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No.15 洞見せし者(後編)

 敵の1つが、形を潜めた。
 ここに至るまでは、灼熱と湿気が行く手を阻み続けていた。しかし、さらに下へと続く転送装置をくくり抜けてきた先に、自然の驚異は全く感じられなかった。
 いや、自然が無いのだ。
「12%の物資をたっぷりと活用してるわねぇ・・・」
 これまでは天然の洞窟を利用し、設備は極最低限の物に止めてあった。しかしここでは、至る所に人の手が加えられていた。
「見てください・・・通路に空調設備が取り付けられています」
 見ると、通路脇天井近くには、白い煙を吹き出しながら左右1つずつ空調設備が稼働していた。この設備のためか、今までの環境による不快感は全く感じられず、むしろ快適に過ごせるほど良く空調させている。
「どうやらここは、天然の空洞をさらに掘り広げた場所のようだな。床や壁の設備は、ここが崩れ塞がれないようにする為の処置のようだ」
 周囲をスキャンニングしながら、BAZZがそう結論づけた。
「掘り広げる理由は何だ?」
 素朴だが、もっともな質問。しかしこの疑問に、明確な答えを出せる者はいなかった。
「この先にもっと大きな物資を運ぶため・・・というのが妥当ではありますけれど・・・」
 仮にそうだとすると、各入り口が人を通すほどの大きさしかない点で矛盾してしまう。Mも口にしながら、その矛盾はわかっていた。
「あるいは、ああいう化け物を放し飼いにするためかもね」
 愛用のダガーにフォトンの煌めきが宿る。掘り広げた人工洞窟を、翼竜が優雅に飛び回っている。
「結構、ビンゴかもしれねぇなぁ、それ」
 先住民の悪趣味に苦笑しながら、愛刀を鞘から引き抜く。
「室内にトラップはない」
 部屋全体を見渡し、宣言する。
「OK。私とZER0で敵を引きつけ各個撃破するわ。MとBAZZは援護をお願い。DOMINOは点在する「花」をつみ取って」
 全員が役割を確認し、号令を待つ。
「行くよ・・・Attack!」
 一斉に、先住民が残した狩り場でのハンティングが始まった。
 BrakkaBrakkaBrakka!!
 D−kow D−kow!

 定期的な、しかしリズムの異なった銃声がハーモニーを奏でる。
「おいおい・・・俺の出番まで奪う気か? あいつは」
 ZER0が走り込む先々で、BAZZの銃弾が次々とエネミーを抹殺していく。援護と言うよりは主戦力と言って良い。
 それでも、ショットのように多数の敵を同時に攻撃するわけではない。どうしても撃ち漏らしが存在してしまう。それをZER0が処理していく。
「どっちが援護なんだか・・・」
 愚痴りながらも、確実にエネミーを撃破していった。
「このっ!」
 D−kow D−kow!
 確実にエネミーを撃破していたのは、ZER0やBAZZだけでも、ましてESだけでもない。DOMINOも1つ1つ、花の摘み取りを着実に行っていた。
 花・・・リリー系のエネミーは、移動することはない。だがしかし、近づけば花びらをすぼめ、まるでくちばしのようにつつきだし、距離を置けば、毒素を含んだ花粉を吹き付けてくる。単体であれば間合いをとりつつ動き回ることで攻撃を避けられるため、さして難しい相手ではない。
 だが、他のエネミーと共に現れた時がやっかいだ。他のエネミーと接近戦を行っている際は、多少の動きはあるものの、リリーにしてみれば格好の的となってしまう。かといってリリーばかりに気をとられては、他のエネミーの的になりかねない。まさにリリーは固定射撃者としてエネミー達の援護攻撃を行っているようなものなのだ。例えて言うなら、レンジャーを加えたハンター同士の戦闘となっているようなもの。
 レンジャーを潰すにはレンジャーをあてがうのが一番だ。DOMINOはESやZER0がリリーに気をとられないよう、後方からリリーだけに集中して攻撃を行う。ES達に気をとられているリリーに牽制攻撃。怯んだところを接近して間を詰め、さらに攻撃を繰り返す。こうすることで命中率を上げ着実につみ取れるようになるのだ。
 この一連の作業は、素早い対応が要求される。確実に命中される必要があるのは当然だが、怯んだところで間を詰め次の攻撃に移るには、素早く照準を合わせる必要がある。BAZZはさらに後方から、DOMINOの確実な連鎖攻撃を満足げに見守っていた。
 DOMINOの援護もあり、エネミー撃破は思いの外素早く終わらせることが出来た。
「ん? 扉が開かねぇぞ・・・」
 場にいるエネミーは全滅させた。今までならエネミーを全滅させることで安全装置のロックが解除され、扉が開くはずだった。しかし扉のロックが外れた気配がない。他にスイッチとなるような物も存在しない。
「!・・・ZER0! マップレーダーを確認しろ! 敵が近くにいるぞ!!」
 BAZZの指摘に驚き、しかし慌てず武器を構え直し後方に少し引いた。
 それが不味かった。
 Bap!
「なっ!」
 一歩引いたそのすぐ後ろで、何かが地面から勢いよく飛び出してきた。
「っちぃ!」
 突然の来襲に体勢を崩しながらも、なんとか真下からの体当たりを回避する。素早く体勢を戻しながら、刀先をモグラもどきのカニに向ける。
「パンアームズだ! やつの装甲はかなり高い。テクニックでダメージを与えろ!」
 BAZZの指示の途中から、既にMは光を召還していた。
GRANTS!」
 眩い光がカニの腹中央に集中する。その光が凝縮され弾けた刹那、高音を洞窟内に響かせる。それは同時に、カニへ多大な傷を負わせることとなる。
ZONDE!」
FOIE!」
 各々テクニックを用いて集中砲火を浴びせる。
 GRRRROARRR!!
 あまりの攻撃に耐えかねたか、カニが前足をあげながら吠える。
「分裂するぞ! 装甲が薄くなる分次は直接攻撃をたたき込める」
 BAZZの指摘通り、ミシミシと音を立てながらカニは自らの身体を二分した。
「割って食う手間を省いてくれたって? ありがたいじゃないの」
 手に持ったフォークで、カニを直接料理し始める。
「これで中華鍋でもあれば、さらに調理しやすいんだけどな」
 冗談を言いながらも、フォークを振るう手は休めない。5人はあっさりと、巨大なカニを完食した。
「ふぅ、ごちそうさま・・・・・・帰ったら本当に中華料理でも食べに行こうかな」
「お、いいねぇ。だったら秋子飯店にでも行くか? あそこのカニ料理は最高だぜぇ」

 笑い合いながら、ロックの外れた扉を潜る。
「・・・これを見て、どうして食欲が湧くかなぁ・・・これだからハンターは・・・」
 ブクブクと泡を出しながら息絶えた巨大なカニを見て、ただ一人口元に手を当てていた。

 ハンター達が、ハンターという仕事を続けるのは、様々な理由があるだろう。
「胸が高鳴る・・・恐怖、期待・・・いや、そんな言葉じゃ表しきれない。この感情は なんだろ?」
 リコはその理由を自問自答していた。
「科学者としての探究心? それとも、ハンターとして未知の敵に挑む高揚感?」
 一人孤独に耐えながら、しかし湧き上がる研究心と高揚感。それを胸の内に沈める事が出来ずに吐き出している。
「・・・・・・」
 ハンター達は皆、どこか共感できる思いがした。だが、ESだけは何か釈然としない想いが湧き上がっていた。
(リコ・・・なの?)
 メッセージパックが映し出す映像。そしてその映像の口から漏れ聞こえる声。間違いなくリコ・タイレルその人だ。だが、ESはどこかで、心のどこかで、目の前の偶像がリコではないと訴えかけていた。
「脚が、自分の脚じゃないみたい・・・でも、確実に向かってる。もっと 地下深くへ・・・何かに導かれるように」

 導かれるように。
 ハンター達はリコのメッセージに導かれるように、奥へ奥へと歩を進めている。そのメッセージの主は、別の何かに導かれているという。
(あのリコが・・・まるで「自分が」望むよう行動するなんて・・・)
 違和感の欠片を見つけた。だが、決定的な物ではけしてない。
 きっかけは、いつも通りのお節介だったはずだ。原生動物に悩まされる人達を放っておけなかった。リコらしい動機。そして彼女の動機は、何時だって誰かのため。少なくとも側で見ていたESはそう思っている。
 そのリコが、自分の研究心と高揚感、その他彼女自身ですら計りかねる「欲求」で突き動かされている。メッセージのリコは、そう訴えている。しかしリコだって人間だ。欲求は誰にでもあっておかしくない。わかってはいるが、ESは違和感を感じずにはいられなかった。
(考え過ぎかな・・・また変な頭痛がしてきたわ・・・)
 額に手を当てながら、逃げるようにメッセージから離れていった。

 しばらくESは無言だった。
 メッセージを聞いて以後、ESの様子がおかしくなっていたのはメンバーの誰の目からも明らかだった。何が原因かは計りかねたが、声をかける雰囲気ではない事くらいは察している。故に、みな無言になっていた。幸いな事に、無言のままでも全員が役割を認識しているため、エネミーに遭遇しても無言のままで支障はなかった。
 そんな中で、声をはじめにかけたのはZER0だった。
「またあったぜ」
 ただそれだけを伝えると、全員がメッセージパックへと集まりだした。
「すっごい光景を見ちゃった。巨大なワームが触手を突き刺すと、生物が変態していったの」
 メッセージはハンター達の雰囲気とはうって変わり、はしゃぐように報告を残していた。いや、はしゃぐような内容ではない上に、単に興奮しているだけなのだろうが、ハンター達の現状から見て、リコは意気揚々として見えたのは間違いない。
「巨大なワーム・・・か・・・とりあえずパイオニア1の連中がまとめたデータに、該当するような生物は存在しないが・・・」
 「巨大なワーム」「触手で突き刺す」「生物を変態させる」と、キーワードを別々に検索しても、該当するデータは見あたらない。BAZZはそう付け加えた。
「洞窟で襲いかかってきたモンスターは、みんなこのワームの手にかかってこんな姿にされたんじゃないかしら?」
 有力な手がかりのようで、要領を掴めない。今までの情報がそうだったように、今回のメッセージもまた例外なくその類に相当した。
「どれほど巨大かはわからないけれど・・・リコに目撃されただけのようだし、まだそのあたりにいるかもね」
 ESの予測は至極当然の物だが、「まだそのあたりにいる」と指摘されれば、一瞬あたりを見渡し警戒してしまうのも、また至極当然の防衛本能だろう。特にMの警戒の仕方は、他の誰よりも敏感だった。
「・・・とりあえずここにはいないみてぇだがな。そんなにでかいなら、そのうち鉢合わせもするだろうぜ」
 緊張を解き、安堵しながらも警戒は続ける。ハンターとして身に付いた、これも防衛本能。そして誰よりもMは安堵と警戒の落差が大きいように見て取れる。
「どうかしましたか?」
 普段冷静なMが、必要以上に脅えているのをDOMINOが心配していた
「え? ううん・・・何でもないの」
 しかしMの額から流れ落ちる汗が、「何でもない」事はない証明となっていた。わかってはいても、これ以上DOMINOは言葉をかける事はためらわれた。
「どのみち進むしかないし・・・行きましょうか」
 Mが動揺した理由を感じ取ったESは、自分の不用意な発言を後悔しながら、早々とここを立ち去る事を提案した。
 加えて、得られた情報はこの場で検討しようのない物であることも、この場を去る理由にあった。検討できない情報は、データとしてプールしておき、後に検討する他無い。今は前へと進む事を選択するしか道はないのだ。
(いつものリコだったわね・・・気のせいだったのかな? もう頭痛もないし)
 気を取り直したESは、これまでよりは足取り軽く歩を進めていた。しかし、「巨大な虫」を警戒する脚は、ほんの少し重くもなっていた。

「・・・嫌ぁな予感がするのは私だけ?」
 目の前には、見覚えのある巨大な転送装置が設置されていた。
「大丈夫だ・・・俺も嫌な予感しかしねぇから」
 それはけして「大丈夫」では無いのだが・・・。
「森にあったのと同じタイプ転送装置だな・・・やはり重機などを運搬するための物だ」
 転送装置を調べながら、BAZZが結論づけた。
「やはり、広いスペースを確保するように掘り広げてあったのは、重機を運ぶためのものだったのでしょうか?」
「かもしれん。が、前にBOSSが言ったように、あのエネミー達を飼い慣らすためだったかもしれん。あいつらの属性がアルタードだったことを考えるとな」

 どれも正解のようで、どれも的外れな気がする。
 ただ、皆が共通して確信の持てる予感があった。それは「この先」の展開について、だ。
「全員準備は良い?」
 手持ちの武器を再び確認する。じっとりと、持つ手が湿っている事も確認しながら。
 無言で、全員が転送装置に足を踏み入れた。

 嫌な予感は、半分当たっていた。外れた半分は、予想を超えた悪い状況。
「っと! ・・・おいおい、何だよこの揺れは!」
 5人が転送された先そのものが、大きく揺れていた。
「流されている? ・・・どうやらそのようね、ここ」
 周囲の景色が、流れるように動いて見える。しかし流れているのは景色ではなく、自分達であったことを瞬時には認識できなかった。
 揺れる地面。跳ねる水しぶき。流れる景色。今彼女らは、巨大な筏の上に立ち、巨大な地下道を流れる川の上を流されているのだ。
「キャァァァァァァア!」
 後方を:警戒していたMが、悲鳴を上げる。冷静沈着なMの悲鳴に誰もが驚き、振り返った。
 左右に身体をくねらせながら向かってくる巨大な・・・ワーム。リコの報告にあった巨大なワームであることはすぐに察することが出来たが、それにしても・・・あまりにも巨大だ。
「不味い! BAZZ、指揮をお願い。私はMを落ち着かせるから」
「了解。DOMINOはランチャーに切り替え、手当たり次第に弾をぶち込め! 反応を見て弱点を探す」
「Mの代わりに俺がテクニックを使う。慣れてねぇから、回復は各自頼むぜ」

 Mがパニックを起こしている。その理由をDOMINO以外のメンバーは即座に理解し、臨機応変に対応した。
「落ち着いて!「あれ」は巨大なワームであってミミズじゃないわ!」
 川を器用に泳ぐワームは、確かにミミズに見えなくもない。しかし頭はまるで人の頭蓋骨を模したような形状と巨大なくちばしをもち、後頭部・・・仮にその頭蓋骨のような部分の付け根あたりをそう呼べるのならば・・・そこからは複数の「触手」が生えている。そして胴は、蝶やカブトムシの幼虫と同じような形状。ただしその身体は堅い甲冑のような殻で覆われていたが。
 ESは震えるMを強く抱きしめながら、必死に落ち着くよう訴えかける。
 Splassh!
 激しい水しぶきを上げながら、ワームは筏の横をすり抜け、前方へと泳ぎわたった。
「フォーメーションのとりようもないか・・・」
 筏の上では、何一つ自由な戦いは不可能。全てのイニシアチブはワームが握っていた。そしてワームの正体はもちろんのこと、類似するようなエネミーすら今までに見たことも聞いたこともないとなれば、何をしてくるのか予測することすら不可能。まさに手の撃ちようも出しようもない。
 それでも、敵が何をするつもりなのか、今までの経験を何度も考慮しながら予測を立てる。そんなハンター達をあざ笑うかのように、ワームは尾を持ち上げ何かを吐き出した。
 Shoom!
 それが敵の攻撃だと気が付くのに、誰もが後れをとった。それだけに、あまりにも予測不能な攻撃。
「! 機雷だ! そこの機雷だけを集中攻撃! 撃破次第他の機雷から出来るだけ離れろ!」
 ワームは持ち上げた尾から、5つの機雷を四隅と中央に投げつけたのだ。予測不能であった攻撃とはいえ、BAZZの対応は迅速だった。すぐさま敵の投げつけた「物」をサーチし、その正体に気付き指示を出す。
 だが、指示を1つ誤った。いや、誤ってはいないのだが問題があった。
「BOSS! M! こっちへ走れ!」
 脅えきり動けなくなったMと、彼女を介抱しようと抱きしめているESは動ける状態ではない。しかも機雷は彼女達のすぐ側に落ちていた。
 BAZZは機雷の爆破がいつ起こるか計りかねる状況にある。故に自分達の近くの機雷に集中し破壊することを選択し、まず自分を含めて三人の安全を確保することを選んだ。その選択は間違いではない。しかし二人の女性を犠牲にする選択であり、それが正しいとも言い難い。
 Boom!
「くっ!」
 機雷は思いの外軽い音で爆破した。しかしそれでも機雷だ。ダメージは相当にある。BAZZの指示は狙い通り、三人の安全は確保できたものの、やはりES達を犠牲にする結果となってしまった。
 いや、正確にはES一人だ。
「ES!」
 Mを抱きしめ続けていたESは、機雷の爆撃からMをかばう形になった。むろん、かばうつもりでいたのだ。
「目、覚めた?」
 歯を食いしばりながら、それでも精一杯の笑顔を恋人へ向ける。痛々しくも眩いばかりの笑顔は、Mの恐怖を取り払うのに十分すぎるほどだ。
「ごめん・・・ごめんなさい・・・」
 痛みに耐えながらも涙を見せないESに代わるように、Mの瞳からは止めどなく涙があふれていた。強くESを抱きしめ返しながら。
「ほら! まだこれからよ。しっかり援護お願いね」
 抱きかかえるようにMを立たせ、双刃を握り直す。
RESTA!・・・愛しき人が受けた傷にかけて・・・もう恐れることはありません!」
 自分のために傷ついた人を、自らのテクニックで回復させながら、黒の魔術師は誓いの言葉を口にする。
 その間に、ワームは筏の横へと移動していた。そして巨大な身体全体を持ち上げ、刹那、無数の「何か」をばらまき始めた。それは拡散し、まるでショット弾のようにハンター各々へと襲いかかった。
「おっとぉ!」
 何とか隙間を見つけ、身体を滑らせていく。
「うっ!」
 しかしそれでも拡散する弾は多く、そして隙間は狭い。懸命に避けるものの、何人かは被弾してしまう。
「粘っこいぞこれ・・・体液かなんかみてぇだ」
 勢いよく叩きつけられたことでダメージを受けているのだが、むしろ付着した体液の、粘り着く不快感に気分をそがれる方がダメージとしては大きいかも知れない。
「このっ!」
 Boooooom!!
RAFOIE!」
 Ka−Blooie!!
 ショット弾と炎の爆破が、川を泳ぐワームに襲いかかる。筏の側には来ているものの、直接攻撃が出来る範囲にまではなかなかやってこない。敵も然る者、間をとって有利に事を運ぼうといしているようだ。しかしそれを指くわえ見ているほどハンターは甘くない。
「弱点判明! 横っ腹を集中的に攻撃! 奴の装甲を剥いで中身を露出させてさらに集中攻撃! テクニックはそのままフォイエで攻めてくれ」
 両手のアンティークを持ち直し、攻撃に集中する。
「Roger!」
「了承いたしましたわ」

 DOMINOはショットをハンドガンに持ち替え、素早く一点を集中的に狙う。そしてMは、継続してラフォイエを身体全体の装甲を焼き尽くさんばかりに唱えぶつける。まるで自分を恐れさせ、ESを傷つけた事への怒りを具現化したかのように。
 怒濤の攻撃に耐えかねたのか、あるいは作戦か・・・ワームは突然、筏に身を乗り出した。当然、これはESとZER0の二人にとってはチャンスだった。
「散々やってくれたなテメェ・・・覚悟しやがれ!」
 既にBAZZとDOMINOが集中攻撃を浴びせていた場所を選び、二人がさらに追い打ちをかける。
 しかし、長く集中して攻撃をさせては貰えなかった。
「! っと!」
 ES目掛け、触手の1本が貫かんばかりに襲いかかった。だが、間一髪でそれに気が付き避けることが出来た。
「これね・・・リコの言っていたのは・・・」
 触手は勢いあまり、筏を深々と突き刺している。その為か、狙い外したにもかかわらず、しばらく引き抜かれることはなかった。
「よし、今の・・・っと!」
 隙を見せた今がチャンスと、体制を立て直しすぐに攻撃へと移ろうとした矢先、今度は別の触手がESを再び襲ってきた。
「どうやら狙われてるわね、私」
 3本目、4本目と立て続けにESを襲う。だが自分に狙いが定まったことを察知したESは、出来る限り仲間達から外れ、触手の攻撃を避けることに集中した。これによりESは攻撃に参加できなくなったものの、ZER0達は安全圏内で集中攻撃を行う事が出来るようになっていた。
 そしてついに殻が剥がれ、身を外へとさらすこととなった。むろん、そこで手を休めることはなく、さらに攻撃を加え続ける。
 Ker−Splassh!!
「やったか!?」
 大きな水しぶきをたてながら、ついにワームは川面の底へと姿を消した。
 しかし・・・なにか釈然としない。そんな警報が頭の中で響き続ける。
 何かまだある・・・。
 ものの数秒の沈黙。しかしそれは、ハンター達にとって何十分もの長い時のようにすら感じられた。
 RumbleRumble
 遠くから地響きのような音が近づいてきた。川の上だというのに・・・。
「あんにゃろ・・・飛べるのかよ!」
 見ると、後方からワームが泳ぐように空を舞い、天井に身体をぶつけながら接近していた。天井の岩石を闇雲に落としながら。
 ZzamZzam
 辛くも落石から逃れた物の、ピンチは立て続けに襲ってきた。どうやら天井の照明装置がワームの為にショートしたらしく、急に明かりを失ったのだ。
「やってくれるわね・・・ここまで計算してたとしたら、相当の切れ者よ、あいつ」
 ほんのわずかだが、どこからか光が漏れていたた。そのため、完全な暗闇にはなっていない。しかし光を急に奪われては、すぐに目が闇へ対応してくれるはずもない。慣れるまでにはそれなりの時間がかかる。約一名を除いて。
「正面だ! 何か仕掛けてくるつもりだぞ!」
 唯一、暗視モニターに切り替えることで視界を奪われることなく敵を監視し続けられたBAZZが、警告を発する。
 ぼんやりと、背景が流れていく様は確認できる。それがわかれば「正面」がどの方向かは察しが付く。目をこしらえ正面を向くと、まるでコブラが威嚇をするように鎌首をあげているワームの姿を確認することが出来た。
 Zzzzzat!
 まるでビーム砲のように、口から勢いよく何かを吹き出し襲いかかった。
「おっと!」
 ビームは真っ直ぐBAZZを狙ってきた。暗闇に光る暗視モニターの明かりが、格好の的にでもなったのだろうか。立て続けにビームはBAZZを襲うが、「よく見えている」BAZZは、すんでそれを避け続けた。
 D−kow D−kow!
 その隙に、DOMINOが間を詰め鎌首の付け根あたり・・・先ほどまで集中的に攻撃し続けた場所へと、弾丸を撃ち込む。それが効いたのか、苦しみながらワームは再び身を水中へと投げ込むように隠し・・・再び浮上してきた時には、筏の横につけ泳ぎ始めていた。
「これ以上させません!」
 再びMのラフォイエが幾多もワームへ襲いかかる。くわえて射撃手二人の攻撃も、休まることなく続けられた。そして幾度目かのワーム逃亡。またしても沈黙。
 次に何を仕掛けてくるのか? 緊張した面もちで武器を構え備える。
 Ker−Splassh!!
 THONNNNK!!
 これまで以上に大きな水しぶきをたて身体を突き上げたワームは、初めて悲鳴らしき奇怪な声を発しながら・・・仰け反り、さらに大きな水しぶきと共に姿を消した。
 ZzamZzam
 ショートした照明機器が回復したのか、洞窟内は再び光を取りもどし、巨大なワームがもはや接近してこないことを確認することが出来た。
「ふぅ・・・ようやく倒せたわね」
 誰もが、安堵の溜息をつきホッとしていた。
「あの・・・申し訳ありませんでした・・・みなさん。最初から私がしっかりしていれば、もう少し状況も好転していたでしょうに・・・」
 パニックを起こした自分を改めて恥じ、Mは深々と皆に対し頭を垂れた。
「まぁ・・・誰にだって苦手なものってのはあるもんだ。俺だって、あんな訳のわからねぇモン、好きにはなれねぇよ」
 ワームという単語に、自分の苦手な物・・・ミミズを連想してしまったMは、全体像を見る前に、動きで今回の「巨大なワーム」を「巨大なミミズ」へと誤認してしまったのだ。
 緻密なデータから推測をたてるBAZZとは違い、経験と知識を活用した「想像」という憶測・・・推測をたてるMにとって、その過程が今回の悲劇を生んだといって良い。BAZZ程ではないにせよ、瞬時に推測し行動へ移す癖が付いていたのも、悲劇への引き金となっていたのかも知れない。豊かな想像力と観察力、加えて迅速な推理力が、彼女の最大の長所であったはずだが・・・今回ばかりは、最大の欠点となってしまったようだ。
「ま、事なきを得て良かったわ・・・それより、この筏は何処まで進むつもりかしらね?」
 巨大なワームとの死闘で皆忘れていたことだが、転送装置からこの筏へとワープしてから今まで、ずっと川を流され続けていた。
「この筏は運搬用の、制御させた筏のようだ。目的地に到達すれば自動的に止まるだろう」
 筏を調べていたBAZZが、ESの疑問に答えを出した。それを聞いて安心したのか、その目的地までの激流下りを楽しみつつ、しばしの休憩をとることとなった。
「BOSS。そろそろ手持ちのアイテムもトラップも、心許なくなってきた。本来なら一度体制を整えるべきだが・・・」
 ここまでの道のりはあまりにも長く、そして困難だった。加えて巨大ワームとの死闘。アイテムやトラップだけでなく、精神面に関しても消耗しきっていた。それを考えれば、ここは一時退却し体制を整えるのが当然といえる。
 しかし、それがためらわれる状況でもあった。ここで退却をすれば、おそらくは即座に軍が介入し、再びハンターズの調査範囲を限定してしまうだろう。
 ゴールの見えない探索。何処まで続くかわからない以上、どこかで妥協し探索を中断しなければならない。しかしゴールは目の前かもしれないのだ。それを考えると、どうしてもためらいが生まれてしまう。
「・・・せめてこの筏の行き着く場所とその先の確認はしたいわね。判断はそれからにしましょう」
 ESが宣言をしたその時、筏は天然の洞窟から人為的な洞窟へと流れ着き、速度を落としていった。
「・・・判断をせかされたわね」
 筏は波止場に止まった。そこは鉄とコンクリートで固められた場であり、まるで潜水艦の発着場のように設備が整っていた。
「ここまで人の手が加わっていることを考えると、この奥にはさらに・・・くっ!」
 推理を中断し、ESは額に手を当てしゃがみ込んでしまった。
「ESさん!」
 尋常ではないESの様子を見て、Mが慌てて駆け寄る。
「あ・・たま・・・が・・・・・・くぅっ!」
 頭を抱え込むようにしてうずくまるESのその様子は、まるで今にも破裂しそうな頭を両手で押さえつけ耐えているかのようにも見える。
「おいしっかりしろ! ZER0! ESを担ぎパイオニア2へ戻・・・ZER0?!」
 振り返ると、ZER0までもが苦しみもがいていた。愛刀を支えに何とか立っていられるだけ、まだZER0の方が軽度のようだが・・・それでもやはり、ZER0も尋常ではない様子だ。
「M! すぐにリューカーを! 俺がESを運ぶ。DOMINOはZER0を!」
「らっ、Roger!」

 癖となっていた敬礼も忘れ、DOMINOはZER0へ駆け寄った。
 探索中断としては、良いタイミングだったかも知れない。彼女達にとって不本意だとしても。
「リ・・・コ・・・・・・」
 襲いかかる頭痛と共に、ESの耳には声が届いていた。
 それは、心配し声をかけ続けるMやBAZZの声ではなかった。
 懐かしい声。そう思ったのか、ESは声の主と思った女性の名をうわごとのように呟いた。
 その声はあまりにも類似していながら・・・しかしあまりにもかけ離れていた。受け入れたいと求めながらも、受け入れてはならないと拒絶していた。苦しみの中、しかし声だけははっきりと聞こえた。
 ココヘオイデ・・・と。

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