novel

No.20 潜む敵〜夢幻のごとく2号〜

 ここのところ、考える事ばかり。
 そんな事を思いながら、また思考の迷宮へと意識を飛ばす。
 セントラルドームで起きた謎の爆破事故。行方不明となったパイオニア1の人々。そして母星政府と軍の怪しい動き。
 全ての謎は、個別の問題かもしれない。しかし互いが微妙に絡み合っているようにも見える。一つ一つですら理解しがたいところに、互いの繋がりが別の謎を呼び、けして解決の糸口にはならない。
 目を閉じ、瞑想するかのように考えたところで、答えは見つからない。
 ならば行動あるのみ。たしかにその通りだが、その行動すら制限されている。
 八方塞がり。まさに言葉通り思考も行動も塞がれてしまっているのだ。
 しかし八方がダメならば、八方の隙間をかいくぐれば良い。
 その隙間は何処にあるのか?
 結局、また思考の迷宮へと逆戻りしてしまう。
「頭痛いわ・・・」
 自分の言葉に、ふと別の「考え事」に気が回る。
 ラグオルで時折感じるあの頭痛は何なのか?
 洞窟の最深部で激しい頭痛に襲われ、探査を中断してしまったことが、軍の介入を許し、行動範囲を制限させられた原因でもある。それだけに、理由の判らない頭痛が、心身共に痛い。
「リコも感じていた・・・そしてZER0も? 一体なんなのよ・・・」
 最初は、自分とリコだけに感じる頭痛だと思っていた。故にメンバーには頭痛の事は黙っていた。原因がわからないのでは、ただ心配させるだけだと考えたからだ。しかしその頭痛が原因で迷惑をかけただけでなく、ZER0も同様の頭痛に襲われていたという。
 医者は精神疲労によるものだろうと診断した。
 確かにあの熱と湿気をくぐり抜け、巨大なムカデとの死闘した事で、精神的に疲れていたのは事実だ。しかしならば、ドラゴンとの戦闘前に感じた頭痛はどう説明する? そしてあの声・・・。
 ココヘオイデ
 あの声はどう説明する? 精神疲労による幻聴か? だから・・・だからリコの声だと感じたのか?
 たしかに、そう説明を付ければ納得できる部分も多い。
 しかし、それは違うと心が拒絶する。
「ZER0は・・・聞いたのかな」
 退院してから、ESもZER0も頭痛の事は口にしていない。迷惑をかけた後ろめたさもあったが、声の事を切り出すタイミングをことごとく逃していた事と、声の内容を口にするえも知れぬ恐怖を感じ、拒絶していた。
「・・・確かめた方がいいわね」
 非常に珍しい事だが、ESの方からZER0へ会いに行く。それだけせっぱ詰まっていたとも言える。
 PiPi
 しかし、BEEへの着信を知らせる音が、またもやタイミングを逃させた。

「発生ポイントは第二階層の奥。やはりどれほどの敵が待ちかまえているかは見当も付かないとのことだ」
 BAZZがレオから依頼された任務は、森で行ったエネミー一掃作戦と同じ内容だった。メンバーも森の時と同じ。違う事は
「レオに確認をとったが、この作戦の後で洞窟奥への探査範囲拡大は無いとの事だ。だが発生ポイント以外にも『敵は潜んでいる』以上、余力を残すくらいの余裕は持て・・・だそうな」
という、作戦的には楽な、しかし今後の展開という意味では至極残念な事。
「・・・軍の狙いが見えないわね」
 以前は、ハンターの実力を軍に見せつけるためにレオが仕組んだ思惑と、軍が少ない兵力で洞窟奥まで進軍するために、ハンターをおとりに使うという思惑で成り立った作戦だった。しかし事前に前回のような事はないと「わざわざ」言い含める真意が全く見えないのだ。
「確かに。しかしレオさんの事ですから、何か考えがおありなのでしょう。どちらにしても、悩んで立ち止まるよりは出来る事をしたほうが進展もございましょう」
 Mの言う事はもっともだ。八方の隙間になりえるならば、もがくだけもがくのも「策」と言える。
「そうね・・・」
 ただ、何となくESは引っかかっていた。レオの含みある言葉に。
 敵は潜んでいる。
 そこに、レオの「企み」が隠されていそうなのだが、憶測でしかない。
「ところでZER0は?」
 直前まで会いに行こうとしていた男が見あたらない。作戦前に軽く訪ねようとしたのだが・・・。
「アナを自分に押しつけ、慌ててラグオルに降りたとノルから連絡があった。おそらく緊急の事態が起きたと思うが、あいつの事だ。心配はないだろう」
 軟派ではあるが、責任力のある男であるZER0の事。面倒なだけでアナの監査を放棄したとは考えにくい。BAZZの言うとおり、緊急事態に直面したと考える方が自然だ。
 結局この作戦が無くとも、ESはタイミングを逃していたようだ。そんな自分に苦笑していた。
「OK。なら純メンバーだけで行きましょうか。DOMINO、今回は花だけでなく出来る限りのエネミーを足止めして。BAZZとMはいつも通りに」
 無数のエネミーが待ち受けている。その数は不明。どのような戦局になるか見通しが立たないのでは、緻密なミーティングは行えない。その為に指示は簡単なものだけになった。
 いや、元々ラグオルではどのような戦局になるかなど、常に見通せるものではない。むしろ初めて洞窟内部へと潜入した時に比べれば、どのようなエネミーがいて、どのような地形で戦うのかがはっきりしている分戦いやすい。
 臨機応変な対応を常に求められるハンターにとって、ミーティングよりは現場での判断が最も大切な事。それはハンターとしては新米であるDOMINOですら理解していた。
「Roger!」
 愛用のランチャーを既に準備していたDOMINOは、ESの指示を聞くまでもなかった。もちろんいかなる状況にも対応出来るよう、ハンドガンとライフルも忘れてはいない。最近では、BAZZがあれこれと指示を出す事も少なくなっていた。
 DOMINOが入隊した当初は、ESもMも彼女の実力を当てにはしていなかった。むしろBAZZが彼女の面倒を見る事で、戦力低下に繋がると予測していた。しかし結果は、全く逆になりつつある。DOMINOのサポートを当てにしない作戦を考えていたESも、今は彼女のサポートを考慮した作戦をとるようになっている。
 めざましい上達。レオが何故彼女を潜入スパイとして選んだのか。これがその答えの一つなのだろう。
 その千里眼を持つレオが、この作戦の裏で何を画策しているのか・・・。
 答えを求めるため、四人は敵地へと足を踏み入れる。

 いくらか戦い慣れているとはいえ、やはり「数の力」というものは絶大だ。
 次から次へと湧くようにあふれ出るエネミー。終わりの見えない戦闘と、消える事のない敵。その絶望的な現実と光景が気力を奪い、そしてさらに腕を鈍らせ、敵を減らせず増える一方となっていく。そういった悪循環。
 本来ならば、この悪循環が最大の敵だっただろう。
 だが、DOMINOの成長が事態をそうさせなかった。
「このっ!」
 Boooooom!!
 DOMINOのショット弾が拡散し、複数の敵を足止めする。以前はMがテクニックで行っていた事を、DOMINOが行っている。
 拡散する弾丸に頼るのではなく、一発一発を確実に当て、出来る限りの敵を釘付けにしていく。もちろんショットの自動照準が機能している事もあるのだが、その自動照準を効率よく働かせられるかは、レンジャーの腕にかかっている。
 確実に、敵の群衆中央へ銃口を向ける。
 言葉にすれば簡単だが、乱戦状態の、常にその中心が変わる状況でこれを確実にこなす事は非常に難しい。
 ただ口惜しいかな。彼女はまだ威力の高い銃を使いこなせない。そのため足止めは出来ても殺傷力には結びつかない。
 しかしチームとしてはこれだけで十分な戦力。
ZALURE!」
 DOMINOに変わり、Mが攻撃サポートではなく補助サポートへ回る。
 テクニックによって自軍を強化し、敵を弱体化させる。それにより力の差をさらに広げ、敵を葬る時間が縮小される。これはそのまま全員の疲労減退に繋がり、全ての効率が良くなっていく良循環を生んでいる。
 DOMINO一人で、これほどまで戦局が変わるのだ。
 サポートという地味な作業は成果が目立たない。しかしその効果は確実に成果を出している。例えその恩恵を受けている前線が気付かずとも。むろん前線の二人はそれに気付かぬほど未熟ではない。
 Booom!!
 氷塊の元が砕け、敵を固める。
 いくら腕を上げたとはいえ、どうしても発射後と次の発射前とに大きな「間」は出来る。それもショットのように射撃時の反動が大きければ尚更。敵の数が多いだけに、その隙をつき襲いかかる敵も出てくる。その隙をBAZZはトラップで埋めていく。
 彼は今前線に立つ主力だが、それでもレンジャーなのだ。常に状況を瞬時に判断し、サポートへと回る。むしろこれはDOMINOに対するサポート。当のDOMINOは自分の仕事に精一杯で、BAZZの的確なフォローに気が付いていない。BAZZに比べればDOMINOはまだまだ未熟なのだろう。
「はっ!」
 Swish! Swiiish!!
 そしてもう一人の主力、ESもまた、地道なフォローを行っていた。
 前線の役割はいくつもあるが、その一つは「後方に敵を逃がさない」事だろう。
 後方からのサポートは、敵がいない状態で初めて安心して行えるものだ。それは「敵を倒す」事と同時に「敵の注意を引きつける」必要がある。
 わざと敵の真ん前に踏み込み、軽やかなステップと共に攻撃を繰り出し、わずかに退く。
 その動きは猫よりもしなやかで、虎よりも力強く、豹よりも素早い。
 この芸術的な動きに、目を奪われぬ者などいるのだろうか?
 敵を魅了し、全てを引きつける。魅了された者の末路は、闇。
 GRRRROARRRR!!
 闇へ落ちていく断末魔。
 それは作戦の終了を告げる合図をも兼用していた。
「ふぅ・・・なんとか終わったわね」
 たしかにDOMINOのおかげで以前よりは楽になっていたが、それでも次々と湧き増える敵を処理し続けていく事は一苦労だ。
「思った以上に早かったな。敵は以前と同等ほどいたがな」
 それはつまり、いかにDOMINOの活躍がめざましかったという評価に繋がるのだが、あえてBAZZは彼女を褒めるのを避けた。
「・・・もっとゆとりを持って戦え。お前の援護は的確だったが、戦闘後にそれでは次への備えができんぞ」
 たしかにDOMINOはめざましい成果を上げた。だが、あまりにも神経を集中しすぎたためか、戦闘終了と同時に緊張の糸が切れ、まさに「糸の切れた操り人形」のように、その場に崩れるようにしてしゃがみ込んでしまった。
「申し訳ありません・・・隊長・・・・・・」
 なんとか返事はするが、声の力は見た目通りに力がない。
「まぁBAZZさんもそう厳しくならずとも。これで作戦も終了ですし、すぐにでも戻りましょうか」
 リューカーで帰り道を造りながら、BAZZをなだめる。
 それにBAZZも同意し、DOMINOも愛用のランチャーを杖代わりに立ち上がる。
 だが・・・。
「先に戻ってて。ちょっと「野暮用」が出来たみたい」
 ESはじっと、一方を見つめながら三人の帰宅を促した。見つめる先には、洞窟の岩肌しかない。
 何を見つめているのか。それは他の三人には判らない。だが、感じていた。疲れ果てたDOMINOですら、その「違和感」に身が凍る思いがした。
 この違和感。他に例えるならば・・・「殺気」。
「ESさん・・・」
 何かが迫っている。その正体は全く判らない。だが、ESに危険が迫っている事ははっきりと判る。
「心配しないで。これは私が片をつけなきゃならないの・・・熱いコーヒーを用意して待っててよ」
 優しい語りだが、有無を言わさない迫力があった。
「行こう・・・」
 ESの決意は固い。ならば、ESを困らせる事は避けるべきだろう。例え、ESの身に危険が迫っていたとしても。それは帰還を促したBAZZよりも、Mの方が良く理解していた。
「あなたの爪牙と私の愛にかけて、御武運を・・・」
 三人は、リューカーの光の中へととけ込んでいった。場には、ESとリューカーの光と、そして殺気だけが残る。
 死神と呼ばれた女性から祝福を受け、ESはじっと、もう一人の死神の到来を待った。

「探したぞ・・・我が新たな好敵手・・・」
 レオは言っていた。「敵は潜んでいる」と。
 作戦そのものが巨大な罠。
 確かにエネミーが出現し続けるポイントがある事は問題で、それを駆除する必要がある。
 軍は・・・いや、ブラックペーパーは、それをカモフラージュに利用する事で駆除ともう一つの「仕事」を片づけるつもりだったようだ。
「珍しく気が合うわね。私も探してたわよ、猟犬」
 見せつけるように、赤い爪を右腕にはめる。
「答えて貰いましょうか・・・このネイクローを持つ、もう一人のあいつの事」
 まるで見つめるだけで相手を石に変えてしまう怪物メデューサのように、決意と殺意を瞳に宿し、強迫と脅迫を視線に乗せる。
「笑止。それを訊いてどうしようと? 狩られるウサギが何をほざくか」
 既に鎌は両手に握られている。雑談に答えるつもりが無い事を、物語らせるように。
「俺は猟犬だ。狩ル事にシカ・・・闘うコトにシカ生きる意味を見出せなイ」
 アンドロイドにも心がある。興奮もする。だが、猟犬の様子は興奮というには異常だ。
 身体が震え、話す言葉は呂律が回っていない。所々、機械音に近い発音になっている。
「つまり、今貴様と戦うことで、オレは生きていられるのだ」
 じりじりと、間を詰める。もはや、ESの質問には答えないだろう。質問者にもその余裕がなくなりつつある。
「・・・ウレシイぞ・・・もうここには何もないと思っていたカラな・・・!」
 唐突に会話は終わりを告げた。横に振り切った鎌が、その会話ごと両断したためだ。
 既に臨戦態勢を整えていたESは、その一撃をすんなりとかわす事が出来た。
 そこまでは両者とも読んでいる。
 次の一手が重要なのだ。
ZONDE!」
 Krackoom!
 落雷がキリークの頭部を直撃する。うまくいけば感電を引き起こせるほど正確に落ちた。
 しかし猟犬は、それをまるで何事もなかったかのように、整然と勢いよくESに噛みついてきた。
 Slash!
 振り下ろされた鎌を紙一重でかわす。そしてそのまま腰を落とし、脚払いを仕掛けた。
 だが、読まれていた。
 軽く飛ぶことで脚払いをかわし、無防備になった背中目掛け鎌を振り上げる。
 Ka−Chinng!
「くっ!」
 身体をすぐにむき直し、どうにか盾で攻撃をかわす。六芒星の残像がギリギリの攻防を物語っている。
 Gasp!
 その残像を切り裂くように、勢いよく鎌が振り下ろされた。
 しかし、勢いが過ぎた。
 鎌が地面に突き刺さり、引き抜くのにほんの少し手間取った。
 ほんの少し。
 今の二人にとって、この刹那の時間が立場をすぐに変えてしまう。
「いやぁ!」
 Swish!
 体勢を立て直したESが、この隙を逃すはずがない。
 突き刺すように、振り下ろすように、赤い爪が猟犬を襲う。
 それを今度はキリークが、紙一重で避ける。
 Swish!
 しかしESは間髪入れずに次の攻撃へと移っていた。振り下ろした爪を、今度は横一線振り抜いた。
 振り抜いた。
 それはつまり、またしても爪は空を切るだけに止まっていた事を物語っている。
 その一瞬の隙に、今度は猟犬が鎌を横一線に振り抜いた。
 振り抜いた。
 そう、キリークもまた、鎌で空を切ったに過ぎない。
 空の裂け目の上。鎌の軌道を大きく飛び上がる事で大胆な回避を試みたES。その博打は成功した。
 そして飛び跳ねた勢いで身体を一回転させ、回転させた勢いで爪を振り下ろす。
「せいやぁっ!」
 Zah−Shooom!!
 回避と攻撃を一度にやられては、さしもの黒い猟犬も防ぎようがなかった。
「面白イ・・・オモシロイゾ!」
 かなりの深手を負わせたはずだ。だが、猟犬は歓喜の雄叫びをあげていた。さすがに、ESもこの光景に身震いする。
「こいつ・・・」
 得も知れぬ恐怖。初めて感じる憎悪に、キリークとは正反対に感情が減退していくのを感じる。
 その時。
「くっ・・・!」
 唐突に、三度目の不快感が彼女を襲った。
 「あの」頭痛だ。
「こんな・・・時に・・・」
 ここでまた、倒れるわけにはいかない。倒れれば、それは死を意味するからだ。
 しかし事態はESの危惧通りではなかった。
「ウ・・・ア・・・?・・・んだ・・・この感覚・・・ハ・・・」
 頭を押さえ苦しんでいるのは、ESだけではなかったのだ。
 どういうこと?
 それを考える余裕は、今のESにあるはずもない。
「頭・・・ガ・・・クアアッ・・・!」
 初めて聞く、猟犬の絶叫。
 それと同時に、ESの頭痛は消え去った。
 そしてキリークすら、消え去った。跡形もなく。
「・・・なんなのよ・・・・・・」
 白い靄と、寒気と震え。そして吐き気と脅えだけが、ESに残された。

「話を総合すると・・・この作戦の裏で、ブラックペーパーは「3つ」の作戦を同時に処理しようとしたわけだな」
 無事・・・とはとても言い難いが、帰還したESと、他のメンバー。そして軟派師と彼の「取り巻き」の女性三人がギルドのカフェに集合していた。
「ブラックペーパーって・・・そんな恐ろしい人達だったんですか・・・」
 改めて聞かされたブラックペーパーの正体に、ただ震える事でしか受け止められない女性が一人。さすがに彼女の姉ですら、事の大きさを理解し、不用意に妹をとんでもない危険に巻き込んでしまった事に泣きじゃくり反省していた。
「・・・連中がなんの取引をしようとしていたか・・・一応保安部がこの件を引き継ぎ、そのあたりを聞き出すって言ってたけど・・・どうかね」
 ブラックペーパーの一員であった二人を捕まえ保安部に引き渡したZER0が、脅える二人をなだめながら報告と憶測を語る。
「正直難しいだろう。保安部を信用していないわけではないが、政府と軍の裏組織が相手ではな・・・」
 ZER0の憶測を、BAZZがはっきりと公言した。その意見に、誰も異論を唱えようとはしない。
「表向きの作戦・・・エネミー駆除だけが、彼らの成功した作戦ということになるのですね」
 しかしそれは、彼らにとって隠れ蓑に過ぎない作戦。つまり彼らは、重要な残り二つの作戦を、見事ハンターズに邪魔された事になる。
「で・・・どうする?」
 今後について。
 その答えは見えているようで、実はまったく要領を得ていない。
 セントラルドームで起きた謎の爆破事故。行方不明となったパイオニア1の人々。そして母星政府と軍の怪しい動き。
 これらを調査する事がハンターズに科せられた試練。
 しかし行動範囲は限定され、謎はなんの答えも導かぬまま。
「これまで通り・・・お願いするわ」
 そうとしか言いようがない。
 さすがにESも、言葉に力が入らない。
 リーダーの覇気のなさは、そのまま全員に伝染するかのように、皆の気力を奪っていた。
 そんな中、普段から場の空気を読めない娘が、今回ばかりは状況を一変させる事に一役買った。
「アナがブラックペーパーをやっつける!」
 先ほどまで涙で顔をぐしゃぐしゃにしていたアナが、唐突に立ち上がり宣言した。
「ちょっ、アナ!なんて事を言うのよ!」
 姉の唐突さには慣れていたが、今回ばかりはさすがのクロエも驚きを隠せなかった。
「だって許せないじゃん! アナを騙して、クロエを虐めて! お兄ちゃん達を殺そうとするなんてさ!」
 その「お兄ちゃん」を襲ったアナが、怒りを隠さずにわめき散らす。
「・・・危険なのは、もう変わりないしね。私も出来る範囲で協力する」
「さすがお姉ちゃん!」

 予想外にも、アナにジャーナリストが協力を申し出た。
「おいノル。いくら何でもお前まで・・・」
 ZER0が意見するのを片手のそぶりで押さえ、ノルは続けた。
「元々、これはダークサーティーンのみなさんだけの問題じゃないわ。それに私は、ジャーナリストとして放ってはおけないのよ。ノートパソコンがセイバーより強いところを見せてやるんだから!」
 にこりと、ZER0に、アナに、そしてESに、ノルは微笑みかけた。
「私達も、もうブラックペーパーと無関係ではいられませんから。アナの言う通りの「やっつける」までは出来ないにしても、お手伝いはさせていただきます」
 ノルの言葉に触発されたのか、とうとうクロエまで妥当ブラックペーパーを声高に宣言した。
「まったく・・・あなた達は・・・」
 苦笑。
 それは彼女達に向けてなのか、それとも自分の弱気に対してなのか。ただ、彼女がこれで吹っ切れたのは間違いない。
「いい? 絶対に無茶はしない事。これだけは全員守る事。いいわね?」
 闇は近づく者を巻き込んで大きくなっている。それは消して絶望ではなく希望なのだ。それを取り込まれたものたちが語ってくれた。
 闇は内に秘めた光に救われている。
 その闇の中核であるESは、その事を改めて認識させられた。
 八方の隙間は、とても身近に存在しているものだ。

 しかしその一方で、闇は「謎」というまた別の闇も取り込んでいた。
 消えたキリークの行方。
 キリークが知っていたであろう、もう一人のネイクローの所有者。
 そしてキリークも感じた、あの頭痛。
 果たして、闇はこのさき何を取り込み、内に何を秘めていくのだろうか?
 その舵取りは、もはやESの手には有り余っていた。

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