novel

No.17 布石〜掃討作戦2号〜

「ブラックペーパーか・・・当然といえばそうだが・・・やっかいな連中を敵に回す事になったな」
「うんうん」

 ギルド内のカフェ。そこで作戦会議が行われていた。
 今まではESの自室で行われる事が多かったが、メンバーだけでなく協力者も交えての会議となったため、自室では狭すぎた。
「私だけなら良かったんだけどね・・・部外者から警告されるって事は、すでに動き始めていて、あちらさんもこちらをかなり把握している・・・って事か」
「ふむふむ」

 ESはブラックペーパーの刺客、「黒い猟犬」に襲われた。それはそのまま、ブラックペーパーに狙われた事を示していた。しかもZER0が持ち帰った情報によれば、狙われているのはESだけでなく、ESの周辺全員を巻き込んでいるようなのである。
「私共はダークサーティーンのメンバーとして、覚悟はしております。しかし・・・」
「おやおや?」

 ちらりと、Mは二人の女性に目を向けた。
「あぁ、私の事は気にしないでいいわ。ジャーナリストだって、常に危険と隣り合わせの商売だし。それにブラックペーパーがらみの記事・・・やってみたかったのよね。謎の組織に迫るハンター達。その結末やいかに! 良い記事になりそうじゃない」
「おー」

 ジャーナリストであるノルは、ノートパソコンで議事録をまとめながら答えた。彼女にしてみれば、身に危険が迫っている緊迫感ですら、好奇心に代えてしまうのだ。
「私の事も心配なさらないで。どのみち、ラグオルの動物達を調べていけば自ずと政府に・・・。でしたらES達と一緒にいた方が安全だわ」
「なるほどねぇ」

 ラグオルの動物達を独自に研究している学者、アリシアは、親友を見つめながら答えた。
「・・・悪いわね、二人とも」
「ホントホント」

 協力者を巻き込む可能性は、ESも考慮していた。しかしブラックペーパーは裏の組織だ。表で派手に動き回る事はないだろう。そういう意味では、ラグオルという「裏」へ降り立つ事が滅多にない二人は比較的安全だろう。
 それが判っていたからこそ、無用な心配はさせたくなかった。しかし刺客が動き出し警告まで受けたとなれば、やはり警戒はすべきだろう。
「・・・で、話は変わるけどな」
「なになに?」

 ZER0は自分の背中におぶさるようもたれかかる女性・・・いや少女に声をかけた。
「なんで、お前がここにいるんだよ!」
「えー!? だって、お兄ちゃんはアナの保護監査官だもん」

 保護監査を嫌がり、監査官から逃れたがるという話は良く聞く。しかし自ら監査官に寄り添うというのはそうそう聞く話ではない。
 ジロリと、ZER0は自分を監査官に推薦した女性を睨みつける。ESは悪かったわよと、視線で謝罪とも開き直りともとれる返事をした。その様子を、ノルは諦め半分溜息をつきながら見つめていた。
「とりあえず、ZER0はアナとクロエの件をまかせるわね。他のメンバーは各自調査と連絡をお願い」
 アナが足かせとなり、ZER0はラグオルに降り立てなくなってしまっている。クロエの調査が進むまでは、ZER0は戦力にならない。自分がまいた種とはいえ、これは正直痛い。普段はメンバーではないからと蔑ろにしていたが、何処かで戦力として頼っていただけに。
「ところでアリシア。洞窟にいたエネミーに関して何か判った?」
 専門家には、政府が隠し持っていたデータと自分達の体験談、そして記録映像を渡してある。
「資料が足りないわ・・・データ採取をしてきて貰えるとありがたいんだけど・・・出来る?」
「それなら・・・実はレオからまた依頼があってな。以前にもやった、軍のヒヨコたちの誘導を頼みたいという事らしい。この作戦ならデータ採取もついでにやれるだろう。どちらも時間厳守だしな」

 アリシアの持つデータ採取の機材はデータ保存が不安定なため、素早くデータを持ち帰り移し替えなければならない。一方レオの依頼も、エネミー達が再び出現する前に軍を所定の場所まで誘導する必要があるため、時間厳守となっている。たしかにBAZZが言うように、同時に成立させる事も可能で、遙かに効率がよいといえる。
「OK。ならデータ採取はBAZZにお願いするわ。今回ZER0は動けないから、メンバーだけで行くわよ。じゃ、早速行きましょうか」
 ESが席を立ち上がると、各自己のすべき事を行うため解散した。
「で、お兄ちゃん。どっか遊びに行かない?」
 訂正する必要があるならば、約一名ほど「すべき事」が無い者もいた。
「あのなぁ・・・俺は暇じゃないの。俺にだって仕事があるんだよ」
 もちろん、その仕事はアナの監査。したがって、一緒にいる分にはそれだけで仕事になるのだが・・・。
「えーっ! つまんないよぉ。ねぇどっか行こうよぉ!」
 駄々をこねるアナに手を焼く。よくクロエはこの姉の面倒を見られるなと、変な事で感心してしまいたくなる。
「ZER0。ちょっと情報収集も兼ねた取材があるから手伝ってよ」
 あまりにも手を焼いている姿を見かねたのか、ノルが助け船を出す。
「OKOK! なんでも手伝いましょ!」
「あ〜、ならアナも一緒に行くぅ!」

 普段なら面倒くさいと渋るZER0だが、アナの面倒をずっと見ているよりは遙かにましだと考えたのだろう。喜んでノルの提案に賛成した。
(どこでなにしてるのかって悩むより・・・目の前に置いといた方がまだましだわ)
 どうも、助け船は自分が乗船するためだったらしい。

 チーム構成としては、ハンター二人にレンジャーとフォースが一人ずつというのが理想である。攻撃の主力は多い方が有利ではあるが、かといってサポート役がいないのは問題だ。そういう意味においての理想である。
 しかし今回の作戦では、レンジャーが二人にハンターとフォースが一人ずつという変則的な構成になっていた。しかし彼女達にとって、この構成はさして問題にはならない。なぜならば、レンジャーの一人は未熟なハンターよりよほど主力になりえるからだ。
「今回はデータの収集も兼ねているからそのつもりで。BAZZはデータの採取と殲滅を優先して」
 機神と呼ばれるほどに圧倒的な攻撃力を有するBAZZは、唯一テクニックを使えない事を除けば全てを一人でこなしてしまう。彼一人で軍の一小隊と変わらぬ働きをするだろう。
「いや、トラップの事もある。その除去をまず先に行ってからでも良いだろう。それからでも十分データ採取と殲滅は行える」
 しかし彼は、サポートを優先する事が多い。まずは安全の確保から。高い攻撃力を活かす前に、彼はアンドロイドである利点をまず先に考える。もっとも、それはチーム内で自分が唯一のアンドロイドだからという事もあるのだが。それとも、レンジャーとしての役割を優先しているためか。
「OK、それで行きましょう。DOMINOはナノノドラゴ、リリーの順で足止め及び駆除をお願い」
「Roger!」

 もう一人のレンジャーは、完全にレンジャーとしてのサポート役へと回る。BAZZが主力となる以上は、彼女にサポート役が回ってくるのは当然といえる。
「ただ、必ずその通りにする必要はないわ。状況判断はあなたに任せるわよ」
 しかしサポート役に回すといっても、そこにはサポートとしての信頼があっての事。まだ未熟なところも多いが、ESはDOMINOの腕を認めている。
「Mは今回「黒魔術師」としてテクニック中心のサポートをお願い。ただし回復に関しては各自メイトを用いるように。時間勝負だから、攻撃をまず優先してね」
「了承いたしましたわ」

 アライヴアクゥーを握りしめ、指示にうなずく。
「作戦エリアは洞窟の第一階層のみだ。ただし前回のルートとは別ルートになるため、どのような仕掛けがあるかは不明。その事を考慮しておいてくれ」
 レオから直接依頼を受けたBAZZが、リーダーに変わり戦場の確認を行う。以前の掃討作戦とは違い、洞窟エリアは三層にも及ぶ広大な場所だ。それを短時間で最後まで先導しろと言うのは作戦に無理が出る。その為に第一階層のみの作戦となった・・・とはレオの説明だが、それは本音ではないだろう。単純に近づけたくないのだ。洞窟の最深部にはあまり。それが政府と軍の本音だ。
「それじゃ行くわよ」
 ESの言葉を聞き、Mは杖を前方へ倒すように構る。そしてそのまま次の指示を待つ。
 BEEシステムに付随している時計を見ながら、作戦開始時刻を秒刻みで追っていく。
「・・・Attack!」
SHIFTA!」
 合図と同時にMのシフタが全員に恩恵を与える。そして作戦は開始された。

 敵の殲滅自体は、4人にとってさして傷害にはならなかった。むしろ障害はタイムリミットであり、そのタイムへの傷害の方が困難であった。
「!・・・二手に分かれるわよ。BAZZとDOMINOは真っ直ぐ東へ」
 プレスを分岐点に、道が北と東に分かれていた。チームを二分するのは戦力の低下を招くが、どちらが正しいルートかが判らない以上、戦力低下を犠牲にしてでも二手に分かれた方が得策だろう。後で正しいルートと判明した方へ合流すれば良いのだから。その方が時間の浪費は避けられる。
 案の定、戦力低下はエネミー殲滅に対しては今まで以上に時間がかかる事となった。そういう意味では、チームを分けた事が時間浪費へと繋がっている。しかしESの判断は正しかった。
「やっかいな事を・・・二手に分かれて良かったわ」
 道はそれぞれ、再度一つに繋がっていた。しかしそれぞれの道はバリアで閉じられており、その解除スイッチはそれぞれ反対側に設置されている。つまり、片方を開けるには反対側へわざわざ出向かなくてはならなかったのだ。二手に分かれる事で、その手間を省く事が出来た。ここまでの戦闘によるタイムロスを差し引いても、二手に分かれた方が時間の節約になっていた。
 結果論だが、ESの判断は正しかったと言える。もちろんこの事態を見越しての判断ではなかったが、ルートの確認と確保を的確に行おうとした判断が功を奏したのだ。もちろん勘という物もあったであろうが、優秀なハンターほど勘は優れているものだ。理屈ではなく。
「これはまた・・・こういう時に限ってごちゃごちゃと」
 合流を果たして次の部屋へと駆けつけた一行は、今まで以上の「群れ」を目の当たりに溜息を漏らす。しかし休む暇はない。
RAZONDE!」
 Mの先制が稲妻となってほとばしる。敵もハンター達に気が付いてはいたが、突然の攻撃にはさすがに怯む。その隙を見逃さず、間合いを詰め次の攻撃へ。
「はっ!」
 巨大なカマキリが糸を吐き付けるよりも早く、巨大な腹へ深々と傷を付ける。
 GYAAAAH!
 奇声を上げ倒れるカマキリ。そして開かれた腹からは、そのカマキリを縮小したような幼虫らしきものが無数にあふれ出し、散り散りになって逃げていく。
「何度見ても気持ち悪いわね・・・これ」
 逃げていく幼虫が、いつしか成虫へと成長するかと思うと、また憂鬱になる。
「なんて、言ってる場合じゃないか」
 異形の化け物・・・強いて言えば丘を徘徊する鮫とでも言うべきか。奴らが鎌のような「ひれ」を振りかざし襲いかかる。
 Boom!
 しかし丘鮫はその動きを封じられた。
「GoodJob!」
 BAZZのフリーズトラップが発動したためだ。
「奥の連中は俺が片づける」
 言いながら、BAZZは愛用のマシンガンで的確に一体ずつ処理していく。
「了解。ここもすぐ終わるわ。二人はBAZZのフォローへ」
 振り返ることなく後方の二人に声をかけ、ESは氷塊からフカヒレを掘り起こす事に専念した。

 作戦は無事完了した。時間も多少余裕を持って。
「ご苦労様。データの解析は任せてね」
 そしてもう一つの仕事であったデータ回収も、アリシアにデータを渡す事で完了となった。すぐさまデータを安定させるために、彼女の持つ記録装置へと転送する。
「そうだES。このデータをもう一人渡したい人がいるんだけど・・・良いかしら?」
 唐突なアリシアの申し出に、一瞬戸惑う。その表情から、誰? という問いかけを読みとったのか、アリシアはこの問いに答えるよう言葉を続けた。
「研究所にいた頃お世話になった、モーム博士。彼も生物学を選考しているんですけど、どちらかといえば生体工学・・・つまり細胞レベルの研究が専門なの。たぶん今回のデータ解析は、私より彼の方が適任だと思うの」
 アリシアは生物学者とはいえ、どちらかといえば生態系などの自然に生息する動物達の方が専門だ。つまり森に巣くうネイティブ属性の動物達が専門で、洞窟に徘徊しているアルタード属性の化け物は彼女の専門外になる。
「彼の研究機関は総督府の管轄にあるわ。協力してもらっても問題ないはずよ」
「まぁ、あなたが言うならそうでしょうね。良いわ、協力をお願いして」

 総督府傘下ならば信用も出来る上に、ブラックペーパーの手も届きにくいだろう。なにより専門家ならば願ってもない事。アリシアの機転にESは感謝していた。
「これで一区切り付いたわね・・・さてと、次はどうするかな」
 ESの独り言を聞いてか、Mはすぐさま端末を開き、ギルドの依頼を検索しようとしていた。しかし、検索の必要はなかった。
「ESさん、ギルドからメールが届いています」
 そのメールは、ESへ名指しで依頼がある事を告げていた。

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