッとしてもいられない。それはつまり、ハンターズも何も判らないままという事に変わりはないからだ。
「この扉らしきものが開かないのは封印されているから? ムゥト ディッツ ポウムという呪文で? それとも、ムゥト ディッツ ポウムの三つの何かによって・・・? そういえば ヘンなモニュメントが三つあった。あれが封印のキー?」
 リコの推理は正しいだろう。そしておそらく、政府もそこまでは感づいたのだろう。だが、問題はこの封印を政府が解く事が出来たかどうかが問題だ。
「まだ封印されているという事は・・・謎は解けていない?」
 そう考えるのが自然だ。しかし・・・。
「ん? ならリコは何処に?」
 封印が解けていない以上、ここは行き止まりのはず。ならばリコはここを引き返しているはず。
「柱を再び調べに行かれたのは間違いないと思われますが・・・」
 その先の手がかりはない。道しるべは忽然とここで途絶えたのだ。
「そして封印の手がかりを得てこの先に進み、何らかの原因で再び封印された・・・考え方によっては、これが一番可能性のある答えかも知れません」
「根拠は?」

 リコの事だけに、意識せずESはすこしムキになって聞き返してしまった。そのことに自ら気が付き気が引けたが、Mはその事に気が付きながらも気付かぬそぶりで話を続けた。
「いまだに連絡が付かないからです。もしこのまま引き返し封印について調べられているのならば、パイオニア2の到着も、そしてハンターズや軍が降下しラグオルを調べている事もすぐに気が付かれるはずです。わざわざ私達から身を隠す必要が無い事を考えれば、この先に進み連絡が付かなくなった・・・と考えるのが自然かと」
 もちろん、引き返した所で何らかのトラブルに巻き込まれた可能性もあり得る。しかし彼女達にとっては、リコは生きている事が前提なのだ。
「この先に・・・」
 少しでもリコの温もりを感じ取ろうとするかのように、ESは扉に触れながらぽつりと呟いた。
「・・・・・・とりあえず戻ろうぜ。解読はBAZZの知り合いがすぐ解読してくれるだろうよ」
「そうだな・・・そう時間はかからないだろう。リコも天才らしいが、専門家ならリコに劣る事も無かろう」

 言われるまでもなく、今は戻るしかない事は判っていた。だが二人に言われる事で、留まりたい気持ちを振り払う事が出来た。
「・・・そうね。戻りましょうか、パイオニア2へ」
 後ろ髪引かれる思いはいまだあったが、ESはMが造り出したリューカーに足を向け。
「それじゃ戻り次第さっきの続きをしようぜ。ベッドの上で」
 肩の上に伸ばした手は、あっさりと振り払われる・・・と思っていたが。
「そうねぇ・・・たまには良いわよ?」
 あまりにも意外な返事に、ZER0の方が驚き固まってしまった。
「・・・くす。冗談よ」
 悪戯っぽい笑みを浮かべながら、ESはリューカーの光へととけ込んだ。
「・・・な、なんだよESの奴。照れやがって・・・お、そうだ。なんならDOMINOがあの続きを・・・」
 道化にされたためか、それとも照れ隠しか、ZER0は混乱し・・・軟派師らしからぬ失態をしでかした。ZER0の発言は女性に対してあまりにも失礼だろう。まるでESの変わりとして求められたような発言なのだから。
「バーカ」
 軽くあしらい、いそいそとリューカーへと足を踏み入れたDOMINO。だが・・・。
「これだからハンターは・・・」
 ZER0に見られたくなかったのだ。自分でも判るほどに赤面した自分の顔を。

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