novel

No.22 創られし者たち 前編

「洞窟奥の探索許可を認める。至急調査を再開して欲しい」
 唐突に総督から呼び出しを受けたESは、また唐突に指令を受けていた。
「・・・それだけ?」
 相変わらず必要な事以外口にしない総督に、呆れながらESが聞き返した。
 しかし、ESは総督の「立場」を理解している。彼が必要以上に話さない理由を。
 総督とESはR3「レッド・リング・リコ」を通じて個人的な付き合いがある。そのことは総督府にいる者なら、詳しくは知らずとも軽く耳にした事はあるだろう。故に、パイオニア2という難船を総括する立場の総督が、一ハンターでしかないESと「仕事上で」必要以上に親しくしては、余計な誤解を生み出しかねない。総督はそれを懸念しているのだ。
「詳しい事はアイリーンから聞いてくれ。アイリーン。ES女史を「会議室」までお連れして詳細を説明してくれたまえ」
「了解しました」

 アイリーンもまた、リコを通じてESと知り合った一人である。そして総督以上に親しい間柄であるため、彼女もここでは必要な事以外会話を交わさない。
 頭では理解しているが、その回りくどいやり方にESは反発していた。いや、単純に面倒なだけなのだろう。そのため彼女はそういう気を使わずに普段通りの口調で二人に接する事が多い。
 短い事務的対応に多少疲れながら、ESはアイリーンに案内された「自室」へと向かっていった。

「軍から唐突に許可が出たのよ」
 入れ立てのコーヒーを手渡しながら、アイリーンは今回の唐突な探査許可の経緯を話し始めた。
「・・・何を企んでると、総督府は睨んでるの?」
 コーヒーを軽く味わいながら、ESは本来口外してはならない総督府の内情を聞き出した。
 ここはアイリーンの自室。そして今二人はプライベートな時間を過ごしている事になっている。アイリーンが仕事上の「愚痴」を親友に漏らすのに、何ら問題はない。
 もちろん、愚痴であろうが総督府の内情を暴露する事は本来許されるはずもない。しかしESはハンターズとしてラグオルの調査をしているが、同時に総督の特命も極秘裏に受けている。つまりこの愚痴そのものも極秘裏な話ということなのだ。ならわざわざプライベートを装う必要はないのかもしれないが、そういう「演出」を総督もESも好むのだ。
「洞窟の奥でトラブルが発生し、軍だけでは対処出来なくなった・・・というのがありきたりだけど、おそらく一番可能性のある事情だと・・・」
「でしょうね・・・」

 アイリーンのベッドに腰掛けながら、予想通りの返答に溜息をつく。
「軍から他に何か通達はあった?」
 その返答には、首を横に振る事で答えとした。
 元々、ハンターズがラグオルの調査を行っているのは、総督府の独断による緊急指令があっての事だ。表向きは「セントラルドームの爆破原因を早急に解明し、パイオニア2の降下を速やかに行うための緊急処置」という事になっている。しかしこれは軍や政府にラグオルでのイニシアチブを取られたくない総督府の政治的理由も絡んでいる。
 それを黙ってみている母星政府ではない。彼らは「ハンターズを含めた一般人への危険を考慮し、調査範囲を制限する必要性がある」事を理由に、強引な調査範囲の制限を行っている。しかし彼らは人員面でも物資面も不足しているため、彼らのみでの調査には限界がある。また長期に制限を設けたままでは、一般市民の反発を買う。そこで時期を見て調査範囲を広げ、ハンターズと一般市民の反発を回避している。つまり今回の調査範囲拡大は、その軍による調査の限界と反発回避の時期が来たという事なのだ。
 だからといって、全てを開放するほど軍も政府も協力的になるはずはない。洞窟の奥に何があるのか? その情報をわざわざハンターズに知らせるなどするはずはない。もっと言うならば、彼らも表向き洞窟の奥まで調査はしていない事になっているのだから。
「レオに訊くか・・・まぁ、早くても情報は探索の後手に回るだろうけどね」
 BEEの端末を開きながら、本当の愚痴をこぼす。
「ごめんなさいね、毎回・・・総督府としても、出来る限りの協力はするから」
 アイリーンの沈んだ表情を和らげるように、ESは笑顔で答えた。それだけで、アイリーンの心は軽くなれる。この笑顔に、アイリーンは何度惹かれ、その度に親密になっていった事か。
「BAZZ? 探査再開よ。メンバーへの招集は私がかけるから、あなたは至急レオへ連絡を取って・・・」
 一度だけ口づけをしたマグカップをアイリーンに返し、ESはあわただしく「会議室」を後にした。

「了解した。「すぐに」レオと連絡を取り合流する」
 BEEの通信を切断し、正面に向かい声をかける。
「というわけだ。話を急ごうか、レオ」
「総督もES君も、相変わらず動きが早いな」

 腕組みをし壁にもたれかかりながらBAZZの様子をうかがっていたレオが、身を壁から離し歩み寄る。
「では続けよう。お前達の推測通り、どうやら洞窟は通過点に過ぎなかったようだ。その奥でパイオニア1が2つの「本題」を実行していたとの調査結果がもたらされたよ」
 テーブルに置かれていたティーカップを手に取り、口に運ぶ。一息ついたところで、カップを持ったまま話を続けた。
「1つは実験。もう1つは発掘だ。むろん・・・と言うと、俺の低能ぶりを露呈するようで恥ずかしいが・・・どちらもその詳細はハッキリしていない」
 低能かどうかはさておき、レオの情報は収集が困難な物ばかりであるため、簡単ではあるが軍と政府が企む内容の一端を知る事が出来るのはかなりの収穫といえるだろう。
「それは俺たちが調べるさ」
 通過点の先へ調査を再開するBAZZ達にしてみれば、調査対象がある程度絞り込められるのは円滑に事を調べられるだけでなく、心情的にもかなり負担を軽く出来る。そしてレオにしてみれば、自分が調べきれなかった詳細を知る事が出来る。互いに利益のある話なのだ。
「連中はこれからお前たちが調べるポイントを「坑道」と呼んでいた。だが、その坑道自体も重要なポイントとして機能していたらしい。「実験」は主にその坑道で行っていたようだ」
「つまり、「発掘」はその先というわけか。なるほど「坑道」か・・・」

 ふと、BAZZはある疑問を抱いた。それは今までも何度か浮上した疑問。
「どうやら、ラグオルを発見し移民先に決定したのは偶然ではないようだな」
 その疑問に、レオが答えた。
 パイオニア計画は、母星の資源枯渇と環境汚染の為住みにくくなった事から計画された大規模な移民。その移民先として無人探査機で「偶然」発見したのが惑星ラグオル・・・そう、政府からは説明がされていた。だが、無人探査機で発見したのが仮に偶然であったとしても、ラグオルに「何か」が有る事を確信して決定したのは明らかだ。
 発掘する為には、そこに「何か」が有る事を確信しなければ行えない。つまり発掘を重要な任務として洞窟という通過点を選び、坑道という道を造る事は、その「何か」が有る事を前提としなければ出来ない事なのだ。
「お前とリコのメッセージから指摘された「セントラルドーム12%分の物資」に関してはいまだ調査中だが・・・発掘のための物資だった事は間違いないだろう」
「だろうな・・・」

 レオの推測に戦友は同意した。
「発掘か・・・連中が掘り出そうとしていた物、しっかりとモニターに焼き付けてくる」
 早速とばかりに、BAZZはES達と合流するため部屋を出ようとした。
「待て、BAZZ」
 しかし、それを親友が止めた。
「・・・サコンの動きが妙だ。気を付けてくれ」
「・・・・・・了解した」

 WORKSの元戦友・・・いや、BAZZにしてみれば、彼を戦友だったなどとも思いたくもないだろう。そんな忌々しい名前をレオの口から聞く事になるのは、BAZZにしてみれば予測できたこと。だが、判っていても不快に感じてしまうものなのだ。自分が軍から・・・WORKSから去る原因を生み出した男・・・その名を聞いて不快に思わない事はやはり考えられない。
 警告をうけ部屋を後にしたBAZZを見送り、レオは疲れたようにソファーへと身を沈めた。
「軍,政府,総督府,ハンターズ・・・簡単に四等分出来る勢力図ならば、どれだけ楽だったか・・・」
 元軍人であり、現在は政府高官であるレオは、立場とは裏腹に軍と政府の企みを暴こうと奮起している人物だ。彼自身が彼の言う簡単な勢力図からはみ出たイレギュラーなのだが・・・。
 手にしていたティーカップの中身を飲み干すと、彼は動き出した様々な「勢力」を頭の中で相関図にまとめ整理していった。

「OK! すぐそっちに行く」
 自室にいたZER0はESからの連絡を受け、急いで身支度を整え始めた。
「ESさんから?」
 記事をまとめていたノルが、ノートパソコンからZER0へと視線を移しながら尋ねた。
「あぁ。やっと洞窟の奥へ行けるようになったらしい。軍が何かしでかす前に行ってくら」
 愛刀を手にしながら、ハンタースーツの各装備をチェックする。
「あの、私達も同行しましょうか?」
「お〜それナイスアイデア! 面白そうだし」

 ベッドに腰掛けていた双子の提案に、ZER0は首を振り拒否した。
「何があるかわからねぇから、二人はとりあえず待機しててくれ。なんかあったら連絡すっから」
 手持ちのアイテムに不足がない事を確認し、自室を飛び出す・・・前に、振り返り、三人の女性に向かって言い放つ。
「どうでもいいけど、勝手に合い鍵作ってここを集会場にすんじゃねぇよお前ら! 特にノル! おめぇ何時の間に合い鍵なんか作りやがった? しかも複製して二人に渡しやがって・・・」
「それは後でいいから、早くESさんの所に合流しといで!」

 至急の用事を盾に、ZER0をせかし自分への追及を防いだノル。これで彼女には言い訳を考える時間が出来たわけだ。

 洞窟の奥では、洞窟最深部にも使われた「12%の物資」の残りが使われていた。
「坑道って言われていた割には・・・かなり立派な施設に仕上がってるわね」
 そこは既に「道」という簡単な通過路ではなかった。研究室が連なり、それが「道」となった巨大な研究施設。
「これが・・・これがパイオニア1の残りの12%・・・? 何のためにこんな地下まで穴を掘ったんだろ。しかも、市民に隠して・・・」
 リコもメッセージを通じて、驚きを隠せない様子を伝えていた。
「研究対象が何だったのか気になるわね。BAZZ、お願い」
 ESの命令を無言でうなずき了解すると、BAZZはデータを引き出すため端末へ近づこうとした。が・・・。
「ゆっくり調べるのは後にしろと言うわけか」
 何者かが、何匹・・・いや、何「体」か近づいてきた。
「アンドロイド? いや、こいつらは・・・」
 確かに、見た目はアンドロイドのように人間と同じく二本の足で歩き、二本の腕をぶら下げていた。
 だが、明らかに形状はある特定の目的のためだけに限定し形成されていた。
「新型の軍事用か?・・・攻撃の意志ありありだな」
 両手に銃を構え、戦闘態勢を整えながら敵の分析を行う。
「飛び道具は?」
「あるな。右手にレーザー砲だ」
「了解。ZER0、一気に間合いを詰めて速攻で行くわよ。残りはフォローに」
「任せとけ!」

 各々が各々の得物を手に、新たな敵を眼前に迎えていた。
「Attack!」
 頃合をはかり、リーダーが合図する。と同時に素早く間合いを詰め、一体を斬りつける。
 Thud!
 戦闘用にしてはやけにあっさりと攻撃を食らい、そしてそのままドミノのように倒れる。あまりの手応えのなさにESの方があっけにとられたが、やはりこれで終わる事はなかった。
「そういうこと・・・」
 人型はすぐむくりと起きあがり、そのままガシャガシャと音を立てながらESに向かってきた。
「やっかいな連中だなおい・・・」
 回避行動も取らずに、ただ攻撃のみのプログラムだけで動くロボット。単純な命令だけで動くだけならば、対処はしやすそうに思える。だがこれが集団でこられるとなるとやっかいだ。一体に対して連続でダメージを与える前に倒れ、その間に他のロボットが攻撃するため間を詰める。一体一体に大きなダメージが与えられないため、数がなかなか減らない。間合いを詰め一気に片を付けるつもりが、かえって危険を招いてしまったのだ。
 かといってすぐに離れるわけにも行かない。相手は接近戦だけでなく、レーザーという銃を持っているのだ。離れれば間違いなく狙い撃ちをされるだろう。
 Bang!
 それをフォローするのがレンジャーであるBAZZとDOMINOの役割。ES達が接近しているおかげで、敵のレーザーを気にせず遠方から射撃が出来る。そして一体一体を確実に転ばせる事で、ES達に群がるのを防ぐ。
 当初の予定とは大幅に狂ったが、それを状況によって組み立て直す事が出来たのは、ESとBAZZの的確な判断とチームワークの良さが功を奏したと言える。
「おりゃっ!」
 こうなれば、むしろ相手が転倒するのは好都合となる。起きあがる前に集中して攻撃しても、他の人型はレンジャーによって足止めされているためなんの心配もなく行える。
 しかし、そんなロボット達の中にさらにやっかいな物も存在していた。
 Bap! Bap!
「ぐっ!」
 転倒するものと思いこみ、ZER0が軽い一撃を食らわせたロボットは転倒しないどころか、全く攻撃を意に介さないとばかりに右左とパンチを繰り出し、逆にZER0を転倒させた。
「気を付けろ! その脚無しは転ばねぇどころか攻撃を止めもしねぇぞ!」
 脚無しの出現は、またES達のフォーメーションを大幅に狂わせた。
 確かに転ばないのは連続して攻撃を加えられるが、相手が攻撃の手をゆるめることなく襲いかかるとなれば、同士討ちは避けられない。むしろこちらが転倒する可能性がある分、不利といえる。
「脚なんてただの飾りとでも言いたいの?」
 さすがのESも、脚無しには苦戦した。一対一ならばまだしも、周りには量産型がエース機をフォローするかのように群がり、ESの行動範囲を狭めてくる。
 BrakkaBrakkaBrakka!!
 ヤスミノコフ9000Mが、脚無しに集中砲火を浴びせた。転ばないのはこの特殊機関銃にとっては好都合。
「そいつは俺に任せろ。DOMINOは他の雑魚を」
「Roger!」

 BAZZの攻撃を有効にするため、今度はESがフォローに回る。脚無しをBAZZ達に近づけないよう出来る限り近くで対処し、レーザーも撃たせない。もちろん、その間に他の量産機を撃墜していく。
「そこっ!」
 Swish!
 ダメージが蓄積していった脚無しも、さすがに耐えきれなくなったか、最後にはESの一太刀で撃沈した。
「ふぅ・・・アンドロイドならまだしも、感情のねぇ奴らはやっかいだな」
 痛みを感じず、恐れも知らない。確かに相手としてこれほどやっかいな物もないだろう。ただ攻撃のみ。シンプルだが徹底したこのプログラムは、今までのエネミーにはない強さがあった。
 だが、単純な行動はやはり単純であるが故の欠点がある。臨機応変な対応がない。もし思考回路があり、状況判断が出来る相手ならば・・・ES達の巧みなフォーメーションチェンジにも対応し、さらにやっかいになっていただろう。
「・・・・・・」
 ZER0の愚痴を無視するかのように、BAZZはスクラップとなった元ロボットの残骸を調べ始めた。思考回路の有無。自分とこのロボット達の差は結局はそこしかない。そう思うと、BAZZにも思う事があるのだろう。
「・・・こいつは・・・軍事用じゃないな。工業用のロボットだ」
 自ら判断を覆す結果を引き出し、BAZZ自身が驚愕した。
「工業用? ちょっとまってよ。工業用がなんでレーザーなんか装備してるわけ?」
 珍しく、ZER0ではなくESがBAZZの導き出した結果に疑問を口にした。リーダーの発言は、他のメンバーも同じ考えだったらしく、全員がBAZZの解説に耳を傾けた。
「改造させられた・・・と考えた方が無難だな。データを調べ照合した結果だが、こいつはパイオニア1に搭乗されていた工業用ロボットに酷似している。しかも・・・」
 そう言いながら、残骸から一つの破片を取り出し、全員にそれを示す。
「これを見ろ。脚無しの背中だったパーツだが・・・こいつに至っては医療用のロボットだったようだ」
 残骸には、くっきりと赤十字が刻まれていた。それはこの残骸が、元々は医療目的で作られていた事の証。
「おいおい・・・何だって医療用まで軍事用に改造したんだ?」
 ZER0の疑問はもっともだ。工業用ならまだしも、医療用はかなり重要な役割を果たす大事なロボット。それを軍事用に改造する理由とは?
「だいたい・・・」
 その疑問を考え始める前に、DOMINOがさらなる謎を提供した。
「軍事用に改造したのは誰なんでしょう?」
 ロボットに意志はない。自分から改造を施すなど出来るはずもない。かといって機械が突然変異をするなどと考えられない。誰かが手を加えなければあり得ない話なのだ。
「パイオニア1の人々が、森や洞窟にいたエネミーから自分達を守るため・・・でしたら、筋は通りますが・・・」
 Mは自分の推理を披露し
「だとすれば、森やセントラルドームにこのロボット達がいてもおかしくはありませんし、そもそも人々の護衛ならば私達を攻撃するのはおかしな話です」
それを自ら否定した。
「となると・・・この「坑道の」護衛?」
「そう考えるのが妥当だと思います」

 リーダーの推理に参謀が同意した。ただし、「何のための護衛」かという疑問も残ったが・・・もはやそこまで議論を展開しようなどとは、誰も思わなかった。ただ謎を深め、誰も答えられないのが明らかだったからだ。
「とりあえず、もう一人の意見を聞いてみようか」
 そう言いながら、ZER0は見つけたメッセージパックを全員の前に見せつけた後、再生した。
「どういうこと? 今度はメカが襲いかかってくる。 どれもなんか見覚えがあるのよね。知ってるメカが改造されてる・・・?・・・いったい誰に?いままでの変異生命体は、前に倒した甲殻生物のせいと言えるかもしれない。でも・・・改造メカに関しては、何物かの意志が働いていると考える他ない。パイオニア1の誰か? それとも・・・」
 先行者は後を追いかけるハンター達と同じ疑問を抱いていた。やはり、リコですらこの疑問に答えを見いだせないのだ。
「はぁ・・・いつもの事だけど・・・」
 溜息混じりに、ESは何度も口にしたセリフを、また漏らす。
「先に進むしか無い・・・ってわけね」

 ロボット、あるいはメカという物は、多種多様な用途で作られる。その為、専門分野に特化した造りになる事がほとんどである。それらは他の用途に使用するため改造し使う事ももちろん可能だが、それはベースが専門の物ではないために、特化した物と比べて能力が落ちるのが普通だ。
 先の工業用や医療用の改造ロボットもその例に漏れていない。あれほどの強さを持ちながら、それでもやはり戦闘用に作られたロボットにはかなわないのだと、ハンター達は痛感していた。
「速い!」
 現れた2体のロボットは、今までのロボットとは比べ者にならないほど速く、確認した時には驚くべき飛躍で間合いを詰められ、対処が遅れた。
 戦況を見て、的確な攻防を繰り返す。その動きはハンターに近い。しかもハンターより運動能力が高いため、相手の動きに翻弄されやすくなる。
「よもやこいつらと戦う事になるとはな!」
 パイオニア1には、軍の関係者が多数乗船していた。当然それに伴い、軍の設備も多数搭乗した。その内の1つが、目の前の戦闘用ロボット。かつては自分の部隊・・・WORKSにも配属された同型と戦う事になるなど、考えもしなかった事。
 ただ、同型というとそれは正確ではない。元戦友は改造されていたから。
「接近戦タイプの戦闘用だ! 両腕のブレードに気を付けろ!」
 変わり果てた戦友の行動パターンが同じならば対策は立てやすい。それを願いながら今の戦友達に声をかける。
「はっ、なってないね。ブレードってのはこう使うんだよ!」
 Swish! Swish!
 自分と同じ両刃使いを詰りながら、舞いのごとくしなやかにブレードを操る。力はあるが堅い動きであるロボのブレードとは明らかに異なり、そして総合的な威力も異なった。
「タイマンで負けはしねぇよ!」
 Shwakkk!
 確かに、戦闘用は工業用の改良型よりも遙かに能力は上回っていた。だが数に物を言わせた工業用とは異なり、今回は二体のみ。ZER0はその一方を愛刀で斬りつけた。たまらず敵は飛び退き、そして・・・
「おいおい・・・だからってそれりゃねぇだろ?!」
手を少しずらして組むような姿勢を取ったその時、左右に二体ずつ、計四体の同型機が出現した。
「バカな! レーダーにも写る分身だと?!」
 自分が知っていた改良前の戦友に、こんな機能は存在しなかった。だが改良された事で新たな機能が追加されるのは予測出来る。しかしロボットの機能を超越するような・・・まるで忍者のような分身にはさしものBAZZも驚きを隠せない。
 もし視覚的な幻影ならば、レーダーには反応しないはず。だがくっきりと、レーダーには同型機の影が五体映し出されていた。
 Swosh!
「っと!」
 群がる忍者の攻撃を何とかかわすZER0。一体一体の攻撃からは、ハッキリと空を切る音が聞こえる。つまりこれは幻影などではなく物理的な本物の攻撃である証。
「どうする・・・」
 激しい攻撃を避けるのが精一杯で、反撃の糸口をつかむ事もままならない。
 しかし敵は一人ではなくなったが、ZER0ももとより一人ではない。
RAZONDE!」
 やはり分身は分身だった。Mが援護のために放った稲妻が五体を直撃した際、一体を残し全てが消え失せたのだ。
「そこかっ!」
 Shwakkk!
 一刀両断。
 忍者は侍の太刀に倒れた。
「まったく・・・どうなってんだよ」
 専門家に意見を求めるが、アンドロイドは明確な答えが思いつかないでいた。
「わからん。物理的な攻撃まで行う分身など・・・聞いた事もない」
 視覚的幻影なら、科学的にあり得る話だ。だがまるで本当に増えたかのように行動し攻撃をする分身。しかもその攻撃には物理的な威力がきちんとあり、しかし物理的なダメージを受けると消え去る。科学的にはあり得ない話だ。
「・・・そうか、フォトンの分身か! ならばあり得る話だ」
 フォトンは光の粒子に似た物質であり、凝縮する事で物理的な形を形成する事が出来る。特殊でいて現在主流になりつつあるエネルギー物質である。
「フォトンならば物理的な攻撃も可能。そして外部からの衝撃で元のフォトンに戻り消滅してしまう事も説明が付く」
 確かにBAZZの推測は間違ってはいないだろう。しかし別の問題も浮上する。
「ですが・・・あれだけの大きさと数を一度に形成させるフォトン科学とは・・・しかもまるで意志を持ったように個々に行動するなんて・・・」
 フォトン科学は現在も謎が多く、様々な可能性を秘めている。それだけに、今回の忍者ロボの分身も不可能ではないと思われる。がしかし、そこまでの技術を一体誰が生み出したのか?
「神か天才の所行・・・今はそこまでにしましょう」
 リーダーが二人の論争をうち切った。もはや、現状では論争を続けても答えは見つからない。
 常にそうだ。ラグオルに降り立ってから、捜査を進めれば進めるだけ、謎は増える一方。時折謎の一端を解明出来るかと思いきや、そこからまた別の謎が生まれる。
 無限に続くかのような謎の連続。
「とりあえず、あれを潜って先へ進むわよ」
 思考するよりも、議論するよりも、歩を進める事の方が解決への近道になる事もある。この「道」がその近道となるのか、それは行ってみなければわからない。
 結局、ハンター達は先へ先へと進むしか、「道」は残されていないのだ。

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