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No.2 開拓された未開の地(後編)

「大変・・・!」
 メッセージパックの中のリコは、ひどく狼狽していた。
 唇は震え、顔は青ざめ・・・まるで、ほんの数秒間だけでみるみるとやせ衰えていくようにも見える。
 それでも、目だけはしっかりとメッセージパックからこちらを凛と見つめていた。
 今起きた惨劇をきちんと伝えるために。
「大きい地鳴りと共に 地下から何かが 吹き上がってきて、セントラルドームで大爆発が・・・。いったい何があったの? パイオニア1とは連絡がつかない。ドームのみんなは・・・!?」
 セントラルドームの大爆発。
 その信じられない現実を目の当たりにした、直後のメッセージのようだ。
 この悲惨なメッセージを、ESは安堵しながら聞いていた。
 少なくとも、これでリコが爆破に巻き込まれていないことが判明したのだから・・・。
「メッセージによりますと・・・ドームの爆破は『地下から吹き上がった何か』が原因のようですが・・・」
 原因の解明に一歩近づく有力情報。のはずである。
 だが、Mの言葉を聞きながらも、全員が沈黙を保ち続けていた。
 地下から吹き上がった物。軍の怪しい行動。原生生物の凶暴化。
 全てが点として存在し強く主張する。だが、その点同士が線で結ばれる糸口は全く見あたらない。
「だぁ〜〜っ! なんなんだよまったくよぉっ!」
 沈黙に耐えられなくなったZER0が、全てのわだかまりを口からはき出すように、突然叫びだした。
「地下からなんか吹き出したぁ?なんなんだよ今度は・・・あぁもぉ、わっかんねぇ事が多すぎるぜっ!」
 大人げなく、理解できない事柄にただわめくことでストレスを発散している。原因究明の任を受けた探求者の行動とはとても思えない。
 だが、ZER0の行為は全員の心境を描写した行動といえた。図らずも、ZER0はチームの「ストレス」の代弁者になっている。
「やかましいZER0っ! ちょっとは落ち着けっ!」
 BAZZが怒鳴りつける。ZER0一人を「大人げない者」として祭り上げることによって、他のメンバーが落ち着きを取り戻すことができる。ZER0のヒートアップがチームのクールダウンにつながるのだ。
「ともかく、前に進むしかないね・・・まったく、さっきから同じ事しか言ってないような気もするけど」
 肩をすくめ、苦笑するリーダー。
 疑問は募る一方だったが、リコが爆破に巻き込まれていないという事実だけははっきりした。それだけでもESにとっては救いだったろう。
 だがこれが・・・今現在もリコが無事であるかどうか、という保証にはなっていない。

 アナグマ,狼,猛牛。母星でも比較的凶暴な原生生物の亜種が、次々と4人を襲う。加えて、信じられないほど巨大になった昆虫型生物や2足歩行する巨大亀などまでが存在する。これらの珍獣を目の当たりにできるのはなかなかに面白いことだ。これが観光ならば。
「M、ジュルンとザルアを!ZER0はMの援護をっ!」
「OK! お姫様は俺の後ろに回りなっ!」
「トラップで足止めする。二人はその間に形成を立て直してくれ」
「お願いいたしますわ、二人とも」

 リーダーが的確な指示を送り、メンバーが的確に行動に移す。
 敵は統率のとれた陣形で、ハンター達を取り囲む。だが、それ以上のチームワークで包囲網を突破し、撃破していくダークサーティーン。
「まったく・・・新参者への歓迎がお好きなようね。ここの先住民達は」
 最後の一匹にとどめの一太刀を浴びせ、愚痴る。
 人工的に区切られたゲートを潜る度に、新たな歓迎団に手荒くじゃれられているのだ。凄腕と賞されるESとて、やはり疲労はたまり心労も増す。むろん、それはES一人に限ったことではない。
「いかが致しましょう・・・一度パイオニア2へ帰還して、体勢の立て直しを行っては?」
「そうね・・・どうやら一気に片づく任務でもなさそうだし。一呼吸おこうか」

 Mの提案に、素直に賛同したES。本当ならば、リコの身を案じている彼女としては、無理をしてでも先に進みたいところだ。だが、自分の身勝手な行動に仲間を巻き込むわけにも行かない。リーダーとしての責任感が、冷静さを取り戻し適切な判断を行わせている。
「M、リューカーをお願い。残りの物は戦利品の回収を」
 自然界に生きているはずの原生動物たちは、なぜかメセタや各種アイテム類を所持していた。
 おそらくはパイオニア1の住民達が所持していた物を、彼らが何らかの理由で持ち歩いていたのだろうが・・・それが彼らの野性的習慣から来るものなのかどうかの判断はできない。ただ・・・
「・・・まるでゲームの景品よね」
 過酷な戦闘を切り抜けた勝利者への褒美。そんなニュアンスが含まれているよう。
「ん? なんだこりゃ」
 そんなゲームの景品を回収していたZER0が、一振りの刀を手につぶやいた。
「いかが致しました?」
 発見物に興味を持ったMが声をかける。もっとも、刀そのものに興味があると言うよりは、何かの手がかりになるやもしれないという期待の方が大きかったが。
「いや・・・実刀なんて珍しいからさ」
 ハンターの武器は、いや、もはや日用品に至るまで、現在は「フォトン」と呼ばれる光のようなエネルギー体が使われている。このフォトンに関しては解明されていない事柄が多く、研究者達にとっては最大級の関心を集める的となっている。だが、使い勝手の良さからか、フォトンの実用開発は瞬く間に進み、研究者以外の者は何の疑いもなくフォトンを利用している。
「まだあったんだなぁ・・・アギトの贋作。かなり錆び付いてるけど、こりゃ相当な値打ちモンだぜ」
 フォトンの特徴の1つに、錆びないというものがあり、これが実用的な理由の1つとなっている。
 光のような物質構造を持ちながら、あらゆる形に固定させることが出来、跡形もなく消すことができる。それがフォトン。故に発生装置自体が故障しない限りは、切れ味が落ちることも、変形して使い物にならなくなる、ということもないのだ。
 そのため、フォトンを使用しない武器などは、急速に廃れていった。代わりに、骨董品としての価値が上がり、今は実戦で使用する者は少ない。
「アギトというと・・・あの有名な『四天の四刀』のうちの1つですか?」
 ZER0の持つ刀を見つめながら問いかける。
「あぁ・・・国を滅ぼし、所有者をも滅ぼすとも言われている、呪われた四刀。その内の一本がアギト・・・といっても、本物が実在するのかはもうわかんねぇけどな」
 アギトは四刀の中でももっとも人気のあった刀として有名で、贋作がもっとも作られた刀でもある。それ故か、もはや本物の所在を知るものはいないと言われている。残りの三刀については所有者がはっきりしているため、逆に贋作が全く存在していない。
「AUW1975年製ドウセツ作・・・か。これが本物かどうか見分ける鍵になるらしいけど・・・さすがに俺は鑑定士じゃねぇからな。まぁ十中八九贋作だろうよ」
 刀身に刻まれた文字を読みながら、好奇心を抑えきれない瞳を刀に注いでいた。まるで錆びの奥に眠る刀光に魅入られるように・・・。
「ZER0、鑑賞は後にしな。戻るよ」
 Mの出したリューカーの輪の中から、ESが声をかける。唯一の部外者であるはずの男は、その声に応じてあわてて輪の中へと駆け寄っていった。

 再びラグオルの地に降り立った4人は、若干の武装変更を行っていてた。
 ESは愛用のダガー「DARKNESS BLADE」に加え、飛び回る蚊型生物に対抗するためにハンドガンを所持。
 ZER0は先ほど拾ったアギトの贋作を、鑑定士に頼み錆を多少落させ、それを所持していた。贋作で錆び付いているとはいえ、そこは「四天の四刀」と呼ばれた刀にできうる限り近づけた良作。下手なフォトン製の武器よりも攻撃力があり実用性が高い。
 BAZZはショット,マシンガン,ライフルを所持し、あらゆる状況に対応できるように準備していた。
 そしてMは・・・
「『黒魔術師』から『死神』へ転身ね・・・あなたが味方で良かったわ」
 ソウルイーターを持った彼女の風貌は、まさに死神のそれであった。
「他の方に言われると少々棘がありますが・・・あなたに呼ばれるならば光栄なふたつ名となりましょう」
 明晰な頭脳を持ち、難解な事件を見事に解決してきた彼女は、ハンターズの中で依頼遂行率トップクラスの地位を保っていた。だが、解決した事件のほとんどに、何らかの「死」が絡むことが多いため、いつしか彼女は「死神」と呼ばれるようになっていた。
「死に魅入られるのは常にむこうよ。その鎌で魂を刈り取ってやんな」
 詰まらぬ噂のため、ハンターズの中でも孤立し始め、仕事依頼も激減した彼女に手を差し伸べたのがESだった。死神と陰口をたたかれるのが嫌なら、堂々と「死神」を名乗ってみな。そう言いながらソウルイーターを手渡して。
「ダークサーティーンの名と、この鎌にかけて」
 誇らしげに鎌を掲げる彼女は、死神と言う名の女神に見えた。

「このおっきな柱は、パイオニア1の入植を記念して建てられたものだと言われてる」
 リコのメッセージが説明するように、そこには大きな柱が立てられていた。
「確かに・・・民間向けの公布に、そのような記載があるな」
 即座にデータを検証したBAZZが答える。
「でも、到底そんな最近のものとは思えない。詳しくは調べる必要があるけど・・・」
 7年という歳月もそれ相応に年期が入っていると言える。だが、石柱に刻まれた年期は、7年がまるで刹那のようにすら感じられるほど。
「それにこの模様・・・文字だろうか? だとしたら、何が書いてあるのか・・・?」
 母星10カ国同名は、名の通り10の国で成り立った同名国家だ。そのため、各国の歴史を重んじており、言葉や文字も数種存在している。柱に刻まれた模様とも文字ともつかない奇妙なものは、10カ国で用いられているどの文字にも模様にも見受けられない物だ。
「芸術的意味合いにしても不自然ね。どちらにしても詳しく調べた方が良さそうだけど・・・BAZZ、記録映像はOK?」
 柱の隅々を眺めていた、いや、カメラアイを通して記録映像として録画していたBAZZは、OKだと返事をする。
「みろよ、あそこ。かなり近づいたな」
 一通り柱を調べ上げた一行が見上げた先には、セントラルドームが静かに・・・静かすぎるほどに4人を見下ろしていた。
「いかが致しましょうか? この柱の調査は後にいたしますか?」
 再び柱を見上げ、リーダーは決断を下す。
「どちらにせよ、この文字を解読するには時間が足りないわ。記録映像を押さえているのなら、解析は後にする。今はドームへ向かうわよ」
 目的の場所は見えている。だが、そこにたどり着く道は安易ではない。
「ほら、あんなにも歓迎されちゃてるもの。早く行かないと悪いでしょ?」
 ドームへと向かう手前では、大勢の「羽音」という歓声で出迎えるものたちがいた。

「M,ZER0。蚊トンボの本体を潰して!」
 指示を出しながら、ハンドガンを取り出す。
 BooooooM!
 BAZZの仕掛けたトラップが作動し、敵が凍り付く。
「今のうちに頼むぞ。小うるさいのはこっちで処理する」
 ショットガンから放たれる5つの弾丸が、各々敵へ向かっていく。
「でりゃっ!」
 Shwakkkk!
 フォトン武器とは違う独特のうなり声を上げ、アギトが蚊の巣を切り裂く。
「はっ!」
 Shwokkkk!
 続けて女神の鎌が標的を死へと旅立たせる。
「次から次へと・・・」
 モスマントを殲滅し終わったと思いきや、次はサベージウルフの一団が飛びかかってきた。
 Bmal! Bmal!!
 威嚇を意味を含め、ハンドガンをぶっ放す。
 怯み、警戒のためにゆっくりと散開する狼たち。その隙に再びダガーへと持ち替える。
RAZONDE!」
 Shloootchh!
 Mの回りを稲妻が走る。取り囲もうとしていた狼たちをショックダメージが襲う。
「せりゃっ!」
 間髪入れずに、ESとZER0が各個撃破していく。
「・・・サーチ確認。このエリアの敵は全滅した模様」
 報告を聞いて、ふぅとため息をつくメンバー。
「やっとドームまで来たなぁ・・・まったく、手間かけさせてくれるぜ」
 パイオニア2からラグオルへ設置したワープホールは、セントラルドームにほど近い場所で安定させることができた。
 だが、そのワープ先からドームまでの短い距離は、けして平坦ではなく、楽な道のりではなかった。
「・・・・・・」
 ZER0の愚痴に聞き飽きたのか、リーダーは黙ったまま頭を押さえていた。
 いや、それはZER0に呆れてとったオーバーリアクションではなかった。
「どうかなさいましたか?」
 様子のおかしい彼女を心配し、声をかける。
「いや・・・何でもない」
 しかし言葉とは裏腹に、ESは軽い頭痛を感じ、一抹の不安を抱いていた。
(リコのメッセージにあった現象と同じね・・・誰かに見られている・・・そんな感覚と頭痛か・・・なんなのよこれ・・・)
 ES達が見たメッセージにはこうあった。
「頭の中を すべて覗かれたような・・・そんな感覚・・・。すごい頭痛がする。立っていられないくらい」
 幸い・・・と言って良いかはわからないが、ESを襲う痛みは立っていられないほどではない。だが、症状が似ていることに不安を感じずにはいられない。
「あの爆発は・・・普通じゃない。単なる物理的爆発ではなかった・・・そんなことがあるのだろうか」
 メッセージパックの位置と内容から、爆破報告のすぐ後に録画されたメッセージだと思われる。つまり・・・リコの頭痛は爆破が原因とも受け取れるのだが・・・。
(じゃあ、私のこの痛みは何なの・・・)
 ラグオルに降り立ってから、わからない事だらけ。疑問は生まれても回答は何一つ出てはいない。
「BOSS、どうやら正面玄関は故障が激しすぎて開かないようだ。別の進入ルートを探すしかないようだが・・・」
 ドーム周辺を検査していたBAZZからの報告で、ESは思考を中断せざるを得なかった。
「そう・・・仕方ないわね。で、その別ルートの当ては?」
 気持ちを切り替え、リーダーとしての責務を果たそうと指示を出す。
「難しいな・・・ドーム内そのものの破損が激しすぎて、表から入るのは不可能に近い」
 言いながら、再度スキャンを試みるも、やはり首を横に振る事しかできなかった。
「なぁ、この馬鹿でっかいワープ装置はなんだ?」
 ドームからちょっと離れたところに、ZER0が指摘したワープ装置はあった。
「工業用か軍事用か・・・どちらにせよ、大型車両などを運ぶためのもののようですわね」
 通常のワープホールよりも大きく作られたこの装置は、たしかに大型車両1台分は軽く送れるだけの大きさをもっていた。
「このワープ先はわかるかい?」
「うむ・・・どうやら、地下に通じているようだ。役割としては、ワープと言うより巨大エレベーターに近いな」
 装置の端末を調べていたアンドロイドからの返答を元に、リーダーは思案を始めていた。
「つまり、この真下に通じてるって訳か・・・BAZZ、セントラルドームの設計図をリードして。地下室があったかどうかの確認だけでいい」
 言われるままに、ハンターズのデータバンクからセントラルドームの設計図をリードするBAZZ。
「地下室は・・・あるな。研究室と軍事施設に割り当てられていたようだ」
「OK。なら、間違いなくこのワープはセントラルドームの地下室へつながっているね。ま、どちらにしても行って確かめた方が早かったかもね」

 言いながら、ワープへと足を踏み入れる。
 それを見習い、他のメンバーも次々とワープへと歩み寄るが・・・
「ん?どうしたBAZZ」
 アンドロイドだけが、立ち止まったまま動こうとしなかった。
「あ、いや何でもない・・・」
 表情は変わらないものの、少しあわてたようにワープへ向かう。
(おかしい・・・設計図とスキャン結果にズレがある・・・約12%ほど・・・これは誤差範囲を超えているぞ? スキャンに失敗していたのか、それとも・・・)
 また1つ増えた疑問に思考を巡らせながら、装置スイッチに手をかけた。

 GRAAAAARRGGH!
 地下で待ち受けていたものは、誰もが予想し得なかった光景だった。
「なっ・・・・・・なんなんだよこいつは・・・・・・・・・」
 目の前には、おとぎ話かあるいは映画か・・・ともかく、空想の世界でしか見る事の無かった巨大生物が立ちはだかっていた。
 ドラゴン
 巨大な翼を羽ばたかせ、地響きを鳴らしながら舞い降りる姿は、空想の世界のそれと寸分違わぬ驚異と衝撃を4人に与えた。
「散開っ!奴の真っ正面に立つんじゃないよっ!」
 これは現実なのだ。いつまでも惚けて見とれている場合ではない。
 もし、このドラゴンが空想のドラゴンと同じならば・・・奴の吐く強烈なブレスに気をつける必要がある。どのような攻撃をしてくるか予測できない状況では、絵空事で描かれたドラゴンでも対策の参考にせざるを得ない。
「BAZZ!あのデカ物にショットで手当たり次第に打ち込みなっ! 同時に反応をチェック、弱点を探して!」
 言いながらもハンドガンを構え、乱射する。
「ちっ、でかすぎるぜ・・・これじゃ近づく事すらままならねぇな・・・」
 射撃武器を持参してこなかったZER0は、手持ちの刀で切り込む事しかできない。
 だが、不用意に近づけば踏みつぶされる可能性もある。無謀に斬りかかるのは勇気ではなく自殺行為だ。
GIBARTA!」
 距離を置き、Mが吹雪を巨体にたたき付ける。
「ZER0さんはいつでも切り込めるように待機してください。私は手が離せませんから、ご自身でシフタとデバンドを」
 リーダーに代わり参謀が指示を出す。
「OK。何とか隙をつくってくれよ・・・SHIFTA!」
 攻撃補助、続いて防御補助のテクニックをかける。
「よし! これでちったぁ効果があるだろ」
 愛刀アギトを構え直し、いつでも踏み込めるように身構える。踏まれず、しかしすぐに駆け込める微妙な位置で。
 その時、ひたすらES達を追い回していたドラゴンが不意に立ち止まった。首を軽く上げ、勢いよく息を吹き出した。それはおとぎ話のドラゴン同様、熱気を帯びたファイヤーブレスとなって襲いかかる。
「今だっ!」
 リーダーの指示通りに、真正面に立つ事をひたすら避け続けていた4人にとって、ブレスは思いの外驚異にはならなかった。むしろ、立ち止まった事によってできた隙は、ZER0にとって格好のチャンスとなる。
 Shwak Shwakk!
 攻撃が唯一届く足を集中的に攻撃する。
 これが功を奏したのか、ドラゴンは崩れるように巨体を倒した。
「ぐわっ!」
 その転倒に、ZER0が巻き込まれた。
RESTA!大丈夫ZER0っ!」
 いち早く気づいたESが回復を行う。
「なんとか・・・助かったぜES」
「弱点判明!頭だっ!」

 データの解析結果を伝えながら、倒れ込んだ頭に接近。同時にマシンガンに持ち替え集中砲火を浴びせていく。
 Braat Braat Braat!
 マシンガン特有のリズミカルな音と共に、幾多ものフォトン製弾丸がドラゴンの頭へと撃ち込まれていく。
 GHAAAACCCHHH!
 たまらず、首を上げ攻撃から逃れるようにもがく。と同時に、巨大な羽根を羽ばたかせ空中へと逃げていく。
「ちっ!」
 マシンガンは飛距離が短い。低空程度ならまだしも飛び立たれては届かない。武器を飛距離のあるライフルに持ち替え、弱点である頭へと再度打ち込もうとした・・・その時!
「避けろBAZZ!
 まさにその時、空中からBAZZめがけてブレスを吐きつけようとしていた。
「っと!」
 間一髪のところで、熱烈な吐息から身を逃れる事ができた。
「勘弁してくれよ・・・俺の装甲は特注品なんだぜ?」
 体制を整え、ライフルを構え直す。
「降りてきます!」
 吐き疲れたためか、ドラゴンは再び地上へと降り立った。そしてまた徒歩で4人を追いかけ回す。
「俺が注意を引きつける!その間に頭にたたき込んでやれ!」
 自らおとり役を買って出たZER0は、ドラゴンの目の前を横切り注意を引きつける。
「骨と刀くらいは拾ってやるから、今のうちに辞世の句の1つも叫んでな」
 すぐにブレスを吐くような事がないよう、ハンドガンでひたすらに攻撃を繰り返す。
 GRAAAAAAHHHH!
 何度目かの雄叫びを発し、再び舞い上がるドラゴン。
「ブレスが来るよ!」
 だが、予想と反した攻撃が彼女たちを襲った。
「何?!」
 ドラゴンはまるで矢のように体全体を真っ直ぐにのばし・・・直角に地面へとつっこんだ。
「・・・どこにいきやがった・・・・・・」
 大きな穴をあけ、ドラゴンはその姿を見せなくなった・・・。
「来るぞ!地面の中だ!!」
 BAZZがあわててスキャンした結果は、驚くべきものだった。
 巨大なドラゴンが地中を泳ぐように突き進んできのだ。これはさすがに空想のドラゴンでも思いつかない奇行であった。予測する方が難しいというもの。
 その奇行を成し遂げたドラゴンが、そのまま地中から地面を盛り上げ、地響きと共に襲いかかる。
「きゃっ!」
 逃げ遅れたMが突進に巻き込まれた。
RESTA!」
 ESがすぐさま回復に取りかかる。
「このままじゃ手も足もでやしないよ・・・」
 さすがに、地中に潜った相手を攻撃する手段は持ち合わせていない。
 しかし、ESの危惧はすぐに解決した。
 ドラゴンが轟音と共に再び姿を現したのだ。
「なるほど・・・地中では息ができませんものね」
 傷ついた体を起こしながら、それでも冷静な判断を口にする。
「また潜られる前に叩くよっ!」
 ハンドガン片手に、号令を発する。
「OK、BOSS!」
 速攻で倒すために、ギリギリまで接近してマシンガンを連射する。
GRANTS!」
GIBARTA!
 光と吹雪が交互にドラゴンを襲う。
 BmalBmal
 BraatBraatBraat!

 容赦ない弾丸の嵐が、ドラゴンの顔に何発もたたき込まれる。
 そして・・・
 GRAAAAAAAHHHHHH!!!
 断末魔と共に、とうとうドラゴンは横転し息絶えた。
「ふぅ・・・どうなってんだい、この星は・・・・・・」
 肩で息をしながら、ドラゴンスレイヤーの称号を得たリーダーがため息混じりに愚痴をこぼす。
「どうしましょうか・・・このままドーム内の探索へ移行しますか?」
「おいおい、冗談じゃないぜ・・・こっちはもうボロボロだぜ。この先あんなのが何匹もいたら、体がもたねぇよ!」

 ZER0の言う事はもっともだった。この先、何が待ち受けているのか全くわからない状況で、疲れた体を引きずっての探索は危険すぎる。
「総督への報告義務もあるしね・・・今日のところは引き上げるわよ」
 後に、ベッドの中でESはまた新しい疑問を生み出していた。
 パイオニア1は、あの広い空洞を何に利用していたのだろうか? ドラゴンの巣にしては、ドームに近すぎる。
 しかし、今はそれを考えている余裕がESにはなかった。
 総督への報告をすませた後は、泥のようにベッドの中へと沈み込む事しか、もはや気力も体力も残ってはいなかったのだから・・・。

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